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日本語のマジか!?ホント

平安時代の本では、犬が「ひよ」、猫は「ねうねう」と鳴いていた

平安時代の本では、犬が「ひよ」、猫は「ねうねう」と鳴いていた

読む前に予想してみよう!

日本国語大辞典に載る犬の声「わんわん」の最も古い例は、江戸時代の後半のものだ

研究カード(どんな研究?)
対象
日本語の古典の文章
規模
平安〜江戸の作品の用例
研究の種類
辞書の初出例・古典語研究(研究書の紹介と論文)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

平安時代の『大鏡』では犬の声が「ひよ」、『源氏物語』では子猫の声が「ねうねう」と書かれている。辞書に載る「わんわん」の最も古い例は、室町時代の終わりから江戸時代の初めごろの狂言。

ひとことで言うと平安時代の本では、犬の声が「ひよ」、猫の声が「ねうねう」と書かれていた!

もくじ
  1. きっかけは『大鏡』の「ひよ」
  2. 『源氏物語』の子猫は「ねうねう」
  3. 「わんわん」の古い例は約400年前の狂言
  4. 英語の犬は woof、猫は meow
  5. どんでん返し:「ひよ」か「びよ」か、本当は分からない
  6. まとめ

犬は「ワン」、猫は「ニャー」。日本で育てば、だれでも小さいころに覚える音です。

でも、平安時代の本を開くと、犬は「ひよ」と鳴いています。『源氏物語』の子猫は「ねうねう」。

ペットの鳴き声という、いちばん身近な音の書き方が、平安時代には今とまるで違っていたのです。

01きっかけは『大鏡』の「ひよ」

この「犬のひよ」に引っかかった研究者がいます。擬音語・擬態語の研究で知られる国語学者の山口仲美さんです。山口さんの本『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社新書、2002年)の公式の紹介ページに、そのいきさつが書かれています。

平安時代の歴史物語『大鏡』に、犬の声として「ひよ」と書かれた場面がある。ところが本の注には「犬の声か」としか書いていない。犬は「わん」だと思っている現代人には、にわかに信じられない。それでも気になってしかたがない――。これが、山口さんが擬音語・擬態語に興味を持ったきっかけだったそうです。

紹介文には、山口さんの本音も出てきます。「雛じゃあるまいし」(『犬は「びよ」と鳴いていた』光文社の紹介ページより)。ひよこじゃあるまいし、「ひよ」と鳴く犬がいるものか、というわけです。

実際、平安時代の「ひよ」は、ひな鳥の声にも使われていました。『日本国語大辞典』の「ひよ」の項目には、ひな鳥などの鳴く声を表す語として、平安時代の『宇津保物語』の例が載っています。

同じ紹介文によると、日本語の擬音語・擬態語は英語の3倍、1200種類にも及ぶといいます。犬の「ひよ」は、その長い歴史の入り口でした。

02『源氏物語』の子猫は「ねうねう」

猫の声の古い例は、『源氏物語』にあります。

奈部淑子さんの論文(1996年、筑波大学の『筑波日本語研究』創刊号)は、『源氏物語』に出てくる擬音語を表にまとめて調べました。その中に、「若菜下」の巻で子猫が「ねうねう」と鳴く場面があります。

奈部さんは、作者がこのたった一つの鳴き声を、柏木が女三宮を恋い慕う気持ちを表すために、わざわざここに置いたと読んでいます。物語の中では、ただの「猫の声」ではないのです。

03「わんわん」の古い例は約400年前の狂言

では、「わんわん」はいつから文字に出てくるのでしょう。

小学館の『日本国語大辞典』(精選版)は、言葉ごとに「初出の実例」、つまり辞書の編集で見つかった中でいちばん古い例を載せています。そこで、鳴き声を引いてみました。

「わんわん」の例は、「わん」一語だけの例(1710年ごろ)より古いことになります。狂言は、室町時代に成立した、こっけいなせりふ劇です(デジタル大辞泉)。『犬山伏』は、茶屋で僧と山伏が言い争い、犬に向かって祈り比べをして、山伏が負けて逃げる話です(日本国語大辞典)。

「虎明本(とらあきらぼん)」は、江戸時代の初めの狂言師・大蔵虎明(1597〜1662)が書きとめた台本です。狂言の流派の一つ、大蔵流の台本の中でいちばん古いもので、230あまりの狂言を1642年に江戸で書き上げました(世界大百科事典)。

遠ぼえの「びょうびょう」は、近代の小説にも出てきます。デジタル大辞泉は、芥川龍之介の『偸盗(ちゅうとう)』から、群がる犬が「びょうびょう」とほえ立てる例を引いています。

『日本国語大辞典』に載る「わんわん」の最も古い例は、室町時代の終わりから江戸時代の初めごろの狂言『犬山伏』(虎明本)。僧と山伏が犬に向かって祈り比べをする話
『日本国語大辞典』に載る「わんわん」の最も古い例は、室町時代の終わりから江戸時代の初めごろの狂言『犬山伏』(虎明本)。僧と山伏が犬に向かって祈り比べをする話

04英語の犬は woof、猫は meow

英語の鳴き声も見ておきましょう。英国の学習辞典 Oxford Learner's Dictionaries によると、

  • woof:犬の大きなほえ声を表す語。'Woof! Woof!' he barked.(「ワン!ワン!」と犬はほえた)。語源の欄には「19世紀初め、音をまねた語」
  • miaow / meow:猫の鳴き声。北米では meow、英国では miaow ともつづる。語源の欄には「17世紀初め、音をまねた語」
  • bow-wow:子どもが犬のことを言う言葉(幼児語)。日本語の「わんわん」が犬そのものを指す幼児語でもあるのとよく似ています

音をまねた言葉を英語で onomatopoeia(オノマトピーア)と言います。Oxford Learner's Dictionaries によると、ギリシャ語の「言葉を作ること」から来た語です。

05どんでん返し:「ひよ」か「びよ」か、本当は分からない

ここで一つ気になる点があります。本の題名は『犬は「びよ」と鳴いていた』。でも、紹介文に引かれた『大鏡』の表記は「ひよ」です。

これは、昔の文章が濁点(゛)をきちんと書かなかったことと関係があります。『日本国語大辞典』によると、「ひ」と「び」のような清音と濁音を書き分けて、今の形の濁点を使うようになったのは、室町時代の終わりごろからです。平安時代のかなの「ひよ」は、「ひよ」と読んだのか「びよ」と読んだのか、文字だけでは決められません。山口さんの題名の「びよ」は、ひとつの読み方の解釈です。

「ねうねう」にも同じような問題があります。奈部さんによると、古典の解説書(注釈書)には、「ねうねう」を「寝む寝む(ねむ、ねむ=寝よう、寝よう)」にかけたしゃれだと説明しているものがあります。ただし、当時の「う」の字がどんな音だったかははっきりせず、そう断定するのは難しいと奈部さんは書いています。

また、辞書の「初出の実例」は、見つかっている中でいちばん古い例です。「室町時代の終わりより前に『わんわん』と言った人はいなかった」という証明ではありません。古い文書が見つかれば、もっと前の例が出てくる可能性もあります。

06まとめ

『大鏡』の犬は「ひよ」、『源氏物語』の子猫は「ねうねう」。辞書に載る「わんわん」の最も古い例は、室町時代の終わり〜江戸時代の初めごろの狂言、「にゃあ」は江戸時代の『浮世床』でした。

辞書や古典の本から分かるのは、同じ動物の声を、その時代の人がどう聞き取り、どう文字にしたかです。次に「ワン」と聞こえたら、平安の人ならこれを「ひよ」と書いたかもしれない、と想像してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you grew up in Japan, you learned early that dogs go "wan wan." Writers in the Heian period, about a… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you grew up in Japan, you learned early that dogs go "wan wan." Writers in the Heian period, about a thousand years ago, did not always agree. In the history "Okagami," a dog's bark is written "hiyo," a word that was also used for the cries of baby birds.

In "The Tale of Genji," a kitten cries "neu neu" while a young man is taking care of it. It is the only animal sound written this way in the whole story. The Nihon Kokugo Daijiten, a large dictionary that gives the oldest known example of each word, lists a kyogen play, from a script finished in 1642, as its first example of "wan wan." Its first example of "nyaa" comes from a humorous novel published between 1813 and 1823.

130 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本で育ったなら、犬は「わんわん」と鳴くと早いうちに覚えたはずだ。でも、約千年前の平安時代の書き手は、いつもそう書いたわけではない。歴史物語『大鏡』では犬のほえ声が「ひよ」と書かれており、これはひな鳥の鳴き声にも使われた言葉だった。

『源氏物語』では、若い男性が世話をしている子猫が「ねうねう」と鳴く。物語全体で、このように書かれた動物の声はこれだけだ。それぞれの言葉の知られている最も古い例を載せる大きな辞書『日本国語大辞典』は、「わんわん」の最初の例として、1642年に書き上げられた台本の狂言を挙げている。「にゃあ」の最初の例は、1813年から1823年に出版されたこっけいな小説にある。

4択リーディングクイズ

Q1. Which of these was "hiyo" also used for?

Q2. When was the book with the first example of "nyaa" published?

Q3. What can we guess from the passage?

重要単語

  • onomatopoeiaC2
    名詞擬音語、擬声語"Woof" and "meow" are examples of onomatopoeia. 発音は「オノマトピーア」。Oxford Learner's Dictionaries によると、ギリシャ語の「言葉を作ること」から。
  • barkB1
    動詞(犬が)ほえるThe dog barked at the mail carrier. bark at ~「~に向かってほえる」。名詞では「ほえ声」。別の語で「木の皮」の意味もある。
  • kittenA2
    名詞子猫The kitten cried softly in his arms. 子犬は puppy。くだけた言い方では kitty も使う。
  • woofC1
    間投詞ワン(犬のほえる声)"Woof! Woof!" went the dog next door. くだけた語。Oxford Learner's Dictionaries によると19世紀初めからの、音をまねた語。
  • meowC1
    名詞ニャー(猫の鳴き声)I heard a meow outside the door. 北米では meow、英国では miaow ともつづる。動詞で The cat meowed.「猫がニャーと鳴いた」。
  • imitateB1
    動詞まねるChildren like to imitate animal sounds. 名詞は imitation(まね、模造品)。擬音語は音を imitate した語。
平安時代の『大鏡』では、犬の声が「ひよ」と書かれている。『源氏物語』の子猫は「ねうねう」。日本国語大辞典で「わんわん」の最も古い例を引くと、室町時代の終わり〜江戸時代の初めごろの狂言『犬山伏』。「にゃあ」は江戸時代の『浮世床』。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. 山口仲美 (2002)『犬は「びよ」と鳴いていた 日本語は擬音語・擬態語が面白い』光文社新書(光文社公式書籍ページ)kobunsha.com
  2. 奈部淑子 (1996)「『源氏物語』における「擬音語」」『筑波日本語研究』創刊号, 筑波大学(筑波大学リポジトリ)tsukuba.repo.nii.ac.jp
  3. 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「わんわん」(小学館、コトバンク)kotobank.jp
  4. 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「びょうびょう」(小学館、コトバンク)kotobank.jp
  5. 精選版 日本国語大辞典「にゃあ」(小学館、コトバンク)kotobank.jp

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