「存亡の危機」は本来の言い方ではなかった。こちらを使う人は83.0%、辞書が本来とする「存亡の機」は6.6%

読む前に予想してみよう!
文化庁の2016年度調査で、本来の言い方とされる「存亡の機」を使う人は1割に満たなかった
「存亡の機」を使う人は6.6%、「存亡の危機」は83.0%。年代別でも、「存亡の機」は全ての年代で1割未満だった。
- 対象
- 全国の16歳以上の男女
- 規模
- 2,015人(2016年度)
- 研究の種類
- 全国世論調査(個別面接)+国語辞典
- 確かさ
- ★★★★☆
「存続するか滅亡するかの重大な局面」を「存亡の危機」と言う人は83.0%。本来の言い方とされる「存亡の機」は6.6%で、どの年代でも1割に届かなかった。ただし辞書自身が「国家存亡の危機」という用例を載せている。
ひとことで言うと「存亡の危機」はよく聞くけど、本来の言い方は「存亡の機」なんだって。使う人は6.6%だけ!
「わが社は今、存亡の危機にある」
社長のあいさつやニュースで聞きそうな一言です。ところが辞書では、本来の言い方は「存亡の危機」ではなく「存亡の機」とされています。「危」の一文字がない形です。
文化庁の調査で「存亡の機」を使うと答えた人は、わずか6.6%。「存亡の危機」は83.0%でした。本来の言い方より、そうでない言い方のほうがずっと多いのです。小学館の『デジタル大辞泉』は、この結果を「逆転した結果」と書いています。
01「存亡の機」を使う人は、どの年代でも1割未満
年代別のグラフを見ると、「存亡の機」がいちばん多い30代でも8.0%。20代は4.9%でした。「存亡の危機」は70歳以上(75.5%)を除いて、どの年代も84〜87%ほどです。
同じ調査でたずねたほかの言い方では、本来の言い方とされる方を選んだ人が「足をすくわれる」で26.3%、「言葉を濁す」で74.3%いました。それに比べても、「存亡の機」の6.6%はとびぬけて低い数字です。
02「機」は「分かれ目のとき」
では、「機」とは何でしょう。
デジタル大辞泉は「機」の意味として、まず「物事の起こるきっかけ。また、物事をするのによいおり。機会。時機」を挙げています。「機を見る」「反撃の機を逸する」の「機」です。『日本国語大辞典』には、「物事の分かれめとなる要(かなめ)」という意味も載っています。
つまり「存亡の機」は、生き残るか滅びるかの分かれ目のとき。デジタル大辞泉は「引き続き存在するかここで滅びてしまうかという非常に重大な時」と説明しています。
一方の「危機」は、デジタル大辞泉で「悪い結果が予測される危険な時・状況」。「機」が「分かれ目」なのに対して、「危機」は「危ない時」に重心があります。

03「存亡の秋」とも書く
『日本国語大辞典』は見出しを「存亡の機[秋]」とし、「生き残るか滅亡するかの重大な時機、場合」と説明しています。中国の古い書物『戦国策』を挙げ、日本では1869年(明治2年)の字引(辞書)に載っているとしています。
「秋」と書いて「とき」と読む言い方では、「危急存亡の秋(とき)」が有名です。デジタル大辞泉によると、出どころは三国時代の諸葛亮(孔明)の「出師表(すいしのひょう)」。『故事成語を知る辞典』は、ここでの「秋」は非常に重要な時期を指す、と説明しています。
「機」も「秋」も、どちらも「大事なとき」。「存亡の危機」は、この「機」が、ふだんよく使う「危機」に置きかわった形です。ただし、いつ、どのようにして置きかわったのかを調べた研究は、今回見つけられませんでした。
04英語の crisis も、もとは「分かれ目」
英語で「生きるか死ぬかの大問題」と言うなら、a matter of life and death が使えます。オックスフォードの学習辞典は、a matter of life and death を「とても重要で深刻な状況」と説明しています。
辞書によると、crisis はギリシャ語の krisis(決定)から来た語で、もとは病気の転機(よくなるか悪くなるかの分かれ目)を表す医学用語でした。「決定的な時点」という一般的な意味になったのは17世紀初めからです。
- a crisis:危険や困難があり、問題を解決したり大事な決定をしたりしなければならない時
- a turning point:大きな変化が起きる時、転機
- For a small bakery, this new contract is a matter of life and death.(小さなパン屋にとって、この新しい契約は死活問題だ)
「危ない時」の crisis も、もとをたどれば「分かれ目」。日本語の「機」とよく似ています。
05どんでん返し:辞書自身が「存亡の危機」を使っている
ここまで読むと、「存亡の危機」はまちがいだと言いたくなります。でも話はそう単純ではありません。
デジタル大辞泉の「存亡」の項目を開くと、用例として「危急存亡の秋(とき)」と並んで、「国家存亡の危機」がそのまま載っています。「存亡の機」の補説では「本来の言い方ではない」と書きながら、「存亡」の用例では「存亡の危機」を使っているのです。
「存亡」は「存続するか消滅するか」という意味の言葉。それに、ふつうの言葉の「危機」がついた形と考えれば、意味は十分に通ります。文化庁も「本来の言い方とされる」という書き方で、「存亡の危機」を使ってはいけないとは言っていません。
また、この調査は「自分はどちらを使うか」を答えてもらう方式です。この質問には、くらべられる過去の調査結果がありません。そのため、使う人が増えたのか減ったのかも分かりません。
06まとめ
「存亡の機」の「機」は、「生き残るか滅びるかの分かれ目のとき」。そこに「危」が入った「存亡の危機」が、今では83.0%の人の言い方になっています。
ただ、辞書でさえ「国家存亡の危機」という用例を載せています。改まった文章では「存亡の機」、ふだんの会話では伝わりやすい「存亡の危機」。本来の形を知っておけば、場面に合わせて選べます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhen a company or a country might not survive, Japanese speakers often say it faces "sonbō no kiki."…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
A small shop is losing money and may have to close. Many Japanese people would say the shop faces "sonbō no kiki." "Sonbō" means "living on or dying out," and "kiki" means "crisis."
But dictionaries say the original phrase is "sonbō no ki." Here "ki" means "an important moment." In a national survey, 83.0 percent of people chose "sonbō no kiki." Only 6.6 percent chose "sonbō no ki."
68 words ・ CEFR A2
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小さな店がお金を失っていて、閉店しなければならないかもしれません。多くの日本人は、その店は「存亡の危機」にあると言うでしょう。「存亡」は「生き残るか、滅びるか」、「危機」は crisis という意味です。
でも辞書は、本来の言い方は「存亡の機」だとしています。この「機」は「大事な時」という意味です。全国調査では、83.0%の人が「存亡の危機」を選びました。「存亡の機」を選んだのは6.6%だけでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
本来の形「存亡の機」がほとんど使われていない、という話なので A。
Q2. What percent of people chose "sonbō no kiki"?
83.0 percent of people chose "sonbō no kiki" とあるので C。6.6%は「存亡の機」の数字。
Q3. In the passage, what does "dying out" mean?
die out は「絶える、滅びる」。「存亡」の「亡」にあたるので A。
When a company or a country might not survive, Japanese speakers often say it faces "sonbō no kiki." According to dictionaries, though, the original phrase is "sonbō no ki."
Here "ki" means the moment when things can go one way or the other. "Kiki" simply means a dangerous situation. In early 2017, the Agency for Cultural Affairs asked people across Japan which phrase they use.
Of the roughly 2,000 people who answered, 83.0 percent chose "sonbō no kiki." Only 6.6 percent chose the original form. The English word "crisis" started out with a meaning much like "ki." It first referred to the turning point of an illness.
107 words ・ CEFR B1
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会社や国が生き残れないかもしれないとき、日本語の話し手はよく「存亡の危機」に直面していると言う。しかし辞書によれば、本来の言い方は「存亡の機」である。
ここでの「機」は、物事がどちらにも転びうる時を意味する。「危機」は単に危険な状況を意味する。2017年の初めに、文化庁は全国の人々にどちらの言い方を使うかをたずねた。
回答した約2,000人のうち、83.0%が「存亡の危機」を選んだ。本来の形を選んだのは6.6%だけだった。英語の「crisis」は、もともと「機」によく似た意味の語だった。最初は病気の転機を指していたのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What does "ki" mean in the original phrase "sonbō no ki"?
Here "ki" means the moment when things can go one way or the other とあるので B。
Q2. Who carried out the survey mentioned in the passage?
the Agency for Cultural Affairs asked people across Japan which phrase they use とあるので C。
Q3. Why does the writer mention the English word "crisis"?
"crisis" started out with a meaning much like "ki." It first referred to the turning point of an illness とあるので B。
When a business is close to collapse, Japanese speakers tend to say it faces "sonbō no kiki," literally a crisis of survival or ruin. Dictionaries, however, treat "sonbō no ki" as the original form. In this phrase, "ki" refers to a decisive moment, the point at which survival and ruin part ways, whereas "kiki" means a dangerous situation in which a bad outcome is expected.
A related idiom, "kikyū sonbō no toki," uses the same idea. It goes back to a famous letter that the Chinese statesman Zhuge Liang wrote to his emperor in the third century. In a national survey conducted in early 2017, 83.0 percent of respondents said they use "sonbō no kiki," and only 6.6 percent chose "sonbō no ki."
The original form stayed below 10 percent in every age group. Calling the newer phrase a simple error would go too far, though. The same dictionary that calls it non-standard gives "kokka sonbō no kiki," a crisis that could end a nation, as an example under the entry for "sonbō." The English word "crisis" started out much closer to "ki." It first meant the turning point of a disease.
192 words ・ CEFR B2
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企業が倒産寸前のとき、日本語の話し手は「存亡の危機」に直面していると言いがちだ。文字どおりには、生き残るか滅びるかの危機という意味である。しかし辞書は「存亡の機」を本来の形として扱っている。この言い方の「機」は決定的な時、つまり生き残りと滅亡が分かれる時点を指す。
一方「危機」は、悪い結果が予測される危険な状況を意味する。関連する成句の「危急存亡の秋(とき)」も、同じ考え方を使っている。これは3世紀に中国の政治家・諸葛亮が皇帝にあてて書いた有名な文章にさかのぼる。
2017年の初めに行われた全国調査では、回答者の83.0%が「存亡の危機」を使うと答え、「存亡の機」を選んだのはわずか6.6%だった。本来の形は、どの年代でも10%未満にとどまった。とはいえ、新しい言い方を単なる誤りと呼ぶのは言いすぎだろう。それを本来の形ではないとする同じ辞書が、「存亡」の項目の用例として、国が滅びかねない危機を表す「国家存亡の危機」を載せているのだ。英語の「crisis」は、もともと「機」にずっと近い語だった。最初は病気の転機を意味していたのである。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
新しい言い方が主流になったが、単なる誤りとは言いきれない、という流れなので A。
Q2. What is the difference between "ki" and "kiki" in the passage?
"ki" refers to a decisive moment ... whereas "kiki" means a dangerous situation in which a bad outcome is expected とあるので B。
Q3. Why does the writer say calling the newer phrase a simple error "would go too far"?
本来の形ではないとする同じ辞書が「国家存亡の危機」を用例に載せている、とあるので C。
重要単語
- crisisB1名詞危機、重大な局面The company faced a serious crisis last year.
複数形は crises(クライシーズ)。語源はギリシャ語 krisis(決定)で、もとは病気の転機を表した。 - surviveB1動詞生き残る、存続するOnly a few shops survived the storm.
名詞は survival(生き残ること)。survive the war「戦争を生き延びる」のように他動詞でも使う。 - turning pointB2名詞転機、分かれ目Winning that game was a turning point for our team.
mark a turning point「転機となる」。「存亡の機」の「機」のイメージに近い。 - criticalB2形容詞重大な、決定的なThis is a critical moment for the town.
「批判的な」の意味もあるので文脈で見分ける。a critical moment「重大な時」。 - decisiveB2形容詞決定的なThe last minute of the game was decisive.
decide(決める)の形容詞。a decisive moment「決定的瞬間」。 - collapseB2名詞崩壊、倒産The bank was close to collapse.
動詞でも「崩れる、倒れる」。close to collapse「崩壊寸前で」。 - matter of life and deathB2名詞句死活問題For a small shop, rent is a matter of life and death.
a matter of life or death とも言う。とても重要で深刻な状況を表す。
公式・一次情報をチェック
- 「国語に関する世論調査」の結果(文化庁)bunka.go.jp
- crisis(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- turning point(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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「会社存亡の危機」の「存亡の危機」、実は本来の言い方ではないとされる。本来は「存亡の機」。文化庁の調査では「存亡の危機」83.0%、「存亡の機」6.6%。「存亡の機」を使う人は、どの年代でも1割未満だった。
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出典・参考文献(8件)タップで表示
- 文化庁 (2017) 平成28年度「国語に関する世論調査」の結果の概要(問28)bunka.go.jp
- デジタル大辞泉「存亡の機」・精選版 日本国語大辞典「存亡の機」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉「危急存亡の秋」・故事成語を知る辞典「危急存亡の秋」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉「機」・精選版 日本国語大辞典「機」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉「存亡」(用例「国家存亡の危機」)(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉「危機」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- Oxford Learner's Dictionaries「crisis」(定義と Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Oxford Learner's Dictionaries「life」(idiom: a matter of life and/or death)oxfordlearnersdictionaries.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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