日本語に「12番目の基本色」が誕生中? 98%が使った「水色」と、緑なのに「青信号」の謎

読む前に予想してみよう!
30年前の研究では、「水色」はすでに日本語の基本色の一つとされていた
1987年の研究では、同じ色を「青」とも「水色」とも呼ぶ人が多く、基本色には入らなかった。2017年の研究で98%が使う有力候補になった。
- 対象
- 日本語を母語とする人
- 規模
- 57人・330色
- 研究の種類
- 色名呼称実験(クラスター分析)
- 確かさ
- ★★★☆☆
57人に330色を1語で呼んでもらった実験で、「水色」は98%の人が使い、日本語の12番目の基本色の有力候補に。30年前の研究では基本色に入っていなかった。
ひとことで言うと「水色」は、いま日本語で「赤」や「青」の仲間入りをしかけている色の名前!
空の色、プールの色、ラムネのびんの色。私たちはこれを「水色」と呼びます。
でも実はこの「水色」、いま日本語の「基本色」の仲間入りをしかけているのです。「赤」「青」「緑」と同じランクに、新しい色の名前が加わろうとしている——そんなことが、2017年の実験で見えてきました。
しかも30年前の研究では、水色はまだ「青」から独立していなかったのです。
01「基本色」ってなに?
色の名前は無数にあります。えんじ、山吹、ターコイズ……。でもその中で、だれもが使う、いちばん土台になる色の名前を「基本色名(basic color terms)」と呼びます。
1969年、アメリカの研究者バーリンとケイは、成熟した言語に共通する基本色は11色だと提案しました。
- 赤・緑・青・黄・紫・ピンク・茶・オレンジ(色みのある8色)
- 白・灰・黒(色みのない3色)
英語なら red, green, blue, yellow, purple, pink, brown, orange, white, gray, black です。ここに「12番目」が加わるとしたら、それはかなりの事件なのです。
0257人に330色を見せたら
ひとりが使った色名は平均で約17、多い人では52にのぼったそうです。
30年前の研究と比べると、変化がよくわかります。1987年の内川惠二さんとボイントンさんの研究では、同じ色を「青」とも「水色」とも呼ぶ人が多く、水色は基本色に入りませんでした。今回は、青とも緑ともはっきり区別して「水色」と呼ぶ人がほとんどだったのです。
ついでに、1987年には黄緑を「草色」と呼ぶ人が目立ったのに、今回その位置には「抹茶」が入っていました。30年で「草色」が「抹茶」に置きかわった——これは明日だれかに話したくなるネタです。

03英語の light blue とは何がちがう?
英語では、水色はふつう light blue(明るい青)と2語で言います。つまり英語では「青の一種」。日本語の「水色」のように、1語で独立した色とは扱われにくいのです。
研究では、日本語とアメリカ英語の色の分け方は全体としてよく似ていましたが、片方の言語にしかない色もありました。
- 日本語にしかない:水色、紺
- 英語にしかない:teal(青緑)、lavender(薄紫)、magenta(赤紫)、lime(黄緑)
そして「青を2つに分ける」言語は、日本語だけではありません。ロシア語には、濃い青の синий(シーニー) と、明るい青の голубой(ガルボーイ) があり、ガルボーイを12番目の基本色とみなす議論があります(パラメイ, 2005)。イタリアのトスカーナ地方(おもにフィレンツェ)出身の人たちに至っては、blu・azzurro・celeste と青が3つあるという研究もあります(2022年、31人の実験)。
ロシア語の「青」の見え方については、ロシア語話者は「青」を速く見分ける?の記事もどうぞ。
04緑なのに「青信号」のわけ
では、水色が独立したなら「青」と「緑」はとっくに別物……のはずですが、信号は今も「青」。法律(道路交通法施行令)でも、信号の色は「青色の灯火」と書かれています。
この研究チームは、平安時代以前の和歌での「あを」と「みどり」の使われ方も調べました。その結果、「あを」は青いものにも緑のものにも使われ、「みどり」も同じだったことがわかったといいます。研究チームは、信号機や若葉、野菜を「青」と呼ぶ今の言い方を、昔から長く変わらずに残っている使い方として紹介しています。
05どんでん返し:まだ「基本色」とは言い切れない
ただし、水色はあくまで「有力候補」です。
まず、参加者は57人。そして分析では、日本語話者の色の分け方に2つのタイプが見つかり、そのちがいはおもに「どこまでを水色と呼ぶか」でした。水色の範囲は、人によってまだ揺れているのです。
そもそも「基本色」をどう定義するかにも議論があります。ロシア語のガルボーイについて論じたパラメイさんは、11色という上限そのものや、基本色の定義に疑問を投げかけています。「水色」は「水の色」という、ものの名前から来た色名でもあります。どこからが「基本」なのか、線引きは研究者の間でも簡単ではありません。
06まとめ
「赤・青・緑」のような基本色の名前は、何千年も変わらないものだと思いがちです。でも日本語では、この30年ほどの間に「水色」が青から独立しつつあることが実験で見えてきました。
それでいて、信号はいまも昔ながらの「青」。ことばの色は、古いものを残しながら少しずつ増えていきます。次に空を見上げたら、それを英語で light blue と言うか、日本語で「水色」と言うか、ちょっと意識してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do Japanese people call a green traffic light "blue"?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Japanese has a word for light blue, "mizu-iro." It means "water color." In 2017, researchers showed 330 colors to 57 Japanese speakers. They could use only one word for each color. Almost everyone, 98 percent, used "mizu" for light blue.
So it may become the twelfth basic color word in Japanese. Thirty years earlier, many people used both "ao" (blue) and "mizu" for the same color. In English, people usually say "light blue."
73 words ・ CEFR A2
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日本語には水色を表す「みずいろ」という単語があります。それは「水の色」という意味です。2017年、研究者たちは57人の日本語話者に330の色を見せました。彼らはそれぞれの色に1語しか使えませんでした。ほとんど全員、98%が水色に「水」を使いました。
だから、それは日本語の12番目の基本色の単語になるかもしれません。30年前は、多くの人が同じ色に「青」と「水」の両方を使っていました。英語では、人々はふつう「light blue」と言います。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「水色」が日本語の12番目の基本色になるかもしれない、という話なので A。
Q2. How many Japanese speakers took part in the study?
57 Japanese speakers とあるので C。330 は色の数。
Q3. What does "mizu-iro" mean word for word?
It means "water color." とあるので B。
Why do Japanese people call a green traffic light "blue"? In poems from the Heian period and earlier, the word "ao" was used for both blue things and green things, and that habit still survives in words for traffic lights and young leaves.
Today, though, a new color word is growing. In a 2017 study, 57 Japanese speakers named 330 color samples using only single words. Ninety-eight percent of them used "mizu" for light blue, and the researchers called it a strong candidate for the twelfth basic color term. In a similar study from 1987, many people used "ao" and "mizu" for the same colors. English speakers usually say "light blue," which is two words. Russian has its own separate word for light blue, "goluboy."
125 words ・ CEFR B1
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日本人はなぜ緑の信号を「青」と呼ぶのだろうか。平安時代以前の和歌では、「あお」という単語は青いものにも緑のものにも使われていて、その習慣は今も信号や若葉を表す言葉に残っている。
しかし今日、新しい色の単語が育ちつつある。2017年の研究で、57人の日本語話者が330の色見本を1語だけで呼んだ。そのうち98%が水色に「水」を使い、研究者たちはそれを12番目の基本色名の有力な候補と呼んだ。1987年の似た研究では、多くの人が同じ色に「青」と「水」の両方を使っていた。英語を話す人はふつう「light blue」と2語で言う。ロシア語には水色を表す独立した単語「ガルボーイ」がある。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
「水色」という新しい色名が育つ一方、信号の「青」のような古い使い方も残っているので B。
Q2. What did many people do in the 1987 study?
many people used "ao" and "mizu" for the same colors とあるので B。
Q3. Why does the writer mention that "light blue" is two words?
日本語の「水」やロシア語の goluboy は1語の独立した単語だが、英語は light blue と「青」に修飾語をつけて言う。英語では水色を青の一種として扱っているという対比なので A。
Ninety-eight percent of 57 Japanese speakers used a single word, "mizu," for the pale shades between green and blue in a 2017 color-naming study. The team, led by Ichiro Kuriki at Tohoku University, showed participants 330 color samples and banned compound names such as "yellow-green." A clustering analysis found 19 shared categories, the familiar 11 basic terms plus eight others, and "mizu" stood out as a strong candidate for a twelfth basic term.
Three decades earlier, a comparable study had left it out because many people used "ao" and "mizu" for the same samples. The 2017 data also revealed two naming patterns that differed mainly in how far "mizu" stretched, so the category is still settling. What counts as "basic" is itself argued over.
Galina Paramei has used the Russian word "goluboy" to question the upper limit of eleven terms, and Tuscan speakers in a 2022 study needed three words for blue. Older habits persist alongside the new one. A green traffic light is still "ao," a use the Tohoku team linked to poems from the Heian period and earlier, when "ao" covered both blue and green.
187 words ・ CEFR B2
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2017年の色名呼称研究で、57人の日本語話者の98%が、緑と青の間の淡い色合いに「水」という1語を使った。東北大学の栗木一郎が率いるチームは、参加者に330の色見本を見せ、「黄緑」のような複合語の名前を禁じた。クラスター分析によって共通する19のカテゴリー、つまりおなじみの11の基本色名と、ほかの8つが見つかり、「水」は12番目の基本色名の有力候補として目立っていた。
30年前の同様の研究では、多くの人が同じ見本に「青」と「水」の両方を使ったため、水色は外されていた。2017年のデータからは、主に「水」がどこまで広がるかで異なる2つの呼び方のパターンも見つかっており、このカテゴリーはまだ定まりつつある段階だ。何を「基本」とみなすか自体にも議論がある。
ガリーナ・パラメイはロシア語の「ガルボーイ」を例に11色という上限に疑問を投げかけ、2022年の研究ではトスカーナの話者が青に3つの単語を必要とした。新しい色名と並んで、古い習慣も続いている。緑の信号は今も「青」で、東北大のチームはこれを、「あお」が青と緑の両方を指していた平安時代以前の和歌と結びつけた。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
水色が有力候補になったことと、範囲の個人差・「基本」の定義の議論を両方述べているので A。
Q2. Why did the earlier study leave "mizu" out of the basic terms?
had left it out because many people used "ao" and "mizu" for the same samples とあるので B。
Q3. What does "the category is still settling" suggest?
直前に two naming patterns that differed mainly in how far "mizu" stretched とあり、水色の範囲が人によって違うことを指すので B。
重要単語
- basicA2形容詞基本の、基礎的なRed, blue and green are basic color words.
basic color term「基本色名」は色彩研究の専門用語。名詞 basis(基礎)。 - shadeB1名詞色合い;日陰The sea shows many shades of blue.
a lighter shade of green「もっと明るい緑」。色の濃淡は shade、色相は hue。 - categoryB1名詞分類、カテゴリーEach language divides colors into its own categories.
動詞 categorize「分類する」。アクセントは最初の ca。 - candidateB1名詞候補(者)"Mizu" is a strong candidate for a new basic color.
選挙の「候補者」だけでなく、「~になりそうなもの」にも使う。a strong candidate for ~。 - habitA2名詞習慣、くせCalling green lights "ao" is an old habit.
個人のくせは habit、社会の慣習は custom。break a habit「習慣をやめる」。 - persistB2動詞続く、残る;やり通すOld word habits often persist for centuries.
persist in ~ing「~し続ける」。形容詞 persistent「しつこい、根強い」。 - tealC1名詞・形容詞青緑色She bought a teal scarf.
研究では、英語にはあるが日本語に1語の対応がない色とされた。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- 最近30年における日本語の色名語の進化を導出(東北大学 プレスリリース, 2017年3月1日)tohoku.ac.jp
- 道路交通法施行令(信号の種類「青色の灯火」)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
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日本語話者57人に330色を1語で呼んでもらったら、98%が「水色」を使った。赤・青・緑など11色に続く「12番目の基本色」の有力候補らしい。30年前の研究では「青」と区別せずに使う人が多かったのに。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Kuriki et al. (2017) The modern Japanese color lexicon, Journal of Visiondoi.org
- Uchikawa & Boynton (1987) Categorical color perception of Japanese observers: Comparison with that of Americans, Vision Researchdoi.org
- Paramei (2005) Singing the Russian Blues: An Argument for Culturally Basic Color Terms, Cross-Cultural Researchdoi.org
- Del Viva et al. (2022) Florence "blues" are clothed in triple basic terms, i-Perceptiondoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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