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英語のマジか!?ウソ

「カンガルー=“分からない”」はウソ。シドニーの先住民は英語だと思っていた

「カンガルー=“分からない”」はウソ。シドニーの先住民は英語だと思っていた

読む前に予想してみよう!

「カンガルー」は、先住民が「分からない」と答えた言葉が動物の名前になったものだ

研究カード(どんな研究?)
対象
1770年の航海日誌とグーグ・イミディル語の現地調査
規模
クックとバンクスの日誌、1820年のキングの単語表、1970年代の言語調査
研究の種類
歴史言語学(文献調査・言語のフィールド調査)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「カンガルーは現地語で“分からない”」は俗説。本当は、1770年にクック船長の一行が聞いた、オーストラリア北東部の先住民のことば(グーグ・イミディル語)で、ある種類のカンガルーを指す言葉。1970年代の調査で確かめられた。

ひとことで言うと「カンガルー」は「知らない」じゃなくて、ちゃんとした動物の名前だった!

もくじ
  1. 1770年、修理中の船から見た「ネズミ色の動物」
  2. シドニーでは「英語の単語」になっていた
  3. 「分からない」説はどう生まれたか
  4. カンガルーの英語、おまけ3つ
  5. どんでん返し:kangaroo は「カンガルー全部」ではなかった
  6. まとめ

「カンガルー」は、先住民の言葉で 「分からない」 という意味。

イギリス人が「あの動物は何?」と聞いたら、言葉が通じなかった先住民が「(何を言っているのか)分からない」と答えた。それがそのまま動物の名前になった――。英語の雑学として、よく聞く話です。

でも、これは俗説です。kangaroo は、ちゃんと「カンガルー」を指す言葉でした。しかも話はそこで終わりません。シドニーの先住民は、この kangaroo を「英語の単語」だと思っていたのです。

011770年、修理中の船から見た「ネズミ色の動物」

1770年、イギリスのクック船長(James Cook)の船エンデバー号は、オーストラリア北東部のサンゴ礁で船体を傷め、今のクイーンズランド州クックタウンの近くで修理をしていました。滞在は約7週間。その間に、地元の先住民グーグ・イミディル(Guugu Yimidhirr)の人々と、そのことばに触れます。

オーストラリア国立大学の「オーストラリア国立辞書センター」が出すニュースレター『Ozwords』(2007年)が、クックたちの日誌を紹介しています。

  • 6月23日 クックの日誌:乗組員の一人が「グレーハウンド(猟犬)より少し小さい、ネズミ色の、とても細身で足の速い動物」を見た
  • 6月24日 クック自身が目撃:「跳ぶ走り方でなければ、野犬だと思っただろう。ウサギかシカのように跳んでいた」
  • 7月14日 植物学者バンクス(Joseph Banks)の日誌:一行の士官が1頭をしとめた。「ひと跳びで7〜8フィート(2メートル余り)跳ぶ」。重さは38ポンド(約17キロ)。この日の日誌に付けられた見出しが 「Kill Kanguru(カンガルーをしとめる)」。これが英語の kangaroo のいちばん古い記録
  • 8月4日 クックの日誌:「先に書いた動物は、現地の人々によって Kangooroo、または Kanguru と呼ばれている」
1770年7月、植物学者バンクスの日誌の見出し「Kill Kanguru」が、英語の kangaroo の最初の記録になった(Ozwords, 2007)
1770年7月、植物学者バンクスの日誌の見出し「Kill Kanguru」が、英語の kangaroo の最初の記録になった(Ozwords, 2007)

02シドニーでは「英語の単語」になっていた

クックの一行は、この言葉をイギリスに持ち帰りました。見たこともない動物だったので、kangaroo はすぐに広く知られます。

1787年、バンクスは、グーグ・イミディル語の単語を集めた表を、オーストラリアに植民地をつくるために出発する最初の船団(ファースト・フリート)を率いるフィリップ総督に渡しました。ところが、フィリップはそれをシドニー近くのボタニー湾で集めた単語だと思ったか、先住民のことばはどこでも同じだと考えたようだ、と『Ozwords』は書いています。

シドニーにできた植民地で、イギリス人は北東部の言葉 kangaroo を、シドニーの人々に向かって使いました。シドニー周辺の言葉では、カンガルーは patagaram(パタガラム)でした。

その結果、何が起きたか。『Ozwords』が引く『Australian Aboriginal Words in English』(第2版)によると、

  • シドニーのイオラ(Iora)の人々は、「食べられる動物」を指す英語を教わっていると思った
  • 船から牛が降ろされたとき、先住民は「あれは kangaroo か?」とたずねた
  • のちに内陸のダーリング川流域に入植者が来ると、バーカンジ語(Baaganndji)は英語の kangaroo を gaangurru という形で取り入れ、ヨーロッパ人が連れてきた「馬」の名前にした

北東部の先住民のことばが、イギリス人を経由して、ほかの地域の先住民には「英語」として伝わり、ついには馬の名前になった。シドニーの人々から見れば、kangaroo は「よそから来た英語の言葉」だったのです。

03「分からない」説はどう生まれたか

なぜ俗説が生まれたのでしょう。アメリカン・ヘリテージ英語辞典の解説をまとめると、こうです。

1820年、キング船長がクックと同じ場所を訪れて単語を集めると、カンガルーにあたる言葉は mee-nuah でした。kangaroo という言葉は出てきません。そこで「クックが間違えたのだ」と考えられ、「英語の質問が分からなかった先住民が『分からない』と答えたのを、クックが動物の名前だと思いこんだ」という話ができあがりました。

ところが、現地での言語調査で、グーグ・イミディル語には gangurru(ガングル)という、ある種類のカンガルーを指す言葉が実際にあることが分かりました。キングが聞いたのは、minha(「食べられる動物」)という言葉だったのかもしれません。カンガルーを指さしたキングに、相手は「それは食べられる動物だ」と答えていた可能性があるのです。

つまり、思い違いをしていたのはクックではなく、後から話を作った人たちのほうでした。

04カンガルーの英語、おまけ3つ

① サミュエル・ジョンソン、カンガルーのまねをするクックたちが持ち帰った kangaroo は、すぐにイギリスで評判になりました。1773年8月29日、英語辞典で有名なサミュエル・ジョンソンは、旅の途中のスコットランド北部のインヴァネスの宿で、近くの村のグラント牧師たちと夕食をともにしました(同行した伝記作家ボズウェルの旅日記にこの夕食の記録があります)。

その席でジョンソンはカンガルーの話を始め、立ち上がって、そのまねをしました。両手を前に出し、大きな茶色の上着のすそをかき集めてお腹の袋に見立て、部屋の中を2、3回勢いよく跳んだ。これは、その場にいたグラント牧師がのちに人に語った話です。ボズウェル本人の旅日記には書かれておらず、1852年ごろに出た旅日記の注釈つきの版(カラザーズ編)が、注の中に書き残しました。1890年にジョンソン研究者ヒルが、この版を出典として紹介しています(『Ozwords』もこの場面を引用)。

② kangaroo court(カンガルー裁判)はアメリカ生まれ英語の kangaroo court は「正式な権限のない、いいかげんな裁判」。『Ozwords』によると、この言い方が最初に出てくるのは1853年のアメリカの金鉱地で、オーストラリアではありません。Dictionary.com も「1850〜55年のアメリカ英語」としています。

③ didgeridoo(ディジュリドゥ)は先住民の言葉ではないらしいオーストラリア北部の先住民の長い木の笛、ディジュリドゥ。名前も先住民の言葉だと思われがちです。でもオーストラリア国立辞書センターによると、この語は白人が楽器の音をまねて作ったものらしいのです。1919年のシドニーの週刊誌には、この楽器は「didjerry, didjerry, didjerry と、ひとつの音しか出さない」と書かれていました。アメリカン・ヘリテージ英語辞典も、語源を「音をまねたもの」としています。

05どんでん返し:kangaroo は「カンガルー全部」ではなかった

では kangaroo は、グーグ・イミディル語で「カンガルー」という意味だったのか。ここにも注意がいります。

Dictionary.com によると、もとの gangurru が指すのは大型の黒色か灰色の、ある1種類のカンガルー。『Ozwords』も、クックの記録した言葉は「特定のカンガルー」を指していたとしています。英語ではそれが、カンガルーの仲間全体の名前に広がりました。シドニーでは、さらに「食べられる動物」とまで受け取られました。

もうひとつ、辞書にも食い違いが残っています。ディジュリドゥについて、オーストラリア国立辞書センターとアメリカン・ヘリテージ英語辞典は「音のまね」と説明しますが、オックスフォード学習辞典は「音のまね。オーストラリア北部のアーネムランドの先住民の言葉から」と両方を書き、Dictionary.com も「北部オーストラリアの先住民の言葉から」としたうえで、別の解説欄で「先住民の言葉ではない」と書いています。語源の説明は、辞書どうしでも完全にはそろっていないのです。

06まとめ

「カンガルー=分からない」は、1820年の別の記録から後で生まれた俗説でした。本当は、1770年にクック船長の一行が聞いた、ある種類のカンガルーの名前。1970年代の言語調査でそれが確かめられています。

そしてその kangaroo は、シドニーでは「食べられる動物」を指す英語、内陸では「馬」の名前になりました。ひとつの単語が、聞く人によってまったく違うものになったわけです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1770, Captain James Cook's ship was damaged on a reef off northeast Australia, and the crew spent about… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1770, Captain James Cook's ship was damaged on a reef off northeast Australia, and the crew spent about seven weeks repairing it. During that time they saw an animal that moved in big jumps. The local Guugu Yimidhirr people called it "gangurru," and Cook wrote it down as "Kangooroo." Fifty years later, another captain visited the same place and was given a different word.

Some people decided that Cook had made a mistake, and a story spread that "kangaroo" meant "I don't know." In the early 1970s, a linguist studied the language and found that "gangurru" was the name of one kind of kangaroo. The other captain's word probably meant "an animal you can eat."

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1770年、ジェームズ・クック船長の船はオーストラリア北東部の沖でサンゴ礁にぶつかって傷み、乗組員は約7週間かけて修理した。その間に、彼らは大きく跳びはねて動く動物を見た。地元のグーグ・イミディルの人々はそれを「gangurru」と呼び、クックはそれを「Kangooroo」と書きとめた。50年後、別の船長が同じ場所を訪れ、違う言葉を教えられた。

クックが間違えたのだと考える人が出てきて、「kangaroo」は「分からない」という意味だという話が広まった。1970年代のはじめ、ある言語学者がこの言語を調べ、「gangurru」がある種類のカンガルーの名前だと分かった。もう一人の船長が聞いた言葉は、おそらく「食べられる動物」という意味だった。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main purpose of the passage?

Q2. Why did some people think that Cook had made a mistake?

Q3. What can we infer about the other captain's word?

重要単語

  • kangarooA2
    名詞カンガルーA kangaroo can jump very far with its strong back legs. 発音は「キャンガルー」で、最後の -roo を強く読む。複数形は kangaroos。
  • mythB2
    名詞作り話、俗説;神話It's a myth that the word means "I don't know." It's a myth that 〜「〜というのは俗説だ」。th は舌をかんで「ミス」。
  • recordB1
    動詞記録するCaptain Cook recorded the word in his journal. 動詞は後ろを強く「リコード」、名詞は前を強く「レコード」。アクセントで品詞が変わる語。
  • journalB1
    名詞日誌、日記;専門誌The sailor wrote about the strange animal in his journal. フランス語 jour(日)から。「日ごとの記録」が元の意味。
  • settlerB2
    名詞入植者、移住者The settlers built small houses near the river. settle(落ち着く、住みつく)+-er(人)。
  • linguistC1
    名詞言語学者;語学の得意な人A linguist studied the language for many years. linguistics「言語学」。ラテン語 lingua(舌、言葉)から。
  • hopB1
    動詞ぴょんと跳ぶThe kangaroo hopped across the field. 過去形は hopped(p を重ねる)。hop on a bus「バスにさっと乗る」のようにも使う。
「カンガルーは現地の言葉で“分からない”の意味」は俗説。本当は、1770年にクック船長の一行が聞いた、ある種類のカンガルーの名前で、1970年代に言語学者が確かめた。しかもシドニーの先住民は、kangaroo を「食べられる動物」を指す英語だと思っていた。

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出典・参考文献(8件)タップで表示
  1. Moore, B. (2007) Kangaroo: A First Australian, Ozwords 15(1)(オーストラリア国立大学 Australian National Dictionary Centre)history.cass.anu.edu.au
  2. Australian National Dictionary Centre「Meanings and origins of Australian words and idioms」(kangaroo・didgeridoo)history.cass.anu.edu.au
  3. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「kangaroo」(Word History)ahdictionary.com
  4. Haviland, J. B. (1974) A last look at Cook's Guugu Yimidhirr word list, Oceania 44(3)(本文は未見。内容は Ozwords・AHD の紹介による)doi.org
  5. Dictionary.com「kangaroo」(Origin)dictionary.com
  6. Boswell, J., ed. R. Carruthers ([1852]) The Journal of a Tour to the Hebrides with Samuel Johnson, LL.D. London: Office of the National Illustrated Library(8月29日の項の脚注。カリフォルニア大学図書館所蔵本のスキャン、Internet Archive)archive.org
  7. Boswell, J. (1785) The Journal of a Tour to the Hebrides with Samuel Johnson, LL.D.(Sunday, 29th August の項。Project Gutenberg 電子テキスト #6018)gutenberg.org
  8. Hill, G. B. (1890) Footsteps of Dr. Johnson (Scotland). London: Sampson Low, Marston, Searle & Rivington(Cawdor の章と注558。Project Gutenberg 電子テキスト #57715)gutenberg.org

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