「シャープペンシル」は和製英語。しかも家電メーカー「シャープ」の社名は、この文房具から生まれていた

読む前に予想してみよう!
家電メーカー「シャープ」の社名は、シャープペンシルとは関係がない
シャープの公式サイトによると、社名は創業者・早川徳次が売り出した「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」に由来する。
- 対象
- 辞書・百科事典・企業の公式資料・米国特許
- 規模
- 資料 9種
- 研究の種類
- 辞書の語義・語源と史料の照合
- 確かさ
- ★★★★☆
「シャープペンシル」は和製英語で、英語では mechanical pencil(米)や propelling pencil(英)。名前はアメリカの商品名「エバーシャープ」から。家電の「シャープ」の社名も、創業者が売り出したこの鉛筆が由来。
ひとことで言うとシャーペンは英語だと mechanical pencil。会社の「シャープ」の名前もシャーペンから来たんだって!
授業中、英語圏から来た留学生に「シャーペン貸して」と言うつもりで、Can I borrow your sharp pencil? と言ったとします。
でも「シャープペンシル」は、じつは和製英語です。デジタル大辞泉は「シャープペンシル」を、英語の sharp と pencil を日本で組み合わせた言葉としています。英語では、アメリカで mechanical pencil、イギリスで propelling pencil と言います。
しかも話はここで終わりません。テレビや家電でおなじみの会社「シャープ」の名前は、このシャープペンシルから来ているのです。
01英語では mechanical pencil
まず、英語での言い方を確かめましょう。
mechanical は「機械の、機械じかけの」、propel は「前に押し出す」という意味です。どちらも「しくみで芯を出す鉛筆」という名前のつけ方です。
ちなみに、鉛筆やシャーペンの「芯」は英語で lead(発音はレッド)。オックスフォードの辞典にも「紙に書くための、鉛筆の細くて黒い部分」という意味で載っています。
- Can I borrow your mechanical pencil?(シャーペン貸してくれる?)
- I'm out of lead.(芯が切れちゃった)
02名前のもとは「いつもとがっている」
では、「シャープ」はどこから来たのでしょう。
いくつもの百科事典が、アメリカのキーランという人が売り出した「エバーシャープ」(Eversharp)という繰り出し鉛筆を挙げています。『世界大百科事典』はこの名前を「つねにとがっている」、『ブリタニカ国際大百科事典』は「常に鋭い」と訳しています。
日本国語大辞典も、「シャープペンシル」の語源を英語の eversharp pencil としています。つまり「シャープペンシル」は、ever(いつも)が落ちて、sharp と pencil だけが残った言葉と考えられます。
そもそも英語の sharp は「先がとがった」という意味です。オックスフォードの辞典には Take a sheet of paper and a sharp pencil.(紙を1枚と、とがった鉛筆を用意して)という例文があります。英語で a sharp pencil と言えば、ふつうは「よく削った鉛筆」のことなのです。
日本には、1877年(明治10年)に繰り出し鉛筆が入ってきました。『世界大百科事典』によると、東京・浅草の飾り職人がまねして作り、はじめは「繰出鉛筆」と呼ばれていました。
03社名「シャープ」の由来
ここで登場するのが、のちの家電メーカー・シャープの創業者、早川徳次です。
シャープの公式サイトの年表によると、早川徳次は1912年に東京で金属加工の仕事を始めました。そして1915年、芯を繰り出すしくみを自分で発明し、「早川式繰出鉛筆」として売り出します。
同じく公式サイトの「商品ヒストリー」によると、はじめは文房具の問屋から評判がよくありませんでした。軸が金属なので冬は冷たいし、着物には合わない、というのです。ところが、貿易会社を通して欧米から大量の注文が入ると、人気に火がつきました。
改良して芯を細くした新商品の名前が、「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」(Ever-Ready Sharp Pencil)。これが「シャープペンシル」と呼ばれるようになり、社名の「シャープ」もこの鉛筆に由来すると、同社ははっきり書いています。
『世界大百科事典』も、この商品名が広まったあと、日本では「シャープペンシル」が繰り出し鉛筆全体を指す呼び名になったと説明しています。商品名がそのまま、ふつうの名詞になったわけです。

04細い芯が広めたシャーペン
いまのシャーペンが当たり前になったのは、芯の進化のおかげです。
百科事典『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると、もともとは鉛筆と同じ芯が使われていました。そこへ日本で、細くて強い「合成樹脂芯」が開発されます(開発の年は、ニッポニカでは1962年、『世界大百科事典』とブリタニカでは1960年)。これでシャーペンは実用品として広く定着しました。
『世界大百科事典』によると、1980年には100円の安いシャープペンシルも登場し、小学生にまで広がりました。いま一般的な芯の太さは0.3、0.5、0.7、0.9ミリの4種類だと、ニッポニカは書いています。
05どんでん返し:「エバーシャープ」の年が合わない
ここで、一つ気になる点があります。
日本の百科事典の多くは、キーランが「エバーシャープ」を売り出したのを19世紀の前半のこととしています(『世界大百科事典』とブリタニカは「最初といわれる」という書き方です)。
ところが、アメリカの特許の記録を見ると、チャールズ・R・キーラン(Charles R. Keeran)の名前で「Lead-pencil(鉛筆)」の特許が出願されたのは1913年、認められたのは1915年です。軸の中に芯を入れ、その芯を先から押し出して使う鉛筆の特許です。
事典の年と特許の年は、70年以上もずれています。今回調べた資料では、事典の年が何を根拠にしているのかは分かりませんでした。そのため、この記事ではエバーシャープの発売年は書きません。確かめられたのは、キーランが1910年代に、芯を押し出す鉛筆の特許をとっていたことです。もしエバーシャープも同じころの商品なら、アメリカの「エバーシャープ」と日本の「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」は、ほぼ同じ時期に生まれたことになります。
06まとめ
「シャープペンシル」は、アメリカの商品名「エバーシャープ」から生まれた和製英語です。英語で言うなら mechanical pencil(米)か propelling pencil(英)。そして早川徳次が1915年に売り出した繰り出し鉛筆の改良版「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」が、家電メーカー「シャープ」の社名にまでなりました。
筆箱の中のシャーペンを見るとき、「この名前、100年以上前の商品名なんだ」と思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTokuji Hayakawa started a metalworking business in Tokyo in 1912.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, students call a mechanical pencil a "shāpu penshiru." But this name was made in Japan. In the United States, people say "mechanical pencil." In Britain, they say "propelling pencil."
The Japanese name comes from an American pencil called the Eversharp. And there is one more surprise. The company Sharp, famous for TVs and other electronics, got its name from a pencil. Its founder began selling his own mechanical pencil in 1915.
73 words ・ CEFR A2
和訳を見る
日本では、生徒たちはメカニカル・ペンシルのことを「シャープペンシル」と呼びます。でも、この名前は日本で作られたものです。アメリカでは「mechanical pencil」と言います。イギリスでは「propelling pencil」と言います。
日本の名前は、エバーシャープというアメリカの鉛筆から来ています。そして、もう一つ驚きがあります。テレビなどの電気製品で有名な会社シャープは、ある鉛筆から名前をとりました。その創業者は、1915年に自分の繰り出し鉛筆を売り始めました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「シャープペンシル」という名前の由来と、英語での言い方の話なので B。
Q2. What do people in Britain call a mechanical pencil?
In Britain, they say "propelling pencil." とあるので C。
Q3. In the passage, what does "founder" mean?
Its founder began selling his own mechanical pencil の founder は、会社を始めた人(創業者)なので A。
Tokuji Hayakawa started a metalworking business in Tokyo in 1912. In 1915, he invented a new way to push the lead forward and began selling his own mechanical pencil. At first, Japanese stationery dealers did not like it. The metal body felt cold in winter, and some said it did not go well with a kimono.
Then large orders came in from Europe and the United States, and the pencil took off. An improved model with very thin lead was named the "Ever-Ready Sharp Pencil."
People soon called it just a "sharp pencil," and the company took its name, Sharp, from it. In English, though, "a sharp pencil" usually means a pencil with a fine point. Americans say "mechanical pencil," and British people say "propelling pencil."
126 words ・ CEFR B1
和訳を見る
早川徳次は1912年、東京で金属加工の仕事を始めた。1915年、彼は芯を前に押し出す新しいしくみを発明し、自分の繰り出し鉛筆を売り始めた。はじめ、日本の文房具問屋には評判がよくなかった。金属の軸は冬に冷たく感じられ、着物に合わないと言う人もいた。
その後、ヨーロッパやアメリカから大量の注文が入り、鉛筆は売れ始めた。とても細い芯を使った改良版は「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」と名づけられた。
人々はすぐにそれを単に「シャープペンシル」と呼ぶようになり、会社もそこから「シャープ」という名前をとった。しかし英語では、「a sharp pencil」はふつう先のとがった鉛筆を意味する。アメリカ人は「mechanical pencil」、イギリス人は「propelling pencil」と言う。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did Japanese stationery dealers dislike the pencil at first?
The metal body felt cold in winter, and some said it did not go well with a kimono とあるので B。
Q2. What was the improved model called?
An improved model with very thin lead was named the "Ever-Ready Sharp Pencil." とあるので D。
Q3. What can you guess from the last three sentences?
英語の a sharp pencil は先のとがった鉛筆の意味で、シャーペンは別の言い方をするとあるので、sharp pencil と言ってもシャーペンが出てくるとは限らない。A。
Ask an English speaker for a "sharp pencil" and you will probably get a pencil with a fine point. The Japanese word for a mechanical pencil was made in Japan. American English uses "mechanical pencil," and British English uses "propelling pencil." The Japanese term goes back to "Eversharp," the trademark of an American pencil sold by a man named Keeran.
Japan's side of the story starts with Tokuji Hayakawa. In 1915, he invented a device for feeding lead and sold the result as the Hayakawa-style pencil. Wholesalers were unimpressed at first, but orders from Europe and the US turned it into a hit.
An improved model with very thin lead was named the "Ever-Ready Sharp Pencil," and the company Hayakawa founded still carries the name Sharp. The dates on the American side are messier. Several Japanese encyclopedias place the Eversharp in the first half of the 1800s.
But a US patent for a lead pencil, filed by Charles R. Keeran in 1913, was granted in 1915. The patent never uses the name Eversharp, so it cannot settle the matter by itself. It does raise the possibility that the American and Japanese pencils came out at about the same time.
199 words ・ CEFR B2
和訳を見る
英語を話す人に「sharp pencil」を頼むと、たぶん先のとがった鉛筆が出てくる。メカニカル・ペンシルを指す日本の言葉は、日本で作られたものだ。アメリカ英語では「mechanical pencil」、イギリス英語では「propelling pencil」と言う。日本の言葉は、キーランという人が売り出したアメリカの鉛筆の商標「エバーシャープ」にさかのぼる。
日本側の話は早川徳次から始まる。1915年、彼は芯を送り出す装置を発明し、それを早川式繰出鉛筆として売り出した。問屋ははじめ乗り気ではなかったが、ヨーロッパやアメリカからの注文でヒット商品になった。
とても細い芯を使った改良版は「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」と名づけられ、早川が創業した会社は今もシャープという名前を持っている。アメリカ側の年は、もっと入り組んでいる。日本のいくつかの百科事典は、エバーシャープの登場を1800年代の前半としている。
しかし、チャールズ・R・キーランが1913年に出願した鉛筆の米国特許は、1915年に認められている。特許の中にはエバーシャープという名前は一度も出てこないので、これだけで問題に決着をつけることはできない。それでも、アメリカの鉛筆と日本の鉛筆がほぼ同じころに世に出た可能性はある。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, where does the Japanese term come from?
The Japanese term goes back to "Eversharp," the trademark of an American pencil とあるので C。
Q2. When was Keeran's US patent for a lead pencil granted?
filed by Charles R. Keeran in 1913, was granted in 1915 とあるので D。1913年は出願の年。
Q3. Why can't the patent settle the question of the Eversharp's date by itself?
The patent never uses the name Eversharp, so it cannot settle the matter by itself とあるので B。
重要単語
- mechanical pencilB1名詞(米)シャープペンシルCan I borrow your mechanical pencil?
mechanical は「機械の、機械じかけの」。イギリスでは propelling pencil。 - propelling pencilC1名詞(英)シャープペンシルShe always takes notes with a propelling pencil.
propel は「前に押し出す」。propeller(プロペラ)と同じなかま。 - leadB2名詞鉛筆の芯The lead keeps breaking when I press too hard.
発音は「レッド」。金属の「鉛」と同じ語。動詞の lead(リード、導く)とは発音が違う。 - trademarkC1名詞商標"Eversharp" was the trademark of an American pencil.
trade(商売)+mark(しるし)。商品名がふつうの名詞になる例は多い。 - patentC1名詞特許He applied for a patent in 1913.
apply for a patent「特許を出願する」。発明を一定期間守る権利。 - inventB1動詞発明するWho invented the mechanical pencil?
名詞は invention(発明)、inventor(発明者)。 - founderB2名詞創業者、創立者The founder of the company started out making pencils.
found(創立する)+-er。find の過去形 found とは別の動詞。
公式・一次情報をチェック
- 商品ヒストリー(シャープ株式会社)corporate.jp.sharp
- 年表(シャープ株式会社)corporate.jp.sharp
- mechanical pencil(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
このネタ、誰かに教えたくなった?
「シャープペンシル」は和製英語。英語ではアメリカで mechanical pencil、イギリスで propelling pencil。しかも家電メーカー「シャープ」の社名は、創業者が1915年に売り出した繰り出し鉛筆の改良版「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」から来ている(同社の公式サイトより)。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典・日本大百科全書(ニッポニカ)・改訂新版 世界大百科事典・ブリタニカ国際大百科事典・百科事典マイペディア「シャープペンシル」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- シャープ株式会社「商品ヒストリー」(1915年 早川式繰出鉛筆)corporate.jp.sharp
- シャープ株式会社「年表」corporate.jp.sharp
- Oxford Advanced Learner's Dictionary, "mechanical pencil" / "propelling pencil"(Oxford University Press)oxfordlearnersdictionaries.com
- Keeran, C. R. "Lead-pencil." US Patent 1,130,741(1913年出願・1915年登録)patents.google.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





