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日英くらべホント

「すごい」はもともと“ぞっとする”の意味。英語の terrific も「恐ろしい」から「最高」に

「すごい」はもともと“ぞっとする”の意味。英語の terrific も「恐ろしい」から「最高」に

読む前に予想してみよう!

「すごく楽しい」のような「すごく」の使い方は、昭和の終わりごろに若者が言い始めた新しい言い方だ

研究カード(どんな研究?)
対象
日本語「すごい」と英語 terrific・tremendous
規模
辞書に載る用例(10世紀〜20世紀)
研究の種類
国語辞典・英語辞典の語源と用例の記述
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「すごい」の古い形「すごし」は、ぞっとするほど恐ろしい・さびしい・美しいさまを表した。「すごく楽しい」のように「とても」の意味で使う「すごく」も、1838年の本に例がある。英語の terrific も恐怖から称賛へ。

ひとことで言うと「すごい」は、むかしは「ぞっとする」という意味だった!こわいときにも、美しいときにも使った

もくじ
  1. 「すごい」の本来の意味は「ぞっとする」
  2. 「すごく楽しい」は江戸時代からある
  3. 「恐ろしく速い」も同じ道をたどった
  4. 英語の terrific も「恐ろしい」から「最高」へ
  5. どんでん返し:「怖い」から「美しい」へ、ではなかった?
  6. まとめ
  7. よくある質問

「すごい!」

ゲームでも、ケーキでも、友だちの絵でも。私たちは一日に何度もこの言葉でほめています。

ところが、平安時代の「すごい」(古い形は「すごし」)は、背筋がぞっとするような物事を表す言葉でした。夜の荒れた屋敷の気味悪さも、さびしい鳥の声も、身ぶるいするほど美しい笛の音も、ぜんぶ「すごし」。今のほめ言葉の「すごい」は、もとをたどると、この「ぞっとする」の言葉に行き着きます。

01「すごい」の本来の意味は「ぞっとする」

小学館の『日本国語大辞典』は、「すごい」を「心に強烈な戦慄(せんりつ)や衝撃を感じさせるような、物事のさま」を表す言葉だと説明しています。戦慄とは、恐ろしさなどで体が震えることです。

そのうえで、意味を五つに分けています。

①〜③に共通するのは、どれも「ぞっとする」という体の感覚です。怖くてぞっとする。さびしくてぞっとする。美しすぎてぞっとする。平安時代の「すごし」は、何に対してぞっとしたかを問わず使える言葉でした。

江戸時代の読み物(読本)『英草紙(はなぶさぞうし)』(1749年)には、墓地の木々のようすを「殺気くて」と書き、「殺気」に「すご」と読みがなをつけて「すごくて」と読ませた例もあります。この時代にも、①の「気味が悪い」の意味が生きていたことが分かります。

02「すごく楽しい」は江戸時代からある

「すごく楽しい」「すごくおいしい」のように、「すごく」を「とても」の代わりに使う言い方。新しい言葉づかいのように感じる人もいるかもしれません。

でも『日本国語大辞典』によると、この使い方の最初の例は1838年。江戸時代の終わりごろの人情本(町の人々の恋愛を描いた読み物)に、「すごく美麗(うつくしい)」と出てきます。180年以上前から使われてきた言い方なのです。

そして今。『デジタル大辞泉』は、「すごい」の意味を次の二つにまとめています。

  • ぞっとするほど恐ろしい。非常に気味が悪い(例:すごい目でにらむ)
  • びっくりするほど程度がはなはだしい。並外れている(例:すごい人気、すごい秀才)

同じ辞書の使い方の説明では、「すごい」は「すごい評判」のようなプラスの評価にも、「すごいあばら家」のようなマイナスの評価にも使うとあります。「すごい目でにらむ」には、今も「ぞっとする」の意味が残っています。

江戸時代の読本『英草紙』(1749年)では、墓地の木々のようすを「殺気くて」と書いて「すごくて」と読ませている(日本国語大辞典)
江戸時代の読本『英草紙』(1749年)では、墓地の木々のようすを「殺気くて」と書いて「すごくて」と読ませている(日本国語大辞典)

03「恐ろしく速い」も同じ道をたどった

「怖い」を表す言葉が「程度がすごい」の意味になったのは、「すごい」だけではありません。

「恐ろしい」も同じです。『日本国語大辞典』によると、「恐ろしい」は江戸時代以降、「程度がはなはだしい」という意味で、程度を強める言葉のようにも使われるようになりました。辞書は、「恐ろしい」にはもともと「ものの程度が常識をはるかに超えている」という意味がふくまれていたために生まれた使い方だろう、と説明しています。

今でも私たちは、「恐ろしく頭の回転が速い」「恐ろしく寒い」と言います(デジタル大辞泉の例)。怖がっているわけではありません。「ふつうでは考えられないくらい」と言いたいのです。

04英語の terrific も「恐ろしい」から「最高」へ

英語にも、よく似た道を通った単語があります。アメリカの辞書『American Heritage Dictionary』で確かめてみましょう。

terrific の語源は、ラテン語の terrificus。もとになった動詞 terrēre は「怖がらせる」という意味です。terror(恐怖)や terrible(ひどい)と同じ仲間です。

この辞書は terrific の意味を4つ載せています。

  1. とてもよい、すばらしい
  2. 驚くほどの、ものすごい
  3. 恐怖を起こさせる、恐ろしい
  4. とても悪い、ひどい

この辞書がいちばん先に載せている意味は「すばらしい」。でも、もとの「恐ろしい」も辞書から消えていません。イギリスの『オックスフォード現代英英辞典』も、terrific は17世紀半ばに英語に入り、もともとは恐怖を起こさせるものを指していた、と説明しています。「恐ろしい」という意味の言葉がほめ言葉にもなったところが、日本語の「すごい」とよく似ています。

  • We had a terrific time at the beach.(海、最高だった)
  • The train went by at a terrific speed.(電車がものすごいスピードで通り過ぎた)

tremendous も仲間です。語源はラテン語の tremere(震える)。この辞書では、古い意味として「人を震えさせるような、恐ろしい」が残り、今の意味は「ものすごく大きい」「すばらしい」です。「震えるほど」が「ものすごい」になったのは、「ぞっとするほど」が「すごい」になったのと同じ流れです。

  • She made a tremendous effort to finish on time.(彼女は時間内に終えようと、ものすごく努力した)

「とても」の代わりに使う言葉でも、同じことが起きています。terribly(ひどく)は、I'm terribly sorry.(本当に申し訳ありません)のように「とても」の意味で使われます。日本語の「恐ろしく寒い」とよく似た使い方です。

05どんでん返し:「怖い」から「美しい」へ、ではなかった?

ここまで読むと、「すごい」は「恐ろしい」から始まって、だんだんいい意味に変わってきた、と思うかもしれません。

ところが、辞書に載っている例の年代を並べると、そう単純ではありません。『日本国語大辞典』で、③「ぞっとするほど美しい」の最初の例は『宇津保物語』(970〜999年ごろ)。①「ぞっとするほど恐ろしい」の最初の例の『源氏物語』(1001〜14年ごろ)よりも、むしろ少し古いのです。

平安時代の「すごし」は、最初から「恐ろしい」と「美しい」の両方にまたがっていた、と考えるほうが辞書の記述に合います。変わらずにあるのは、「ぞっとするほど心が動く」という感覚です。それが時代とともに「とにかく程度がすごい」という意味へ広がり、ほめ言葉としても使われるようになりました。

なお、辞書の「最初の例」は、残っている文献で確かめられたいちばん古い例です。人々が話し言葉で使い始めた時期とは限りません。

06まとめ

「すごい」はもともと、恐ろしさにも、さびしさにも、美しさにも使える「ぞっとする」の言葉でした。そこから「程度がとても大きい」の意味が育ち、江戸時代の1838年には「すごく美麗」という例が出てきます。

英語の terrific や tremendous も、「怖がらせる」「震える」から「すばらしい」へ。心が大きくゆさぶられたときの言葉が、ほめ言葉にもなっていく。同じことが、日本語と英語の両方で起きていたのです。次に「すごい!」と言うときは、ほんの少し、背筋のぞくっとする感じを思い出してみてください。

よくある質問

「すごい」の本来の意味は何ですか?

ぞっとするようなさまです。『日本国語大辞典』は、心に強い戦慄(せんりつ)や衝撃を感じさせる物事のさまと説明し、ぞっとするほど恐ろしい・さびしい・美しい、という意味を挙げています。

「すごい」の語源は何ですか?

平安時代の「すごし」です。夜の荒れた屋敷の気味悪さ(源氏物語)も、さびしいほととぎすの声も、身ぶるいするほど美しい笛の音(宇津保物語)も「すごし」と表しました。

「すごい」は昔は悪い意味だったのですか?

悪い意味だけではありませんでした。『日本国語大辞典』では「ぞっとするほど美しい」の最初の例(宇津保物語)が、「ぞっとするほど恐ろしい」の最初の例(源氏物語)より少し古いのです。最初から恐ろしさと美しさの両方にまたがっていたと考えるほうが、辞書の記述に合います。

「すごく楽しい」は新しい言い方ですか?

いいえ。「とても」の意味で使う「すごく」は、1838年の人情本『英対暖語』に「すごく美麗(うつくしい)」と出てきます(日本国語大辞典)。180年以上前から使われてきた言い方です。

今でも「すごい」に「恐ろしい」の意味は残っていますか?

残っています。『デジタル大辞泉』は「ぞっとするほど恐ろしい」の例に「すごい目でにらむ」を挙げています。「すごいあばら家」のように、マイナスの評価にも使います。

「恐ろしく寒い」の「恐ろしく」も同じですか?

同じ道をたどった言葉です。『日本国語大辞典』によると、「恐ろしい」も江戸時代以降、「程度がはなはだしい」の意味で使われるようになりました。「恐ろしく寒い」は怖がっているのではなく、ふつうでは考えられないくらい寒い、という意味です。

英語にも「すごい」と似た言葉はありますか?

terrific がよく似ています。語源はラテン語の terrēre(怖がらせる)で、もとは恐怖を起こさせるものを指しましたが、今は「すばらしい」の意味でよく使います。tremendous も、tremere(震える)から「ものすごい」になりました。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout a thousand years ago, "sugoshi," the older form of "sugoi," described things that made people shiver. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

About a thousand years ago, "sugoshi," the older form of "sugoi," described things that made people shiver. It could mean frightening, like a ruined house at night. It could also mean lonely, or so beautiful that it gave you goosebumps.

Later, the word came to mean "very great in degree." A love story from 1838 already uses "sugoku" to mean "very," so this use is not new at all. English has a word with a similar history. "Terrific" comes from a Latin verb meaning "to frighten."

Today it usually means "excellent," but one American dictionary still lists "causing great fear" as one of its meanings. "Tremendous," which comes from a Latin word for "tremble," changed in the same way.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

およそ1000年前、「すごい」の古い形である「すごし」は、人を身ぶるいさせるものを表していた。夜の荒れた家のように「恐ろしい」という意味にもなった。「さびしい」や、鳥肌が立つほど「美しい」という意味にもなった。

その後、この言葉は「程度がとても大きい」という意味を持つようになった。1838年の恋愛小説にはすでに「とても」の意味の「すごく」が出てくるので、この使い方はまったく新しいものではない。英語にも似た歴史を持つ言葉がある。「terrific」は「怖がらせる」という意味のラテン語の動詞から来ている。

今日ではたいてい「すばらしい」という意味だが、あるアメリカの辞書は今も「大きな恐怖を起こさせる」を意味の一つに載せている。「震える」という意味のラテン語から来た「tremendous」も、同じように変わった。

4択リーディングクイズ

Q1. Which of the following was NOT a meaning of "sugoshi" long ago?

Q2. What does the love story from 1838 show?

Q3. What can we infer about the word "terrific"?

重要単語

  • terrificB1
    形容詞すばらしい;ものすごい;(もとは)恐ろしいWe had a terrific time at the beach. terror(恐怖)・terrible(ひどい)と同じ語源。ラテン語 terrere「怖がらせる」から。今は「すばらしい」がふつう。
  • tremendousB2
    形容詞ものすごい、巨大な;すばらしいShe made a tremendous effort to finish on time. ラテン語 tremere「震える」から。古い意味は「人を震えさせるような、恐ろしい」。a tremendous amount of ~「ものすごい量の~」。
  • terriblyB1
    副詞ひどく;とてもI'm terribly sorry for being late. I'm terribly sorry.「本当にごめんなさい」のように very の意味で使う(とくにイギリス英語)。日本語の「恐ろしく寒い」の「恐ろしく」に近い。
  • shiverB1
    動詞(寒さ・恐怖で)震える、身ぶるいするThe ghost story made me shiver. 名詞でも使う。send a shiver down one's spine「背筋をぞっとさせる」は「すごし」の感覚そのもの。
  • frightenB1
    動詞怖がらせるLoud thunder frightens my dog. be frightened of ~「~を怖がる」。形容詞 frightening は「恐ろしい」。
  • eerieC1
    形容詞不気味な、ぞっとするようなThe empty school was eerie at night. 発音は「イアリー」。平安時代の「すごし」①の「気味が悪い」に近い語。
  • goosebumpsB2
    名詞鳥肌Her singing gave me goosebumps. goose bumps と2語でも書く。寒いとき・怖いときだけでなく、歌や演奏に感動したときにも使える。
「すごい」は平安時代、“ぞっとする”という意味。荒れた屋敷の夜の気味悪さにも、身ぶるいするほど美しい笛の音にも使った。英語の terrific も語源は「怖がらせる」。「ぞっとする」「怖がらせる」という意味の言葉が、ほめ言葉に変わる流れは、日英でよく似ている。

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出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「凄い」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  2. 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「恐ろしい」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  3. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「terrific」ahdictionary.com
  4. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「tremendous」ahdictionary.com
  5. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「terribly」ahdictionary.com
  6. Oxford Advanced Learner's Dictionary「terrific」(Oxford University Press)oxfordlearnersdictionaries.com
  7. Oxford Advanced Learner's Dictionary「terribly」(Oxford University Press)oxfordlearnersdictionaries.com

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