狼男werewolfのwereは「男」。バーチャルのvirtualも元をたどれば「男」

読む前に予想してみよう!
woman(女性)の man は、もともと「男」という意味だった
古英語の wīfman は wīf(女性)+ man(人)。古英語の man のおもな意味は「人間」で、「男」は wer という別の語だった(AHD)。
- 対象
- 英語の辞書(AHD・オックスフォード)の語源欄と語法注記
- 規模
- 古英語〜現代英語の語の変化
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書の語源記述の照合)
- 確かさ
- ★★★★☆
千年ほど前の英語(古英語)では man は「人間」で、「男」は wer という別の語だった。wer は werewolf(狼男)に残る。同じ祖先をもつラテン語 vir(男)からは virtus(男らしさ)ができ、virtue(美徳)と virtual(バーチャル)が生まれた。
ひとことで言うと狼男(ウェアウルフ)のウェアは「男」。バーチャルも元をたどると「男」!
もくじ
VR(バーチャル・リアリティ)の virtual。この単語をどんどんさかのぼると、ラテン語の vir(男) に着きます。
そして、狼男 werewolf の were も「男」。しかもこの2つは、同じ祖先から分かれた親戚の言葉です。
もう一つ。昔の英語では、man は「男」ではなく「人間」という意味でした。「男」には、wer という別の単語があったのです。
01昔の英語では、man=「人間」、男=wer
アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)は、man の項目の「使い方の注意書き」で、こう説明しています。
- 古英語(今から千年ほど前の英語)で、man のおもな意味は「人間」だった
- 「男の人」は wer(または wæpman)、「女の人」は wyf(または wifman)という別の語で言い分けていた
- その後の中英語(古英語の次の時代の英語)の時代に、man が wer を押しのけて「男」の意味も受け持つようになった
- 女性を表す wyfman は残り、今の woman になった
つまり woman の後ろ半分の man は「男」ではなく「人」。AHD の woman の語源欄でも、古英語の wīfman = wīf(女性)+ man(人)と書かれています。
では、押しのけられた wer はどうなったのでしょう。単語としては消えました。でも、ほかの単語の中に化石のように残っているのです。
02消えた wer の生き残り:werewolf
AHD によると、werewolf = wer(男、人)+ wulf(オオカミ)。「人オオカミ」です。
今の英語話者にとって、were は「be の過去形」にしか見えません。でも AHD の語源欄を見ると、be の過去形 were は古英語の wǣron から来た語で、werewolf の wer とは別の祖先をもっています。werewolf の were は「男」を表していたのです。
古英語の werewulf は、残っている記録の中で一度しか出てこない語だそうです。1000年ごろ、クヌート王の法律の中で、神の羊の群れを「狂ったように飢えた werewolf」に食い荒らされないように、という一節に出てきます(AHD)。
wergild は、今の英語ではほとんど見かけない歴史用語です。それでも「人の値段」という意味の単語が辞書に残っているのは、wer がかつて当たり前の単語だった証拠です。

03フランス語の狼男は「オオカミ・オオカミ男」
この wer、フランス語にもまぎれこんでいます。
フランス語で狼男は loup-garou(ルー・ガルー)。AHD によると、古フランス語の leu(オオカミ)+ garoul(狼男)で、garoul はゲルマン系の言葉から入ったもの。AHD の巻末の付録(英語やラテン語の共通の祖先の言葉をまとめたもの)では、さらにその元をフランク語の wer-wulf(男オオカミ)としています。 は、記録には残っていない、学者が推定した形のしるしです。
つまり loup-garou は、「オオカミ」+「男オオカミ」。オオカミが2回出てくるのです。なぜ2回になったのかは、今回引いた辞書には書かれていません。
04ラテン語では vir。virtus から virtue と virtual へ
AHD の werewolf の語源コラムによると、wer はラテン語の vir(男)と親戚です。どちらも、インド・ヨーロッパ祖語(英語やラテン語の共通の祖先)の *wī-ro-(男) から来ています。
ラテン語の vir から生まれた英単語を、AHD とオックスフォードの学習辞典で確かめてみましょう。
- virile(男らしい、精力的な)= ラテン語 virīlis ← vir(男)
- virtue(美徳)= ラテン語 virtūs(男らしさ、すぐれていること、善さ)← vir。AHD には、今は使われない意味として「男らしい勇気」も載っている
- virtuoso(名演奏家)= イタリア語 virtuoso(腕のいい)← virtūs
- triumvirate(三頭政治、3人組)= ラテン語 trium virum「3人の男の」から
そして virtual。AHD によると、中英語の virtuall(効き目のある)← 中世ラテン語 virtuālis ← ラテン語 virtūs(すぐれていること)。オックスフォードの学習辞典は、後期中英語の時代には「ある種の virtue(力、長所)を持っている」という意味もあった、と書いています。
辞書に載っている語源と意味の順番から、意味の移り変わりを大まかにまとめると、こうなります。
男 → 男らしさ・すぐれた力 → 効き目がある → 名前はちがっても、実質的にそうである → (コンピューターの中で)仮想の
今でも virtually は「ほとんど、事実上」の意味でよく使います。The city was virtually empty.(町はほとんど空っぽだった)。AHD の意味の説明には、コンピューター用語として「ほかの装置の働きをまねる」も並んでいます。「本物ではないけれど、本物と同じように働く」という今の virtual は、この「事実上」の意味の延長と考えると分かりやすいでしょう。
05どんでん返し:「男らしさ」の virtue が、女性の「貞節」に
virtue のもとは「男らしさ」でした。ところが AHD には、古い意味として「貞節(特に女性の)」も載っています(今は古い言い方)。「男らしさ」から生まれた単語が、女性について使う意味も持っていたのです。
werewolf にも、もう一つ意外な歴史があります。
- オックスフォードの学習辞典によると、werewolf という語は、近代になって民間伝承の研究を通じて復活した。今の私たちがふつうに使う werewolf は、古い言い伝えの研究をきっかけに、もう一度使われるようになった言葉なのです
- 同じ辞典は、前半を古英語の wer(男)とする説明にも「ふつうは」をつけていて、AHD のように言い切ってはいない
06まとめ
古英語の「男」は wer。man は「人間」でした。wer は単語としては消えましたが、werewolf と wergild の中に生き残っています。
そして、wer の親戚のラテン語 vir は、virtus(男らしさ)を通って virtue(美徳)と virtual を生みました。次に VR ゴーグルをかけるときは、その V の奥に、1000年前の「男」がいることを思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout a thousand years ago, English speakers used "man" mainly to mean "a human being." For an adult male,…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
About 1,000 years ago, the English word "man" mostly meant "a person." There was a different word for a male person. It was "wer."
Later, "man" took this meaning too, and people stopped using "wer." But you can still find it in the word "werewolf." A werewolf is a "man-wolf."
In Latin, the word for "man" was "vir." It is a cousin of "wer." English got "virtue" from it, and later "virtual," as in virtual reality.
76 words ・ CEFR A2
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約1000年前、英語の「man」という語はおもに「人」を意味していました。男の人を表す語は別にあり、それは「wer」でした。のちに「man」がこの意味も受け持つようになり、人々は「wer」を使わなくなりました。
でも、今でも「werewolf(狼男)」という語の中にそれを見つけることができます。werewolf は「男オオカミ」なのです。
ラテン語では「男」を表す語は「vir」でした。これは「wer」の親戚です。英語はそこから「virtue(美徳)」を、のちには virtual reality(仮想現実)の「virtual」を得ました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「男」を表す古い語 wer が werewolf などに残っている話なので B。
Q2. What did "man" mean about 1,000 years ago?
the English word "man" mostly meant "a person." とあるので C。
Q3. In the passage, what does "cousin" mean in "It is a cousin of 'wer'"?
ここでは vir が wer と同じ祖先を持つ「親戚の語」という意味なので A。
About a thousand years ago, English speakers used "man" mainly to mean "a human being." For an adult male, they had a different word, "wer." Over time, "man" took over that job, and "wer" fell out of use. It still hides inside "werewolf," which simply means "man-wolf."
The same old word appears in "wergild," the price that a killer's family had to pay for a person's life under early English law. "Wer" also has a relative in Latin, "vir," which meant "man" as well.
The Latin noun "virtus," meaning "manliness" or "excellence," came from it and gave English the word "virtue." Later, the same Latin noun gave English "virtual." So the V in VR goes back to an old word for "man."
122 words ・ CEFR B1
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約1000年前、英語を話す人々は「man」をおもに「人間」の意味で使っていた。大人の男性には「wer」という別の語があった。時がたつにつれて「man」がその役目も引き受け、「wer」は使われなくなった。それでも wer は「werewolf(狼男)」の中にかくれている。werewolf は単に「男オオカミ」という意味だ。
同じ古い語は「wergild」にも出てくる。これは、昔のイングランドの法で、人を殺した側の家族がその人の命の代わりに払わなければならなかった値段だ。
「wer」にはラテン語の親戚「vir」もあり、これも「男」を意味した。「男らしさ」や「すぐれていること」を意味するラテン語の名詞「virtus」はそこから生まれ、英語に「virtue(美徳)」という語をもたらした。のちに、同じラテン語の名詞から英語は「virtual」も手に入れた。だから VR の V は、「男」を表す古い語にさかのぼるのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
消えた wer が werewolf などに残り、ラテン語 vir と親戚だという話なので B。
Q2. What was "wergild"?
the price that a killer's family had to pay for a person's life とあるので C。
Q3. What can we guess from the last sentence?
VR の V が「男」を表す古い語にさかのぼる、と言っているので、新しい語が古い語とつながっていると分かる。B。
Speakers of Old English used "man" mainly in the sense of "a human being." A male was a "wer," and a female was a "wyf," a word that survives in "woman." During the Middle English period, "man" pushed "wer" aside, and the older word disappeared except in a few compounds. One is "werewolf." The American Heritage Dictionary notes that Old English records contain it only once, in a law of King Canute from around the year 1000.
Another is "wergild," the payment set on a person's life according to rank, which a killer's family owed to the victim's relatives. The Latin cousin of "wer" is "vir." Its derived noun "virtus" meant manliness and excellence, and it led to "virtue," "virtuoso" and, by way of a medieval sense of "effective," to "virtual."
Dictionaries do not all speak with the same confidence. The Oxford learner's dictionary says only that the first part of "werewolf" has usually been linked to "wer," and it adds that the word was brought back into use in modern times through the study of folklore.
177 words ・ CEFR B2
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古英語を話す人々は、「man」をおもに「人間」の意味で使っていた。男性は「wer」、女性は「wyf」で、後者は「woman」の中に生き残っている。中英語の時代に「man」が「wer」を押しのけ、古いほうの語はいくつかの複合語を除いて消えた。その一つが「werewolf」だ。アメリカン・ヘリテージ辞典によると、古英語の記録にこの語は一度しか出てこず、それは1000年ごろのクヌート王の法律の中だという。
もう一つは「wergild」で、身分に応じて人の命につけられた支払いのことであり、人を殺した側の家族が被害者の身内に払う義務を負っていた。「wer」のラテン語の親戚は「vir」だ。そこから派生した名詞「virtus」は男らしさやすぐれていることを意味し、「virtue」や「virtuoso」に、そして中世の「効き目がある」という意味を経て「virtual」につながった。
辞書はどれも同じ確かさで語っているわけではない。オックスフォードの学習辞典は、「werewolf」の前半はふつう「wer」と結びつけられてきた、と言うにとどめ、さらにこの語は近代になって民間伝承の研究を通じて再び使われるようになったと付け加えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
wer が消えつつも複合語に残り、ラテン語の親戚 vir が virtual などにつながる、という全体の流れなので A。
Q2. According to the passage, how often does "werewolf" appear in Old English records?
Old English records contain it only once, in a law of King Canute とあるので B。
Q3. Why does the writer mention the Oxford learner's dictionary?
Dictionaries do not all speak with the same confidence. のあとに、オックスフォードが「ふつうは wer と結びつけられてきた」と慎重に書いている例を挙げているので C。
重要単語
- werewolfB2名詞狼男、オオカミ人間In the story, the werewolf only appears under a full moon.
were(古英語 wer=男)+wolf。複数形は werewolves。 - virtueB2名詞美徳;長所Patience is a virtue.
ラテン語 virtus(男らしさ、すぐれていること)← vir(男)。by virtue of「〜のおかげで」。 - virtualB2形容詞事実上の;(コンピューターで)仮想のWe took a virtual tour of the museum.
中英語では「効き目のある」。virtual reality(仮想現実)は VR と略す。 - virtuallyB2副詞ほとんど、事実上Virtually everyone in my class has a phone.
almost に近い意味。入試の英文でもよく出る。 - virtuosoC1名詞(音楽などの)名人、名演奏家She is a piano virtuoso.
イタリア語から。複数形は virtuosos または virtuosi。 - compensationB2名詞償い、補償(金)The family received compensation for the damage.
動詞は compensate(償う)。wergild は「命の補償金」。 - folkloreC1名詞民間伝承、言い伝えWerewolves are a common figure in European folklore.
folk(人々)+lore(知識、言い伝え)。 - relativeB1名詞親戚;(ことばの)同族語Latin "vir" is a relative of Old English "wer."
形容詞では「相対的な」。a close relative「近い親戚」。
公式・一次情報をチェック
- werewolf(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- virtual(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- wergild(The American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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千年ほど前の英語で man は「人間」、「男」は wer という別の語だった(AHD)。その生き残りが werewolf(狼男)。同じ祖先をもつラテン語 vir(男)から virtus(男らしさ)ができ、そこから virtue(美徳)と virtual が生まれた。VR の V をたどると「男」。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary「werewolf」(Word History)ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary「man」(Usage Note)・「woman」ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary「virtue」「virtual」「virtuoso」「triumvir」「loup-garou」「were」ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary, Appendix I: Indo-European Roots「wī-ro-」ahdictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「virtue」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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