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イグ・ノーベル賞の「イグ」は英語の ignoble(恥ずべき)。ノーベルとかけたダジャレだった

イグ・ノーベル賞の「イグ」は英語の ignoble(恥ずべき)。ノーベルとかけたダジャレだった

読む前に予想してみよう!

イグ・ノーベル賞は、ノーベル財団が主催する“お笑い部門”だ

研究カード(どんな研究?)
対象
イグ・ノーベル賞の公式記録・英語辞書
規模
1991〜2026年の受賞者一覧
研究の種類
公式記録と辞書の照合
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

イグ・ノーベル賞の「イグ」は、英語の ignoble(恥ずべき・卑しい)とノーベルをかけたダジャレ。ignoble は noble(高貴な)の反対語。イグ・ノーベル賞と本物のノーベル賞、両方をとった研究者もいる。

ひとことで言うと「イグ」は、「はずべき」という意味の英語 ignoble とノーベルをかけたダジャレだった!

もくじ
  1. 今年のノーベル化学賞は「鏡の中の分子」の謎
  2. イグ・ノーベル賞の「イグ」の意味は?
  3. ignoble の語源:「知られていない」から「卑しい」へ
  4. イグ・ノーベル賞とノーベル賞、両方とった人がいる
  5. 日本の研究者は20年連続で受賞
  6. どんでん返し:名前は「恥ずべき」でも、中身はまじめな論文
  7. まとめ

2026年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーは、今年のノーベル化学賞を東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう)さんと、フランスのパリ南大学(当時)名誉教授のアンリ・カガン(Henri B. Kagan)さんに贈ると発表しました。

ノーベル賞の季節になると、もうひとつの賞を思い出す人も多いはずです。毎年9月ごろに「日本人がまた受賞!」と話題になる、イグ・ノーベル賞。

では、この「イグ」って何でしょう? 答えは、英語の ignoble(イグノウブル)=「恥ずべき・卑しい」とのダジャレ。Ig Nobel を声に出すと ignoble に聞こえる。「恥ずべき」と「ノーベル」をかけた名前だったのです。

01今年のノーベル化学賞は「鏡の中の分子」の謎

まず本家のニュースを短く。

発表によると、受賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒反応の発見」です。

アミノ酸などの分子には、右手と左手のように、鏡に映すとそっくりなのに重ならない2つの形があります。ところが生き物の体は、そのうち片方しか使っていません。なぜ片方だけになれたのかは、化学者にとって長い謎でした。発表によると、カガンさんは1986年、片方の形をそれまでの予想以上に多く作れる方法を発見。続いて硤合さんが2003年、2つの形のうち片方だけができる反応を示しました。生き物以外でこれを成し遂げたのは、硤合さんが初めてだったといいます。

受賞理由のむずかしいことばを、ノーベル賞の公式解説をもとにかみくだくと、こうなります。

  • 不斉有機合成:鏡に映した2つの形のうち、片方を多く作る化学反応
  • 非線形効果:反応を助ける物質(触媒)では片方の形が少し多いだけなのに、できあがった物では片方の形がもっと多くなる現象。カガンさんが1986年に見つけた
  • 自己触媒反応:反応でできた分子が、自分と同じ分子を作る手助けをして、どんどん増えていく反応。硤合さんの反応では、多いほうの形が自分のコピーを作っていく

02イグ・ノーベル賞の「イグ」の意味は?

さて、本題です。

イグ・ノーベル賞を主催しているのは、科学ユーモア雑誌『Annals of Improbable Research(ありそうもない研究の年報)』。公式サイトでは、この賞がたたえるのは「人々をまず笑わせ、そして考えさせる」研究だと説明しています。

主催者のマーク・エイブラハムズさん自身も、2004年に公式サイトで「Ig Nobel という名前は、英語のダジャレから来ているといわれる」と書いています。書いたのは授賞式の当日。読者から「今日、辞書サイト Dictionary.com の『今日の単語』が ignoble でした。偶然じゃないですよね?」という知らせが届き、それを紹介した短い記事です。記事は「どの単語のダジャレか」をはっきりとは書かず、「そのダジャレは思いがけない所に顔を出す」として、ignoble の話を紹介しています。

ignoble は、英語の辞書ではこう説明されています。

  • American Heritage Dictionary:「性質・人柄・目的が気高くない。卑しい、恥ずべき」「社会的な地位が高くない」
  • Oxford Learner's:「よくない、正直でない。恥ずかしく思うべき」。かたい言い方(formal)で、反対語は noble
  • Cambridge Dictionary:「道徳的に悪く、恥ずかしい思いをさせる」

例文で見るとこんな感じです。

  • It was an ignoble way to win the game.(それは試合に勝つには恥ずかしいやり方だった)
  • He felt ashamed of his ignoble thoughts.(彼は自分の卑しい考えを恥ずかしく思った)

毎年世界中で話題になる賞の名前が、じつは「恥ずべき」という意味の英語とのダジャレ。ここが最大のポイントです。

03ignoble の語源:「知られていない」から「卑しい」へ

ignoble は、in-(〜でない)+ noble(高貴な)。Oxford Learner's によると、ラテン語の ignobilis から来た語で、もともとは「身分の低い生まれの人」を指していました。

一方の noble は、たどると「知る」に行き着きます。American Heritage Dictionary によると、noble のもとになったラテン語 nobilis(古い形は gnobilis)は、「知ることができる、知られている、有名な」という意味でした。英語の know(知る) と同じ根っこから来ています。

つまり、

  • noble:みんなに知られている → 名家の、高貴な
  • ignoble:知られていない → 身分の低い → 卑しい、恥ずべき

では、なぜ in-noble ではなく ig-noble なのでしょう。Oxford Learner's と American Heritage Dictionary の語源欄によると、nobilis には gnobilis という古い形がありました。そこに「〜でない」の i(n)- がついて i-gnobilis。つまり「イグ」の g は、「〜でない」の側ではなく、「知る」の側の音の名残なのです。

同じ根っこからは、ignore(無視する)や ignorant(知らない、無知な)も生まれています。こちらもラテン語で「〜でない」の i- と「知る」がくっついた語で、ig- の g はやはり「知る」の側の音です(American Heritage Dictionary による)。ignoble と ignorant は、同じ組み立てでできた、いとこのような単語なのです。

noble の仲間の単語も覚えておきましょう。

  • Helping a stranger in trouble is a noble thing to do.(困っている人を助けるのは立派な行いだ)
  • Long ago, only the nobility could live in this castle.(昔、この城に住めるのは貴族だけだった)
  • 化学では、noble は「ほかの物質と反応しにくい」という意味にもなります。noble gas は「貴ガス」です

ちなみに、名字の Nobel と形容詞の noble は、つづりも音もよく似ていますが、辞書では別の語です。American Heritage Dictionary では、Nobel はダイナマイトを発明したスウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベルの名字として載っていて、発音は後ろを強く読む「ノウベル」。noble は前を強く読む「ノウブル」です(Dictionary.com には、前を強く読む Nobel の発音も並べて載っています)。

04イグ・ノーベル賞とノーベル賞、両方とった人がいる

ここでもうひとつの「え!?」。

イグ・ノーベル賞の公式の受賞者一覧によると、2000年のイグ・ノーベル物理学賞は、オランダのナイメーヘン大学のアンドレ・ガイム(Andre Geim)さんと、イギリスのブリストル大学のマイケル・ベリーさんに贈られました。理由は「磁石を使ってカエルを宙に浮かせた」こと。

そして一覧には、「その10年後の2010年、ガイムはノーベル物理学賞を受賞した(別の研究で)」と書き添えられています。ノーベル財団の公式ページによると、ガイムさんの受賞理由は「2次元の物質グラフェンに関する画期的な実験」でした。グラフェンとは、炭素の原子が網の目のように並んだ、原子1個分の厚さしかないシートのことです。

2000年のイグ・ノーベル物理学賞は「磁石でカエルを浮かせた」研究。受賞者の一人は2010年にノーベル物理学賞も受けた
2000年のイグ・ノーベル物理学賞は「磁石でカエルを浮かせた」研究。受賞者の一人は2010年にノーベル物理学賞も受けた

05日本の研究者は20年連続で受賞

公式の受賞者一覧を1年ずつ数えると、日本の研究者が入った受賞は2007年から2026年まで毎年ありました。20年連続です。

一覧から、日本の研究者が選ばれたテーマをいくつか拾ってみます。

  • 2007年 化学賞:牛のふんから、バニラの香りの成分(バニリン)を取り出す方法
  • 2008年 認知科学賞:アメーバのような生き物「粘菌」が、迷路を解けることを発見(このうち3人は2010年にも、粘菌を使って鉄道網の最適なルートを探した研究で受賞)
  • 2013年 化学賞:タマネギを切ると涙が出るしくみが、それまで考えられていたより複雑だと発見
  • 2014年 物理学賞:床に落ちたバナナの皮を踏んだとき、どれくらい滑りやすいか(摩擦)を測定
  • 2016年 知覚賞:前かがみになって股の間からのぞくと、物の見え方が変わるかを調べた
  • 2025年 生物学賞:シマウマのようなしま模様を塗った牛は、ハエにかまれにくいかを調べた

2026年のイグ・ノーベル医学賞は、旭川医科大学の名誉教授だった故・海野徳二(うんの・とくじ)さん。共同研究者と1977年に日本耳鼻咽喉科学会の学会誌に発表した、鼻のかみ方を空気の流れから調べた論文が選ばれました。旭川医科大学の発表によると、論文の結論は「片方ずつかむのがよい」。左右の鼻の穴は通りやすさがちがうので、片方を指で押さえると、もう片方に空気をしっかり通せるのだそうです。イグ・ノーベル賞の公式サイトによると、授賞式では4人のノーベル賞受賞者が、その研究の内容を舞台で実演してみせました。

同じ年のイグ・ノーベル化学賞にも、受賞者一覧の国名に日本(JAPAN)が入ったチームが選ばれています。テーマは、子を胎内で育てるゴキブリの“ミルク”のたんぱく質。牛乳のたんぱく質の3倍のエネルギーを詰めこんでいる、という発見でした。

06どんでん返し:名前は「恥ずべき」でも、中身はまじめな論文

名前だけ聞くと、ふざけた研究を笑いものにする賞に思えます。でも、公式の受賞者一覧を見ると、多くの受賞研究には学術誌に載った論文が添えられています。

  • カエルを浮かせた研究:1997年、学術誌『European Journal of Physics』に掲載
  • 鼻のかみ方の研究:1977年、日本耳鼻咽喉科学会の学会誌に掲載
  • ゴキブリのミルクの研究:2016年、結晶学の学術誌『IUCrJ』に掲載

どれも、学術誌にきちんと発表された研究です。「恥ずべき研究」を選ぶ賞ではなく、最初は笑ってしまうけれど、読むと考えさせられる研究を選ぶ賞です。そして授賞式では、本物のノーベル賞受賞者が賞を手渡します。

主催者のエイブラハムズさんも、先ほどの2004年の記事で「このダジャレが表しているのは、“イグ・ノーベルらしさ”のいくつもあるまったくちがう面のうち、ひとつだけ」と書いています。名前は「恥ずべき」でも、それは賞の一面にすぎないというわけです。

07まとめ

イグ・ノーベル賞の「イグ」は、英語の ignoble(恥ずべき) とのダジャレでした。ignoble は noble(高貴な)の反対語で、どちらも know(知る)と同じ根っこから来ています。

名前は「恥ずべき」とのダジャレでも、選ばれるのは笑えて考えさせられる、まじめな研究。磁石でカエルを浮かせた研究者のひとりが、10年後に本物のノーベル賞をとることだってあるのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOn October 7, 2026, this year's Nobel Prize in Chemistry was announced. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

On October 7, 2026, this year's Nobel Prize in Chemistry was announced. It will go to Kenso Soai, a professor emeritus at the Tokyo University of Science, and Henri Kagan of the former Université Paris-Sud in France.

About a month earlier, a very different prize was handed out in Zurich. The Ig Nobel Prizes honor research that makes people laugh first and then think. Their name is a joke.

"Ig Nobel" is a play on "ignoble," an English word for something shameful or low. It is the opposite of "noble," which goes back to a Latin word for "known" or "famous." The prizes are run by a science humor magazine, not by the Nobel Foundation. Even so, the prizes are handed out by real Nobel winners.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2026年10月7日、今年のノーベル化学賞が発表された。賞は、東京理科大学名誉教授の硤合憲三さんと、フランスの旧パリ南大学のアンリ・カガンさんに贈られる。

その1か月ほど前、まったく別の賞がチューリヒで手渡された。イグ・ノーベル賞は、人々をまず笑わせ、それから考えさせる研究をたたえる賞だ。その名前はジョークである。

「Ig Nobel」は、恥ずべきことや卑しいことを表す英単語「ignoble」をもじったものだ。この語は「noble(高貴な)」の反対語で、noble は「知られた」「有名な」という意味のラテン語にさかのぼる。この賞を運営しているのはノーベル財団ではなく、科学ユーモア雑誌だ。それでも、賞を手渡すのは本物のノーベル賞受賞者たちだ。

4択リーディングクイズ

Q1. Who organizes the Ig Nobel Prizes, according to the passage?

Q2. What did the Latin word behind "noble" mean?

Q3. What does the writer suggest about the Ig Nobel Prizes?

重要単語

  • ignobleC1
    形容詞恥ずべき、卑しいIt was an ignoble way to win the game. in-(〜でない)+ noble。かたい語で、会話なら shameful などのほうがふつう。もとは「身分の低い生まれの」。
  • nobleB2
    形容詞高貴な、気高い、立派なHelping a stranger in trouble is a noble thing to do. ラテン語 nobilis(知られた、有名な)から。know と同じ根っこ。化学では noble gas「貴ガス」。
  • nobilityC1
    名詞貴族(階級);気高さLong ago, only the nobility could live in this castle. noble の名詞形。the nobility で「貴族階級」。
  • punB2
    名詞ダジャレ、語呂合わせThe name of the prize is a pun. make a pun「ダジャレを言う」。play on words もほぼ同じ意味。
  • levitateC1
    動詞宙に浮かせる、浮くThe scientists used a strong magnet to levitate a frog. float より改まった語。日常では float のほうがよく使われる。
  • laureateC1
    名詞(ノーベル賞などの)受賞者Four Nobel laureates came to the ceremony. Nobel laureate「ノーベル賞受賞者」はニュースでよく見る形。winner より改まった言い方。
  • ignorantB2
    形容詞知らない、無知なI was ignorant of the rules, so I made a mistake. be ignorant of ~「~を知らない」。ignore(無視する)、know と同じ根っこ。
イグ・ノーベル賞の「イグ」は、英語の ignoble(恥ずべき・卑しい)とノーベルをかけたダジャレ。ignoble は noble(高貴な)の反対語です。しかもカエルを磁石で浮かせてイグ・ノーベル賞をとった研究者のひとりは、10年後に本物のノーベル物理学賞も受けています。

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出典・参考文献(8件)タップで表示
  1. The Royal Swedish Academy of Sciences (2026) Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2026, NobelPrize.orgnobelprize.org
  2. The Royal Swedish Academy of Sciences (2026) Popular science background: They solved chemistry's asymmetric mystery, NobelPrize.orgnobelprize.org
  3. Improbable Research「About the Ig Nobel Prizes」improbable.com
  4. Improbable Research「Ig Nobel Prize Winners」(1991〜2026年の公式受賞者一覧)improbable.com
  5. Abrahams, M. (2004) The Word is Ig, Improbable Researchimprobable.com
  6. Abrahams (2026) El Pais interview about the Ig Nobel Prizes moving to Europe, Improbable Researchimprobable.com
  7. Andre Geim – Facts, Nobel Prize in Physics 2010, NobelPrize.orgnobelprize.org
  8. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「ignoble」ahdictionary.com

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