「頭の中で声がしない」人がいる。心の声がない状態に、2024年「anendophasia」という名前が提案された

読む前に予想してみよう!
頭の中で言葉が聞こえる「心の声」は、すべての大人が持っていることが確かめられている
心の声をほとんど感じないと答える大人もいる。Nedergaard と Lupyan(2024)は、この状態を anendophasia と呼ぶことを提案した。
- 対象
- 英語を母語とする大人が中心(18〜70歳)
- 規模
- 心の声が少ない46人・多い47人(候補1,037人から選抜)
- 研究の種類
- 実験(質問紙で分けた2群の課題成績を比較)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
頭の中で言葉が聞こえる「心の声」は、全員にあるわけではなかった。2024年の研究は、心の声がない(ほとんどない)状態を anendophasia と呼ぶことを提案した。心の声が少ない人は韻の判断と単語の記憶でやや苦戦したが、声に出して解いた人どうしでくらべると、差はほぼなかった。
ひとことで言うと頭の中で言葉がほとんど聞こえない人もいるんだって! でも声に出して考えれば、心の声が多い人とほぼ同じくらいできていたよ。
この文を読んでいる今、頭の中で「声」が読み上げていますか。
多くの人は「当たり前でしょ」と答えるはずです。ところが、頭の中で言葉が聞こえることはほとんどない、と答える大人もいます。
2024年、デンマークとアメリカの研究者がこの状態を anendophasia と呼ぶことを提案し、実験で「心の声が少ない人」と「多い人」をくらべました。すると、ある種類の課題でだけ、はっきりした差が出たのです。
01「心の声」はだれにでもある?
頭の中で言葉を使って考える体験を、心理学では「内言(ないげん)」と呼びます。英語では inner speech、inner voice、inner monologue などと言います。
内言の研究をまとめた2015年の総説によると、旧ソ連の心理学者ヴィゴツキーは、子どもが声に出して自分に話しかける「ひとりごと」が、成長とともに頭の中に入って内言になると考えました。実際、作業中のひとりごとは5歳ごろに最も多く、その後は減っていき、代わりに内言が増えていくことを示す研究があります。
ここから、「大人ならだれでも心の声で考えている」と思われがちでした。でも、それは本当なのでしょうか。
02心の声が少ない46人と、多い47人をくらべた
この疑問を正面から調べたのが、デンマークのコペンハーゲン大学の Nedergaard さんと、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校の Lupyan さんです。2024年、心理学の学術誌『Psychological Science』に論文を発表しました。
03差が出たのは「韻」と「単語の記憶」
1つ目は、2枚の絵を見て、その名前が韻をふむか(最後の音がそろうか)を答える課題です。たとえば sock と clock はつづりも似た韻、drawer と door はつづりが違うのに音がそろう韻です。心の声が少ない人は正解率が低めでした。ただし、答える速さには差がありませんでした。
2つ目は、5つの英単語を1つずつ見て、見た順にキーボードで入力する記憶の課題です。単語のセットには、次のようなものがありました。
- 音が似ているセット:bought, sort, taut, caught, wart
- つづりが似ているセット:rough, cough, through, dough, bough
ここでも、心の声が少ない人は思い出せた単語が少なめでした。
ところが、課題の最中に声に出して単語や絵の名前を言っていたと答えた人だけで見ると、心の声が少ない人も、多い人と同じくらいの成績でした。研究者たちは、大事なのは「言葉を使うこと」で、それが頭の中か口に出すかは問わないのだろう、と考えています。

04「心の声がない」に名前をつけた理由
anendophasia は、ギリシャ語に由来する an(ない)+ endo(内側の)+ phasia(ことば)を組み合わせた語です。研究者たちは、心の声がないと感じている人たちと相談しながら、この名前を考えたといいます。
お手本になったのは、頭の中で映像をほとんど思い浮かべられない状態を指す aphantasia(アファンタジア)です。この名前が2010年代に広まると、研究の手がかりになっただけでなく、「自分もそうだ」と気づく人たちが集まるきっかけにもなりました。
質問への答えにも違いが出ました。心の声が多い人は、過去の会話を頭の中で振り返ったり、これからの会話を前もって練習したりすることが、少ない人よりずっと多かったのです。
05どんでん返し:「声がない」は0か1かではない
この研究には、注意して読むべき点がいくつもあります。
まず、心の声の量は本人の答え(自己申告)で分けています。著者たち自身も、人は自分の心の中の体験について思い違いをすることがあると認めています。さらに、「心の声が少ない」グループの多くは、心の声が少しはあると答えていました。「まったくない」人だけを集めた研究ではないのです。
「声に出すと差が消えた」という結果も、声に出したかどうかは本人の答えです。しかも単語の記憶の課題で声に出したと答えたのは、心の声が少ない46人のうち13人、多い47人のうち10人だけでした。著者たちも、こうした組み合わせの分析は確かさが低いので、慎重に読むよう求めています。
次に、差が出たのは4つの課題のうち2つだけで、心の声が少ない人の成績が全体的に低かったわけではありません。研究者たちは、心の声が少ない人は別のやり方を使うことで、ふだんは差が見えにくいのかもしれない、と述べています。
そもそも、心の声が「ある」と思っている人でも、実際にはそれほど多くないのかもしれません。ランダムなタイミングでブザーを鳴らし、その直前の心の中を細かく聞き取る方法で調べた研究者たちは、ブザーが鳴った瞬間のうち、内言が出ていたのは20〜25%ほどで、その頻度は人によって大きく違ったと報告しています。一方、同じくブザーを使っても、簡単な質問紙で答えてもらった古い研究では、ブザーが鳴った瞬間の約4分の3で内言があったとされました。どう聞くかで答えが大きく変わるのです。
また、この研究の参加者はほとんどが英語を話す人でした。日本語を話す人でも同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。
06まとめ
「頭の中の声」は、だれにでも同じようにあるものではありませんでした。2024年、心の声がない状態には anendophasia という名前が提案されました。心の声が少ない人は韻の判断と単語の記憶でやや苦戦しましたが、声に出して取り組んだ人どうしでは、差はほぼありませんでした。
あなたの頭の中は、言葉でにぎやかですか。それとも静かですか。周りの人にも聞いてみると、意外な答えが返ってくるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany of us take our inner voice for granted.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Do you hear a voice in your head when you read or think? Most people say yes, but some adults say they almost never do. In 2024, two researchers suggested calling this "anendophasia." They tested 93 adults.
People with very little inner voice made more mistakes when they had to decide if two words rhymed. But among people who said the words out loud, this difference almost went away.
69 words ・ CEFR A2
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本を読んだり考えたりするとき、頭の中で声が聞こえますか。ほとんどの人は「はい」と答えますが、そういうことはほとんどないと言う大人もいます。2024年、2人の研究者がこの状態に「anendophasia」という名前を提案しました。彼らは93人の大人を調べました。
心の声がとても少ない人は、2つの単語が韻をふむかどうかを決めるときに、まちがいが多くなりました。でも、単語を声に出して言った人たちの間では、その差はほとんどなくなりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
頭の中で声がほとんど聞こえない人についての研究の話なので A。
Q2. How many adults did the researchers test?
They tested 93 adults とあるので C。2024は研究が発表された年。
Q3. In the passage, what does "rhymed" mean?
rhyme は「韻をふむ」、つまり sock と clock のように最後の音がそろうこと。B。
Many of us take our inner voice for granted. We plan, worry and argue with ourselves in words, all in silence.
But some adults report that this rarely happens to them. In 2024, Johanne Nedergaard and Gary Lupyan proposed the name "anendophasia" for this experience and tested what difference it makes. They compared 46 adults with little inner speech and 47 with a lot. The first group did worse on two tasks.
One was deciding whether the names of two pictures rhymed, like "sock" and "clock." The other was remembering short lists of words in order. On the other two tasks, the groups did about the same. And among people who said the words out loud, those with little inner speech did about as well as the others.
128 words ・ CEFR B1
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私たちの多くは、心の声があるのを当たり前だと思っている。計画を立てたり、心配したり、自分と言い争ったりするのを、すべて声を出さずに言葉で行っている。
しかし、そういうことはめったにないと話す大人もいる。2024年、Johanne Nedergaard と Gary Lupyan はこの体験を「anendophasia」と呼ぶことを提案し、それによってどんな違いが生まれるのかを調べた。2人は、心の声が少ない大人46人と多い大人47人をくらべた。前者のグループは2つの課題で成績が低かった。
1つは、sock と clock のように、2枚の絵の名前が韻をふむかどうかを判断する課題。もう1つは、短い単語のリストを順番どおりに覚える課題だった。ほかの2つの課題では、2つのグループはほぼ同じだった。そして、課題の間に単語を声に出して言った人たちの中では、心の声が少ない人もほかの人とほぼ同じくらいの成績だった。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the researchers compare?
They compared 46 adults with little inner speech and 47 with a lot とあるので B。
Q2. On which task did people with little inner speech do worse?
The other was remembering short lists of words in order とあり、韻の判断と並んで成績が低かった課題なので A。
Q3. What does the last sentence suggest?
声に出した人たちの中では、心の声が少ない人もほかの人とほぼ同じ成績だったので、声に出すことで心の声の少なさを補えると考えられる。C。
Ask a group of friends whether they hear words in their heads, and the answers may surprise you. Some describe a running commentary that never stops. Others say their minds are mostly quiet. In 2024, psychologists Johanne Nedergaard and Gary Lupyan proposed a name for the quiet end of this range, anendophasia, built from Greek parts meaning "no inner speech."
From a pool of 1,037 people who had filled out a questionnaire, they invited those at both extremes and tested 93 of them. Adults with little inner speech were less accurate at judging whether two pictured words rhymed, and they recalled fewer words from short lists. Switching between adding and subtracting, by contrast, caused them no extra trouble.
Among people who said the words aloud, the gap mostly disappeared, so talking out loud may make up for a quiet inner voice. The groups were based on self-reports, and many people in the "low" group still had some inner speech. One careful method interviews people about the moment just before a random beep. With it, researchers have found inner speech in only about a fifth to a quarter of those moments.
190 words ・ CEFR B2
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友だちのグループに、頭の中で言葉が聞こえるかとたずねてみると、その答えに驚くかもしれない。止まることのない実況中継があると言う人もいれば、頭の中はたいてい静かだと言う人もいる。2024年、心理学者の Johanne Nedergaard と Gary Lupyan は、この幅の「静かな」側に、ギリシャ語の要素からなる「内なることばがない」という意味の anendophasia という名前を提案した。質問紙に答えた1,037人の中から両極端の人を招き、そのうち93人を調べた。
心の声が少ない大人は、絵に描かれた2つの語が韻をふむかの判断で正確さが低く、短いリストから思い出せる単語も少なかった。一方、足し算と引き算を切りかえる課題では、とくに苦労しなかった。
単語を声に出して言った人の間では差がほぼ消えていたので、声に出すことが心の声の少なさを補っているのかもしれない。グループ分けは本人の申告にもとづいており、「少ない」グループの多くの人にも心の声はある程度あった。ある念入りな方法では、ランダムに鳴るブザーの直前の瞬間について、心の中に何があったかを聞き取る。この方法を使った研究者たちは、内言が見られたのはそうした瞬間のおよそ5分の1から4分の1だけだったと報告している。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
心の声の量には個人差があり、韻の判断や単語の記憶など一部の課題に差が出たという話なので A。
Q2. Which task caused no extra trouble for people with little inner speech?
Switching between adding and subtracting, by contrast, caused them no extra trouble とあるので C。
Q3. Why does the writer mention that many people in the "low" group still had some inner speech?
「少ない」グループにも心の声がある程度あったので、心の声がまったくない人を調べたわけではないと伝えるため。B。
重要単語
- inner voiceB2名詞心の声、頭の中の声I heard my inner voice say, "Don't give up."
心理学では inner speech(内言)とも言う。inner は「内側の」。 - rhymeB2動詞・名詞韻をふむ;韻"Cat" rhymes with "hat."
rhyme with ~「~と韻をふむ」。つづりより音で決まる(drawer と door も韻になる)。 - out loudB1副詞声に出してRead the sentence out loud.
aloud と同じ意味。think out loud「考えを口に出しながら考える」もよく使う。 - take ~ for grantedB2熟語~を当たり前だと思うWe often take our health for granted.
grant(認める)の過去分詞から。入試の英作文・長文で頻出。 - self-reportC1名詞自己申告The study relied on self-reports.
心理学の論文でよく出る語。本人の答えなので、思い違いもありうる。 - silentA2形容詞静かな、声を出さないWe have ten minutes of silent reading every morning.
silent reading「黙読」。名詞は silence。knight の k は silent letter(読まない文字)。 - recallB2動詞思い出すI can't recall his name.
re(再び)+call(呼ぶ)。remember より少しかたい語。
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頭の中で「声」がしない人がいる。2024年、心の声がない状態に anendophasia という名前が提案された。心の声が少ない46人と多い47人をくらべると、少ない人は韻の判断と単語の記憶で苦戦。でも声に出して解いた人では、その差がほぼ消えていた。
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- Nedergaard, J. S. K., & Lupyan, G. (2024) Not Everybody Has an Inner Voice: Behavioral Consequences of Anendophasia, Psychological Science 35(7)doi.org
- Roebuck, H., & Lupyan, G. (2020) The Internal Representations Questionnaire: Measuring modes of thinking, Behavior Research Methods 52(5)doi.org
- Alderson-Day, B., & Fernyhough, C. (2015) Inner speech: Development, cognitive functions, phenomenology, and neurobiology, Psychological Bulletin 141(5)doi.org
- Hurlburt, R. T., Heavey, C. L., & Kelsey, J. M. (2013) Toward a phenomenology of inner speaking, Consciousness and Cognition 22(4)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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