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台風は明治に「タイフーン」とも書いた。英語の typhoon も中国語「大風」の影響

台風は明治に「タイフーン」とも書いた。英語の typhoon も中国語「大風」の影響

読む前に予想してみよう!

「台風」という言葉は、平安時代から使われてきた日本語だ

研究カード(どんな研究?)
対象
日本語・英語の辞書と百科事典
規模
辞書・事典 6種+気象庁
研究の種類
辞書の語源・語誌の比較
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

台風のような嵐は、平安時代から「野分(のわき)」と呼ばれた。明治には片仮名で「タイフーン」とも書き、「颱風」が広まったのは大正から。英語の typhoon も、アラビア語の語に中国語の「大風」が混ざってできた。

ひとことで言うと明治の日本では、台風を「タイフーン」とカタカナで書くこともあったんだって!

もくじ
  1. 「台風」の前は「野分」と「タイフーン」
  2. 英語の typhoon は「アラビア語+中国語」
  3. では「颱風」はどこから来たのか
  4. どんでん返し:「台風」がみんな typhoon とは限らない
  5. まとめ
  6. よくある質問

夏から秋にかけて、ニュースで毎年のように聞く「台風」。英語では typhoon(タイフーン)です。

「たいふう」と「タイフーン」。音がそっくりですよね。では、どちらがどちらをまねしたのでしょう?

答えは、少し入り組んでいます。明治の日本では、台風を片仮名で「タイフーン」と書くことがありました。ところが英語の typhoon のほうも、中国語の「大風(大きな風)」の影響を受けてできた語です。台風の名前は、アラビア語・中国語・英語・日本語のあいだを行き来していたのです。

01「台風」の前は「野分」と「タイフーン」

まず、日本語の歴史から見ていきましょう。

つまり、「台風(颱風)」という言葉が広く使われるようになったのは、およそ100年前から。それより前の日本人は、同じ嵐を「野分」「颶風」「タイフーン」「大風」など、いろいろな名前で呼んでいたのです。

平安時代から使われた「野分(のわき)」は、野の草を分けて吹く風の意味(日本国語大辞典)
平安時代から使われた「野分(のわき)」は、野の草を分けて吹く風の意味(日本国語大辞典)

02英語の typhoon は「アラビア語+中国語」

では、英語の typhoon はどこから来たのでしょう。英語の辞書を3冊並べてみます。

  • オックスフォードの学習辞典:16世紀後半から。一部はポルトガル語を通って、アラビア語の ṭūfān(トゥーファーン) から来た(ṭūfān はギリシャ語の tuphōn「つむじ風」から来たのかもしれない)。そこに中国語の方言の tai fung「大きな風」の影響が重なった
  • Dictionary.com:初めての記録は1580〜90年。もっと古い英語の形は touffon、tufan。アラビア語の ṭūfān「暴風、大洪水」から。語源の説明の中に、中国の広東の方言の taaî fung(標準語の dàfēng「大風」にあたる)も挙げている
  • American Heritage Dictionary(AHD):古い英語の tuffon、tufan(「大洪水」)が、中国語の台風を表す言葉(たぶん広東語の toi fung)の影響で形を変えたもの。tufan はヒンディー語・ウルドゥー語の tūfān「暴風雨、洪水」から、さらにアラビア語、ギリシャ語にさかのぼる

まとめると、英語にはまずアラビア語にさかのぼる「トゥファン」に近い語が入り、それが中国語の「タイフン(大風)」に引っぱられて typhoon の形になった、ということです。

AHD によると、ギリシャ語のもとの語 Typhon(テューポーン)は、ギリシャ神話の100の頭をもつ怪物の名前で、ゼウスに地の底(タルタロス)へ投げこまれました。Dictionary.com は、古い英語の touffon・tufan が、ギリシャ語の tȳphôn(激しい風、つむじ風)の影響を受けて形を変えたと説明しています。Dictionary.com の説明どおりなら、typhoon のつづりの y や ph は、このギリシャ語の影響ということになります。

03では「颱風」はどこから来たのか

日本語の「颱風」の語源は、事典によって書き方が違います。

世界大百科事典は、「颱風」という語は17世紀の中国の文献に見られるとしたうえで、語源には次のような説があり「定かではない」と書いています。

  • アラビア語の tūfān の音を漢字にした
  • 英語の typhoon の音を漢字にした
  • 台湾のあたりにやって来る暴風という意味

一方、気象学者の饒村曜(にょうむら・よう)さんが書いた日本大百科全書の項目は、もう少し踏みこんでいます。「颱風」は中国語の「颱」と英語の typhoon の音をとったもの。そして、中国で「颶風」と呼ばれていた渦を巻く風の知識が南シナ海を航海していたアラビア人に伝わり、彼らが「ぐるぐる回る」という意味の tūfān と呼んだ。それが一方では「颱風」に、もう一方では typhoon になったと考えられる、としています。

同じ項目には、英語の typhoon は16世紀にはイギリスで使われた例があり、中国の「颱」の用例(最古は17世紀後半の『福建通志』)より古い、とも書かれています。江戸時代には滝沢馬琴が『椿説弓張月』で「颱」の字を使い「あかしま」と読ませていますが、明治後期からの「颱風」にはつながらないそうです。

1847〜48年にメドハーストが出した『英華辞書』では、英語の typhoon に「太風」「颶風」という漢字があてられていました(日本国語大辞典)。英語の typhoon が、今度は漢字に訳されていたわけです。中国語から英語へ、英語から中国語や日本語へ。矢印は一方向ではありません。

04どんでん返し:「台風」がみんな typhoon とは限らない

ここまで読むと、「台風=typhoon」と思いますよね。ところが、気象の世界では、2つの言葉の線引きがずれています。

気象庁は、北西太平洋または南シナ海にある熱帯低気圧のうち、最大風速(10分間の平均)がおよそ17m/s(34ノット)以上のものを「台風」と呼んでいます。

ところが日本大百科全書によると、船舶向けの気象通報などで使う英語の typhoon は、最大風速32.7m/s(64ノット)以上。日本語の「台風」の定義とは違うのです。

気象庁自身も、台風を英語で伝えるときは強さで呼び分けています。最大風速33m/s(64ノット)以上は Typhoon、それより弱いものは Severe Tropical Storm(25m/s以上)や Tropical Storm です(気象庁「予報用語」)。

つまり、日本で「台風」と呼ばれる嵐でも、風が弱めのものは、この定義では typhoon に入りません。気象庁が「強い台風」と呼ぶのは、最大風速が33m/s(64ノット)以上のものから。英語の typhoon の線は、だいたい日本語の「強い台風」の線と重なっています。

05まとめ

毎年聞く「台風」は、平安時代の「野分」、江戸時代の「颶風」、明治の「タイフーン」「大風」をへて、大正時代に「颱風」として広まった言葉でした。英語の typhoon も、アラビア語にさかのぼる語に中国語の「大風」が重なってできています。

では、どちらがどちらをまねしたのか。日本大百科全書の説明では、「颱風」は中国語の「颱」と英語の typhoon の音をとった語(世界大百科事典は「定かではない」とします)。その typhoon も、中国語の「大風」の音に引き寄せられた語です。まねされた側の英語も、じつは中国語をまねしていたのです。台風の名前は、嵐と同じように、アジアの海をぐるぐる回っていました。

よくある質問

台風の語源は何ですか?

はっきりとは決まっていません。日本大百科全書は、「颱風」は中国語の「颱」と英語の typhoon の音をとった語としています。世界大百科事典は、アラビア語や英語の音を漢字にした説、台湾のあたりに来る暴風という説などを挙げ、「定かではない」としています。

「台風」と「typhoon」はどちらが先ですか?

英語の typhoon のほうが古い記録があります。日本大百科全書によると、typhoon は16世紀にはイギリスで使われた例があり、中国の「颱」の最古の用例(17世紀後半の『福建通志』)より古いとされます。ただし typhoon も、中国語の「大風」の影響を受けた語です。

英語の typhoon の語源は何ですか?

アラビア語の ṭūfān(暴風、大洪水)にさかのぼる語が、中国語の「大風」の影響で形を変えたものです。オックスフォードの学習辞典、Dictionary.com、American Heritage Dictionary の3つが、書き方は違ってもこの流れを示しています。

昔の日本では台風を何と呼んでいましたか?

平安時代から「野分(のわき)」と呼ばれていました。江戸時代には中国にならって「颶風(ぐふう)」と訳した文献があり、明治には片仮名で「タイフーン」と書いたり、漢字で「大風」と書いたりしました(日本国語大辞典など)。

「颱風」が「台風」になったのはなぜですか?

「颱」の字が当用漢字に入らなかったからです。1946年から「台風」と書くようになりました。「颱風」が一般に広まったのは、気象学者の岡田武松が1907年に台風を学問の上で定義したのを受けた、大正時代からです。

台風・ハリケーン・サイクロンの違いは何ですか?

同じ種類の嵐で、場所によって名前が変わります。American Heritage Dictionary によると、西太平洋やインド洋は typhoon、大西洋やカリブ海、太平洋の東側は hurricane、南西太平洋やインド洋の強い嵐は cyclone です。

日本の「台風」はすべて英語で typhoon ですか?

いいえ。気象庁は最大風速およそ17m/s(34ノット)以上を「台風」としますが、英語で伝えるときに Typhoon と呼ぶのは33m/s(64ノット)以上です。それより弱いものは Severe Tropical Storm や Tropical Storm と呼びます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerLong ago, people in Japan called a strong autumn storm "nowaki," a wind that pushes through the grass in… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Long ago, people in Japan called a strong autumn storm "nowaki," a wind that pushes through the grass in the fields. In the Meiji era, writers sometimes used the katakana word "taifun," or wrote "big wind" in kanji. After the scientist Takematsu Okada gave the storm a scientific definition in 1907, the kanji word became common in the Taisho era.

The English word is older. English dictionaries say it was first used in the late 1500s. It started as a word borrowed from Arabic, and its sound later moved closer to a Chinese word meaning "big wind." So the borrowing did not go in just one direction. The word seems to have gone around Asia, much like the storms themselves.

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

昔、日本の人々は秋の強い嵐を「野分(のわき)」と呼んだ。野原の草を押し分けて吹く風のことだ。明治時代には、書き手たちは片仮名の「タイフーン」を使ったり、漢字で「大風」と書いたりした。

1907年に科学者の岡田武松がこの嵐を学問の上で定義したあと、大正時代に漢字の語が一般に広まった。英語の語のほうが古い。英語の辞書によると、初めて使われたのは1500年代の終わりごろだ。最初はアラビア語から借りた語で、その音がのちに「大きな風」を意味する中国語に近づいた。だから、借用は一方向だけではなかった。この語は、嵐そのものと同じように、アジアをぐるりと回ったようだ。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened after 1907, according to the passage?

Q2. When was the English word "typhoon" first used?

Q3. What does the writer mean by "The word seems to have gone around Asia"?

重要単語

  • typhoonB1
    名詞台風A typhoon is approaching Okinawa. つづりの y と ph に注意。typhoon season「台風シーズン」。
  • hurricaneB1
    名詞ハリケーンThe hurricane hit Florida last night. 大西洋・カリブ海・太平洋の東側で発生する強い熱帯低気圧。語源はカリブ海の先住民の言葉。
  • cycloneB2
    名詞サイクロンThe cyclone caused heavy rain in India. インド洋や南西太平洋の強い嵐。ギリシャ語の「円、回る」から。
  • tropicalB1
    形容詞熱帯のTyphoons form over warm tropical seas. tropical storm は「熱帯の嵐」。気象の英語ニュースでよく聞く。
  • approachB1
    動詞近づくThe typhoon will approach Kyushu tomorrow morning. approach to ~ とはしない(他動詞)。名詞では「取り組み方」の意味もある。
  • evacuateB2
    動詞避難する、避難させるThousands of people had to evacuate before the storm. 名詞は evacuation(避難)。evacuation order「避難指示」。
  • whirlwindC1
    名詞つむじ風、旋風A whirlwind picked up the leaves and spun them in the air. whirl(ぐるぐる回る)+wind。typhoon の語源をたどるとギリシャ語の「つむじ風」に行き着く。
明治の日本では、台風を片仮名で「タイフーン」と書くことがあった。「颱風」が広まったのは大正から。英語の typhoon も、アラビア語の語に中国語の「大風」が混ざってできた語。言葉はアジアと英語のあいだを行き来していた。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. 精選版 日本国語大辞典「台風」語誌・日本大百科全書(ニッポニカ)「台風」・改訂新版 世界大百科事典「台風」(小学館・平凡社、コトバンク掲載)kotobank.jp
  2. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed., "typhoon" "Typhon" "hurricane" "cyclone"(HarperCollins)ahdictionary.com
  3. Oxford Advanced Learner's Dictionary, "typhoon"(Oxford University Press)oxfordlearnersdictionaries.com
  4. Dictionary.com, "typhoon"dictionary.com
  5. 気象庁「台風とは」「台風の大きさと強さ」jma.go.jp
  6. 気象庁「予報用語 台風」(台風の階級・大きさ・強さ)jma.go.jp

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