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英語のマジか!?ホント

「ドル」の語源は“谷”。ネアンデルタール人の「タール」と同じ言葉だった

「ドル」の語源は“谷”。ネアンデルタール人の「タール」と同じ言葉だった

読む前に予想してみよう!

通貨の「ドル(dollar)」は、もとをたどると「谷」という意味の言葉をふくんでいる

研究カード(どんな研究?)
対象
16世紀以降の銀貨の名前と地名
規模
英語の辞書3種+古人類学の論文+ドイツの人名事典
研究の種類
辞書の語源記述と文献の照合
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

dollar のもとは、チェコの谷「ヨアヒムスタール」でつくった銀貨の名前。thal は「谷」で、ネアンデルタールの thal と同じ言葉。

ひとことで言うと「ドル」は、銀がとれた“谷”の名前から生まれた言葉だった!

もくじ
  1. dollar の語源は「ヨアヒムの谷」
  2. アメリカのドルは「スペインの銀貨」のあだ名から
  3. ネアンデルタールの「タール」も同じ「谷」
  4. 「ネアンデル」は「新しい人」をギリシャ語にした名字
  5. 英語にもいる「谷」の親戚:dale
  6. どんでん返し:$ マークの由来ははっきりしない
  7. おまけ:オーストラリアのドルは「ロイヤル」になるはずだった
  8. まとめ

1ドル、100ドル、ドル高、ドル安。毎日のようにニュースで聞く「ドル(dollar)」。

この言葉をたどっていくと、チェコの山の中の「谷」に行き着きます。

しかもその「谷」を表す部分は、ネアンデルタール人(Neanderthal)の「タール(thal)」と同じ言葉です。お金の名前と、大昔の人類の名前が、同じ「谷」でつながっているのです。

01dollar の語源は「ヨアヒムの谷」

オックスフォードの学習辞典(OALD)の語源欄によると、dollar の流れはこうです。

つまり dollar は、「ヨアヒムの谷の〔銀貨〕」という意味の長い名前から、後ろ半分だけが残った言葉です。「ヨアヒム」の部分は消えて、「谷の〔銀貨〕」だけが世界中に広まりました。

19世紀のオーストリアの人名事典(ヴルツバッハ編、1875年の巻)によると、この地の村で豊かな銀の鉱脈が見つかったのは1516年。土地を治めていたシュリック家の伯爵兄弟が、そこに銀山の町「ザンクト・ヨアヒムスタール(聖ヨアヒムの谷)」をつくりました。最初の銀貨は、貨幣の研究では1519年のものとされています。なお、次に紹介するパース・ミントの解説は「銀が見つかったのは1519年」と書いていて、資料によって年が少しずれます。

オーストラリアの政府系の造幣所パース・ミントの解説によると、シュリック伯がつくった大きな銀貨はその地方の基本のお金になり、周りの地域もこれを取り入れてまねをしました。ザクセンの Talar、イタリアの Tallero、オランダの Daalder、北欧の Daler と、ヨーロッパ中に「ターラーの親戚」が生まれました。

02アメリカのドルは「スペインの銀貨」のあだ名から

では、なぜアメリカの通貨が dollar なのでしょう。

OALD によると、dollar という名前はのちに、スペインがアメリカ大陸の植民地で使っていた銀貨にも使われるようになりました。この銀貨はイギリス領の北アメリカでも広く出回っていて、独立戦争のころにはおなじみのお金でした。そこで18世紀の終わりに、アメリカの通貨の名前として採用されたのです。

AHD も dollar の意味の一つに「ターラーに似た昔の銀貨。たとえば piece of eight(8レアル銀貨)」を挙げています。海賊の物語に出てくる「8レアル銀貨」も、英語では dollar と呼ばれた仲間だったわけです。

03ネアンデルタールの「タール」も同じ「谷」

ここで Neanderthal を見てみましょう。

AHD によると、Neanderthal はドイツのデュッセルドルフの近くにある谷の名前で、1856年にこの谷で人骨が見つかったことから人類の名前になりました。つまり Neanderthal=「ネアンデルの谷」。dollar のもとの Joachimsthaler の thal と同じ、「谷」を表すドイツ語です(いまのドイツ語のつづりは Tal)。

では、「ネアンデル」とは誰か。2002年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に出た、この谷の発掘をまとめた論文によると、谷はもともと「Gesteins」や「Hundsklipp」と呼ばれていました。それが1850年ごろまでに「ネアンデルの谷」と呼ばれるようになります。名前のもとは、このあたりをよく訪れた教師で詩人、讃美歌の作者でもあったヨアヒム・ネアンデル(1650〜1680年)です。

dollar の谷も、ネアンデルタールの谷も、名前に「ヨアヒム」が入っています。ただし、ヨアヒムスタールのヨアヒムはキリスト教の聖人・聖ヨアヒム、ネアンデルタールのほうは讃美歌の作者ヨアヒム・ネアンデルで、別人です。偶然ですが、2つの「ヨアヒム」の谷が、お金と人類の名前になったのです。

ネアンデルタール(Neanderthal)は「ネアンデルの谷」。1850年ごろ、讃美歌の作者ヨアヒム・ネアンデルにちなんでこう呼ばれるようになった(Schmitz ほか, 2002)
ネアンデルタール(Neanderthal)は「ネアンデルの谷」。1850年ごろ、讃美歌の作者ヨアヒム・ネアンデルにちなんでこう呼ばれるようになった(Schmitz ほか, 2002)

04「ネアンデル」は「新しい人」をギリシャ語にした名字

ヨアヒム・ネアンデルの名字にも、もう一つ仕掛けがあります。

ドイツの人名事典『Allgemeine Deutsche Biographie』(1886年)によると、ネアンデルの先祖は宗教改革のころまでさかのぼって牧師が続いていて、高祖父(ひいひいおじいさん)の名字は Neumann(ノイマン) でした。それを祖父がギリシャ語の名字に変えたとされています。

ドイツ語の Neumann は neu(新しい)+ Mann(人、男)。ギリシャ語の neo-(新しい)と andr-(男、人)を組み合わせると Neander になります(AHD の neo-・andro- の項)。中身は同じ「新しい人」で、言語だけ取りかえたわけです。1999年の『Neue Deutsche Biographie』も、この人を「Neander(Neuander, Neiander, Neumann)」と、別のつづりや元の名字といっしょに載せています。ただしこちらは高祖父をすでに「Joachim Neander(Nigemann, Neumann)」と書いていて、いつギリシャ語の名字に変えたのかは、資料によって食い違います。もとのドイツ語の名字が Neumann だった点は、2つの事典で同じです。

ということは、Neanderthal を全部訳すと「新しい人の谷」。そこで見つかったのが、私たちとは別の、古いタイプの人類だったのです。

05英語にもいる「谷」の親戚:dale

ドイツ語の Tal(谷)は、英語にも親戚がいます。dale(デイル) です。

OALD は dale を「谷、特にイングランド北部の谷」と説明し、古英語の dæl から来た語で、ドイツ語の Tal、オランダ語の dal、古ノルド語の dalr と親戚だとしています。OALD の例に出てくるイングランド北部の地名 the Yorkshire Dales(ヨークシャー・デールズ)の Dales がこれです。

dale は、up hill and down dale(丘を越え谷を越え、あちこちを)という言い回しにも残っています(OALD の dale の項)。dollar と dale は、いまはまったく別の単語に見えますが、根っこは同じ「谷」なのです。

06どんでん返し:$ マークの由来ははっきりしない

ドルといえば $ のマーク。これはどこから来たのでしょう。

アメリカで紙幣を印刷している財務省印刷局(BEP)は、「由来についてはいろいろな説明がある」としたうえで、いちばん広く受け入れられている説を紹介しています。メキシコやスペインのペソ(pesos)を表す「Ps」という略号が、手書きでくり返されるうちに S が P の上に重ねて書かれるようになり、$ に近い形になったという説です。古い手書きの文書を調べてたどりついた説で、この記号はアメリカが1785年にドルを採用する前から広く使われていたそうです。

ただし、パース・ミントの解説は、スペインの銀貨に描かれた「ヘラクレスの柱」と、そこに巻きつく帯の模様が $ の由来だと「言われている(reputedly)」と紹介しています。BEP も「最も広く受け入れられている説」という書き方で、決定版とは言っていません。毎日見る記号なのに、由来は一つに決まっていないのです。

ネアンデルについても、伝説には注意が必要です。『Allgemeine Deutsche Biographie』によると、「ネアンデルが職を失って一夏この谷のほら穴で暮らし、そこで讃美歌を書いた」という話は言い伝え(Sage)で、実際に職を離れていたのは数日だったとされます。谷を散歩したことが自然をたたえる歌のきっかけになった、というところまでは本当かもしれない、と書かれています。

しかもその谷は、もう昔の姿ではありません。PNAS の論文によると、1850年代の半ばから建築用の石灰岩の切り出しが進み(1854年には採石の会社もつくられました)、南側の岩壁と北側の岩壁の大部分、そこにあったほら穴まで、文字どおり削り取られてしまいました。1856年の人骨は、その工事の途中で見つかったものです。

07おまけ:オーストラリアのドルは「ロイヤル」になるはずだった

最後に、ドルの名前をめぐる騒動を一つ。

オーストラリアの国立の博物館、オーストラリア民主主義博物館(MoAD)のブログによると、オーストラリアは1960年代にお金を10進法(100セントで1ドルのように、10や100で区切る数え方)に切りかえることになり、新しい通貨の名前を国民から募りました。集まった案は1,000以上。Kwid、Digger、Kanga、Roo、Oz などが人気でした。

ところが1963年6月5日、財務大臣ハロルド・ホルトが発表した名前は Royal(ロイヤル)。イギリス王室とのつながりを示す、品のある名前だという理由でした。これに国民が猛反発。新聞の投書欄は「侮辱的」「ばかげている」といった言葉であふれ、3か月にわたる騒ぎになりました。

政府は Austral(オーストラル)も考え直しましたが、ホルトは「オーストラリアなまりだと、14 Australs(14オーストラル)は 40 nostrils(40個の鼻の穴)に聞こえる」と言ったと伝えられています。結局9月に、名前は Dollar に決まりました。新しいお金に切りかわったのは1966年2月14日です。

08まとめ

dollar は、チェコの「ヨアヒムの谷」でつくった銀貨の名前の、「谷の〔銀貨〕」の部分が残った言葉でした。ネアンデルタールの thal も同じ「谷」で、英語の dale はその親戚です。

1ドル札を見たら、ポケットの中に小さな「谷」が入っていると思ってみてください。そしてネアンデルタール人の名前は、訳せば「新しい人の谷」。古い人類の名前に「新しい」が入っているのも、言葉の歴史のいたずらです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerNext time you hold a dollar bill, think of a valley. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Next time you hold a dollar bill, think of a valley. In 1516, miners found a rich vein of silver in what is now the Czech Republic, and the town of Joachimsthal grew up around the mines. Its name means "Joachim's valley," and the large coins made from its silver were called Joachimsthalers. People soon shortened this to "thaler," and other parts of Europe copied both the coin and the name. In Low German it became "daler," and in English "dollar."

Later, the name was used for a Spanish silver coin that was common in Britain's American colonies, so the new United States chose it for its own money. The "thal" in "Neanderthal" is the same word. That valley was named after Joachim Neander, a teacher who wrote hymns.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

今度ドル札を手にしたら、谷を思い浮かべてみよう。1516年、いまのチェコ共和国で豊かな銀の鉱脈が見つかり、鉱山のまわりにヨアヒムスタールという町ができた。町の名前は「ヨアヒムの谷」という意味で、その銀でつくられた大きな硬貨は Joachimsthaler と呼ばれた。人々はすぐにこれを「thaler」と短くし、ヨーロッパのほかの地域も硬貨と名前の両方をまねた。低地ドイツ語では「daler」に、英語では「dollar」になった。

のちにこの名前は、イギリスのアメリカ植民地でよく使われていたスペインの銀貨にも使われ、そのため生まれたばかりのアメリカ合衆国は、自分たちのお金の名前にそれを選んだ。「Neanderthal」の「thal」も同じ言葉だ。その谷は、讃美歌を書いた教師ヨアヒム・ネアンデルにちなんで名づけられた。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. Why did the United States use the name "dollar"?

Q3. What can we infer about the words "thaler," "daler" and "dollar"?

重要単語

  • currencyB2
    名詞通貨The Australian currency changed to dollars and cents in 1966. foreign currency「外貨」。current(流れている)と同じ語源で、「世の中を流れるお金」。
  • valleyA2
    名詞谷A small river runs through the valley. dollar の thal、Neanderthal の thal はドイツ語でこの意味。
  • daleC1
    名詞(主にイングランド北部で)谷We walked up hill and down dale all afternoon. ドイツ語の Tal(谷)の親戚。up hill and down dale「丘を越え谷を越え、あちこちを」。
  • coinA2
    名詞硬貨She dropped a coin into the machine. flip a coin「コインを投げて決める」。紙幣は bill(米)/note(英)。
  • mintC1
    動詞(硬貨を)つくる、鋳造するThe first coins were minted near the silver mine. 名詞では「造幣所」。in mint condition「新品同様の」もよく使う。
  • colonyB2
    名詞植民地Spanish coins were common in the British colonies in America. 形容詞は colonial「植民地の」。the 13 colonies はアメリカ独立前の13植民地。
  • legendB1
    名詞伝説、言い伝えAccording to legend, he wrote his songs in a cave. according to legend「伝説によると」。事実かどうか分からない話に使う。
「ドル(dollar)」の語源は“谷”。チェコの「ヨアヒムの谷(Joachimsthal)」でつくった銀貨が thaler と呼ばれ、それが dollar に。ネアンデルタール(Neanderthal)の thal も同じ「谷」。しかも2つの谷の名前には、どちらも「ヨアヒム」が入っている(片方は聖人、片方は讃美歌の作者)。

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出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. Oxford Advanced Learner's Dictionary「dollar」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
  2. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「dollar」ahdictionary.com
  3. Schmitz et al. (2002) The Neandertal type site revisited: Interdisciplinary investigations of skeletal remains from the Neander Valley, Germany, PNAS 99(20)doi.org
  4. Bertheau (1886)「Neander, Joachim」Allgemeine Deutsche Biographie 23(Deutsche Biographie)deutsche-biographie.de
  5. Wurzbach (1875)「Schlik, Stephan (I.)」Biographisches Lexikon des Kaiserthums Oesterreich 30, S. 114ff.(Wikisource)de.wikisource.org
  6. Dictionary.com(Random House Unabridged Dictionary)「dollar」dictionary.com
  7. Bureau of Engraving and Printing「Currency FAQs: What is the origin of the $ sign?」(米国財務省 印刷局)bep.gov

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