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英語で小文字の japan は「漆」。漆かぶれの成分 urushiol は日本語の「うるし」から

英語で小文字の japan は「漆」。漆かぶれの成分 urushiol は日本語の「うるし」から

読む前に予想してみよう!

英語の japan は、小文字で書くと「漆を塗る」という動詞としても使える

研究カード(どんな研究?)
対象
英語の辞書・17世紀の技法書・化学論文
規模
辞書の語源欄と1688年の本、1909年の論文
研究の種類
歴史言語学(辞書・文献の照合)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

小文字の japan は英語で「黒い漆塗り」、動詞は「漆を塗る」。china は「磁器」。漆かぶれの成分 urushiol は、日本語の「うるし」から名づけられた。

ひとことで言うと英語で小文字の japan は「うるし」、china は「せともの」なんだって!

もくじ
  1. 小文字の japan は「漆塗り」
  2. 17世紀ヨーロッパで「漆のまね」が大流行
  3. 漆かぶれの成分 urushiol は、日本語の「うるし」
  4. china は「磁器」。磁器のもう一つの英語 porcelain は「子ブタ」から
  5. どんでん返し:漆を表すもう一つの英語 lacquer は、“虫”から
  6. まとめ

英語の辞書で japan を引くと、国名の Japan とは別に、小文字の japan という単語が出てきます。

意味は「黒い漆(うるし)、黒くて硬いつやを出す塗料」。しかも動詞にもなります。a japanned box は「日本の箱」ではなく、「黒い漆を塗った箱」です。

国の名前の Japan が、そのまま「漆」の意味になったのです。そのうえ、漆にさわってかぶれる成分の英語名には、日本語の「うるし」がそのまま入っています。

01小文字の japan は「漆塗り」

アメリカの大辞典『American Heritage Dictionary(AHD)』の japan の項目は、こうなっています。

  • 名詞:耐久性のあるつやを出すのに使う、黒いエナメルまたは漆/それで飾った物
  • 動詞:黒いエナメルや漆で飾る/つやのある仕上げを塗る(活用は japanned, japanning)
  • 語源:国名の Japan から

Dictionary.com によると、この小文字の japan が英語の記録に出てくるのは1605〜15年ごろ。説明は「日本から来たのが始まりの、硬くて長持ちする黒いワニス(つや塗料)」です。

英語では、漆を塗ることを japan、漆塗りの技法を japanning と呼んでいたわけです。

0217世紀ヨーロッパで「漆のまね」が大流行

スミソニアン博物館の図書館の解説によると、17世紀のヨーロッパでは、アジアの磁器や漆器が大人気になりました。輸入品を買う人だけでなく、ヨーロッパでまねて作った品の市場まで生まれます。

その流れで1688年に出たのが、先ほどの『ジャパニングとニス塗りの論』。ヨーロッパの職人向けに漆塗りのやり方を教える本で、副題には「100を超える japan-work(ジャパン細工)の図案を、24枚の銅版で」とあります。スミソニアンの解説は、japanning という呼び名を、日本の重厚な黒漆が特にすぐれていたことから来たと説明しています。解説には、この本から引いた、こんな一文ものっています。

「No damp air, no mouldring worm or corroding time, can possibly deface it.」(湿った空気も、木を食う虫も、むしばむ時間も、これをそこなうことはできない)

それだけ、漆のつやと丈夫さはあこがれの的だったのです。

ただし、英語の japan は「本物の日本の漆」に限りません。Dictionary.com は動詞の意味に「硬くて黒いつやを出す材料なら何でも塗る」ことも挙げています。19世紀アメリカの機械工場の手引書(ジョシュア・ローズ『Modern Machine-Shop Practice』)には、「配管を外す前に印をつけるなら、乾きの速い black japan がとてもよい」という一文があります。工場で使う黒い塗料まで japanと呼ばれていたのです。

漆の木の樹液。かぶれを起こす成分「ウルシオール(urushiol)」の名前は、日本語の「うるし」から(American Heritage Dictionary)
漆の木の樹液。かぶれを起こす成分「ウルシオール(urushiol)」の名前は、日本語の「うるし」から(American Heritage Dictionary)

03漆かぶれの成分 urushiol は、日本語の「うるし」

漆にさわると、肌がかぶれることがあります。その原因になる成分の名前は urushiol(ウルシオール)。AHD の語源欄は「日本語の urushi(漆)+化学の名前の語尾 -ol」です。

AHD の説明では、ウルシオールはウルシ科の植物の樹液にふくまれる、油のような有毒の物質。例として、漆の木(lacquer tree)と並んで poison ivy(ポイズン・アイビー、ツタウルシの仲間) と poison sumac が挙がっています。poison ivy は直訳すると「毒のツタ」。その毒の成分の英語名に、日本語の「うるし」が入っているのです。

名前をつけたのも日本人です。『デジタル大辞泉』によると、ウルシオールと名づけたのは三山喜三郎で、その形(化学構造)を突き止めたのは真島利行です。日本化学会の『化学と工業』(2012年)の解説にも、三山喜三郎の先の研究を土台にして、真島がウルシオールの構造を調べ上げたことが書かれています。

真島利行が1909年にドイツの化学雑誌に出した論文の題名は「Über den Hauptbestandteil des Japanlacks(日本の漆の主成分について)」。ドイツ語の題名でも、漆は Japanlack(日本の漆) と書かれています。題名の続きには、もう Urushiol の文字があります。

04china は「磁器」。磁器のもう一つの英語 porcelain は「子ブタ」から

国の名前が小文字になって物の名前になったのは、japan だけではありません。

china(磁器、陶磁器の食器):AHD によると「もとは中国で作られた、上質の磁器」。語源はペルシャ語の chīnī(中国の)。Dictionary.com によると、小文字の china は chinaware(磁器の食器)を縮めた形で、1645〜55年ごろから記録があります。

では、磁器をもう一つの英語 porcelain で言うと? AHD の語源欄をたどると、ここで話が急に動物になります。

  • フランス語の porcelaine は「タカラガイ(貝)」と「磁器」の両方の意味
  • その元はイタリア語の porcellana。「メスの子ブタの」という意味の語(porcellano)から来ている
  • 貝がらの形が、ブタの背中に似ていたから

「磁器」と同じ語が、もとはタカラガイの名前で、その貝はブタの背中にたとえられていた。磁器の英語をたどると、子ブタに行き着くのです。

05どんでん返し:漆を表すもう一つの英語 lacquer は、“虫”から

ここまで読むと、「英語は漆に日本の名前をつけた」と思えます。でも、英語で漆を表す語は japan だけではありません。AHD は lacquer(ラッカー) の意味の一つに「漆の木(lacquer tree)の樹液を加工したものなど、つやのある樹脂の塗料」を挙げています。

その lacquer の語源を AHD でたどると、木の樹液ではなく虫に行き着きます。

  • lacquer:ポルトガル語を通って、lacca(ラックカイガラムシという虫が出す樹脂)から
  • lac:ラックカイガラムシの分泌物。shellac(シェラック) の原料
  • さらにさかのぼると、アラビア語の lakk、サンスクリット語の lākṣā(赤い染料、樹脂)

漆は木の樹液なのに、英語の lacquer は虫の出す樹脂から来ている。漆を表す英語は、片方は“日本”、片方は“虫”から生まれたのです。

ちなみに国名の Japan そのものは、AHD によると中国語での呼び名がマレー語(Japang)を通り、16世紀にポルトガル語(Japão)に入ったもの。英語の最初の記録は1577年の Giapan です。

06まとめ

小文字の japan は「黒い漆塗り」、china は「磁器」。ヨーロッパの人たちは、あこがれの品をその産地の名前で呼びました。そして逆に、日本語の「うるし」は urushiol として、世界の化学の言葉に入っています。

英語の辞書で国の名前を見かけたら、小文字の見出しがないかも探してみてください。そこに、昔の人のあこがれがかくれているかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the 1600s, people in Europe fell in love with Asian porcelain and lacquerwork. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the 1600s, people in Europe fell in love with Asian porcelain and lacquerwork. Workshops began to copy them, and in 1688 John Stalker and George Parker published a guide in Oxford to "japanning," a European way of copying Asian lacquerwork. The word "japan," with a small j, came to mean this kind of finish, and "to japan" something meant to coat it.

Later, the word was used for almost any hard, black, glossy coating, even paint used in machine shops. Japanese has given English another word in this area. "Urushiol," the chemical in lacquer that causes skin rashes, is named after the Japanese word "urushi."

106 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1600年代、ヨーロッパの人々はアジアの磁器や漆器のとりこになった。工房はそれをまねし始め、1688年にはジョン・ストーカーとジョージ・パーカーがオックスフォードで、アジアの漆器をまねるヨーロッパの技術「ジャパニング」の手引書を出版した。小文字の j で始まる「japan」という語は、この種の仕上げを意味するようになり、何かを「japan する」はそれを塗ることを意味した。

のちに、この語は硬くて黒く、つやのある塗りならほとんど何にでも使われるようになり、機械工場で使う塗料にまで使われた。日本語は、この分野で英語にもう一つの語を与えている。漆の中で皮膚のかぶれを起こす化学物質「urushiol(ウルシオール)」は、日本語の「うるし」にちなんで名づけられている。

4択リーディングクイズ

Q1. Which is the best title for the passage?

Q2. What did Stalker and Parker publish in 1688?

Q3. What can you infer about the word "japan" from the passage?

重要単語

  • lacquerC1
    名詞漆、ラッカー(つやを出す塗料)The box was covered in shiny black lacquer. 語源は lac(ラックカイガラムシの出す樹脂)。lacquerwork は「漆器、漆細工」。
  • japanC1
    動詞(黒い漆などを)塗るThe old tin box had been japanned. 小文字で書く。過去形は japanned(n を重ねる)。名詞では「黒い漆、つや塗料」。
  • chinaB1
    名詞磁器、陶磁器の食器Grandma only uses her best china for guests. 小文字で書く。数えられない名詞なので a china とは言わない。
  • porcelainB2
    名詞磁器This cup is made of thin white porcelain. 語源はイタリア語の porcellana(タカラガイ)。さらにさかのぼると「メスの子ブタの」。
  • rashB2
    名詞発疹、かぶれTouching poison ivy gave me a rash. get a rash / break out in a rash「かぶれる」。形容詞の rash は「軽はずみな」で別の語。
  • imitationB2
    名詞まねたもの、模造品European workshops made imitations of Asian lacquerwork. imitate(まねる)の名詞形。imitation leather「合成皮革」のようにも使う。
  • glossyB2
    形容詞つやつやした、光沢のあるShe painted the door a glossy black. gloss(つや)+-y。glossy magazine は「(光沢紙の)高級雑誌」。
英語で小文字の japan は「黒い漆塗り」。japanned box は「漆塗りの箱」。小文字の china は「磁器」。かぶれを起こす poison ivy の成分 urushiol も、日本語の「うるし」から。

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出典・参考文献(9件)タップで表示
  1. The American Heritage Dictionary of the English Language「japan」ahdictionary.com
  2. Dictionary.com「japan」(Origin)dictionary.com
  3. Smithsonian Libraries, A Treatise of Japanning and Varnishing(Stalker & Parker, 1688)library.si.edu
  4. The American Heritage Dictionary of the English Language「urushiol」ahdictionary.com
  5. コトバンク「ウルシオール」(デジタル大辞泉・日本国語大辞典・世界大百科事典ほか)kotobank.jp
  6. Majima (1909) Über den Hauptbestandteil des Japanlacks. (I. Mitteilung.) Über Urushiol und Urushioldimethyläther, Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft 42doi.org
  7. 久保孝史・江口太郎「眞島利行ウルシオール研究関連資料」『化学と工業』65巻7号(日本化学会, 2012)chemistry.or.jp
  8. 三山喜三郎 On Japanese Lacquer(東京帝国大学工科大学紀要 4巻3号, 1907)東京大学学術資産等アーカイブズda.dl.itc.u-tokyo.ac.jp
  9. Joshua Rose, Modern Machine-Shop Practice(Project Gutenberg)gutenberg.org

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