本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
🌍 世界のことばビミョー

悪口に「l・r・w・y」の音は似合わない? 知らない言語の悪口を当てる実験で、6言語の215人に同じ傾向

悪口に「l・r・w・y」の音は似合わない? 知らない言語の悪口を当てる実験で、6言語の215人に同じ傾向

読む前に予想してみよう!

知らない言語の単語から悪口を当てる実験では、l や r の音が入った単語のほうが「悪口だ」と選ばれやすかった

研究カード(どんな研究?)
対象
アラビア語・中国語・フィンランド語・フランス語・ドイツ語・スペイン語の母語話者
規模
215人(ほかに予備調査で5言語の話者)
研究の種類
オンライン実験+悪口の音の数え上げ+辞書の用例
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

知らない言語の単語2つから「悪口」を選ぶ実験で、6言語の215人は l・r・w・y の入った方を選びにくかった。ただし本物の悪口にこの音が少ないかは、まだ確かめきれていない。

ひとことで言うと「ラ行やワ行の音が入った言葉は、悪口っぽく聞こえにくい」らしいよ!

もくじ
  1. 知らない言語の「悪口当てクイズ」
  2. l・r・w・y は「なめらかな音」
  3. 英語の「やわらげた悪態」には l や r が増えていた
  4. どんでん返し:本物の悪口に少ないかは、まだ確かめきれていない
  5. まとめ

「ヨグ」と「ツォグ」。どちらかが、ある外国語の悪口だとしたら?

意味はまったく分からないのに、なんとなく「ツォグ」の方が悪口っぽく聞こえませんか。じつはどちらも、研究者が実在の単語をもとに作ったニセの単語です。

2022年に発表された研究では、アラビア語・中国語・フィンランド語・フランス語・ドイツ語・スペイン語を母語とする215人に、このような「悪口当てクイズ」が出されました。すると、どの言語の話者も、l・r・w・y の音が入った単語を「悪口」として選びにくかったのです。悪口っぽく聞こえる音は、言語がちがっても似ているのかもしれません。

01知らない言語の「悪口当てクイズ」

実験をしたのは、イギリスのロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の心理学者、レヴ=アリさんとマッケイさんです。参加者には「2つの単語のうち1つは悪口です。どちらだと思いますか」と伝え、外国語らしい単語を2つずつ聞かせました。

当てずっぽうなら50%になるはずです。63%は大差ではありませんが、言葉も文化も違う6つのグループで同じ向きの結果が出ました。

02l・r・w・y は「なめらかな音」

l・r・w・y は、言語学では接近音(せっきんおん)と呼ばれる音のグループです。舌や唇を近づけるだけで、息の通り道を完全にはふさがないので、なめらかに響きます。日本語でいえば、ヤ行・ワ行の子音や、ラ行の子音に近い音です(ラ行の音は英語の r や l と少し違いますが、この研究の分け方では r の仲間に入ります)。

一方、くらべた ts・ch・j は、日本語の「ツ」「チ」「ジ」の最初の音に近く、息の通り道をいったん閉じてから、こすれるように息を出す音です。

言葉の音と意味のあいだには、ふつう決まったつながりはありません。「鳥」は日本語で「とり」、英語で bird です。ところが、音そのものが特定のイメージと結びつきやすいこともあります。これを音象徴(おんしょうちょう)と呼びます。

世界のおよそ3分の2の言語の単語リストを調べた2016年の研究では、関係のない言語どうしでも「舌」を表す単語には l や u が、「丸い」には r が、「小さい」には i が入りやすい傾向が見つかりました。悪口の研究は、この音象徴が「物の名前」だけでなく、悪口らしさのような話し手の気持ちにまで関係しているのでは、と考えたのです。

研究者は、l・r・w・y のようななめらかな音が「おだやかさ」と結びついていて、相手をののしるのに向かないのかもしれない、と考えています
研究者は、l・r・w・y のようななめらかな音が「おだやかさ」と結びついていて、相手をののしるのに向かないのかもしれない、と考えています

03英語の「やわらげた悪態」には l や r が増えていた

研究チームは英語の辞書も調べました。英語には、強い悪態をそのまま言うのを避けるために、音を少し変えた「やわらげた言い方」があります。

たとえば Oxford Learner's Dictionaries によると、darn は damn(ちくしょう)と言うのを避けるための軽い悪態です。Darn it! I've lost my keys!(ああもう、鍵をなくした!)のように使います。アメリカ英語では darn の r を発音するので、damn にはなかった r の音が入っています(ただし、この研究はイギリス英語の発音で数えたので、r を発音しない darn は「増えた」側に入れていません)。

研究チームは『オックスフォード英語辞典(OED)』などから、こうした言いかえ67語を集め、もとになった悪態24語とくらべました。

  • l・r・w・y の数は、もとの悪態の側が合計12個、言いかえた側が合計29個
  • たとえば、英語でいちばん強い悪態の1つ(いわゆる F で始まる語)の言いかえ frigging には、もとの語にない r が入っている

英語では、悪態をやわらげるときに l・r・w・y が足されることが多かったのです。ただし frigging は今でも「不快に思う人が多い」と辞書にある語なので、使わない方が無難です。

04どんでん返し:本物の悪口に少ないかは、まだ確かめきれていない

ここまで読むと「世界の悪口には l・r・w・y が少ない」と言いたくなります。でも、この研究がはっきり示したのは、人が「悪口っぽい」と感じる音の傾向です。実際の悪口の音を数えた調査は、まだ弱い結果にとどまっています。

研究チームは本実験の前に、ヘブライ語・ヒンディー語・ハンガリー語・韓国語・ロシア語の話者に、それぞれの言語の悪口を挙げてもらいました。基本的な単語とくらべると、悪口には l・r・w・y が少ない傾向がありました。ただ、論文が主に示した計算では、たくさんの音のグループを同時に調べたぶんの補正をすると、偶然と区別できるほどの差ではありませんでした(最初に予定していた計算方法では差が出ていましたが、著者たちは「言語ごとの重みが偏る」として計算を変えています)。

ほかにも注意点があります。

  • 例外の言語がある:追加の調査では、フランス語の悪口には l・r・w・y の入ったものが多く、この傾向にあてはまらなかった。ところが、フランス語を話す参加者も、クイズではほかの言語の話者と同じく、l・r・w・y の入っていない方を約63%の割合で選んでいた
  • 全員が英語を知っていた:参加者はみな英語になじみのある人たちだったので、英語の悪口の音に慣れていた影響は消しきれない。研究者自身もこれを限界として挙げている(ただ、悪口にこの音が多いフランス語の話者でも同じ結果だったので、その可能性は低いと著者たちは見ている)
  • 逆の例もある:Oxford Learner's Dictionaries によると、heck は hell を遠回しに変えた語。hell の l が消えて、やわらかくなっている

破裂音についても見ておきましょう。英語の悪態には k や t のような「破裂音」が多い、とよく言われてきました。英語やドイツ語の研究でも、短い母音、s のようにシューッとこすれる音、破裂音などが「きつい」「悪口らしい」印象につながるという結果があります。ところが、5つの言語の悪口を調べた予備調査では、論文が主に示した計算で、破裂音が特に多いという偏りは見つかりませんでした(最初に予定していた計算方法では、破裂音は多めに出ていました)。破裂音が世界の悪口に共通かどうかも、まだはっきりしません。

なお、日本語の悪口はこの研究では調べられていません(実験のニセの単語づくりには日本語の名詞も使われましたが、参加者にも予備調査にも日本語の話者はいませんでした)。日本語の悪口に同じ傾向があるかどうかは、まだ分かりません。

05まとめ

知らない言語の単語でも、l・r・w・y が入っていると「悪口っぽくない」と感じる人が多い。英語で悪態をやわらげるときにも、この音がよく足されていました。

ただし、世界中の本物の悪口にこの音が少ないとまでは、まだ言えません。英語で腹が立ったときは、Darn it! くらいのやわらかさで止めておくのが、いちばん安全そうです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTwo psychologists in Britain wanted to know if some sounds work better for swearing than others. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Two psychologists in Britain wanted to know if some sounds work better for swearing than others. They tested 215 people whose first language was Arabic, Chinese, Finnish, French, German, or Spanish. The people heard pairs of foreign-sounding words and were told that one word in each pair was a swear word.

But the words were all made up. The two words in a pair differed by only one sound. One had an l, r, w, or y, and the other had a sound like "ts" or "ch." About 63 percent of the time, people chose the word without the l, r, w, or y. The team also found that softened forms of English swear words had more of these sounds than the original words.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

イギリスの2人の心理学者は、ある音がほかの音よりも悪口に向いているのかどうかを知りたいと考えた。2人は、アラビア語・中国語・フィンランド語・フランス語・ドイツ語・スペイン語を第一言語とする215人を調べた。参加者は外国語らしい単語を2つずつ聞き、それぞれの組の片方が悪口だと伝えられた。

でも、単語はすべて作られたものだった。組になった2つの単語は、1つの音だけが違っていた。片方には l・r・w・y が、もう片方には「ts」や「ch」のような音が入っていた。約63%の割合で、参加者は l・r・w・y の入っていない単語を選んだ。研究チームはまた、英語の悪口をやわらげた形には、もとの語よりこれらの音が多く入っていることも見つけた。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the two psychologists want to find out?

Q2. What was true about the words in the experiment?

Q3. What can we infer about the softer forms of English swear words?

重要単語

  • swear wordB1
    名詞ののしり言葉、悪態Please don't use swear words in front of the kids. swear は「悪態をつく」と「誓う」の両方の意味がある。curse word もほぼ同じ意味。
  • offensiveB2
    形容詞不快な、失礼なSome people find that word offensive. offend(気分を害する)の形容詞。find ~ offensive「〜を不快に思う」は辞書の説明でもよく使われる形。
  • mildB1
    形容詞穏やかな、軽い"Darn" is a mild way to show you're annoyed. a mild swear word「軽い悪態」。カレーの「マイルド」と同じで、刺激が弱いこと。
  • euphemismC1
    名詞遠回しな言い方、婉曲表現"Pass away" is a euphemism for "die." ギリシャ語の eu(よく)+ phēmē(話すこと)から。heck は hell の euphemism。
  • inventB1
    動詞(新しく)作り出す、発明するThe researchers invented words that sound like real ones. invented words「作られた単語」。make up a word とも言う。
  • annoyedB1
    形容詞いらいらした、むっとしたI was annoyed because the bus was late again. 人が主語なら annoyed、物事が主語なら annoying(That noise is annoying.)。
  • pronounceB1
    動詞発音するMany Americans pronounce the "r" in "darn." 名詞は pronunciation(つづりの ou が u に変わる点に注意)。
知らない外国語の単語2つから「悪口」を当てる実験で、6言語の215人は l・r・w・y の入った方を選びにくかった(そちらを悪口に選んだのは約37%)。英語の悪態をやわらげた言い方にも、この音が増えていた。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Lev-Ari, S., & McKay, R. (2022) The sound of swearing: Are there universal patterns in profanity?, Psychonomic Bulletin & Review 30(3)doi.org
  2. Blasi, D. E., Wichmann, S., Hammarström, H., Stadler, P. F., & Christiansen, M. H. (2016) Sound–meaning association biases evidenced across thousands of languages, PNAS 113(39)doi.org
  3. Aryani, A., Conrad, M., Schmidtke, D., & Jacobs, A. (2018) Why 'piss' is ruder than 'pee'? The role of sound in affective meaning making, PLOS ONE 13(6)doi.org
  4. Reilly, J., Kelly, A., Zuckerman, B. M., Twigg, P. P., Wells, M., Jobson, K. R., & Flurie, M. (2020) Building the perfect curse word: A psycholinguistic investigation of the form and meaning of taboo words, Psychonomic Bulletin & Review 27(1)doi.org
  5. heck(Oxford Learner's Dictionaries、語源欄)oxfordlearnersdictionaries.com

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →