犬の脳は「言葉の意味」と「声の調子」を別々に聞いていた。ほめ言葉は両方そろうと“ごほうび”に

読む前に予想してみよう!
犬は、意味のない言葉でも、ほめる調子で言われれば脳のごほうび回路がいちばん強く反応する
ハンガリーのMRI実験では、ごほうび回路がいちばん強く反応したのは「ほめ言葉」を「ほめる調子」で言ったときだった。調子だけ、言葉だけでは強い反応は出なかった。
- 対象
- 家庭で暮らす犬(ボーダーコリーなど)
- 規模
- 13匹(2016年)、12匹(2020年の追加実験)
- 研究の種類
- 起きた状態でのMRI(fMRI)実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
MRIで調べると、犬の脳はほめ言葉の「意味」と「声の調子」を別々に処理し、両方がほめているときだけごほうび回路が強く反応した。「左脳で処理」は後に訂正。
ひとことで言うと犬は「えらいね」の言葉と、やさしい声の両方がそろうと、いちばん喜ぶみたい!
「えらいね!」
犬をほめるとき、つい声が高く、明るくなりませんか。では犬は、言葉の意味を聞いているのでしょうか。それとも声の調子だけで「ほめられた」と感じているのでしょうか。
ハンガリーの研究チームが、この疑問を犬の脳の中から確かめました。MRIの中でじっと伏せていられるように訓練した犬たちに、言葉を聞かせたのです。結果は、犬の脳は「意味」と「調子」を別々に処理していて、両方がほめているときにだけ、ごほうびの回路が強く反応したというものでした。
01犬は言葉をどこまで理解しているのか
犬が人の言葉を覚えられることは、前から知られていました。
有名なのが、ボーダーコリーのリコです。ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のカミンスキーさんたちは2004年、リコが200以上の物の名前を知っていると報告しました。しかも、聞いたことのない名前を言われると、「名前をまだ知らない物」がそれだと消去法で推測して、正しく持ってきました。4週間たっても、その物を選んで持ってこられたそうです。
人間の子どもも、一度聞いただけの新しい言葉の意味を、おおまかに推測することがあります。論文では、リコにもこれに似た力があるとしています。
でも、行動から分かるのはここまで。犬の頭の中で、言葉がどう処理されているのかは分かりません。そこで、脳を直接のぞく実験が行われました。
02「ほめ言葉」×「ほめる調子」の4通り
2016年、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のアンディチさんたちが、科学誌『Science』に結果を発表しました。
ごほうび回路の中の小さな区画ごとに、4通りのうちどれに一番強く反応したかを数えると、腹側線条体という部分では、71.3%の区画が「ほめ言葉を、ほめる調子で言ったとき」に一番強く反応していました。ドーパミンを出す細胞が集まる部分では、96.0%がそうでした。
つまり犬は、「やさしい声ならなんでもうれしい」わけではなかったのです。「言葉」と「調子」の両方がほめているとき、いちばんごほうびらしく受け取っていたことになります。

03「Good boy!」は言葉と調子のセット
英語でも、犬をほめるときの決まり文句があります。
- Good boy! / Good girl!(いい子だね!)
- Well done!(よくできたね!)
- That's it!(そう、それ!)
ハンガリー語の実験で使われた3つの言葉も、意味はこれに近いものです。
人間どうしでも、同じ Well done. が、言い方しだいで心からのほめ言葉にも、皮肉にも聞こえます。意味と調子がそろってはじめて、ほめ言葉として届く。犬の脳でも、似たことが起きているのかもしれません。
04どんでん返し:「人と同じ左脳」は訂正された
2016年の論文には、もうひとつ大きな発表がありました。犬は、意味のある言葉を左の脳で処理している、というものです。人も言葉の意味をおもに左の脳で処理するので、論文は、犬と人の脳には似たしくみがあると述べていました。
ところが翌2017年、『Science』にこの論文の訂正(Erratum)が載りました。そして同じチームが2020年に発表した追加の論文では、2016年の研究について、意味のある言葉に対して脳全体として「右」に偏っていたと書いています。2016年とほぼ同じ犬12匹で行った2020年の実験でも、聴覚の領域の一部で、意味のある言葉への反応が右の脳に偏っていました。
つまり、犬が言葉の意味を処理しているらしいこと自体は変わりませんが、「人と同じ左脳で」という部分は、成り立たなくなったのです。
もうひとつ、犬の「聞き取り」の細かさにも限界がありそうです。2025年、同じグループのボロシュさんたちは、come(来い)や stay(待て)にあたる指示の言葉と、その一音だけを変えたニセの言葉を、犬にMRIの中で聞かせました。すると、言葉に反応する脳の領域の多くで、ニセの言葉にも本物と同じくらい反応しました。研究チームは、犬が覚えている言葉の音の形は、人よりおおざっぱだと考えています。
05まとめ
犬の脳は、ほめ言葉の「意味」と「声の調子」を別々に受け取り、最後に合わせて「これはごほうびだ」と判断しているようでした。言葉だけでも、声だけでもなく、両方がそろったときに一番響く。人間どうしの「ほめ方」にも通じる話です。
ただし、「人と同じく左脳で言葉を処理する」という部分は翌年に訂正され、同じグループものちに「右」と書いています。犬が言葉をどこまで分かっているのかは、いまも研究が進んでいるところです。今日は Good boy! を、明るい声で言ってあげてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers in Budapest, Hungary, trained pet dogs to lie still, wide awake, inside an MRI scanner.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Do dogs understand what we say, or only how we say it? Scientists in Hungary put pet dogs in a brain scanner. The dogs were awake and trained to lie still. They heard Hungarian words for "clever" and "well done." They also heard everyday words with no special meaning for dogs.
Each word was said in a happy voice or a flat voice. The reward part of the brain was most active with praise words in a happy voice.
79 words ・ CEFR A2
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犬は、私たちが言う内容を分かっているのでしょうか。それとも言い方だけでしょうか。ハンガリーの科学者たちは、飼い犬を脳のスキャナーに入れました。犬たちは起きていて、じっと伏せていられるように訓練されていました。犬たちは「おりこう」や「よくできた」を意味するハンガリー語を聞きました。また、犬にとって特別な意味のない、ふだんの言葉も聞きました。
それぞれの言葉は、うれしそうな声か平板な声で言われました。脳のごほうびの部分がいちばん活発になったのは、ほめ言葉をうれしそうな声で聞いたときでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
犬の脳が言葉と声の調子にどう反応したかの話なので B。
Q2. When was the reward part of the brain most active?
most active with praise words in a happy voice とあるので D。
Q3. In the passage, "still" in "lie still" means ...
lie still は「動かずに横になる」という意味なので A。
Researchers in Budapest, Hungary, trained pet dogs to lie still, wide awake, inside an MRI scanner. A trainer the dogs knew well recorded three Hungarian praise words, including the words for "clever" and "well done," and three common words that meant nothing special to the dogs. She said each word in two ways, once in a praising tone and once in a flat tone.
In the dogs' brains, part of a hearing area reacted to the tone no matter what the word was. The reward areas reacted most strongly when a praise word came with a praising tone. A happy voice alone was not enough, and the right word in a flat voice was not enough either. Dogs seem to put meaning and tone together, as people do.
128 words ・ CEFR B1
和訳を見る
ハンガリーのブダペストの研究者たちは、飼い犬が起きたままMRIスキャナーの中でじっと伏せていられるように訓練した。犬たちがよく知るトレーナーが、「おりこう」や「よくできた」にあたる語を含むハンガリー語のほめ言葉3つと、犬にとって特別な意味のないふだんの言葉3つを録音した。彼女はそれぞれの言葉を、ほめる調子と平板な調子の2通りで言った。
犬の脳では、聴覚の領域の一部が、言葉が何であっても声の調子に反応した。ごほうびの領域がいちばん強く反応したのは、ほめ言葉がほめる調子で言われたときだった。うれしそうな声だけでは足りず、正しい言葉を平板な声で言っても足りなかった。犬は人と同じように、意味と調子を組み合わせているようだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What were the two things the researchers changed in the recordings?
ほめ言葉かふつうの言葉か、ほめる調子か平板な調子か、の2つを変えたので B。
Q2. What happened when a praise word was said in a flat tone?
the right word in a flat voice was not enough either とあるので C。
Q3. What does the writer suggest in the last sentence?
Dogs seem to put meaning and tone together, as people do. から C。
In 2004, researchers reported that a border collie named Rico knew the names of more than 200 objects and could work out the name of a new object by a process of elimination. But behavior alone can't show what happens inside a dog's head. In 2016, a Hungarian team scanned awake pet dogs while a familiar trainer spoke praise words and everyday words, each in a praising or a flat tone.
Reward areas responded most when both the word and the tone signaled praise. The paper also claimed that dogs process word meaning mainly on the left side of the brain, as humans do. That part did not hold up. The journal Science published a correction in 2017, and in 2020 the same group described the original result as a bias toward the right side.
A 2025 study from the same lab found another limit. When researchers changed a single sound in a command meaning "stay" or "come," most word-sensitive areas reacted to the fake word about as strongly as to the real one. Dogs may store the sound of a word less precisely than we do, even while they link it to a meaning.
195 words ・ CEFR B2
和訳を見る
2004年、研究者たちは、リコという名のボーダーコリーが200以上の物の名前を知っていて、新しい物の名前を消去法で導き出せると報告した。だが、行動だけでは犬の頭の中で何が起きているかは分からない。2016年、ハンガリーのチームは、よく知っているトレーナーがほめ言葉とふだんの言葉を、それぞれほめる調子か平板な調子で言うのを聞かせながら、起きている飼い犬の脳をスキャンした。
ごほうびの領域がいちばん強く反応したのは、言葉と調子の両方がほめていることを示したときだった。論文はまた、犬は人と同じように、言葉の意味をおもに脳の左側で処理していると主張した。その部分は持ちこたえなかった。学術誌 Science は2017年に訂正を載せ、2020年には同じグループが、もとの結果を右側への偏りとして記述した。
同じ研究室による2025年の研究は、別の限界を見つけた。研究者が「待て」や「来い」を意味する指示の言葉の一音だけを変えると、言葉に反応する領域のほとんどが、ニセの言葉にも本物とほぼ同じくらい強く反応した。犬は、言葉を意味と結びつけてはいても、その音の形を私たちよりおおざっぱに覚えているのかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
犬と言葉についての脳研究で分かったことと、訂正や限界の話なので B。
Q2. What happened to the claim about the left side of the brain?
Science published a correction in 2017 ... described the original result as a bias toward the right side とあるので B。
Q3. What can be inferred from the 2025 study?
一音だけ変えたニセの言葉にも本物とほぼ同じくらい反応したので、A のように推測できる。B は最後の文 even while they link it to a meaning と合わない。
重要単語
- praiseB1名詞・動詞ほめ言葉;ほめるThe coach praised the team after the game.
words of praise「ほめ言葉」。praise A for B「B のことで A をほめる」は入試頻出。 - toneB1名詞(声の)調子、口調I could tell she was angry from her tone of voice.
tone of voice「声の調子」。Don't use that tone with me.「そんな言い方しないで」。 - rewardB1名詞・動詞ごほうび、報酬;報いるA treat is a good reward for a puppy.
脳科学では reward system「報酬系(ごほうび回路)」として出てくる。 - scanB2名詞・動詞(医療用の)画像検査;くまなく調べるThe doctor ordered a brain scan.
scanner は「スキャナー、走査装置」。scan a page は「ページにざっと目を通す」の意味にもなる。 - process of eliminationB2名詞(句)消去法I got the answer by a process of elimination.
eliminate(取り除く)の名詞形 elimination。選択問題を解くときにもよく使う表現。 - correctionB1名詞訂正The newspaper printed a correction the next day.
correct(正す)+-ion。学術誌の訂正記事は erratum(複数形 errata)とも言う。 - meaningA2名詞意味Look up the meaning of this word in a dictionary.
動詞 mean の名詞形。meaningful「意味のある」、meaningless「無意味な」。
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犬の脳をMRIで調べたら、ほめ言葉の「意味」と「声の調子」を別々に聞き分けていた。ごほうび回路が強く反応したのは、ほめ言葉をほめる調子で言ったときだけ。ただ「人と同じく左脳で言葉を処理」という発表は翌年に訂正された。
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- Andics, A., Gábor, A., Gácsi, M., Faragó, T., Szabó, D., & Miklósi, Á. (2016) Neural mechanisms for lexical processing in dogs, Science 353(6303)doi.org
- (2017) Erratum for the Report "Neural mechanisms for lexical processing in dogs" by A. Andics, A. Gábor, M. Gácsi, T. Faragó, D. Szabó, Á. Miklósi, Science 356(6333)doi.org
- Gábor, A., Gácsi, M., Szabó, D., Miklósi, Á., Kubinyi, E., & Andics, A. (2020) Multilevel fMRI adaptation for spoken word processing in the awake dog brain, Scientific Reports 10doi.org
- Kaminski, J., Call, J., & Fischer, J. (2004) Word learning in a domestic dog: Evidence for "fast mapping", Science 304(5677)doi.org
- Boros, M., Rácz, D. S., & Andics, A. (2025) Action instruction word processing in the dog brain entails both auditory form identification and meaning representation, NeuroImage 318doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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