カーディガンもラグラン袖も、1854年の同じ戦場にいた将軍の名前

読む前に予想してみよう!
カーディガンは、このセーターを考えたデザイナーの名前から来ている
クリミア戦争で騎兵の突撃を率いた第7代カーディガン伯爵の名前から。オックスフォードの学習辞典は、彼の部隊が最初にこういう服を着たと説明している。
- 対象
- 英語の辞書の語源欄と英国国立陸軍博物館の資料
- 規模
- 1854年の戦いと1860〜80年代の用例
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書の語源記述)+戦史資料
- 確かさ
- ★★★★☆
カーディガンは突撃を率いた伯爵、ラグラン袖は突撃のもとになった命令を出した総司令官、バラクラバは戦場の地名。3つとも1854年クリミア戦争の同じ日の戦いにつながる。
ひとことで言うとカーディガンもラグラン袖も、同じ戦いにいた将軍の名前だった!
もくじ
寒い日にはおるカーディガン。肩から首まで1枚の布でつながったラグラン袖のTシャツ。スキーや冬の自転車でかぶる、目だけ出す毛糸の帽子バラクラバ。
この3つの名前は、同じ日の同じ戦場にそろっていました。
1854年10月25日、クリミア半島のバラクラバ。突撃のもとになった命令を出した総司令官がラグラン卿、軽騎兵を率いて突撃したのがカーディガン伯爵、そして戦場の名前がバラクラバです。イギリスの歴史に残る「大失敗の突撃」の、命令した人・突撃した人・場所が、そろって今の服の名前になっているのです。
013語とも、辞書に「クリミア戦争」と書いてある
まず、イギリスのオックスフォード大学出版局の学習辞典と、アメリカの Dictionary.com で、3語の語源を確かめます。
クリミア戦争は、ロシアと、イギリス・フランス・トルコ・サルデーニャの同盟軍が戦った戦争です。イギリス軍は1854年9月、黒海に突き出たクリミア半島に上陸し、ロシアの軍港セバストポリを取り囲みました。バラクラバは、そのイギリス軍が補給の基地にしていた港です(英国国立陸軍博物館)。アメリカの辞書『アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)』によると、今はセバストポリ市の一地区になっています。
021854年10月25日、バラクラバで何が起きたか
この日、ロシア軍はイギリス軍の基地をねらって攻めてきました。英国国立陸軍博物館(ロンドン)の解説をもとに、その日の流れを追ってみます。
- 朝、ロシア軍が丘の上の陣地と、そこに置いてあったイギリスの大砲をうばう
- 港へ向かうロシアの騎兵を、スコットランド高地の歩兵連隊(第93連隊)が2列に並んで迎え撃ち、追い返す
- 重騎兵旅団(重い装備の騎兵)が、退くロシア騎兵に突っ込む
- 総司令官ラグラン卿は、うばわれた大砲をロシア軍に持ち去らせないよう、軽騎兵旅団(軽い装備の騎兵)に前進を命じる
その命令書は、こう始まっていました。
「Lord Raglan wishes the cavalry to advance rapidly to the front」(ラグラン卿は、騎兵がすみやかに前へ進むことを望む)
命令書には、どの大砲のことなのかが書いてありません。丘の上から戦場を見渡していたラグラン卿と違い、谷の下にいた騎兵の指揮官たちに見えたのは、守りの固い谷の奥に並ぶロシアの大砲だけでした。軽騎兵旅団は、ねらうはずではなかった大砲に向かって、三方から撃たれる谷を駆けていきました。

03突撃したのがカーディガン、命令したのがラグラン
軽騎兵旅団の先頭を走ったのが、カーディガン伯爵です。博物館の収蔵品の解説によると、伯爵は部下よりずっと前を駆け、最初にロシアの大砲の列にたどり着きました。ところがその後の乱戦の中で引き返し、それ以上の指示を出さないまま、部下を敵の中に残してしまいました。
軽騎兵旅団673人のうち、死傷者はおよそ250人。馬は475頭を失いました。
命令を出したラグラン卿について、博物館はこう説明しています。最後に戦場に出たのは1815年のワーテルローの戦い。そのあと軍の事務の仕事を25年間(1827〜1852年)務め、65歳になるまで、軍を率いて戦場で戦ったことはありませんでした。命令を「お願い」のようなていねいな言い方で書くくせがあり、バラクラバの1か月前のアルマの戦いでも、それが混乱や危険な遅れを生んでいた、と博物館は書いています。
ラグラン卿は、ワーテルローの戦いで右腕を失っていました。博物館には、片手で使えるように銃の木の持ち手(台じり)に取りつけた、彼の望遠鏡が残っています。ラグラン卿は翌1855年6月28日、クリミアで亡くなりました。
この突撃は、詩人テニスンが戦いの数週間後に書いた詩「軽騎兵旅団の突撃(The Charge of the Light Brigade)」で、今も語り継がれています。詩では「the six hundred(600人)」と歌われますが、博物館の記録では軽騎兵旅団は673人でした。
同じ日の朝、ロシア騎兵を2列で追い返したスコットランドの連隊の場面も、英語で名前がついて残っています。the Thin Red Line(細い赤い線)です。タイムズ紙の記者ウィリアム・ハワード・ラッセルは記事の中で、ロシアの騎兵が向かっていった兵士の列を、先に鋼をつけた細い赤い筋にたとえて書いています。
04カーディガンもラグランも、ウェールズの地名と同じ名前
人の名前だと思っていた2語には、もう一段奥があります。カーディガン伯爵の「Cardigan」も、ラグラン男爵の「Raglan」も、イギリスのウェールズにある地名と同じ名前です。
- Cardigan:ウェールズ西部の旧州、カーディガンシャー(Cardiganshire)の名前。Dictionary.com の語源欄によると、もとはウェールズ語の Ceredigion(ケレディギオン)で、453年に亡くなったとされる地元の王ケレディグ(Ceredig)の名前から来ています。ウェールズ西岸の湾は Cardigan Bay です(AHD)
- Raglan:ウェールズ南東部にあるラグラン城(Raglan Castle)の名前。ウェールズ政府の歴史遺産を守る機関 Cadw は、1435年の大きな塔が今も残るこの城を、ウェールズ人が建てた中でいちばん壮大な城だと紹介しています
つまり、カーディガンという服の名前は、さかのぼると1500年以上前のウェールズの王様の名前にたどり着きます。なぜカーディガン伯爵の家やラグラン卿の家がこれらの地名を称号に使ったのかまでは、今回の資料では確かめられませんでした。
犬好きなら、コーギーにも「カーディガン」がいます。ウェールズで牛を追うために生まれたコーギーには、Pembroke Welsh corgi と Cardigan Welsh corgi の2品種があります(AHD)。カーディガンのほうは尾が長い品種です(Dictionary.com に収録の Collins 英語辞典)。corgi という語は、ウェールズ語の cor(小人)+ ci(犬)からできています(AHD)。カーディガンを着たカーディガン・コーギー、という名前の重ね着もできるわけです。
05どんでん返し:「戦場でそう呼ばれていた」とは限らない
3語ともクリミア戦争の名前ですが、戦争のさなかにその呼び名があったとは限りません。
Dictionary.com によると、balaclava という語の最初の記録は1880〜85年。戦争からおよそ30年後です。オックスフォード学習辞典も「19世紀後半」としています。戦争中の兵士たちがその帽子を何と呼んでいたかは、今回確かめた辞書には書かれていません。
ラグラン袖についても、「腕を失ったラグラン卿のために、仕立て屋が考えた袖だ」という話をよく見かけます。ところが、今回確かめた辞書や博物館の資料には、袖が生まれたいきさつは書かれていません。資料で言えるのは、ラグラン卿の名前がついたというところまでです。
カーディガンも同じです。オックスフォード学習辞典は「彼の部隊が最初にこういう服を着た」と書いていますが、伯爵がこの服を考えたとは書いていません。Dictionary.com の説明は「クリミア戦争で名をあげた騎兵」。有名になった人の名前が、服に貼りつけられたと考えるのが、辞書の書き方に合っています。
06まとめ
カーディガンは突撃を率いた伯爵、ラグラン袖は命令を出した総司令官、バラクラバは戦場の名前。1854年10月25日の「大失敗の突撃」に関わった人と場所が、170年後の私たちのクローゼットに並んでいます。
次にカーディガンのボタンをとめるときは、思い出してみてください。その名前の向こうには、谷を駆けた673人の騎兵と、1500年以上前のウェールズの王様がいるのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOn October 25, 1854, during the Crimean War, British and Russian forces fought near Balaclava, a small port…
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原田英語の English Corner
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Three things you can wear got their names from one battle. In 1854, British and Russian soldiers fought near a small port called Balaclava. The British leader, Lord Raglan, sent an order that was not clear.
Lord Cardigan led 673 horsemen into a long valley with Russian guns on three sides. About 250 of them were killed or hurt. Today we have the cardigan, the raglan sleeve, and the balaclava, a warm hat that covers your face.
77 words ・ CEFR A2
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身につける3つの物が、1つの戦いから名前をもらいました。1854年、イギリスとロシアの兵士がバラクラバという小さな港の近くで戦いました。イギリス軍の司令官ラグラン卿は、分かりにくい命令を出しました。
カーディガン卿は673人の騎兵を率いて、三方にロシアの大砲が並ぶ長い谷へ入りました。そのうち約250人が死んだり、けがをしたりしました。今、私たちのまわりには、カーディガンとラグラン袖、そして顔をおおう暖かい帽子のバラクラバがあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文 Three things you can wear got their names from one battle が主旨なので B。
Q2. How many horsemen did Lord Cardigan lead?
Lord Cardigan led 673 horsemen とあるので C。250 は死傷者の数。
Q3. In the passage, what is a "balaclava" today?
the balaclava, a warm hat that covers your face とあるので D。
On October 25, 1854, during the Crimean War, British and Russian forces fought near Balaclava, a small port on the Black Sea. The British commander, Lord Raglan, sent his light cavalry a short order to stop the Russians from taking away some captured guns.
But the order did not say which guns he meant. The officers down in the valley could only see Russian guns at the far end, so 673 horsemen rode straight toward them. About 250 were killed or wounded. The man at the front was the Earl of Cardigan. The Oxford Learner's Dictionary says his troops were the first to wear the knitted jacket we now call a cardigan.
112 words ・ CEFR B1
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1854年10月25日、クリミア戦争のさなか、イギリス軍とロシア軍が黒海の小さな港バラクラバの近くで戦った。イギリス軍の司令官ラグラン卿は、うばわれた大砲をロシア軍に持ち去らせないよう、軽騎兵に短い命令を送った。
しかし命令には、どの大砲のことなのかが書かれていなかった。谷の下にいた将校たちには谷の奥にあるロシアの大砲しか見えなかったので、673人の騎兵がまっすぐそこへ向かった。約250人が死傷した。先頭にいたのはカーディガン伯爵だった。オックスフォードの学習辞典によると、今カーディガンと呼ばれている毛糸の上着を最初に着たのは、彼の部隊だった。
4択リーディングクイズ
Q1. What was the main problem with Lord Raglan's order?
the order did not say which guns he meant とあるので B。
Q2. Why did the horsemen ride toward the guns at the far end of the valley?
The officers down in the valley could only see Russian guns at the far end, so ... とあるので A。
Q3. What can we infer about the word "cardigan"?
The man at the front was the Earl of Cardigan と、his troops were the first to wear ... a cardigan から、突撃を率いた人物とつながる語だと分かるので C。
Three ordinary pieces of clothing trace back to one morning in the Crimean War. On October 25, 1854, the British commander, Lord Raglan, watched the fighting at Balaclava from high ground and sent his light cavalry a brief written order to keep the Russians from carrying off some captured guns. It never said which guns.
From the valley floor, the officers could see only a heavily defended Russian battery, and the Earl of Cardigan led 673 men straight at it. Roughly 250 were killed or wounded. Dictionaries link the cardigan to the earl, the raglan sleeve to Lord Raglan, and the balaclava to the battle site. The written record is messier than the story, though.
Dictionary.com dates the word "balaclava" to the early 1880s, almost thirty years after the war. A popular tale says a tailor designed the raglan sleeve for Raglan, who had lost his right arm at Waterloo, but the dictionaries and museum records checked for this article say nothing of the kind. Even the two titles have older roots. Cardigan and Raglan are both place names in Wales.
181 words ・ CEFR B2
和訳を見る
ありふれた3つの衣服が、クリミア戦争のある朝にさかのぼる。1854年10月25日、イギリス軍の司令官ラグラン卿は高台からバラクラバの戦いを見守り、うばわれた大砲をロシア軍に持ち去らせないよう、軽騎兵に短い命令書を送った。その命令書には、どの大砲かが一度も書かれていなかった。
谷底からは、守りの固いロシアの砲台しか見えず、カーディガン伯爵は673人を率いてまっすぐそこへ向かった。約250人が死傷した。辞書は、カーディガンを伯爵に、ラグラン袖をラグラン卿に、バラクラバを戦場に結びつけている。ただし、文書の記録は物語ほどすっきりしていない。
Dictionary.com は「balaclava」という語を1880年代前半、戦争からほぼ30年後のものとしている。ワーテルローで右腕を失ったラグランのために仕立て屋がラグラン袖を考えた、という話が広まっているが、この記事のために確かめた辞書や博物館の記録には、そうしたことは何も書かれていない。2つの称号にさえ、もっと古い根がある。カーディガンもラグランも、ウェールズの地名なのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
前半で3つの衣服と1854年の戦いのつながり、後半で The written record is messier than the story と記録の実際を述べているので B。
Q2. According to Dictionary.com, when was the word "balaclava" first recorded?
Dictionary.com dates the word "balaclava" to the early 1880s とあるので C。
Q3. What does the writer suggest about the story of the raglan sleeve and the lost arm?
A popular tale says ... but the dictionaries and museum records checked for this article say nothing of the kind とあるので D。
重要単語
- cardiganA2名詞カーディガン(前開きの毛糸の上着)I always keep a cardigan in my bag for cold trains.
第7代カーディガン伯爵の名前から。発音は頭の car- を強く読む。 - sleeveB1名詞袖This sweater has raglan sleeves, so it's easy to move in.
short-sleeved(半袖の)、roll up your sleeves(袖をまくる=本気で取りかかる)もよく使う。 - cavalryB2名詞騎兵(隊)The cavalry rode down the valley at full speed.
馬に乗って戦う兵士の部隊。つづりの似た Calvary(キリストがはりつけになった丘)と混同しやすい。 - chargeB1名詞・動詞突撃(する)The horsemen charged toward the guns.
「料金」「充電」と同じ charge。the Charge of the Light Brigade は「軽騎兵旅団の突撃」。 - commanderB1名詞司令官、指揮官The commander watched the battle from a hill.
command(命令する)+-er。commander in chief は「最高司令官」。 - woundedB1形容詞(武器で)けがをした、負傷したMany soldiers were killed or wounded in the charge.
事故のけがは injured、戦いや武器によるけがは wounded を使うことが多い。発音は「ウーンディッド」。 - blunderC1名詞大失敗、へまSending the horsemen down that valley was a terrible blunder.
不注意や判断ミスによる大きな失敗。make a blunder「へまをする」。
公式・一次情報をチェック
- cardigan(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- balaclava(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- Raglan Castle(Cadw・ウェールズ政府 歴史環境局)cadw.gov.wales
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カーディガン=突撃を率いた伯爵、ラグラン袖=突撃のもとになった命令を出した総司令官、バラクラバ(目出し帽)=戦場の地名。3つとも1854年10月25日、クリミア戦争の“大失敗の突撃”の日につながる言葉。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Oxford Learner's Dictionaries「cardigan」「balaclava」「raglan」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「cardigan」「raglan」「balaclava」「Balaklava」「Welsh corgi」ahdictionary.com
- Dictionary.com「cardigan」「raglan」「balaclava」「Cardiganshire」(Origin・Collins English Dictionary)dictionary.com
- National Army Museum「Battle of Balaklava」「Crimean War」nam.ac.uk
- National Army Museum Online Collection「Lord Raglan's Telescope, 1854 (c)」「Portrait of Lord Raglan」collection.nam.ac.uk
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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