「流れに棹さす」、約7割が“真逆の意味”だと思っていた。最新の文化庁調査

読む前に予想してみよう!
「流れに棹さす」は、もともと「流れに逆らう」という意味だ
本来は、棹をさして水の勢いに乗るように物事を進めること。2025年度の文化庁調査では68.9%が逆の「逆らう」意味を選んだ。
- 対象
- 全国16歳以上(文化庁「国語に関する世論調査」)
- 規模
- 3,777人(2025年度)・3,498人(2024年度)ほか
- 研究の種類
- 全国世論調査(2020年度から郵送法。2015年度は面接調査)
- 確かさ
- ★★★★☆
文化庁の最新調査で「流れに棹さす」を本来と逆の意味で答えた人は68.9%。一方「気が置けない」は、本来の意味を選んだ人が、逆の意味を選んだ人をわずかに上回った。
ひとことで言うと「流れに棹さす」は本当は「流れに乗る」こと。逆だと思う人が多数派なんだって!
もくじ
「その発言は、流れに棹(さお)さすものだ」。
この文を読んで、「流れに逆らう発言」だと思いませんでしたか? じつは辞書などで本来の意味とされてきたのは、その正反対。棹をさして水の勢いに乗るように、流れに乗って勢いを増すことなのです。
文化庁が2026年10月2日に発表した最新の「国語に関する世論調査」では、「傾向に逆らって勢いを失わせる」という逆の意味を選んだ人が68.9%。本来の意味を選んだのは22.7%でした。約7割が、真逆の意味だと思っているのです。
でも、ここで「みんな間違ってる!」と言うのはまだ早い。数字をよく見ると、ことばの意味が動いていく途中の姿が見えてきます。
01「本来と違う意味」が多数派のことば
「にやける」では8割以上、「ひもとく」「流れに棹さす」「確信犯」では約7割の人が、本来とは違う意味を選んでいます。本来とされてきた意味のほうが少数派という言葉は、ひとつやふたつではありません。
02「役不足」は、本来の意味がじわじわ追い上げ中
「私では役不足ですが、がんばります」。謙遜のつもりでも、本来の意味だと「この役は私には軽すぎます」という、かなり失礼なあいさつになってしまいます。
ところが、この言葉は本来の意味を選ぶ人が少しずつ増えています。本来の「役目が軽すぎる」を選んだ人は、2002年度27.6% → 2012年度41.6% → 2024年度45.1%。逆の「重すぎる」は62.8% → 51.0% → 48.9%と減りました。2024年度の調査を年齢別に見ると、16〜19歳では本来の意味のほうが多かったのです(ほかのほとんどの年代は両者の差が小さい)。
ただし注意点があります。この調査は2019年度までは調査員が訪ねる面接、2020年度からは郵送に変わったため、文化庁は2019年度以前の数字を、そのままは比べられない「参考値」として、比べるときは注意するよう書いています。
03どんでん返し:「気が置けない」は本来の意味が逆転
「気が置けない友だち」は、本来「遠慮しなくてよい、気楽につきあえる」友だちのこと。2012年度は逆の「遠慮しなくてはならない」が47.6%で、本来の42.7%を上回っていました。
ところが2025年度は、本来の意味47.4%、逆の意味44.3%。わずかですが本来の意味が上に立ちました。2002年度も本来の意味が上(44.6%対40.1%)で、どちらの意味を選ぶ人が多いかは、調査の年によって入れかわっているのです。
ただし年齢で分かれ、40代以上は本来の意味が多く、30代以下では逆の意味のほうが多くなっています。全体で見た本来の意味と逆の意味の差も3ポイントほどで、文化庁は「拮抗」と表現しています。

04辞書のほうが変わることもある
「確信犯」の「悪いと分かっていてやる人」という意味は、かつては誤用とされていました。でも『デジタル大辞泉』は今、この意味を2番目の意味として載せ、補説で「もともと誤用とされていた」と説明しています。
「役不足」も、『精選版 日本国語大辞典』が「荷が重い」という意味を「誤って」と注記しつつ載せ、その例として1952年の源氏鶏太の作品を挙げています。「間違った意味」にも、70年以上の歴史があるわけです。
05英語でも、意味はひっくり返ってきた
英語の nice は、いまは「すてきな」。でも『American Heritage Dictionary』によると、中英語では foolish(おろかな)という意味で、さかのぼるとラテン語の nescius(無知な)に行きつきます。「みだらな」「気取って恥じらう」という意味も、廃れた意味(Obsolete)として載っています。
terrific の語源は、ラテン語 terrēre(怖がらせる)から来た terrificus。同じ辞書は今も「恐ろしい」という意味を残しつつ、1番目に「すばらしい」、4番目に「ひどい」を載せています。
- We had a terrific time at the festival.(お祭り、最高だった)
- I woke up with a terrific headache.(ひどい頭痛で目が覚めた)
同じ単語が「最高」にも「最悪」にもなるのです。
06まとめ
「流れに棹さす」では約7割、「にやける」では約8割の人が、本来とは違う意味を選びました。数字だけ見ると、日本語が崩れているように見えるかもしれません。
でも英語の nice が「おろか」から「すてき」に変わったように、ことばの意味は、使う人たちの間で少しずつ動いていくもの。大事なのは「どっちが正しいか」で相手を責めることより、相手がどちらの意味で受け取りそうかを考えて、伝わることばを選ぶことなのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEvery year, Japan's Agency for Cultural Affairs surveys people about the Japanese language, often asking…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Japanese has an old saying, "nagare ni sao sasu." It describes a boat that moves with the river when someone pushes it with a pole. So it means to go with the flow.
But in a survey released in 2026, 68.9 percent of people chose the opposite meaning. They thought it meant to go against the flow. English words change too. Long ago, the word "nice" meant "foolish." Today it means kind or pleasant.
74 words ・ CEFR A2
和訳を見る
日本語には「流れに棹さす」という古い言い回しがあります。それは、だれかが棹で押して、川の流れといっしょに進む舟のことを表しています。だから、流れに乗るという意味です。
しかし2026年に発表された調査では、68.9%の人が反対の意味を選びました。彼らはそれが流れに逆らうという意味だと思ったのです。英語の単語も変わります。ずっと昔、「nice」という単語は「おろかな」という意味でした。今では、親切な、感じのよいという意味です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「流れに棹さす」と英語の nice を例に、意味が変わった言葉について述べているので B。
Q2. What percent of people chose the opposite meaning?
68.9 percent of people chose the opposite meaning とあるので C。
Q3. What does "opposite" mean in the passage?
go with the flow(流れに乗る)と go against the flow(流れに逆らう)のように「正反対の」という意味なので B。
Every year, Japan's Agency for Cultural Affairs surveys people about the Japanese language, often asking what certain phrases mean. In its latest survey, released in October 2026, people chose between two meanings for "nagare ni sao sasu." Traditionally, it means to go with the flow, like a boat riding the current.
But 68.9 percent picked the opposite meaning, "to go against the trend," and only 22.7 percent chose the traditional one. Not every phrase moves in one direction. For "ki ga okenai," which describes someone you can relax with, 47.4 percent chose the traditional meaning, slightly more than the 44.3 percent who chose the opposite. English has similar stories. The word "nice" once meant "foolish," and "terrific" goes back to a Latin verb meaning "to frighten."
126 words ・ CEFR B1
和訳を見る
日本の文化庁は毎年、日本語について人々に調査を行い、ある言い回しが何を意味するかをよく尋ねている。2026年10月に発表された最新の調査では、人々は「流れに棹さす」について2つの意味から選んだ。この言い回しは伝統的には、流れに乗って進む舟のように、流れに乗るという意味だ。
しかし68.9%が反対の「傾向に逆らう」という意味を選び、伝統的な意味を選んだのは22.7%だけだった。すべての言い回しが一方向に動くわけではない。気楽につきあえる人を表す「気が置けない」では、47.4%が伝統的な意味を選び、反対の意味を選んだ44.3%をわずかに上回った。英語にも似た話がある。「nice」という単語はかつて「おろかな」という意味で、「terrific」は「怖がらせる」という意味のラテン語の動詞にさかのぼる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
調査結果や nice・terrific の例を通して、言葉の意味の変化を述べているので B。
Q2. How many people chose the traditional meaning of "ki ga okenai"?
47.4 percent chose the traditional meaning とあるので C。44.3%は反対の意味を選んだ人の割合。
Q3. What can we infer from the passage?
nice が「おろかな」から今の意味に変わった例などから、元とは大きく違う意味になりうると読み取れるので C。調査は毎年行われているので D は誤り。
Tell a Japanese colleague that their comment was "nagare ni sao sasu," and there is a good chance they will hear it as criticism. The idiom pictures a boat being poled along with the current, so it traditionally means helping a trend along. In a government survey released in October 2026, though, 68.9 percent of respondents chose the reverse meaning.
Similar splits appear elsewhere. In a survey carried out in early 2016, 69.4 percent understood "kakushinhan" as someone who knowingly does wrong, and at least one major dictionary now lists that sense while noting that it was once considered an error. Change does not always run toward the newer meaning.
For "yakubusoku," the traditional sense gained ground between 2002 and 2024, and in the 2024 survey, respondents aged 16 to 19 favored it. These comparisons need care, because the survey switched from face-to-face interviews to mail in 2020, and each item tests only one example sentence. English shows the same process over a much longer period. "Nice" goes back to a Latin word for "ignorant," and "terrific" can still mean "terrifying," "excellent" or "very bad," depending on the context.
189 words ・ CEFR B2
和訳を見る
日本人の同僚に、あなたの発言は「流れに棹さす」ものだったと言えば、批判として受け取られる可能性が高い。この慣用句は、棹で押されて流れに乗って進む舟を思い描かせるもので、伝統的には流れを後押しすることを意味する。しかし2026年10月に発表された政府の調査では、回答者の68.9%が逆の意味を選んだ。
似たような分かれ方はほかにも見られる。2016年初めに行われた(2015年度の)調査では69.4%が「確信犯」を「悪いと分かっていてやる人」と理解しており、少なくとも1つの主要な辞書は今、その意味を、かつては誤りとされていたと注記したうえで載せている。変化はいつも新しい意味の方向に進むとは限らない。「役不足」では2002年度から2024年度にかけて伝統的な意味が勢力を伸ばし、2024年度の調査では16〜19歳の回答者で伝統的な意味のほうが多かった。
ただしこうした比較には注意がいる。調査は2020年度に対面の面接から郵送に切り替わっており、各項目は例文1つだけで尋ねているからだ。英語は、同じ過程をずっと長い期間で示している。「nice」は「無知な」を意味するラテン語にさかのぼり、「terrific」は今でも文脈によって「恐ろしい」「すばらしい」「ひどい」のどれも意味しうる。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
「流れに棹さす」では逆の意味が多数派だが、「役不足」では伝統的な意味が伸びたと述べているので B。辞書が新しい意味を載せた例もあるので C は誤り。
Q2. Why does the writer say the comparisons "need care"?
the survey switched from face-to-face interviews to mail in 2020, and each item tests only one example sentence とあるので A。
Q3. What does the example of "terrific" show?
terrific can still mean "terrifying," "excellent" or "very bad," depending on the context とあるので C。
重要単語
- oppositeA2形容詞・名詞正反対の;正反対のものMost people picked the opposite meaning.
the opposite of ~「~の反対」。前置詞の opposite は「~の向かいに」(The station is opposite the bank.)。 - idiomB2名詞慣用句、熟語"Go with the flow" is a common English idiom.
単語の意味を足しても全体の意味にならない決まった言い回し。形容詞 idiomatic は「(言葉づかいが)自然な」。 - go with the flowB1熟語流れに身をまかせる、周りに合わせるOn my first day at the new school, I just went with the flow.
「流れに棹さす」の本来の意味に近い。反対は go against the flow(流れに逆らう)。 - misuseB2名詞・動詞誤用(する)Some people call it a misuse, but dictionaries now list the new meaning.
mis-(誤って)+use。名詞は語尾が「ス」、動詞は「ズ」の音。 - respondentC1名詞(調査の)回答者More than 3,000 respondents took part in the survey.
respond(答える)+-ent(人)。調査・統計の英文で頻出。participant(参加者)とセットで覚えよう。 - terrificB1形容詞すばらしい;ひどい;(もとは)恐ろしいWe had a terrific time at the festival.
語源はラテン語の「怖がらせる」。今は「すばらしい」がふつうだが、a terrific headache(ひどい頭痛)のような使い方もある。 - niceA1形容詞すてきな、感じのよいLong ago, calling someone "nice" was not a compliment.
ラテン語 nescius(無知な)がもと。中英語では「おろかな」の意味だった。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- 役不足(精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉/コトバンク)kotobank.jp
- 流れに棹さす(デジタル大辞泉/コトバンク)kotobank.jp
- terrific(The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.)ahdictionary.com
このネタ、誰かに教えたくなった?
「流れに棹さす」は本来「流れに乗って勢いを増す」こと。でも2026年10月発表の文化庁調査では68.9%が「流れに逆らう」意味を選んだ。英語の nice も、昔は「おろかな」という意味だったらしい。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- 文化庁 令和7年度「国語に関する世論調査」の結果の概要(2026年10月2日発表)bunka.go.jp
- 文化庁 令和6年度「国語に関する世論調査」の結果の概要bunka.go.jp
- 文化庁 平成27年度「国語に関する世論調査」の結果の概要bunka.go.jp
- 確信犯(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典/コトバンク)kotobank.jp
- nice(The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.)ahdictionary.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





