人がよく使う言葉は「ポジティブ寄り」だった。10言語・10万語を500万回採点したら

読む前に予想してみよう!
英語でよく使われる単語は、ネガティブな単語のほうが多い
よく使う英単語を採点した研究では、ニューヨーク・タイムズでよく使われる単語の約78%、ツイッターでよく使われる単語の約72%がポジティブ寄りだった。
- 対象
- 10言語の母語話者
- 規模
- 24種類の文章・約10万語・約500万件の採点
- 研究の種類
- 大規模テキスト分析+評価調査
- 確かさ
- ★★★★☆
10言語・24種類の文章でよく使われる単語を母語話者が採点すると、どの言語もポジティブな語が多数派。ただし日本語は対象外で、「人が幸せ」という意味でもない。
ひとことで言うとよく使う言葉を集めると、調べた10の言語どれも「いい言葉」のほうが多いんだって!
laughter(笑い)は8.50点、terrorist(テロリスト)は1.30点。
英単語1万語あまりに、1〜9点で「その言葉を見てどんな気分になるか」を採点した研究があります。ちなみに the は4.98点、it は5.02点で、ほぼ真ん中の「中立」。
この採点表を使って、人が実際によく使う単語を調べてみると——ポジティブな単語のほうが、ずっと多かったのです。しかも英語だけではありませんでした。
01英単語に「幸せ度」をつけてみた
2012年に発表された研究で、米バーモント大学のクローマンさんやドッズさんらは、性格のまったく違う4種類の英語の文章を集めました。
歌詞だけは少し低めでしたが、それでもどの文章でもポジティブ寄りの単語が多数派でした。
0210言語でも、やっぱり「ポジティブ寄り」
研究チームは2015年、規模を一気に広げて『PNAS』誌に発表します。
対象は英語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・ブラジルのポルトガル語・韓国語・中国語(簡体字)・ロシア語・インドネシア語・アラビア語の10言語。本・ニュース・ツイッター・ウェブ・映画やテレビの字幕・歌詞など24種類の文章から、言語ごとに約1万語、合計約10万語を選びました。
採点したのは各言語の母語話者。1語につき50人、合わせて約500万件の採点です。結果は、10言語すべてでポジティブ寄りの単語が多いというもの。研究チームはこれを「普遍的なポジティブ・バイアス」と呼びました。言語どうしで単語の平均点を比べると、スペイン語(採点したのはメキシコの人たち)がいちばん高く、中国語がいちばん低いという差もありました。
そして気になる日本語は、この10言語に入っていません。韓国語と中国語は入っていますが、日本語で同じ規模の採点がされたわけではないので、「日本語もきっとそう」とは言えないのです。
こうした「人間は良い言葉をよく使う」という考えは、1969年にブーシェさんとオズグッドさんが「ポリアンナ仮説」と名づけて提案していました。ドッズさんらの研究は、それをビッグデータで確かめた形です。

03どんでん返し:感情の名前は「ネガティブ」だらけ
ところが、別の角度から見ると話が逆になります。
2004年、シュラウフさんとサンチェスさんは、メキシコのスペイン語話者とアメリカの英語話者に、若い人と年配の人の両方を集めて「2分間で、思いつく感情の言葉をできるだけ書いて」と頼みました。すると、どちらの言語でも、どの年代でも、ネガティブな感情の言葉がいちばん多く、その割合も両方の言語で同じでした。著者らによると、ふだん使える感情の語彙は「ネガティブ約50%、ポジティブ約30%、中立約20%」という偏りを示すのが典型的です。
つまり、「よく使う単語」はポジティブ寄りなのに、「感情の名前」はネガティブのほうが種類が多い。英語でも angry, sad, scared, anxious, jealous, ashamed... と、イヤな気持ちの名前はすぐにたくさん出てきますよね。
英語・ドイツ語・スペイン語の感情語リストを分析した2012年の研究でも、ポジティブな語はよく使われる一方、ネガティブな語のほうが1語あたりの情報量が多い(文脈から予想しにくい)という結果が出ています。使われる回数が少ない分、出てきたときの「重み」が大きいとも言えます。悪いことのほうが心に刺さるネガティビティ・バイアスと、どこかでつながっているのかもしれません。
04「明るい単語が多い」=「人が幸せ」ではない
この研究には、注意すべき点もあります。
- 採点は単語だけを見て行う。文の中での使われ方(皮肉など)は反映されない
- どの文章を集めるかで結果が変わる。ツイッターと新聞と歌詞では割合がかなり違った
- ポジティブな単語が多くても、話し手が幸せとは限らない。研究チーム自身も、これは言語全体に刻まれた「人間の社会性」の痕跡であり、どんな文章もポジティブに傾くという意味ではない、と断っている
05まとめ
人がよく使う言葉は、少なくとも調べた10言語では「明るい側」に傾いていました。けれど感情の名前はネガティブのほうが豊富で、ネガティブな語は1語あたりの情報量が多い。
ことばは、気分を測るものさしというより、人と人をつなぐ道具なのかもしれません。今日あなたが使った言葉は、何点くらいだったでしょう?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHow do you feel when you see the word "laughter"?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Scientists asked people to give English words a score from 1 to 9. A sad word got a low score, and a happy word got a high score. "Laughter" got 8.5, and "terrorist" got 1.3.
Then the scientists looked at the words people use most often. More than half of them were happy words. Later, the team checked ten languages, and the result was the same. Japanese was not one of the ten languages.
74 words ・ CEFR A2
和訳を見る
科学者たちは、人々に英単語へ1から9の点数をつけてもらいました。悲しい単語は低い点、うれしい単語は高い点です。「laughter(笑い)」は8.5点、「terrorist(テロリスト)」は1.3点でした。
それから科学者たちは、人々がいちばんよく使う単語を調べました。その半分以上がうれしい単語でした。その後、チームは10の言語を調べ、結果は同じでした。日本語はその10の言語に入っていませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
単語に点数をつけ、よく使う単語にうれしい単語が多かったという内容なので C。
Q2. What score did "terrorist" get?
"terrorist" got 1.3 とあるので A。
Q3. In this passage, what does "score" mean?
give English words a score from 1 to 9 とあり、1〜9の点数のことなので B。
How do you feel when you see the word "laughter"? In a study at the University of Vermont, 50 people rated each of about 10,000 common English words on a scale from 1 to 9. "Laughter" came out on top and "terrorist" at the bottom, while "the" landed near the middle.
In all four sources the team checked, positive words were the majority. In the New York Times, about 78 percent of the common words were on the happy side. A larger study later covered ten languages, such as Spanish, Korean and Arabic, but not Japanese. It found the same tendency in every one of them, using about five million ratings.
111 words ・ CEFR B1
和訳を見る
「laughter(笑い)」という単語を見ると、どんな気分になるだろうか。バーモント大学の研究では、約1万語のよく使われる英単語それぞれを、50人が1から9の尺度で評価した。「laughter」がいちばん上、「terrorist(テロリスト)」がいちばん下になり、「the」は真ん中あたりだった。
チームが調べた4つの資料のすべてで、ポジティブな単語が多数派だった。ニューヨーク・タイムズでは、よく使われる単語の約78%がうれしい側にあった。その後のもっと大きな研究では、スペイン語、韓国語、アラビア語など10の言語を調べたが、日本語は含まれていなかった。その研究は、約500万件の評価を使って、どの言語でも同じ傾向を見いだした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
英語でも10言語でも、よく使う単語はポジティブが多数派だったという内容なので B。
Q2. About what percentage of common words in the New York Times were on the happy side?
In the New York Times, about 78 percent ... とあるので D。
Q3. What can we say about Japanese, based on the passage?
covered ten languages, such as Spanish, Korean and Arabic, but not Japanese とあるので C。
Laughter scores 8.50 and terrorist 1.30. These numbers come from a project in which people rated English words from 1, the saddest, to 9, the happiest. In 2015 Peter Dodds and colleagues at the University of Vermont extended it to ten languages.
They took about 10,000 of the most frequent words in each language from sources such as books, news, Twitter, film subtitles and song lyrics, and had each word rated 50 times by native speakers. In all ten languages, positive words outnumbered negative ones. The idea goes back to 1969, when two researchers named it the Pollyanna hypothesis.
Japanese was not among the languages tested, although Korean and Chinese were. The method has weak points. People judged each word alone, with no sentence around it, and the results shift with the choice of texts. Song lyrics, for example, had a smaller share of positive words than news.
A different study points the other way. When Mexican Spanish speakers and American English speakers listed emotion words for two minutes, negative words came out on top in both languages, in the same proportions. The authors note that such lists typically run about half negative and 30 percent positive.
197 words ・ CEFR B2
和訳を見る
laughter(笑い)は8.50点、terrorist(テロリスト)は1.30点。これらの数字は、人々が英単語を、いちばん悲しい1からいちばん幸せな9まで評価したプロジェクトから来ている。2015年、バーモント大学のピーター・ドッズらは、このプロジェクトを10言語に広げた。
彼らは本、ニュース、ツイッター、映画の字幕、歌詞などの資料から、各言語で最もよく使われる約1万語を取り出し、母語話者に各単語を50回ずつ評価してもらった。10言語すべてで、ポジティブな単語がネガティブな単語を上回った。この考えは1969年にさかのぼり、そのとき2人の研究者がそれをポリアンナ仮説と名づけた。
韓国語と中国語は含まれていたが、日本語は調べられた言語に入っていなかった。この方法には弱点がある。人々は周りに文のない状態で単語を1つずつ判断しており、結果はどの文章を集めるかによって変わる。たとえば歌詞は、ニュースよりもポジティブな単語の割合が低かった。
別の研究は逆の方向を示している。メキシコのスペイン語話者とアメリカの英語話者が2分間で感情を表す言葉を書き出すと、どちらの言語でもネガティブな言葉がいちばん多く、割合も同じだった。著者らによると、こうしたリストは典型的に約半分がネガティブで、ポジティブは30%だという。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
10言語でポジティブが多数派、ただし方法に弱点があり感情語はネガティブが多い、という流れなので B。
Q2. According to the passage, what is one weak point of the rating method?
People judged each word alone, with no sentence around it とあるので B。
Q3. What does the emotion-word study suggest?
感情語を書き出すとどちらの言語でもネガティブな言葉がいちばん多かった(典型的には約半分がネガティブ、ポジティブは30%)ことから、イヤな気持ちを表す語のほうが多いと読めるので A。
重要単語
- positiveA2形容詞前向きな、良い感じのMost common words were rated as positive.
反対は negative。positive thinking(前向きな考え方) - rateB1動詞評価する、点数をつけるEach word was rated by 50 people.
名詞 rating(評価)。rate A on a scale of 1 to 9 の形で使う - frequentB1形容詞頻繁な、よく起こる"The" is the most frequent word in English.
名詞 frequency(頻度)。high-frequency words は「高頻度語」 - outnumberB2動詞~より数が多いPositive words outnumbered negative ones.
out-(~を上回る)+number。outgrow, outlive と同じ作り - neutralB1形容詞中立の、どちらでもないWords like "the" are almost neutral.
スイスなどの「中立国」は a neutral country - native speakerB1名詞母語話者Native speakers rated the words in their own language.
native は「生まれつきの、その土地の」。native language=母語 - hypothesisC1名詞仮説The team tested the hypothesis in ten languages.
複数形は hypotheses。入試の科学系長文で頻出
公式・一次情報をチェック
- Hedonometer(バーモント大学 Computational Story Lab の「言葉の幸せ度」計測サイト)hedonometer.org
このネタ、誰かに教えたくなった?
英単語に「幸せ度」をつけたら、ニューヨーク・タイムズでよく使われる上位5,000語の約78%がポジティブ寄りだった。10言語・約500万回の採点でも、どの言語も「いい言葉」寄り。ただし日本語は調査に入っていない。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Dodds et al. (2015) Human language reveals a universal positivity bias, PNASdoi.org
- Kloumann et al. (2012) Positivity of the English Language, PLOS ONEdoi.org
- Boucher & Osgood (1969) The Pollyanna hypothesis, Journal of Verbal Learning and Verbal Behaviordoi.org
- Garcia, Garas & Schweitzer (2012) Positive words carry less information than negative words, EPJ Data Sciencedoi.org
- Schrauf & Sanchez (2004) The Preponderance of Negative Emotion Words in the Emotion Lexicon, Journal of Multilingual and Multicultural Developmentdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





