「イクラ」はロシア語で「魚の卵」。昭和の初めは「キャビア」として売られていた

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ロシア語の「イクラ(ikra)」は、サケの卵だけを指す言葉だ
ロシア語の ikra は「魚の卵」全般。キャビアは「黒いイクラ」、サケの卵は「赤いイクラ」、数の子は「ニシンのイクラ」と言う。
- 対象
- 国語辞典・露和辞典・百科事典
- 規模
- 1903年・1928年の用例など
- 研究の種類
- 文献調査(辞書)
- 確かさ
- ★★★★☆
「イクラ」はロシア語 ikra で、意味は「魚の卵」。ロシア語ではキャビアも数の子もイクラ。昭和の初め、日本の市場の「キャビア」の正体はイクラだった。
ひとことで言うとイクラはロシア語で「魚の卵」。キャビアもロシアではイクラなんだって!
もくじ
いくら丼、軍艦巻き、手巻きずし。赤く光る「イクラ」は、すし屋の定番です。
この「イクラ」、じつはロシア語です。もとの ikra(икра)の意味は、サケの卵ではなく、ただの「魚の卵」。だからロシア語では、キャビアも数の子も「イクラ」の仲間です。
しかも昭和の初め、日本の市場で「キャビア」として売られていたものの正体は、イクラでした。
01「イクラ」の語源はロシア語。意味は「魚の卵」
小学館の『デジタル大辞泉』は、イクラを〈ロシア〉ikra とし、《魚の卵の意》と書いています。『日本国語大辞典』も、ロシア語 ikra「魚の卵」の意味としています。
日本では、この言葉をもっとせまい意味で使います。サケやマスの卵を一粒ずつばらして塩水に漬けたものがイクラ。卵巣の膜に包まれたまま塩漬けにしたものは筋子です。
筋子のほうは、古くからある日本語です。『日本国語大辞典』は、室町時代の1465年の記録『親元日記』を「筋子」の例に挙げています。同じサケの卵でも、ばらせばロシア語、房のままなら日本語というわけです。
02ロシアでは、キャビアは「黒いイクラ」
小学館の『プログレッシブ ロシア語辞典』で икра を引くと、意味は「(水にすむ生き物の)卵、卵のかたまり」「魚卵、イクラ」。例として、こんな言い方が並んでいます。
- красная икра(クラースナヤ・イクラー、赤いイクラ)= 日本でいうイクラ
- чёрная икра(チョールナヤ・イクラー、黒いイクラ)= キャビア
- икра сельди(ニシンのイクラ)= 数の子
- икра минтая(スケトウダラのイクラ)= たらこや明太子の原料になる卵
つまりロシアの人にとって、高級なキャビアも、日本でお正月に食べる数の子も、みんな「イクラ」です。日本語の「イクラ」は、このうちの「赤いイクラ」だけを取り出して使っているのです。
同じ辞書によると、ナスなどの野菜を細かく刻んだ料理も икра と呼びます。また、別の見出しの икра はふくらはぎを表します(複数形は икры)。魚の卵とふくらはぎが同じつづりなのは、英語の calf が「子牛」と「ふくらはぎ」の両方を表すのと似ています。

03昭和の初め、「キャビア」の正体はイクラだった
では、イクラはいつから食べられるようになったのでしょう。
『日本国語大辞典』は、1904〜05年ごろ、日露戦争のときにロシア人がキャビアの代わりに食べたのが最初といわれると書いています。
当時の日本では、「キャビア」は「カビヤ」「カビア」と呼ばれていました。1903年に出た村井弦斎の『食道楽』(秋の巻の付録)には、カビヤはチョウザメの子の缶詰が上等だ、という説明があります(『日本国語大辞典』の「キャビア」の項に引かれた例による)。ここでのカビヤは、本物のチョウザメの卵です。
ところが、それから25年後の1928年の『日本家庭大百科事彙』には、こう書かれていました。
「現今市場に見るカビヤ(ロシア名産『イクラ』)は鮭卵である」(『日本国語大辞典』に引かれた例による)
『日本国語大辞典』も、昭和初期、日本の市場でキャビアとして出回っていたのはイクラであったと説明しています。「キャビア」の名前で売られていたのは、サケの卵だったのです。
04英語では salmon roe。caviar も「魚の卵」の名前
英語では、イクラは salmon roe(サケの魚卵)と言うのがふつうです。
オックスフォードの学習辞典によると、roe は、食べ物として使う魚の卵や精子のこと。メスの体内にある卵のかたまりが hard roe、オスの精子が soft roe(日本でいう白子)です。cod's roe はタラの卵です。
caviar は「ある種の魚、特にチョウザメの卵を塩漬けにした、特別で高価な食べ物」。チョウザメに限らない書き方になっているのは、ロシア語の икра と少し似ています。caviar はイタリア語またはフランス語から16世紀半ばに英語に入った語で、さらにさかのぼると中世のギリシャ語から来たらしい、と同じ辞書は説明しています。
- Salmon roe is often served on rice.(イクラはよくご飯にのせて出される)
- Salmon swim up the river to spawn.(サケは卵を産むために川をさかのぼる)
05どんでん返し:始まりの話は2通りある
イクラが日本に入ったきっかけは、辞書によって中身が少し違います。
- 『日本国語大辞典』:日露戦争のときのロシア人が、キャビアの代用品として食べたのが最初
- ブリタニカ国際大百科事典:日露戦争の捕虜たちが、キャビアの代用品としてつくったのが始まり
どちらも「といわれる」という書き方で、はっきりした記録が示されているわけではありません。「日露戦争のころ、キャビアの代用品として始まった」というところまでは両方が一致していますが、誰が、どこで、という細かい点は確かではないのです。
なお、ロシア語の икра は、サケの卵だけを指す言葉ではありません。魚の卵全般を指し、サケの卵だけを言うなら「赤い」をつけます。
06まとめ
「イクラ」はロシア語の ikra で、もとの意味はただの「魚の卵」。ロシア語ではキャビアは「黒いイクラ」、数の子は「ニシンのイクラ」です。日露戦争のころにキャビアの代わりとして食べられたのが始まりといわれ、昭和の初めには、市場の「キャビア」の正体がイクラでした。
英語では salmon roe。すしを英語で説明するときは、ikura と salmon roe をセットで使ってみてください。
よくある質問
イクラの語源は何ですか?
ロシア語の ikra(икра)です。意味はサケの卵ではなく、ただの「魚の卵」。デジタル大辞泉・日本国語大辞典とも、ロシア語で「魚の卵」の意味としています。日本では、サケやマスの卵を一粒ずつばらしたものを指して使っています。
ロシア語でキャビアは何と言いますか?
「黒いイクラ」(チョールナヤ・イクラー)です。プログレッシブ ロシア語辞典によると、日本でいうイクラは「赤いイクラ」、数の子は「ニシンのイクラ」。ロシア語では、魚の卵はみんな「イクラ」の仲間です。
イクラと筋子の違いは何ですか?
どちらもサケやマスの卵で、違うのは形です。卵を一粒ずつばらして塩水に漬けたものがイクラ、卵巣の膜に包まれたまま塩漬けにしたものが筋子です。筋子は古くからある日本語で、日本国語大辞典は1465年の『親元日記』を例に挙げています。
イクラはいつから日本で食べられているのですか?
日露戦争のころ(1904〜05年)からといわれます。日本国語大辞典は、ロシア人がキャビアの代わりに食べたのが最初といわれる、と書いています。ブリタニカ国際大百科事典は、捕虜たちがキャビアの代用品としてつくったのが始まりといわれる、としています。
昔、イクラがキャビアとして売られていたのは本当ですか?
はい。日本国語大辞典は、昭和初期に日本の市場でキャビア(当時は「カビア」)として出回っていたのはイクラであった、と説明しています。1928年の『日本家庭大百科事彙』にも「現今市場に見るカビヤ(ロシア名産『イクラ』)は鮭卵である」とあります。
イクラは英語で何と言いますか?
salmon roe(サケの魚卵)と言うのがふつうです。roe は食べ物として使う魚の卵や精子のこと。すし屋で外国の人に説明するなら This is ikura, salmon roe. のように、日本語の名前と英語を並べると伝わりやすくなります。
ロシア語の「イクラ」にはほかにどんな意味がありますか?
プログレッシブ ロシア語辞典によると、ナスなどの野菜を細かく刻んだ料理も икра と呼びます。また、別の見出しの икра は「ふくらはぎ」を表します。こちらは魚の卵とは同じつづりの別の語として扱われています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIkura, the shiny red eggs on top of sushi, has a Russian name.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, "ikura" means the red salmon eggs you eat on sushi. But the word comes from Russian. In Russian, "ikra" means fish eggs of any kind.
Caviar is "black ikra," and salmon eggs are "red ikra." About 100 years ago, markets in Japan sold "caviar." But it was not real caviar. It was salmon eggs! In English, ikura is called "salmon roe."
63 words ・ CEFR A2
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日本では、「イクラ」はすしで食べる赤いサケの卵のことです。でも、この言葉はロシア語から来ています。ロシア語で「ikra」は、どんな種類でも魚の卵を意味します。
キャビアは「黒いイクラ」、サケの卵は「赤いイクラ」です。約100年前、日本の市場では「キャビア」が売られていました。でも、それは本物のキャビアではありませんでした。サケの卵だったのです!英語では、イクラは「salmon roe」と呼ばれます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
イクラという語がロシア語から来たこと、ロシア語での意味、昔のキャビアの話なので B。
Q2. What is caviar called in Russian, according to the passage?
Caviar is "black ikra," とあるので D。
Q3. In the passage, what does "real" mean in "it was not real caviar"?
real は「本物の」。キャビアの名前で売られていたが本物ではなくサケの卵だった、という意味なので B。
Ikura, the shiny red eggs on top of sushi, has a Russian name. The Russian word "ikra" simply means fish eggs. Russians call caviar "black ikra" and salmon eggs "red ikra." Even herring eggs, a New Year food in Japan, are "herring ikra" in Russian. One Japanese dictionary says the food may have started around the Russo-Japanese War of 1904 to 1905, when Russians ate salmon eggs in place of caviar.
In 1928, a Japanese home encyclopedia noted that the "caviar" sold in markets was really salmon eggs. Japanese kept an older word, "sujiko," for eggs still held together in the egg sac. So the loose eggs have a Russian name, and the ones in the sac have a Japanese name.
121 words ・ CEFR B1
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すしの上にのったつやのある赤い卵、イクラにはロシア語の名前がついている。ロシア語の「ikra」は、単に魚の卵を意味する。ロシアの人々はキャビアを「黒いイクラ」、サケの卵を「赤いイクラ」と呼ぶ。日本で正月に食べるニシンの卵でさえ、ロシア語では「ニシンのイクラ」だ。ある日本の辞書によると、この食べ物は1904〜05年の日露戦争のころに始まったらしい。そのころロシア人がキャビアの代わりにサケの卵を食べたという。
1928年、日本の家庭用百科事典は、市場で売られている「キャビア」は実はサケの卵だと書いた。日本語は、卵の袋に入ったままの卵には、もっと古い「筋子」という言葉を残した。つまり、ばらばらの卵にはロシア語の名前が、袋に入った卵には日本語の名前がついているのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the Russian word "ikra" mean?
The Russian word "ikra" simply means fish eggs. とあるので C。
Q2. What did a Japanese home encyclopedia say in 1928?
a Japanese home encyclopedia noted that the "caviar" sold in markets was really salmon eggs とあるので A。
Q3. What can we learn from the last two sentences?
ばらした卵(イクラ)はロシア語、袋のままの卵(筋子)は日本語の名前だと述べているので B。
Order ikura at a sushi counter and you are using a Russian word. In Russian, "ikra" covers the eggs of fish and other water animals in general. A Russian-Japanese dictionary lists "red ikra" for salmon roe, "black ikra" for caviar and "herring ikra" for the eggs Japanese people know as kazunoko.
Japanese narrowed the word to salted salmon or trout eggs separated one by one. Eggs left in the membrane keep a native name, sujiko, which appears in a record from 1465. How the word arrived is less certain.
According to one major dictionary, it is said that Russians first ate it in place of caviar during the Russo-Japanese War of 1904 to 1905. An encyclopedia says prisoners of war made it as a substitute. Both versions point to the same war, but neither gives a clear record.
The meaning of "caviar" in Japan changed, too. A 1903 book on food described canned sturgeon eggs as the best "caviar," while a 1928 home encyclopedia observed that the "caviar" in Japanese markets was salmon roe. In English, the usual term is "salmon roe." In Russian, another word spelled "ikra" means the calf of the leg.
194 words ・ CEFR B2
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すしのカウンターでイクラを注文すれば、ロシア語を使っていることになる。ロシア語で「ikra」は、魚やほかの水生動物の卵全般を指す。ある露和辞典は、サケの卵を「赤いイクラ」、キャビアを「黒いイクラ」、日本人が数の子として知っている卵を「ニシンのイクラ」として載せている。
日本語はこの語の意味をせばめ、サケやマスの卵を一粒ずつばらして塩漬けにしたものだけを指すようにした。膜に包まれたままの卵には「筋子」という日本語の名前が残っており、この語は1465年の記録に出てくる。この語がどう伝わったかは、それほどはっきりしていない。
ある大きな辞書は、1904〜05年の日露戦争のころにロシア人がキャビアの代わりに食べたのが始まりといわれる、と書いている。ある百科事典は、捕虜たちが代用品としてつくったとしている。どちらの説も同じ戦争を指しているが、どちらもはっきりした記録は示していない。
日本では「キャビア」という言葉の中身も変わった。1903年の食べ物の本は、チョウザメの卵の缶詰を上等の「キャビア」として説明していたが、1928年の家庭用百科事典は、日本の市場の「キャビア」はサケの卵だと書いている。英語では、ふつう「salmon roe」と言う。ロシア語では、同じつづりの別の語「ikra」が足のふくらはぎを意味する。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
冒頭でイクラがロシア語であり、ロシア語の ikra は卵全般を指すと述べ、その伝わり方や意味の変化を説明しているので C。
Q2. How do the two sources differ about how ikura began?
According to one major dictionary, ... Russians first ate it ... An encyclopedia says prisoners of war made it とあるので B。
Q3. What can be inferred from the 1903 and 1928 sources?
1903年はチョウザメの卵を上等の「キャビア」としていたが、1928年には市場の「キャビア」がサケの卵だったので、中身が変わったと推測できる。A。
重要単語
- roeC1名詞魚卵、はらこSalmon roe is often served on rice.
hard roe はメスの卵、soft roe はオスの白子。cod's roe はタラの卵。発音は「ロウ」で row(列)と同じ。 - caviarB2名詞キャビア(チョウザメなどの卵の塩漬け)Caviar is one of the most expensive foods in the world.
英語の辞書では「ある種の魚、特にチョウザメの卵」。アクセントは前にあって「キャヴィアー」。 - substituteB2名詞代わりの物、代用品They ate salmon roe as a substitute for caviar.
a substitute for 〜「〜の代わり」。動詞では substitute A for B「B の代わりに A を使う」。 - spawnC1動詞(魚・カエルなどが)卵を産むSalmon swim up the river to spawn.
サケなどの「産卵」は spawning。 - calfB1名詞ふくらはぎ;子牛I hurt my calf while running.
複数形は calves。ロシア語の икра が「魚の卵」と「ふくらはぎ」を表すように、1つのつづりに2つの意味がある。 - borrowA2動詞借りる;(言葉を)取り入れるJapanese borrowed the word "ikura" from Russian.
borrow A from B「B から A を借りる」。言語学では外来語を loanword(借用語)と言う。 - membraneC1名詞膜Sujiko is salmon roe still inside its membrane.
細胞膜は cell membrane。発音は「メンブレイン」。
公式・一次情報をチェック
- caviar(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- roe(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- calf(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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いくら丼の「イクラ」はロシア語 ikra で、意味はただの「魚の卵」。ロシア語ではキャビアは「黒いイクラ」、数の子は「ニシンのイクラ」。昭和の初め、日本で「キャビア」として出回っていたのは、じつはイクラだった。
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※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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