骨折で巻く「ギブス」、本来は「ギプス」。ドイツ語で「石膏」という意味の言葉だった

読む前に予想してみよう!
骨折で腕を固める「ギプス」は、英語の gips から来た言葉である
ドイツ語の Gips(石膏)から。英語では cast(plaster cast)と言い、gips とは言わない。
- 対象
- 国語辞典・百科事典・ドイツ語辞典・英語辞典の記述
- 規模
- 辞典7種+学会の解説ページ
- 研究の種類
- 辞書・文献調査
- 確かさ
- ★★★★☆
骨折したとき腕や足を固める「ギブス」は、本来は「ギプス」。ドイツ語の Gips(石膏)から来た言葉で、日本国語大辞典は「本来ギプスが正しい発音」と書いている。英語では cast。
ひとことで言うと骨折で巻く「ギブス」、もとの言葉は「ギプス」。ドイツ語で「石膏」のことなんだ!
もくじ
骨折したとき、腕や足を白く固めるあれ。何と呼んでいますか?
「ギブス」と答えた人は多いはずです。ところが国語辞典を引くと、載っている形は「ギプス」。ブではなくプです。
小学館の『日本国語大辞典』には、「本来『ギプス』が正しい発音であるが、誤って『ギブス』という場合も多い」とはっきり書かれています。もとはドイツ語の Gips(同じ辞典はオランダ語の gips も並べています)。意味は「石膏(せっこう)」です。
01「ギプス」のもとは、ドイツ語の Gips(石膏)
『デジタル大辞泉』では「ギプス(〈ドイツ〉Gips)」と、ドイツ語から来たことを示して載せています。意味は①石膏、焼き石膏、②「ギプス包帯」の略、の二つです。
骨折のときに使うのは②のほう。平凡社の『百科事典マイペディア』によると、焼いた石膏の粉は水を加えると固まります。この性質を使い、石膏の粉をまぶした布をお湯にひたしてからけがをした部分に巻くと、すぐに固まって骨を動かないように支えます。これがギプス包帯で、ふだん「ギプス」と呼んでいるものです。同じ事典によると、近年は石膏ではなく合成樹脂でできたものも使われています。
つまり「ギプス」は、もともと材料の名前でした。それが、材料で作った固定具の名前にもなったのです。
02ドイツ語でも「Gips」はそのまま“ギプス”の意味
ドイツ語の辞書『Duden(ドゥーデン)』を見ると、Gips の意味の一つに「Gipsverband(ギプス包帯)の短い言い方」があります。例文は den rechten Arm in Gips haben。「右腕を石膏に入れている」、つまり「右腕にギプスをしている」という意味です。
日本語の「ギプス」は、材料名がそのまま固定具の名前になった、このドイツ語の使い方とぴったり重なります。
ドイツ語の Gips の発音は、ドイツ語辞典 DWDS の表記で [gɪps]。「ギ」のあとは p の音で、b ではありません。日本語の「ギプス」は、この音をそのまま写した形になっています。
医学の説明でも「ギプス」です。日本整形外科学会が一般向けに病気を説明するページでは、手首の骨折の治療について「ギプスやギプスシーネで固定します」と書いています。ギプスシーネのシーネについては、ドイツ語にほぼ同じ音の Schiene という語があります。Duden によると、Schiene は医学では「けがをした手足を動かないように支える、木や金属などの当て具」を指します。ただ、日本語の「シーネ」がこの語から来たことは、今回調べた国語辞典では確かめられませんでした。

03もっとさかのぼると、ローマを通って古代へ
DWDS に載っているドイツ語の語源辞典(Pfeifer)によると、Gips はラテン語の gypsum がドイツ語に取り入れられた言葉で、11世紀の古いドイツ語にもう出てきます。ラテン語 gypsum はギリシャ語の gýpsos から来ていて、さらにその先はセム語(アラビア語などの仲間)にさかのぼるとされます。語源辞典は、石灰(Kalk)やセメント(Zement)と同じように、Gips も言葉と物がいっしょにローマ人から伝わったと書いています。
英語にも同じ根っこの言葉があります。石膏の原料になる鉱物を英語で gypsum(ジプサム)と言います。アメリカの辞書『American Heritage Dictionary』によると、gypsum もラテン語 gypsum、ギリシャ語 gupsos から来た語です。日本語の「ギプス」と英語の gypsum は、遠い親せきというわけです。
04英語では「ギプス」と言っても通じない
では英語でギプスは何と言うのでしょう。答えは cast です。
『American Heritage Dictionary』は cast の意味の一つに、「骨折や脱臼のとき、けがをした部分を動かないようにする固い包帯。ふつうはガーゼと plaster of Paris で作る」を挙げ、plaster cast とも言うと書いています。
- I broke my arm and had to wear a cast for six weeks.(腕を骨折して、6週間ギプスをしていた)
- She has her leg in a cast.(彼女は脚にギプスをしている)
- The doctor will take the cast off next week.(来週、医者がギプスを外してくれる)
plaster of Paris は直訳すると「パリの石膏」。同じ辞書は、この名前がフランスの都市パリにちなむとしています。日本語はドイツ語から、英語はパリの地名から。同じ石膏でも、名前の付け方がまったくちがいます。
05どんでん返し:「ギブス」は“まちがい”と言い切れるか
ここまで読むと、「ギブスはまちがいだったのか!」と言いたくなります。でも、辞書の書き方は一つではありません。
『日本国語大辞典』は「本来はギプス」「誤ってギブス」と、はっきり誤りとしています。一方、『デジタル大辞泉』は「なまって『ギブス』とも」と書いて、ギブスという言い方があることを認めています。
もとのドイツ語に合わせれば「ギプス」が本来の形です。ただ、「ギブス」と言った人を笑うほどの大きな誤りではありません。書くときは「ギプス」、話していて「ギブス」と聞こえても、意味は十分に通じる。辞書どうしの書き方の差は、そのくらいに受け取っておくのがよさそうです。
なぜ「プ」が「ブ」に変わったのかについては、今回調べた辞書には説明がありませんでした。
06まとめ
骨折のときの「ギブス」は、本来は「ギプス」。ドイツ語の Gips(石膏)から来た言葉で、材料の名前がそのまま固定具の名前になりました。その Gips をさかのぼると、ローマを通ってギリシャ、さらに古いセム語(アラビア語などの仲間)にまでつながります。
書くときは「ギプス」、英語なら cast。次にだれかが腕を固めていたら、How long do you have to wear that cast?(そのギプス、いつまでしてるの?)と声をかけてみてください。
よくある質問
ギプスとギブス、正しいのはどっちですか?
本来は「ギプス」です。『日本国語大辞典』は「本来『ギプス』が正しい発音であるが、誤って『ギブス』という場合も多い」と書いています。一方『デジタル大辞泉』は「なまって『ギブス』とも」と書き添えていて、辞書によって書き方に差があります。
ギブスと言うのはまちがいですか?
書くときは「ギプス」にするのがおすすめです。日本整形外科学会の説明も「ギプス」です。ただ『デジタル大辞泉』は「ギブス」という言い方も載せていて、話していて「ギブス」と言っても意味は十分に通じます。
ギプスの語源は何ですか?
ドイツ語の Gips(石膏)です。『日本国語大辞典』はオランダ語の gips も並べています。ドイツ語の Gips はラテン語の gypsum から来ていて、さらにギリシャ語の gýpsos にさかのぼります(ドイツ語の語源辞典)。
ギプスは何でできていますか?
もとは焼いた石膏です。『百科事典マイペディア』によると、石膏の粉をまぶした布をお湯にひたして巻くと、すぐに固まって骨を支えます。これがギプス包帯です。近年は合成樹脂でできたものも使われています。
ギプスは英語で何と言いますか?
cast と言います。『American Heritage Dictionary』は plaster cast とも言うと書いています。「脚にギプスをしている」は She has her leg in a cast. です。英語でギプスのことを gips とは言いません。
ギプスと英語のgypsumは関係がありますか?
はい、同じ根っこの言葉です。gypsum は石膏の原料になる鉱物のことで、『American Heritage Dictionary』によると、ラテン語の gypsum、ギリシャ語の gupsos から来ています。ドイツ語の Gips もラテン語 gypsum から来た語です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk people in Japan what doctors use to hold a broken bone in place, and many will answer "gibusu." But the…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When you break your arm in Japan, the doctor may put it in a "gibusu." That is what many people say. But dictionaries spell the word "gipusu," with a "p" sound. It comes from the German word "Gips."
In German, "Gips" means plaster, a white powder that gets hard when you add water. In English, people don't say "gips." They say "cast." For example, "I had my arm in a cast for six weeks."
74 words ・ CEFR A2
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日本で腕を骨折すると、医者は「ギブス」で固めるかもしれません。多くの人はそう言います。でも辞書では、この言葉は「プ」の音で「ギプス」と書かれています。これはドイツ語の Gips から来ています。
ドイツ語の Gips は、水を加えると固くなる白い粉、つまり石膏という意味です。英語では gips とは言いません。cast と言います。たとえば「I had my arm in a cast for six weeks.(6週間、腕にギプスをしていた)」のように使います。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「ギプス」がドイツ語の Gips から来たことと英語での言い方を説明しているので B。
Q2. What does the German word "Gips" mean?
In German, "Gips" means plaster とあるので D。
Q3. In the passage, what is a "cast"?
英語ではギプスを cast と言い、I had my arm in a cast の例があるので A。
Ask people in Japan what doctors use to hold a broken bone in place, and many will answer "gibusu." But the word in Japanese dictionaries is "gipusu." It comes from the German "Gips," which means plaster. When plaster powder is mixed with water, it becomes hard, so cloth covered with the powder can be wrapped around an injured arm or leg to keep it still.
In this way, the name of the material became the name of the cast. One major Japanese dictionary says that "gipusu" is the original pronunciation and calls "gibusu" a mistake. In German, people also use "Gips" for the cast itself. In English, the word is simply "cast," as in "She has her leg in a cast."
121 words ・ CEFR B1
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日本の人に、医者が折れた骨を固定するのに何を使うかたずねると、多くの人は「ギブス」と答えるだろう。ところが日本の辞書にある言葉は「ギプス」だ。これは「石膏」を意味するドイツ語の Gips から来ている。石膏の粉は水と混ぜると固くなるので、粉をまぶした布をけがをした腕や脚に巻くと、動かないように固定できる。
こうして、材料の名前が固定具の名前になった。日本の大きな辞書の一つは、「ギプス」が本来の発音だとし、「ギブス」を誤りとしている。ドイツ語でも、Gips は固定具そのものにも使われる。英語では、言葉は単に cast で、「She has her leg in a cast.(彼女は脚にギプスをしている)」のように使う。
4択リーディングクイズ
Q1. Why can plaster be used to keep a broken arm still?
When plaster powder is mixed with water, it becomes hard とあるので B。
Q2. What does one major Japanese dictionary say about "gibusu"?
says that "gipusu" is the original pronunciation and calls "gibusu" a mistake とあるので C。
Q3. What does the passage suggest about the Japanese word?
the name of the material became the name of the cast と、ドイツ語でも Gips を固定具そのものに使うと書かれているので D。
Many Japanese speakers call the hard white wrapping on a broken limb a "gibusu," but the headword in Japanese dictionaries is "gipusu." The word was borrowed from the German "Gips," which means plaster, and one major dictionary also lists the Dutch "gips." The material comes first. Plaster powder hardens once it is mixed with water, so cloth coated with it can be wrapped around an injury and left to set.
German speakers use "Gips" for the cast as well, as in a Duden example about having your right arm in plaster. The history goes back much further. According to a German etymological dictionary, the word came from Latin "gypsum" and Greek "gypsos," and most likely from a Semitic language before that. English kept the same root in "gypsum," the mineral, but calls the medical device a "cast" or "plaster cast."
Dictionaries do not agree on how strict to be. One calls "gibusu" an error outright, while another lists it as a variant form. So the safe choice in writing is "gipusu," though "gibusu" in conversation will be understood. None of the dictionaries checked for this article explain how the "p" turned into a "b."
194 words ・ CEFR B2
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多くの日本語話者は、折れた手足を包む固く白いものを「ギブス」と呼ぶが、日本の辞書の見出しは「ギプス」だ。この言葉は「石膏」を意味するドイツ語の Gips から借りたもので、ある大きな辞書はオランダ語の gips も並べている。まず材料の話だ。石膏の粉は水と混ぜると固まるので、粉をまぶした布をけがのまわりに巻いて固まるのを待つことができる。
ドイツ語を話す人も Gips を固定具の意味で使い、Duden には右腕を石膏に入れている、つまりギプスをしているという例がある。歴史はもっと昔にさかのぼる。ドイツ語の語源辞典によると、この語はラテン語の gypsum とギリシャ語の gypsos から来ており、その前はおそらくセム語から来た。英語は鉱物の gypsum に同じ根を残しているが、医療用の固定具は cast や plaster cast と呼ぶ。
辞書によって、どこまで厳しくするかは一致しない。ある辞書は「ギブス」をはっきり誤りとし、別の辞書は変化した形として載せている。だから書くときは「ギプス」が無難だが、会話での「ギブス」も通じるだろう。この記事のために調べた辞書のどれも、「プ」がどうして「ブ」に変わったのかは説明していない。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, where did the German word "Gips" come from?
the word came from Latin "gypsum" and Greek "gypsos" とあるので B。
Q2. How do Japanese dictionaries treat "gibusu"?
Dictionaries do not agree on how strict to be. One calls "gibusu" an error outright, while another lists it as a variant form. とあるので C。
Q3. What would the writer most likely advise a student writing a report?
the safe choice in writing is "gipusu" とあるので、書くときは「ギプス」をすすめると考えられる。A。
重要単語
- castB1名詞ギプスShe had her arm in a cast for six weeks.
have one's arm in a cast「腕にギプスをしている」、take the cast off「ギプスを外す」。動詞の cast は「投げる」「配役する」。 - plasterB2名詞石膏、しっくいThe walls of the old house are made of plaster.
plaster of Paris は「焼き石膏」。名前はパリにちなむ。 - fractureC1名詞骨折The X-ray showed a small fracture in his wrist.
医学的な言い方。日常では I broke my arm. のように break を使うことが多い。 - injuryB1名詞けがHe missed three games because of a knee injury.
動詞は injure(けがをさせる)。be injured で「けがをする」。 - pronunciationB1名詞発音The original pronunciation has a "p" sound, not a "b" sound.
動詞 pronounce とつづりがちがう(pronoun- の o が消える)点に注意。 - gypsumC1名詞石膏の原料になる鉱物、セッコウGypsum is used to make plaster.
発音は「ジプサム」。ドイツ語 Gips と同じく、ラテン語 gypsum、ギリシャ語 gypsos から。 - healB1動詞(傷などが)治るIt took two months for the bone to heal.
病気が「治る」は get better や recover が自然。heal はけがや傷に使うことが多い。
公式・一次情報をチェック
- gypsum(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
- plaster of Paris(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
- Schiene(Duden)duden.de
このネタ、誰かに教えたくなった?
骨折したときの「ギブス」、本来は「ギプス」。ドイツ語の Gips=石膏から来た言葉で、日本国語大辞典は「本来ギプスが正しい発音」と書く。ただ大辞泉は「なまってギブスとも」と認めている。英語では cast。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典(小学館)、改訂新版 世界大百科事典・百科事典マイペディア(平凡社)「ギプス」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- Gips(DWDS – Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache、語源欄:Pfeifer『Etymologisches Wörterbuch des Deutschen』)dwds.de
- Gips(Duden online)duden.de
- cast(The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.)ahdictionary.com
- 日本整形外科学会「橈骨遠位端骨折(コレス骨折・スミス骨折)」症状・病気をしらべるjoa.or.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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