「我慢」の元の意味は“うぬぼれ”。「自慢」「傲慢」と同じ「慢」の仲間だった

読む前に予想してみよう!
「我慢」は、もともと仏教で「つらさに耐える心」をほめる言葉だった
『日本国語大辞典』によると、元の意味は「我をよりどころとして心が高慢であること。……うぬぼれ」。仏教で煩悩(心をなやます悪い心)の一つとされる「慢」の一種だった。
- 対象
- 国語辞典・百科事典の記述と用例
- 規模
- 国語辞典2種・百科事典2種・英語の辞書1種
- 研究の種類
- 辞書の記述と用例の比較
- 確かさ
- ★★★★☆
「我慢」はもとは仏教の言葉で、自分をえらいと思うおごりの心(うぬぼれ)のこと。それが「強情」の意味になり、やがて「耐え忍ぶ」の意味に変わった。辞書が挙げる「耐える」の意味のいちばん古い使用例は、1782年の本。
ひとことで言うと「我慢」はもともと「うぬぼれ」という悪い意味の言葉だった!
もくじ
「よく我慢したね」「あの子は我慢強い」。
「我慢」は、ほめるときによく使う言葉です。ところが、もともとの意味は正反対でした。
小学館の『日本国語大辞典』によると、「我慢」は仏教の言葉で、元の意味は「我(が)をよりどころとして心が高慢であること。……うぬぼれ」。「我」は自分のことです。つまり、自分をえらいと思っておごる、悪い心を指す言葉だったのです。
01「我慢」は「自慢」「傲慢」と同じ「慢」の仲間
「我慢」の「慢」という字を見てください。「自慢」「傲慢」「高慢」「慢心」の「慢」と同じ字です。
『デジタル大辞泉』は、「慢」の意味の一つを「他をみくびっておごる」とし、この意味で使う言葉として「慢心」「我慢」「高慢」「傲慢」「自慢」を並べています。今の感覚では「我慢」だけ仲間はずれに見えますが、辞書では「おごる」の「慢」を使った言葉として、ほかの4つと並んでいるのです。
仏教では、思い上がって人をあなどる心を「慢」と呼び、煩悩(人の心をなやませ、迷わせる心のはたらき)の一つに数えます。『日本国語大辞典』によると、「慢」には「七慢」「八慢」「九慢」などの分け方があり、「我慢」は七慢の一つです。
『日本大百科全書』の「慢」の項目も、仏教でいう「我慢」は、今の「自分をおさえる」という意味の「我慢」とは「むしろ逆の心理状態」だと書いています。自分を強く意識するところから起こる、おごりの心だというのです。
02道元の『正法眼蔵』の「まず我慢を除くべし」は「うぬぼれを捨てよ」
古い本に出てくる「我慢」は、どれも悪い意味です。
『日本国語大辞典』が最初に挙げる例は、平安時代の終わりの『今昔物語集』(1120年ごろか)。南北朝時代の『太平記』(14世紀後半)には、「我慢邪慢の大天狗共」という言い方が出てきます。おごり高ぶった大天狗たち、という意味です。
『デジタル大辞泉』は、日本の曹洞宗を開いた道元の主著『正法眼蔵』(1231〜53年)の「仏性」の巻から、次の一節を例に挙げています。この巻の中で、インドの僧・龍樹(りゅうじゅ)の言葉として出てくる一節です。
「汝仏性を見んとおもはば、先づすべからく我慢を除くべし」(『正法眼蔵』仏性。デジタル大辞泉が挙げる例による)
仏性(仏になれる性質)を見たいなら、まず「我慢」を取り除きなさい。今の言葉で読むと「がまんをやめなさい」に見えますが、意味は「うぬぼれを捨てなさい」です。

03「うぬぼれ」→「強情」→「耐える」
では、悪い意味の言葉が、どうしてほめ言葉になったのでしょう。『日本国語大辞典』の「語誌」は、次のような道すじを考えています。
- うぬぼれ:自分をえらいと思い、自分にこだわる心(元の意味)
- 強情:自分にこだわるところから、意地を張ること、弱さを見せまいとすること
- 耐え忍ぶ:意地を張り通す心の強さに目が向けられて、じっとこらえること
2の「強情」の例は、室町時代の1488年の記録から、夏目漱石の『道草』(1915年)まで続きます。『道草』の「我慢な彼」は、「がまん強い彼」ではなく「強情な彼」という意味です。
3の「耐え忍ぶ」の使用例として『日本国語大辞典』がいちばん古く挙げるのは、江戸時代の洒落本(遊郭を舞台にした小説)『深彌満於路志』(1782年)の「我慢のみの茶碗酒」。さらに大仏次郎の小説『帰郷』(1948年)では、こみ上げる笑いを「我慢するのに骨が折れた」と、今と同じ使い方をしています。
おごりの心が、意地っぱりを経て、こらえる力に変わった。辞書に載っている使用例でたどると、「うぬぼれ」の例(1120年ごろ)から「耐える」の例(1782年)まで、およそ660年の開きがあります。
04英語の patient(がまん強い)は「耐える」から
英語では「我慢する」を put up with、stand、be patient などで言います。I can't stand this heat.(この暑さはもう我慢できない)のように使います。
このうち patient は、『American Heritage Dictionary』によると、ラテン語の patī「耐える」から来ています。病院の「患者」も同じ patient です。昔の英語では、名詞の patient に「苦しみを受ける人」という意味もありました(今は使われない古い意味)。
一方、「我慢」の元の意味に近い英語は conceit(うぬぼれ)。同じ辞書は、自分の能力や価値を高く見積もりすぎること、と説明しています。
05どんでん返し:「我慢」には「入れ墨」の意味まであった
『日本国語大辞典』を読むと、「我慢」の意味は3つで終わりではありません。4つ目に「入れ墨」があります。任侠の世界の人が、入れ墨を彫るときの痛みに耐えて、負けん気の強さを示したところから来た意味だそうです。
それに、「うぬぼれ」→「強情」→「耐える」という道すじも、辞書は「転じたものと思われる」と書いています。用例の年代から考えた説明で、変化の順番を直接示す記録があるわけではありません。
元になったインドの言葉(サンスクリット語)も、資料によって書き方がちがいます。『日本大百科全書』は「アスミマーナ(asmimāna)」の訳語とし、『ブリタニカ国際大百科事典』は「ātmamāna」としています。
そして、古い意味が完全に消えたわけでもありません。『デジタル大辞泉』はいまも「我慢」の意味として、①耐え忍ぶこと、のほかに、②強情、③仏教の言葉としての「おごり」を載せています。
06まとめ
「我慢」は、もとは仏教で「自分をえらいと思うおごりの心」、つまりうぬぼれでした。「自慢」「傲慢」と同じ「慢」の仲間です。それが「強情」になり、江戸時代には「耐え忍ぶ」の意味でも使われるようになりました。
次に「よく我慢したね」と言われたら、少しだけ思い出してみてください。この言葉は、長い時間をかけて、悪い意味の言葉からほめ言葉に変わってきたのです。
よくある質問
「我慢」の本来の意味は何ですか?
うぬぼれです。『日本国語大辞典』によると、「我慢」はもとは仏教の言葉で、「我(が)をよりどころとして心が高慢であること」。自分をえらいと思っておごる、悪い心を指していました。仏教では煩悩の一つ「慢」の一種、七慢の一つとされます。
なぜ「我慢」は「耐える」という意味になったのですか?
『日本国語大辞典』の語誌は、「うぬぼれ」から「強情(意地を張ること)」へ、さらに意地を張り通す心の強さに目が向けられて「耐え忍ぶ」へ変わったと考えています。ただし辞書も「転じたものと思われる」と書いていて、言い切ってはいません。
「我慢」はいつから「耐える」の意味で使われていますか?
『日本国語大辞典』が挙げるいちばん古い例は、江戸時代の洒落本『深彌満於路志』(1782年)の「我慢のみの茶碗酒」です。「うぬぼれ」の意味の例は『今昔物語集』(1120年ごろか)なので、およそ660年の開きがあります。
「我慢」と「自慢」「傲慢」は関係がありますか?
はい、同じ「慢」の仲間です。『デジタル大辞泉』は「慢」の意味の一つを「他をみくびっておごる」とし、この意味の言葉として「慢心」「我慢」「高慢」「傲慢」「自慢」を並べています。
「まず我慢を除くべし」とはどういう意味ですか?
「まずうぬぼれを捨てなさい」という意味です。道元の『正法眼蔵』「仏性」の巻に、インドの僧・龍樹の言葉として出てきます。仏性(仏になれる性質)を見たいなら、まずおごりの心を取り除きなさい、ということです。
夏目漱石の「我慢な彼」とはどういう意味ですか?
「強情な彼」という意味です。『道草』(1915年)の「我慢な彼」は、がまん強いという意味ではありません。『日本国語大辞典』は、この例を「我意を張ること。強情」の意味の例として挙げています。
「我慢する」は英語で何と言いますか?
put up with、stand、be patient などで言います。I can't stand this heat.(この暑さはもう我慢できない)のように使います。patient はラテン語の patī「耐える」から来た語です(American Heritage Dictionary)。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPeople in Japan often praise children for "gaman," which means staying patient through something hard.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, "gaman" means being patient when things are hard. Telling a child "Yoku gaman shita ne" is praise. But a big Japanese dictionary says the word first meant something bad. It came from Buddhism, and it meant thinking you are better than other people.
Later it meant "stubborn." The dictionary's oldest example of the meaning "to put up with something hard" is in a book from 1782.
68 words ・ CEFR A2
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日本では、「我慢」はつらいときにがまん強くいることを意味します。子どもに「よく我慢したね」と言うのはほめ言葉です。でも、日本の大きな辞書によると、この言葉は最初、悪い意味でした。仏教から来た言葉で、自分は他の人よりすぐれていると思うことを意味していました。
その後「強情な」という意味になりました。辞書に載っている「つらいことを我慢する」という意味のいちばん古い例は、1782年の本の中にあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「我慢」の意味が悪い意味から今の意味へ変わった話なので B。
Q2. What did "gaman" first mean?
it meant thinking you are better than other people とあるので B。
Q3. In the passage, "stubborn" means ...
stubborn は「強情な、頑固な」、つまり考えを変えようとしないという意味なので A。
People in Japan often praise children for "gaman," which means staying patient through something hard. But the word began as almost its opposite. According to the Nihon Kokugo Daijiten, a large Japanese dictionary, "gaman" was first a Buddhist word for conceit, the proud belief that you are better than others. It uses the same character, 慢, as "jiman" (boasting) and "gōman" (arrogance).
The dictionary's examples show the meaning slowly changing. In a record from 1488, and even in a 1915 novel by Natsume Soseki, "gaman" means stubborn. The oldest example of the meaning "endure" comes from a short piece of humorous fiction published in 1782. The dictionary thinks people began to notice the strong will behind stubbornness, and that this led to the new meaning.
125 words ・ CEFR B1
和訳を見る
日本では、つらいことをがまん強く乗りこえる「我慢」を、子どもについてほめることがよくある。だが、この言葉はほとんど正反対の意味から始まった。大きな国語辞典『日本国語大辞典』によると、「我慢」は最初、うぬぼれ、つまり自分は他人よりすぐれているというおごった思いを表す仏教の言葉だった。「自慢」や「傲慢」と同じ「慢」という字を使っている。
辞書の用例を見ると、意味が少しずつ変わっていったのが分かる。1488年の記録でも、1915年の夏目漱石の小説でも、「我慢」は「強情」という意味だ。「耐える」という意味の最も古い例は、1782年に出た短いこっけいな読み物(洒落本)から来ている。辞書は、強情の裏にある強い意志に人々が目を向けるようになり、それが新しい意味につながったと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. Which word shares the character 慢 with "gaman"?
It uses the same character, 慢, as "jiman" (boasting) and "gōman" (arrogance). とあるので A。
Q2. What does "gaman" mean in Natsume Soseki's 1915 novel?
even in a 1915 novel by Natsume Soseki, "gaman" means stubborn とあるので C。
Q3. According to the dictionary, what probably led to the meaning "endure"?
The dictionary thinks people began to notice the strong will behind stubbornness, and that this led to the new meaning. とあるので B。
In Japan, being good at "gaman," or putting up with hardship, is usually treated as a virtue. The word's history runs the other way. The Nihon Kokugo Daijiten lists its first meaning as a Buddhist term for a mind that takes the self as its base and looks down on others.
We would call it conceit. It belongs with 自慢 (boasting) and 傲慢 (arrogance), which share the character 慢. Old texts use it this way. The Shobogenzo, Dogen's major work from the 1200s, includes a line telling anyone who wants to see Buddha nature to get rid of "gaman" first, meaning pride.
By 1488 the word could also mean stubborn, and Natsume Soseki still used it that way in 1915. The dictionary's oldest example of "endure" dates from 1782. The dictionary only says the change "seems" to have gone like this: a self-centered mind led to stubbornness, and the strong will behind stubbornness led to endurance.
The word also picked up a fourth meaning, "tattoo," because men of the underworld bore the pain of tattooing to show how tough they were. The English word "patient" has a more direct history. It comes from the Latin "pati," meaning "to endure."
199 words ・ CEFR B2
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日本では、つらいことを耐え忍ぶ「我慢」が上手なことは、ふつう美徳とされる。この言葉の歴史は逆の方向に進んできた。『日本国語大辞典』は最初の意味として、自分をよりどころにして他人を見下す心を表す仏教の言葉を挙げる。
私たちならうぬぼれと呼ぶものだ。「慢」の字を共有する「自慢」や「傲慢」の仲間である。古い文章はこの意味で使っている。1200年代の道元の主著『正法眼蔵』には、仏性を見たい者はまず「我慢」、つまりおごりを取り除け、と告げる一節がある。1488年までには「強情」という意味にもなり、夏目漱石は1915年になってもまだその意味で使っていた。
辞書に載る「耐える」の最も古い例は1782年のものだ。辞書は、この変化が次のように進んだ「と思われる」と言っているだけだ。自己中心的な心が強情につながり、強情の裏にある強い意志が忍耐につながった、というのである。この言葉は4つ目の意味として「入れ墨」まで持つようになった。
任侠の世界の人々が、入れ墨を彫る痛みに耐えて自分の強さを示したからだ。英語の「patient(がまん強い)」の歴史は、もっとまっすぐだ。ラテン語で「耐える」を意味する pati から来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
仏教のおごりの意味から、強情を経て忍耐の意味になった、という話なので B。
Q2. Why did "gaman" come to mean "tattoo"?
men of the underworld bore the pain of tattooing to show how tough they were とあるので C。
Q3. What does the passage suggest about the path from "stubborn" to "endure"?
the dictionary only says the change "seems" to have gone like this とあり、辞書の推定にすぎないと分かるので C。
重要単語
- patienceB1名詞忍耐、がまん強さIt takes patience to learn a new language.
形容詞 patient(がまん強い)。名詞の patient は「患者」。どちらもラテン語 pati(耐える)から。 - put up withB1句動詞〜をがまんするI can't put up with the noise anymore.
否定文で使うことが多い。stand(I can't stand it.)、tolerate も近い。入試頻出の句動詞。 - conceitC1名詞うぬぼれ、思い上がりHis conceit made it hard for him to listen to others.
形容詞 conceited(うぬぼれた)。仏教語の「我慢」の元の意味に近い。 - stubbornB2形容詞強情な、頑固なMy little brother is too stubborn to say sorry.
漱石の「我慢な彼」はこの意味。as stubborn as a mule(ラバのように頑固)という言い方もある。 - endureB2動詞耐える、持ちこたえるThey had to endure a long, cold winter.
名詞 endurance(忍耐力、持久力)。endurance race は「耐久レース」。 - virtueB2名詞美徳、長所Patience is a virtue.
Patience is a virtue.(忍耐は美徳)はことわざとしてよく使われる。反対語は vice(悪徳)。 - arroganceC1名詞傲慢、横柄さHer arrogance cost her many friends.
形容詞 arrogant(傲慢な)。「傲慢」の「慢」は「我慢」の「慢」と同じ字。
公式・一次情報をチェック
- patient(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- conceit(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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「我慢」の元の意味は“うぬぼれ”。『日本国語大辞典』によると、もとは仏教で「自分をえらいと思うおごりの心」を指し、「自慢」「傲慢」と同じ「慢」の仲間。同じ辞書が「耐え忍ぶ」の意味でいちばん古い使用例として挙げるのは、江戸時代1782年の本。
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- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉・日本大百科全書(ニッポニカ)・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「我慢」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典・日本大百科全書(ニッポニカ)「慢」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「正法眼蔵」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- 曹洞宗宗務庁 (2023) Dōgen's Shōbōgenzō, Vol. 1, "Buddha Nature (Busshō)"(英訳・注)sotozen.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「patient」「conceit」(HarperCollins, 2022)ahdictionary.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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