黒パン「プンパーニッケル」の語源は“おならの小鬼”。100円玉の金属ニッケルも同じ小鬼から

読む前に予想してみよう!
金属の「ニッケル」の名前は、ドイツ語で「小鬼・悪魔」を意味する語から来ている
銅が取れそうに見えて取れない鉱石を、昔のドイツの鉱夫が Kupfernickel(銅の悪魔)と呼んだ。そこから元素名 nickel が生まれた。
- 対象
- 英語辞書の語源欄・語源学者の論考・研究機関の元素解説
- 規模
- 17〜18世紀の用例と、ニッケル・コバルト・タングステンの命名
- 研究の種類
- 語源調査(辞書と論考の照合)
- 確かさ
- ★★★☆☆
黒パン pumpernickel は、ドイツ語の「おならをする」+「ニッケル(小鬼)」とされる。もとは人をののしる悪口。金属のニッケルも同じ「小鬼」から名づけられ、100円玉の重さの4分の1はニッケル。
ひとことで言うと黒パンの名前は「おならの小鬼」。100円玉に入っている金属ニッケルの名前も「小鬼」から来ているんだ!
もくじ
パン屋さんで見かける、ずっしり重い黒パン「プンパーニッケル(pumpernickel)」。ライ麦で作る、ドイツ生まれのパンです。
名前の響きはちょっとおしゃれ。でも、アメリカの辞書で語源をたどると、こう書いてあります。pumpern=おならをする、Nickel=小鬼。つまり「おならの小鬼」です。
しかも、この「小鬼」は、あなたの財布の中にもいます。100円玉の重さの4分の1を占める金属「ニッケル」も、同じドイツ語の Nickel から名づけられたのです。
01プンパーニッケルを分解すると「おなら+小鬼」
人の名前のニコラウスが、なぜ小鬼になるのか。オックスフォード大学出版局のブログで、語源学者リーバーマン(Liberman)は、ドイツの語源辞典の「Nikolaus という名前は、特にドイツ東部で、よく悪口になった」という記述を紹介しています。英語にも Old Nick という言い方があり、AHD では「悪魔」の意味です。
日本語で言えば、「おなら小僧」のような悪口が、いつのまにかパンの名前になった、というイメージです。
02最初はパンではなく「悪魔」や「人」のあだ名だった
リーバーマンの2013年の解説によると、pumpernickel という語の記録は17世紀の初めより前にはさかのぼれません。そして17世紀の最初の30年ほどのあいだに、すでに「悪魔」の意味で使われた例があります。パンの名前として文書に出てくるのは、それより少しあとです。
古い資料には、ほかにもこんな意味が残っています。
- いろいろな種類のパン
- 背が低くて太った男(や子ども)
- 子どもの歌に出てくる、いつも笑いものにされる主人公の名前
ウィーンでは、アーモンド入りのクリスマス菓子(レープクーヘン)までこの名前で呼ばれるそうです。リーバーマンは、この語が広まったのは三十年戦争(1618〜1648年)のころで、兵士たちの荒っぽい言葉づかいに乗って広まったと考えています。「まず悪魔、それから悪魔みたいなパン」という順番だった可能性がある、というのが彼の見立てです。
03金属ニッケルの名前は鉱夫の「銅の悪魔」から。100円玉にも入っている
では、金属のニッケルはどうでしょう。
アメリカのロスアラモス国立研究所の元素解説によると、15世紀のドイツの鉱夫たちは、ある鉱石に銅が入っていると思いこみ、Kupfernickel(クプファーニッケル)=「銅の悪魔」と呼びました。Dictionary.com の説明では、見た目は銅そっくりなのに、銅がまったく取れなかったからです。Kupfer は「銅」、Nickel は「悪魔・小鬼」。18世紀半ば、スウェーデンの化学者クロンステットがこの鉱石から新しい元素を取り出し、nickel と名づけました。
その「小鬼の金属」は、いま日本の硬貨に使われています。造幣局によると、100円玉と50円玉は、銅750・ニッケル250(1000のうち)。つまり4分の1がニッケルです。500円玉にも1000のうち125入っています。アメリカの5セント硬貨は、そのものずばり nickel と呼ばれます。研究所の解説では、1866年からニッケル25%・銅75%の5セント硬貨が標準になりました。
鉱山の小鬼は、ほかにもいます。
- cobalt(コバルト):ドイツ語の Kobold(コーボルト)=鉱山や家にすむ小鬼から(AHD)。銀を掘る鉱夫たちは、小鬼が銀を盗んで、かわりにこの鉱石を置いていったと信じていた。陶器や絵の具のコバルトブルーは、この金属をふくむ化合物の青
- wolfram(タングステン):元素記号の W は、ドイツ語名 Wolfram から(AHD)。その Wolfram は、Wolf(オオカミ)+ ram(すす)。この鉱物がスズの鉱石にまざっていると、スズがうまく取れない。そこで、オオカミがヒツジを食べるように、スズを食べてしまうと思われた(Dictionary.com も Wolf+rām「すす」とする)。英語名の tungsten はスウェーデン語で「重い石」(ロスアラモス国立研究所)

04英語には「おなら生まれ」の言葉がまだある
pumpernickel の仲間は、英語にもいくつかあります。どれも辞書の語源欄で確かめたものです。
- petard(ペタード):門や壁を壊すための小さな爆弾。フランス語の péter(おならをする)から(AHD・Dictionary.com)。シェイクスピアの『ハムレット』(1600年ごろ)のせりふ「Hoist with his own petar」から、be hoist with one's own petard=自分の仕掛けた爆弾で吹き飛ばされる、つまり「策士、策におぼれる」という熟語が生まれました
- feisty(ファイスティ):「元気いっぱいの、負けん気が強い」。アメリカ南部の feist(小さな雑種犬)から来た語で、その feist は、古い英語で「おならをする犬」を意味した呼び名を短くした語です(AHD)。キャンキャン吠える小型犬のイメージです
- partridge(ヤマウズラ):ギリシャ語 perdix から。AHD の巻末の付録(ヨーロッパの多くの言語に共通する、古い語のもとをまとめた一覧)では、perdix を「おならをする」という意味の古い語のもと perd- の仲間に入れ、驚いて急に飛び立つとき、鋭いブルブルという羽音を立てるからと説明しています
05おまけ:「たわごと」poppycock の正体は?
英語で「ばかげた話」を poppycock と言います。これはオランダ語から来たとみられる語で、後半の kak はうんちです。
ただし、前半の解釈は辞書で分かれます。
- AHD:poppekak=人形のうんち(pop=人形)。アメリカ植民地時代のオランダ語から入ったかもしれない
- Dictionary.com:pappekak(pap=赤ちゃんの離乳食のようなやわらかい食べ物)+ kak
どちらの辞書も「perhaps(たぶん)」つきです。すました顔で「Poppycock!」と言う人も、口にしているのは、たぶんかなり下品な言葉なのです。
06どんでん返し:「ナポレオンの馬」の話は作り話。でも本当の理由も推測
プンパーニッケルの由来として、よく語られる話があります。フランス人(ナポレオンの名前で語られることも多い)が、ドイツのこのパンを見て「こんなのは馬のニコルにやるパンだ(bon pour Nicol)」と言った、というものです。
でもこれは作り話とみられています。辞書サイト Vocabulary.com のコラムで言語学者のジマー(Zimmer)は、英語で最初に pumpernickel が出てくる1738年の本にすでにこの話が載っていて、ナポレオンが生まれる前だったことを指摘しています。リーバーマンも、フランス兵がパンに顔をしかめた話などは「空想的な説明」だとし、そもそもパンの名前から話が始まったわけではないことを、1954年の民俗学者ランケの調査が示したと書いています。
ただし、「おならの小鬼」がなぜパンの名前になったのかは、はっきり分かっていません。Dictionary.com は「おなかへの影響から、だろう」と推測の形で書き、AHD も語源全体に「probably(おそらく)」をつけています。Old Nick がドイツ語の Nickel から来たという考えも、リーバーマン自身が「私の仮説」とことわっています。
07まとめ
おしゃれな黒パンの名前は、ドイツの「おならの小鬼」。その小鬼 Nickel は、鉱夫をだました「銅の悪魔」として元素の名前になり、いまは100円玉の4分の1を占めています。
次に100円玉で黒パンを買うときは、小鬼で小鬼を買っていると思い出してください。ちょっとだけ、パンの味が変わるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the early 1600s, German speakers sometimes used "pumpernickel" to mean a devil.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Pumpernickel is a dark, heavy bread from Germany. The name sounds nice, but its story is rude. Two big dictionaries say it comes from two German words. "Pumpern" meant "to break wind," and "Nickel" was a goblin.
So the name meant something like "a goblin who breaks wind." At first, people used it as an insult. The metal nickel has the same goblin in its name. A Japanese 100-yen coin is one quarter nickel.
74 words ・ CEFR A2
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プンパーニッケルは、ドイツの黒くて重いパンです。名前はすてきに聞こえますが、その由来は下品です。2つの大きな辞書によると、この名前は2つのドイツ語から来ています。「pumpern」は「おならをする」という意味で、「Nickel」は小鬼でした。
だから名前は「おならをする小鬼」のような意味でした。最初、人々はこれを悪口として使っていました。金属のニッケルの名前にも、同じ小鬼が入っています。日本の100円玉は4分の1がニッケルです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
The name sounds nice, but its story is rude. とあり、パンの名前の下品な由来の話なので B。
Q2. How much of a Japanese 100-yen coin is nickel?
A Japanese 100-yen coin is one quarter nickel. とあるので C。
Q3. In the passage, what is an "insult"?
「おならをする小鬼」という名前を people used it as an insult とあるので、insult は人を傷つける失礼な言葉=悪口。B。
In the early 1600s, German speakers sometimes used "pumpernickel" to mean a devil. A little later, it also became the name of a dark rye bread. The first part comes from "pumpern," an old dialect word for breaking wind.
The second part, "Nickel," was a pet form of the name Nikolaus, and it came to mean a goblin. Nobody is sure why the bread got such a rude name. One dictionary guesses that it was hard on the stomach.
The same goblin turns up in the metal nickel. Miners in Germany found an ore that looked like copper but gave them none, so they called it "copper devil." Today a Japanese 100-yen coin is one quarter nickel.
117 words ・ CEFR B1
和訳を見る
1600年代の初め、ドイツ語を話す人たちは「pumpernickel」をときどき悪魔の意味で使っていた。少しあとには、黒いライ麦パンの名前にもなった。前半は、おならをすることを表す古い方言の「pumpern」から来ている。
後半の「Nickel」はニコラウスという名前の愛称で、小鬼を意味するようになった。なぜパンがこんな下品な名前になったのか、確かなことはだれにも分からない。ある辞書は、おなかにもたれたからだろうと推測している。
同じ小鬼は、金属のニッケルにも登場する。ドイツの鉱夫たちは、銅のように見えるのに銅がまったく取れない鉱石を見つけ、「銅の悪魔」と呼んだ。今日、日本の100円玉は4分の1がニッケルだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What did "pumpernickel" sometimes mean in the early 1600s?
In the early 1600s, German speakers sometimes used "pumpernickel" to mean a devil. とあるので C。
Q2. Why did miners call the ore "copper devil"?
an ore that looked like copper but gave them none, so they called it "copper devil" とあるので A。
Q3. What does the writer suggest about the reason the bread got its name?
Nobody is sure why... One dictionary guesses... とあり、理由は推測にすぎないと読めるので C。
A popular story says that a French visitor, often Napoleon in later versions, tasted the heavy rye bread of Westphalia and declared it fit only for his horse, Nicol. The story does not hold up. It already appears in an English book from 1738, before Napoleon was born, and a 1954 study showed that the word had not started as the name of a bread at all.
Old records use "pumpernickel" for a devil, a short fat man, and the hero of a children's song. Dictionaries split it into "pumpern," to break wind, and "Nickel," a goblin, though they add words like "probably."
Why the insult moved to the bread is still a guess. The goblin left its mark elsewhere, too. German miners named a copper-colored ore that yielded no copper "Kupfernickel," and the element nickel took its name from it. English has other words born from breaking wind. A "petard" was a bomb used to blow open gates, from the French "péter," and Shakespeare gave us "hoist with his own petard." "Feisty" goes back to a little dog named for the same habit.
184 words ・ CEFR B2
和訳を見る
よく知られた話では、フランス人の旅人(のちの版ではナポレオンになっていることが多い)がウェストファリアの重いライ麦パンを食べて、「これは私の馬のニコルにしか向かない」と言ったという。この話は成り立たない。1738年の英語の本にすでに載っていて、それはナポレオンが生まれる前のことだ。
また1954年の研究は、この語がそもそもパンの名前として始まったのではないことを示した。古い記録では、「pumpernickel」は悪魔、背が低く太った男、子どもの歌の主人公を指して使われている。
辞書はこの語を「おならをする」という意味の pumpern と、小鬼を意味する Nickel に分けるが、「おそらく」のような言葉を添えている。その悪口がなぜパンに移ったのかは、今も推測の域を出ない。小鬼はほかの場所にも跡を残した。ドイツの鉱夫たちは、銅色なのに銅が取れない鉱石を「Kupfernickel」と名づけ、元素のニッケルはそこから名前をとった。英語にはほかにも、おならから生まれた語がある。「petard」は門を吹き飛ばすのに使った爆弾で、フランス語の「péter」から来ており、シェイクスピアは「hoist with his own petard(自分の爆弾で吹き飛ぶ)」という表現を残した。「feisty」は、同じくせにちなんで名づけられた小さな犬にさかのぼる。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the writer reject the Napoleon story?
It already appears in an English book from 1738, before Napoleon was born とあるので B。
Q2. According to the passage, which of these was NOT an old meaning of "pumpernickel"?
古い記録の意味は a devil, a short fat man, and the hero of a children's song。銅色の鉱石は Kupfernickel の話なので D。
Q3. What can be inferred about the dictionaries' explanation of the word?
though they add words like "probably" とあり、Why the insult moved to the bread is still a guess. とも書かれているので、有力だが証明されていない扱い。A。
重要単語
- ryeB2名詞ライ麦Pumpernickel is a heavy bread made from rye.
rye bread「ライ麦パン」。ウイスキーの一種 rye whiskey にも使われる。 - goblinB2名詞小鬼、いたずら好きの妖精The miners blamed a goblin for the bad ore.
ファンタジーのゲームでおなじみ。ドイツの kobold(コバルトの語源)も同じような小鬼。 - insultB1名詞・動詞悪口、侮辱/侮辱するCalling someone a goblin was an insult.
名詞は前、動詞は後ろにアクセント(IN-sult / in-SULT)。 - oreC1名詞鉱石They dug the ore out of the mountain.
iron ore「鉄鉱石」。or(または)と同じ発音。 - feistyC1形容詞元気いっぱいの、負けん気の強いMy little sister is small but feisty.
小さいのに強気な人や動物によく使う。語源は「おならをする犬」の feist。 - poppycockC1名詞たわごと、ばかげた話He said the story was complete poppycock.
くだけた言い方。語源はオランダ語で、後半の kak は「うんち」。 - be hoist with one's own petardC1熟語自分の仕掛けたわなにはまるThe cheater was hoist with his own petard.
『ハムレット』のせりふから。petard は小さな爆弾で、フランス語の péter(おならをする)から。
公式・一次情報をチェック
- Nickel(Los Alamos National Laboratory 周期表)periodic.lanl.gov
- 現在製造している貨幣(造幣局)mint.go.jp
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黒パン「プンパーニッケル」は、ドイツ語の pumpern(おならをする)+ Nickel(小鬼)とされる。もとは人をののしる悪口。しかも金属のニッケルも同じ「小鬼」から名づけられた。100円玉の重さの4分の1はニッケル。財布の中に小鬼がいる。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「pumpernickel」「nickel」「cobalt」「wolfram」「W」「petard」「feist」「poppycock」「Old Nick」・付録 Indo-European Roots(perd-, pezd-)ahdictionary.com
- Dictionary.com「pumpernickel」「nickel」「petard」「poppycock」(Origin)dictionary.com
- Liberman (2013) Multifarious devils, part 3. "Pumpernickel," "Nickel," and "Old Nick", OUPblog(オックスフォード大学出版局)blog.oup.com
- Zimmer, The Devilish Origins of "Pumpernickel"(Word Routes), Vocabulary.comvocabulary.com
- Los Alamos National Laboratory, Periodic Table「Nickel」「Cobalt」「Tungsten」periodic.lanl.gov
- 造幣局「現在製造している貨幣」(品位)mint.go.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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