The Sennin(仙人)の挿絵

The Sennin

仙人

  • 649 words
  • 約8分
  • YL 1.0–1.4
  • 英検3級目安
  • 全訳つき

あらすじ「仙人になりたいので、そういう所で働かせてください」。大阪の口入れ屋に来た男・権助の、とんでもない頼みごと。ずるがしこい医者のおかみさんは、これはうまい話だと引き受けますが……。

芥川龍之介『仙人』(1922年)をもとに再話

ORIGINAL TEXT

まずは原文をチェック

この話は日本語の原文(青空文庫)でも読めます。青空文庫の本文を、そのまま載せています。やさしい版で筋をつかんでから原文へ進むと、作者の言葉をじっくり味わえます。

『仙人』芥川龍之介の日本語の原文を読む →

青空文庫の本文(新字新仮名・約3,200字)。

キーワード(8語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • servant奉公人・使用人
  • sennin仙人(年をとらず死なず、空を飛べるという人)
  • sign看板(ここでは店ののれん)
  • slyずるがしこい
  • complains文句を言う
  • pine tree松の木
  • puppetあやつり人形
  • merchant商人

音声は準備中です。もうしばらくお待ちください。

日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

Everyone, I am in Osaka now, so let me tell you a story about Osaka.

皆さん。わたしは今、大阪にいます。ですから、大阪の話をしましょう。

Long ago, a man came to Osaka to work as a servant. Nobody knows his real name. He came to cook rice, so he is just called Gonsuke, a common name for such servants.

昔、大阪の町へ奉公に来た男がいました。本当の名前は、わかりません。飯炊きの奉公に来た男なので、ただ権助とだけ呼ばれています。こういう奉公人によくある名前でした。

Gonsuke went to a shop that found jobs for people. "I want to become a sennin," he said. "Please find me a job in a place like that." A sennin is a wise man in old Chinese stories who never grows old, never dies, and can even fly.

権助は、仕事を世話してくれる口入れ屋へ行きました。「わたしは仙人になりたいのです。そういう所で働かせてください」仙人というのは、中国の古い話に出てくる知恵のある人で、年をとらず、死ぬこともなく、空を飛ぶことさえできるといいます。

The man at the shop was too surprised to speak. "I'm sorry," he said at last, "but we have never found work for a sennin."

番頭はあっけにとられて、口もきけませんでした。「まことにお気の毒ですが」と番頭はやっと言いました。「うちではまだ一度も、仙人の仕事を世話したことはありませんので」

"That's strange," said Gonsuke. "Your sign says, 'Jobs of All Kinds.' Is your sign telling a lie?" The man at the shop could not say no. "All right. Please come back tomorrow."

「それはおかしいでしょう」と権助は言いました。「お宅ののれんには、『よろず口入れ所』と書いてあるじゃありませんか。のれんにうそを書いたのですか?」番頭は、いやとは言えませんでした。「わかりました。明日また来てください」

But the man at the shop had no idea where to send him. So he asked a doctor nearby. The doctor's wife, a sly woman called "the Old Fox," said, "Send him to us. In two or three years, I will make him a sennin."

けれども番頭には、どこへ行かせればよいのか、さっぱり分かりませんでした。そこで、近所の医者に相談しました。すると、「古狐」とあだ名される、ずるがしこい医者のおかみさんが言いました。「うちへよこしなさいよ。二、三年のうちに、きっと仙人にしてみせるから」

"What a foolish thing to say!" said the doctor. "What will you do when he complains?" His wife only laughed. "People who are too honest, like you, can't even eat in this hard world."

「なんてばかなことを言うんだ!」と医者は言いました。「その男が文句を言い出したら、どうするつもりだ?」けれども、おかみさんは笑うだけでした。「あなたみたいにばか正直すぎる人は、このせちがらい世の中で、ごはんを食べることもできませんよ」

The next day, Gonsuke came in his best kimono, but he looked just like a farmer. "Why do you want to be a sennin?" asked the doctor. "When I saw Osaka Castle, I thought, even a great man like Toyotomi Hideyoshi had to die. Our lives are short, however rich we become."

次の日、権助は一番いい着物を着てやって来ましたが、見たところは、ただの百姓と少しも変わりません。「なぜ仙人になりたいのだね?」と医者はたずねました。「大阪のお城を見て、思ったのです。豊臣秀吉さまのように偉い人でも、いつかは死んでしまう。どんなに金持ちになっても、人の命ははかないものだと」

"Then will you do any work to become a sennin?" asked the wife. "Yes, any work." "Then work for me for twenty years, and I will teach you. But I will not pay you even one coin." "Yes, yes. Thank you very much!"

「それじゃあ、仙人になるためなら、どんな仕事でもするかい?」とおかみさんがたずねました。「はい、どんな仕事でもいたします」「では、二十年のあいだ、うちで働きなさい。そうしたら教えてあげよう。でも、お給金は一文もやらないよ」「はい、はい。ありがとうございます!」

For twenty years, Gonsuke carried water, cut wood, cooked rice, cleaned, and carried the doctor's medicine box. And he never asked for money. There was no more useful servant in all of Japan.

二十年のあいだ、権助は水をくみ、薪を割り、ご飯を炊き、掃除をし、医者の薬箱を背負ってお供をしました。そして、お給金をくれと言ったことは、一度もありませんでした。これほど重宝な奉公人は、日本中探してもいないでしょう。

After twenty years, Gonsuke put on his best kimono again and thanked them. "Now please teach me how to become a sennin." The doctor was in trouble. "My wife knows the way. Ask her," he said, and he looked away.

二十年たつと、権助はまた一番いい着物を着て、主人夫婦にお礼を言いました。「では、仙人になる術を教えてください」医者は困ってしまいました。「術を知っているのは、女房のほうだ。女房に聞きなさい」そう言うと、医者はそっぽを向いてしまいました。

But his wife was calm. "Do everything I say, however hard it is. Otherwise you will not become a sennin, and unless you work twenty more years without pay, you will be punished and die." Of course, she knew no magic. She planned to give him an impossible job and make him work for nothing again.

けれども、おかみさんは平気なものでした。「どんなに難しいことでも、わたしの言うとおりにするんだよ。さもないと、仙人になれないばかりか、また二十年、ただで働かないと、罰が当たって死んでしまうからね」もちろん、おかみさんは術など何も知りませんでした。とてもできそうにないことを言いつけて、また、ただで働かせようと考えていたのです。

"Climb that pine tree in the garden," she said. Gonsuke climbed it. "Higher. Much higher." Soon he was at the top of the big pine. "Now let go with your right hand." Gonsuke held a branch with his left hand and let go with his right. "Now let go with your left hand too."

「あの庭の松にお登り」とおかみさんは言いました。権助は松に登りました。「もっと高く。もっとずっと高く」まもなく権助は、大きな松のてっぺんまで登りました。「今度は右の手をお放し」権助は左手で枝をしっかりつかみ、右手を放しました。「それから、左の手も放しておしまい」

"Hey, hey!" said the doctor. "If he lets go, he will fall onto the stones and die!" "This is not your business," said his wife. "Now, let go with your left hand!"

「おいおい!」と医者が言いました。「左手を放したら、あの男は下の石の上に落ちて死んでしまうぞ!」「あなたの出る幕じゃありませんよ」とおかみさんは言いました。「さあ、左手を放すんだよ!」

Gonsuke let go. With both hands free, he had to fall. But he didn't! He stopped in the middle of the bright sky and stood there, like a puppet on strings.

権助は手を放しました。両手を放したのですから、落ちないわけがありません。ところが、落ちなかったのです! 権助は明るい空のまん中で止まり、まるであやつり人形のように、そこに立っていました。

"Thank you very much," he said with a polite bow. "Thanks to you, I am now a real sennin." Then he walked quietly up into the blue sky, into the clouds.

「どうもありがとうございました」と、権助はていねいにおじぎをしました。「おかげさまで、わたしも一人前の仙人になれました」そして静かに青空を踏んで、雲の中へのぼっていってしまいました。

Nobody knows what happened to the doctor and his wife. But their pine tree stayed for a long time. They say that a very rich merchant, Yodoya Tatsugoro, later had the huge tree moved to his own garden to enjoy it in the snow.

医者夫婦がどうなったかは、だれも知りません。ただ、その庭の松は、ずっと後まで残っていました。なんでも、大金持ちの商人、淀屋辰五郎が、雪景色を眺めるために、この大木をわざわざ自分の庭へ移させたそうです。

全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

皆さん。わたしは今、大阪にいます。ですから、大阪の話をしましょう。

昔、大阪の町へ奉公に来た男がいました。本当の名前は、わかりません。飯炊きの奉公に来た男なので、ただ権助とだけ呼ばれています。こういう奉公人によくある名前でした。

権助は、仕事を世話してくれる口入れ屋へ行きました。「わたしは仙人になりたいのです。そういう所で働かせてください」仙人というのは、中国の古い話に出てくる知恵のある人で、年をとらず、死ぬこともなく、空を飛ぶことさえできるといいます。

番頭はあっけにとられて、口もきけませんでした。「まことにお気の毒ですが」と番頭はやっと言いました。「うちではまだ一度も、仙人の仕事を世話したことはありませんので」

「それはおかしいでしょう」と権助は言いました。「お宅ののれんには、『よろず口入れ所』と書いてあるじゃありませんか。のれんにうそを書いたのですか?」番頭は、いやとは言えませんでした。「わかりました。明日また来てください」

けれども番頭には、どこへ行かせればよいのか、さっぱり分かりませんでした。そこで、近所の医者に相談しました。すると、「古狐」とあだ名される、ずるがしこい医者のおかみさんが言いました。「うちへよこしなさいよ。二、三年のうちに、きっと仙人にしてみせるから」

「なんてばかなことを言うんだ!」と医者は言いました。「その男が文句を言い出したら、どうするつもりだ?」けれども、おかみさんは笑うだけでした。「あなたみたいにばか正直すぎる人は、このせちがらい世の中で、ごはんを食べることもできませんよ」

次の日、権助は一番いい着物を着てやって来ましたが、見たところは、ただの百姓と少しも変わりません。「なぜ仙人になりたいのだね?」と医者はたずねました。「大阪のお城を見て、思ったのです。豊臣秀吉さまのように偉い人でも、いつかは死んでしまう。どんなに金持ちになっても、人の命ははかないものだと」

「それじゃあ、仙人になるためなら、どんな仕事でもするかい?」とおかみさんがたずねました。「はい、どんな仕事でもいたします」「では、二十年のあいだ、うちで働きなさい。そうしたら教えてあげよう。でも、お給金は一文もやらないよ」「はい、はい。ありがとうございます!」

二十年のあいだ、権助は水をくみ、薪を割り、ご飯を炊き、掃除をし、医者の薬箱を背負ってお供をしました。そして、お給金をくれと言ったことは、一度もありませんでした。これほど重宝な奉公人は、日本中探してもいないでしょう。

二十年たつと、権助はまた一番いい着物を着て、主人夫婦にお礼を言いました。「では、仙人になる術を教えてください」医者は困ってしまいました。「術を知っているのは、女房のほうだ。女房に聞きなさい」そう言うと、医者はそっぽを向いてしまいました。

けれども、おかみさんは平気なものでした。「どんなに難しいことでも、わたしの言うとおりにするんだよ。さもないと、仙人になれないばかりか、また二十年、ただで働かないと、罰が当たって死んでしまうからね」もちろん、おかみさんは術など何も知りませんでした。とてもできそうにないことを言いつけて、また、ただで働かせようと考えていたのです。

「あの庭の松にお登り」とおかみさんは言いました。権助は松に登りました。「もっと高く。もっとずっと高く」まもなく権助は、大きな松のてっぺんまで登りました。「今度は右の手をお放し」権助は左手で枝をしっかりつかみ、右手を放しました。「それから、左の手も放しておしまい」

「おいおい!」と医者が言いました。「左手を放したら、あの男は下の石の上に落ちて死んでしまうぞ!」「あなたの出る幕じゃありませんよ」とおかみさんは言いました。「さあ、左手を放すんだよ!」

権助は手を放しました。両手を放したのですから、落ちないわけがありません。ところが、落ちなかったのです! 権助は明るい空のまん中で止まり、まるであやつり人形のように、そこに立っていました。

「どうもありがとうございました」と、権助はていねいにおじぎをしました。「おかげさまで、わたしも一人前の仙人になれました」そして静かに青空を踏んで、雲の中へのぼっていってしまいました。

医者夫婦がどうなったかは、だれも知りません。ただ、その庭の松は、ずっと後まで残っていました。なんでも、大金持ちの商人、淀屋辰五郎が、雪景色を眺めるために、この大木をわざわざ自分の庭へ移させたそうです。

日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

日本語訳:多読ベスト

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. Why did Gonsuke want to become a sennin?

Q2. How much money did Gonsuke get for twenty years of work?

Q3. What happened when Gonsuke let go with both hands?

この話の単語 CEFR-JA2・B1・B2の語 38語/タップで意味・単語帳へ
  • A1中学基礎 88.4%
  • A2高校入門 5.7%
  • B1受験コア 1.8%
  • B2難関大 1%
  • リストにない語 3.2%

本文の語の割合(人名などは数えていません)。「リストにない語」は固有名詞・古い言い方・やさしい複合語などです。

B2難関大の語 2語

B1受験コアの語 11語

A2高校入門の語 25語

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この読み物の使い方 3ステップ

  1. 聞きながら読む 音声に合わせて光る文を目で追う(聞き読み)。わからない語は飛ばしてOK。
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聞き読みの効果とやり方/多読三原則

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