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英語のマジか!?ホント

「悲劇(tragedy)」の語源は“ヤギの歌”。なぜヤギなのかは今も決着していない

「悲劇(tragedy)」の語源は“ヤギの歌”。なぜヤギなのかは今も決着していない

読む前に予想してみよう!

英語の tragedy(悲劇)の語源は、ギリシャ語で「ヤギの歌」という意味の言葉だ

研究カード(どんな研究?)
対象
古代ギリシャ語の語源と古代の証言
規模
辞書2種・古典2点・学術論文1本
研究の種類
文献調査(辞書・古典・研究論文の照合)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

tragedy はギリシャ語の tragos(ヤギ)+ōidē(歌)。ヤギが賞品だった説、ヤギに扮した合唱隊の説などがあり決着していない。タクシーの cab も、さかのぼるとヤギにたどり着く。

ひとことで言うと「悲劇」を英語で言うと tragedy。もとの意味は「ヤギの歌」なんだって!

もくじ
  1. tragedy の語源:「ヤギ」+「歌」
  2. なぜヤギ? 学者たちが出した説
  3. どんでん返し:サテュロスにあったのはヤギの角ではなく「馬のしっぽ」
  4. 喜劇 comedy も「宴の歌」か「村の歌」か
  5. 英語に隠れたヤギたち
  6. まとめ

「悲劇」は英語で tragedy(トラジェディ)。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』も、ニュースの「痛ましい事故」も tragedy です。

この単語、古代ギリシャ語までさかのぼって分解すると、tragos(ヤギ)+ōidē(歌)=「ヤギの歌」になります。

人が死に、運命に打ちのめされる重い劇が、なぜ「ヤギの歌」なのか。じつはこれ、今も研究者の間で決着していない謎です。ついでに言うと、タクシーの cab も、さかのぼるとヤギにたどり着きます。

01tragedy の語源:「ヤギ」+「歌」

アメリカの辞書『American Heritage Dictionary(AHD)』で tragedy を引くと、語源はこう書かれています。

  • 中英語 tragedie ← 古フランス語 ← ラテン語 tragoedia ← ギリシャ語 tragōidia
  • tragōidia = tragos(ヤギ)+ aoidē / ōidē(歌)

Dictionary.com によると、英語に tragedy が現れるのは14世紀ごろ。そして語源欄には「なぜこの名前なのかは、いろいろに説明されている」と、はっきり書き添えてあります。

ヤギを表す tragos そのものの語源もユニークです。AHD によると、もとは trōgein(もぐもぐかじる、草をはむ)という動詞。ヤギは「かじる動物」という意味の名前だったのです。

melody も parody も「歌」の仲間

後ろ半分の ōidē(歌)は、英語のいろいろな単語に入っています。どれも AHD の語源欄で確かめられます。

  • ode(オード、頌歌):ōidē そのもの
  • melody(メロディー):melos(ふし)+歌
  • parody(パロディー):para-(わきの)+歌
  • rhapsody(ラプソディー):rhaptein(縫う)+歌。ラテン語では「叙事詩のひと区切り」のこと
  • comedy(コメディー):kōmos(宴、どんちゃん騒ぎ)+aoidos(歌い手)

悲劇もメロディーもパロディーも、語尾は同じ「歌」から来ています。ただし body(体)や remedy(治療法)のように、たまたま形が似ているだけの単語もあります。

ギリシャ語でヤギは tragos。もとは「かじる」という動詞から来た名前(American Heritage Dictionary)
ギリシャ語でヤギは tragos。もとは「かじる」という動詞から来た名前(American Heritage Dictionary)

02なぜヤギ? 学者たちが出した説

では、なぜ劇の名前にヤギが入っているのか。ドイツの古典学者ヴァルター・ブルケルト(Walter Burkert)が1966年に学術誌『Greek, Roman and Byzantine Studies』に書いた論文「Greek Tragedy and Sacrificial Ritual(ギリシャ悲劇といけにえの儀式)」は、それまでの説を整理しています。

古代ローマの詩人ホラティウスの『詩論』(紀元前1世紀)220行目には、昔の悲劇作者について「carmine qui tragico vilem certavit ob hircum(安いヤギ一頭をかけて、悲劇の歌で競った者)」という一行があります。ホラティウスも「悲劇の賞品はヤギ」と理解していたわけです。

古代の説明では、悲劇の歌くらべの賞品はヤギだった(ホラティウス『詩論』220行、ブルケルト1966)
古代の説明では、悲劇の歌くらべの賞品はヤギだった(ホラティウス『詩論』220行、ブルケルト1966)

03どんでん返し:サテュロスにあったのはヤギの角ではなく「馬のしっぽ」

長く有力だった「ヤギの扮装説」には、大きな弱点があります。

ブルケルトによると、悲劇が生まれたころの壺絵や彫刻に出てくるサテュロスは、ヤギではなく、動物の耳と“馬のしっぽ”をつけた野性の男の姿でした。サテュロスに角が付くのは、ずっと後のヘレニズム時代(紀元前4世紀末以降)です。

さらに、サテュロス劇(サテュロスの姿の合唱隊が出てくる劇)の場面が壺絵に現れるのは、紀元前520年ごろより後。伝説上の最初の悲劇作者テスピスより遅いのです。「ヤギの格好の踊り手」から悲劇が生まれた、と言うには証拠が合いません。

かといって賞品説も、後の時代の人が語源から逆算して作った話だ、と疑う学者がいます。ブルケルト自身はヤギのいけにえとのつながりを重く見ましたが、論文の初めの部分で「資料を批判的に読むだけでは、どの説とも決められない」と認めています。「ヤギの歌」の意味は、今もはっきりしていないのです。

04喜劇 comedy も「宴の歌」か「村の歌」か

悲劇と対になる comedy(喜劇)。AHD では kōmos(宴、どんちゃん騒ぎ)+aoidos(歌い手)で、「宴で歌う人」から来た語とされます。

ところが、2300年以上前のアリストテレス『詩学』にはこんな話が出てきます。メガラの人々など、ドーリス人と呼ばれるギリシャ人の一派は「喜劇役者(kōmōidoi)がそう呼ばれるのは、kōmazein(浮かれ騒ぐ)からではない。町を追われて kōmai(村々) を渡り歩いたからだ」と主張していた、というのです。

つまり comedy も「宴の歌」なのか「村の歌」なのか、古代ギリシャの時点ですでに説が割れていたわけです。

05英語に隠れたヤギたち

tragedy のほかにも、身近な英語にヤギがひそんでいます。

cab(タクシー)AHD によると、cab は cabriolet(カブリオレ) の略。cabriolet はもともと一頭の馬が引く二輪の馬車で、今は屋根を折りたためる車(カブリオレ)の名前です。語源をたどると、フランス語 cabriole(跳びはね)← イタリア語 capriola(宙返り)← capriolo(雄のノロジカ)← ラテン語 capreolus・caprea(ノロジカ)← caper(雄ヤギ)。Let's take a cab.(タクシーで行こう)の cab も、さかのぼれば「跳びはね」と「ヤギ」に行き着きます。

caper(はしゃぎ回る)と Capricorn(やぎ座)「跳ね回る」の caper も capriole(跳躍)が変化した語で、もとはラテン語のヤギ。やぎ座の Capricorn は caper(ヤギ)+cornū(角)。ただし、料理に使う酢漬けのつぼみ ケッパー(caper)は別の単語で、ギリシャ語 kapparis から。起源は分かっていません。

scapegoat(身代わり)責任を押しつけられる人のことを scapegoat と言います。旧約聖書のレビ記16章で、人々の罪を負わせて荒れ野に放たれるヤギが語源。Dictionary.com によると英語の記録は1520〜30年ごろから。AHD によると、ヘブライ語の ʿăzāʾzēl(アザゼル) を「逃げるヤギ」と読み違えたことから来た訳語です。「身代わりのヤギ」は、読み違いから生まれたことになります。

kid(子ども)「子ども」の kid は、AHD でも第1の意味が「子ヤギ」。古ノルド語から来た語です。

ヤギに見えて、もとは別の動物だった例もあります。「気まぐれ」の caprice は、AHD によるとフランス語を経て、イタリア語 capriccio から来ました。もとは capo(頭)+riccio(巻き毛。さかのぼるとラテン語の「ハリネズミ」)で、「ハリネズミのように髪が逆立った頭」、つまり「ぎょっとすること」でした。それが後で、跳ね回る capra(ヤギ)のイメージに引っぱられたとされます。

06まとめ

tragedy は「ヤギ+歌」。ここまでは辞書が一致しています。けれどもなぜヤギなのかは、賞品か、いけにえか、ヤギの格好の合唱隊か、それとも冗談か。今も決着していません。

次にタクシーを「cab」と呼ぶとき、あるいは映画の「tragedy」を見るとき、2000年以上前のギリシャで草をはんでいたヤギを、ちょっと思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you break the English word "tragedy" into its Greek parts, you get "tragos" (goat) and "oide" (song). 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you break the English word "tragedy" into its Greek parts, you get "tragos" (goat) and "oide" (song). The second part also appears in "melody" and "parody," so both of these words contain an old word for "song." The goat is harder to explain.

In ancient times, people said that singers competed in contests and the winner received a goat, which was then offered to Dionysus, the god of wine and theater. The Roman poet Horace wrote about a poet who competed "for a cheap goat." In the 19th and 20th centuries, many scholars preferred another idea. They thought the singers were dressed as goats. Neither idea has been proved.

110 words ・ CEFR B1

和訳を見る

英語の tragedy をギリシャ語の部品に分けると、tragos(ヤギ)と oide(歌)になる。後ろの部品は melody と parody にも出てくるので、どちらの語にも「歌」を表す古い語が入っている。ヤギのほうは説明が難しい。

古代には、歌い手たちが競争をして、勝者がヤギを受け取り、そのヤギは酒と演劇の神ディオニュソスにささげられた、と言われていた。ローマの詩人ホラティウスは、「安いヤギ一頭のために」競った詩人のことを書いている。19世紀と20世紀には、多くの学者が別の考えを好んだ。歌い手たちはヤギの格好をしていた、と考えたのだ。どちらの考えも証明されていない。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. According to the ancient explanation, what happened to the goat?

Q3. What can we guess about the word "parody"?

重要単語

  • tragedyB1
    名詞悲劇;痛ましい出来事It's a tragedy that the old theater burned down. 形容詞は tragic(悲劇的な)。複数形は tragedies。語源はギリシャ語の「ヤギ(tragos)+歌(oide)」。
  • comedyB1
    名詞喜劇、コメディWe watched a comedy and laughed the whole time. comedian(お笑い芸人)、comic(こっけいな)も仲間。語尾の -edy はギリシャ語 aoidos(歌い手)から。
  • prizeA2
    名詞賞品、賞The winner of the contest gets a small prize. win a prize「賞をとる」。つづりの似た price(値段)と区別しよう。
  • sacrificeB2
    名詞・動詞いけにえ、犠牲;犠牲にするShe sacrificed her free time to help her brother. もとは神にささげるいけにえ。今は「(何かのために)犠牲にする」の意味でよく使う。
  • scapegoatC1
    名詞・動詞身代わり、責任を押しつけられる人;責任を押しつけるDon't make him the scapegoat for the team's loss. scape(escape の古い形)+goat。旧約聖書の、罪を負わせて荒れ野に放つヤギから。
  • melodyB1
    名詞旋律、メロディーI can't get that melody out of my head. ギリシャ語 melos(ふし)+oide(歌)。parody・rhapsody も同じ「歌」の仲間。
  • kidA2
    名詞・動詞子ども(もとは子ヤギ);からかうAre you kidding me? 辞書の第1の意味は今も「子ヤギ」。No kidding!「まさか!/ほんとだよ」も会話でよく使う。
「悲劇」の英語 tragedy を分解すると、ギリシャ語の tragos(ヤギ)+ōidē(歌)=“ヤギの歌”。なぜヤギなのかは今も決着していない。タクシーの cab も、さかのぼるとラテン語の「雄ヤギ」。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Burkert (1966) Greek Tragedy and Sacrificial Ritual, Greek, Roman and Byzantine Studies 7(2): 87–121grbs.library.duke.edu
  2. American Heritage Dictionary, 5th ed.「tragedy」「tragic」「comedy」「melody」「parody」「rhapsody」「cab」「cabriolet」「capriole」「caper」「caprice」「Capricorn」「scapegoat」「kid」ahdictionary.com
  3. Aristotle, Poetics 1448a・1449a(W. H. Fyfe 英訳, Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
  4. Horace, Ars Poetica 220(ラテン語原文, Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
  5. Dictionary.com「tragedy」「cab」「scapegoat」dictionary.com

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