「宅急便」も「シーチキン」も「セロテープ」も、それぞれ1つの会社の登録商標だった

読む前に予想してみよう!
「宅急便」は、どの会社の荷物サービスにも使える一般の言葉だ
「宅急便」はヤマトホールディングスの登録商標。国語辞典でも「宅配便の商標名」と説明されている。
- 対象
- 3つの商品名(宅急便・シーチキン・セロテープ)
- 規模
- 会社の公式資料4件・国語辞典・百科事典・商標法
- 研究の種類
- 公式資料と辞書の照合
- 確かさ
- ★★★★☆
宅急便はヤマト、シーチキンははごろもフーズ、セロテープはニチバンの登録商標。一般の名前は宅配便・ツナ・セロハンテープ。宅急便の初日の荷物は11個だった。
ひとことで言うと「宅急便」「シーチキン」「セロテープ」は、どれも1つの会社だけの名前なんだって!
もくじ
「これ、宅急便で送っといて」
そう頼まれて、郵便局からゆうパックで送ったとします。荷物はちゃんと届きますが、言葉としては少しずれています。
「宅急便」はヤマトホールディングスの登録商標(国に登録して、その会社のものだと認められた名前)。ほかの会社のサービスも含めた一般の名前は「宅配便」です。同じように、「シーチキン」ははごろもフーズ、「セロテープ」はニチバンの登録商標。毎日のように口にするこの3つは、どれも1つの会社だけが持つ名前でした。
01「宅急便」はヤマトの名前。一般の言葉は「宅配便」
ヤマトホールディングスが投資家向けに出している用語集には、「宅急便」がこう説明されています。ヤマト運輸が提供する宅配便サービスで、ヤマトホールディングス株式会社の登録商標。
国語辞典も同じ立場です。小学館の『デジタル大辞泉』は「宅急便」を「宅配便の商標名」と説明し、「宅配便」の項目を見るように案内しています。辞書の上でも、ふつうの言葉は「宅配便」のほうなのです。
初日に11個だった荷物が、17年後には1か月で1億個。いま「宅急便」が一般の言葉のように聞こえるのは、それだけ多くの人が使ってきたからでしょう。
ただし、宅配便を最初に始めたのはヤマトではありません。『世界大百科事典』と『日本大百科全書』によると、宅配便は1974年に東北地方の三八五(みやご)貨物が初めて始めたとされ、1976年にヤマト運輸(当時の社名は大和運輸)が「宅急便」という商品名で加わってから、広く使われるようになりました。その後は日本通運の「ペリカン便」などが続き、各社が動物の名前をブランドに使うことが多かったため「動物戦争」とも呼ばれたそうです。

02「シーチキン」は“海のとり肉”
ツナ缶の代名詞のような「シーチキン」。はごろもフーズの公式サイトには、はっきりこう書かれています。「シーチキン」は、はごろもフーズ株式会社の登録商標で、はごろもフーズだけが使うことができる。
名前の由来も、同じページで説明されています。蒸した「びんながまぐろ」が、味も食感も「とり肉」にそっくりだった。そこで「海(Sea)のとり肉(Chicken)」という意味で名付けた、というものです。
歴史をたどると、次のようになります。
- 日本でツナ缶が作られ始めたのは1929年。当時は「まぐろ油漬缶詰」と呼ばれ、日本ではまだ食べる習慣がなく、多くはアメリカへ輸出していた
- 1958年、はごろもフーズが国内で売り出すときに「シーチキン」と名付けた
- 当時は缶詰に商品名を付けることがとてもめずらしく、シーチキンが「初」だったそうだ(会社の説明。会社自身も「だそうです」と伝聞の形で書いている)
では、ほかの会社の商品は何と呼べばよいのでしょう。『デジタル大辞泉』の「ツナ」は、マグロ類のことで、一般にビンナガの油漬けをいう、と説明しています。一般の言葉は「ツナ」、缶なら「ツナ缶」です。
03「セロテープ」はGHQの依頼から生まれた
3つめは文房具です。ニチバンが2018年に出したニュースリリースには、「※セロテープ®はニチバンの登録商標です」と書かれています。一般の名前は「セロハンテープ」。『日本国語大辞典』も「セロテープ」を「セロハンで作った粘着テープ(セロハンテープ)の商標名」と説明しています。
誕生のきっかけは、戦後の日本に駐留していたGHQ(連合国軍総司令部)でした。リリースによると、流れはこうです。
- GHQは大量のセロハン粘着テープを必要としていた。アメリカから輸入するのではなく日本で作るよう、1947年12月、日絆工業(いまのニチバン)に作れないかと持ちかけた
- ニチバンは絆創膏(ばんそうこう)の技術を応用し、1か月後の1948年1月に試作品を作ることに成功した
- 改良を重ね、1948年6月に「セロテープ」の名前で一般向けの販売を始めた
発売したころの日本には、ものを貼るのにテープを使う習慣がありませんでした。そこで宣伝カーが全国を回り、使い方を広めたそうです。今では当たり前の「テープで貼る」は、発売当時の日本人にとって新しい習慣だったのです。
04英語でもセロハンテープは「商標」で呼ばれる
商品名がふつうの言葉のように使われるのは、日本語だけではありません。ケンブリッジ英語辞典で確かめると、セロハンテープの呼び方がまさにそうです。
- Sellotape:イギリスの商標(UK trademark)。a roll of Sellotape(セロハンテープ1巻)のように使う
- Scotch tape:アメリカの商標(US trademark)。意味は Sellotape と同じ
- イギリスでは sellotape が動詞にもなる。I sellotaped the note to the door.(メモをドアにテープで貼った)
日本の「セロテープ」、イギリスの Sellotape、アメリカの Scotch tape。3つの国で、同じテープがそれぞれ別の会社の商標で呼ばれているわけです。
05どんでん返し:「みんなの言葉」になると困ることもある
商品名がここまで広まるのは、会社にとって名誉なことに見えます。でも、法律の目で見ると話は単純ではありません。
日本の商標法は、商品の「普通名称」(その品物を表すふつうの言葉)を、ふつうの書き方で示しただけの名前は登録できない、と定めています(第3条)。登録された後でも、普通名称をふつうに書いて使うことは、商標を持つ会社でも止められません(第26条)。会社が「登録商標です」とくり返し書くのは、その名前が自社のものだと示し続けるため、と読むこともできます。
また、それぞれの「由来」にも、資料によって食い違いがあります。
- シーチキンの名前の理由:会社は「味も食感もとり肉にそっくりだったから」と説明。一方『日本国語大辞典』は「鶏肉と同様に、脂肪が少なく、低カロリー、高蛋白なので」と別の理由を書いている
- セロテープの発売年:会社の発表は1948年6月。ところが『デジタル大辞泉プラス』は「1947年発売」と書いている。この記事では会社の発表に合わせた
- 宅配便の始まり:最初に始めたのはヤマトではない。百科事典は1974年の三八五貨物を最初としている(『日本大百科全書』は「とされ」という書き方)
06まとめ
「宅急便」「シーチキン」「セロテープ」。どれも、1つの会社が名付けて育て、今も登録商標として守っている名前でした。会社を問わずに言うなら、宅配便・ツナ・セロハンテープです。
次に荷物を出すとき、ツナ缶を買うとき、テープを貼るとき。その言葉がどの会社の名前なのかを思い出すと、いつもの日本語が少し違って見えてきます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk someone in Japan to send a package by "takkyubin," and they might take it to any delivery company.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, people often say "takkyubin" when they send a parcel. But this word belongs to one company, Yamato. It is a registered trademark.
The general word is "takuhaibin." "Sea Chicken" and "Cellotape" work the same way. They belong to Hagoromo Foods and Nichiban.
Other companies also sell canned tuna and cellophane tape, but they cannot use these names. Yamato started its service in January 1976. On the first day, it carried only 11 parcels.
75 words ・ CEFR A2
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日本では、荷物を送るときによく「宅急便」と言います。でもこの言葉は、ヤマトという1つの会社のものです。登録商標なのです。
一般の言葉は「宅配便」です。「シーチキン」と「セロテープ」も同じです。これらは、はごろもフーズとニチバンのものです。
ほかの会社もツナ缶やセロハンテープを売っていますが、これらの名前は使えません。ヤマトは1976年1月にサービスを始めました。初日に運んだ荷物は、たった11個でした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宅急便・シーチキン・セロテープが1社の登録商標だという話なので B。
Q2. How many parcels did Yamato carry on the first day?
On the first day, it carried only 11 parcels. とあるので A。1976 は始まった年。
Q3. In the passage, what does "belongs to" mean in "this word belongs to one company"?
belong to は「〜のものである」。宅急便という言葉はヤマトが持っている、という意味なので B。
Ask someone in Japan to send a package by "takkyubin," and they might take it to any delivery company. But the word is a registered trademark of Yamato Holdings. One Japanese dictionary describes it as the brand name for "takuhaibin," the general term for home delivery.
Yamato started the service in January 1976 and carried just 11 parcels on the first day. By December 1993, it was handling 100 million parcels a month. Two other everyday words work the same way.
"Sea Chicken" belongs to Hagoromo Foods, which gave the name to its canned tuna in 1958 because the steamed fish tasted like chicken. "Cellotape" belongs to Nichiban. The company began making the tape after a request from the occupation forces in 1947 and started selling it in June 1948.
130 words ・ CEFR B1
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日本でだれかに「宅急便」で荷物を送ってと頼むと、その人はどの配送会社に持っていってもおかしくない。しかしこの言葉は、ヤマトホールディングスの登録商標だ。日本の国語辞典の一つは、これを宅配の一般的な言葉である「宅配便」の商標名と説明している。
ヤマトは1976年1月にこのサービスを始め、初日に運んだ荷物はわずか11個だった。1993年12月には、1か月に1億個を扱うまでになっていた。ほかにも2つ、同じしくみの日常語がある。
「シーチキン」ははごろもフーズのもので、同社は蒸した魚がとり肉のような味だったことから、1958年に自社のツナ缶にこの名前を付けた。「セロテープ」はニチバンのものだ。同社は1947年に占領軍から依頼を受けてテープを作り始め、1948年6月に販売を始めた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
宅急便・シーチキン・セロテープの3語が、どれも1社の登録商標だという話なので B。
Q2. Why did Hagoromo Foods choose the name "Sea Chicken"?
because the steamed fish tasted like chicken とあるので C。
Q3. What can we guess about the person who takes a "takkyubin" package to any company?
どの会社に持っていってもよいと思っているので、宅急便を宅配の一般的な言葉として使っていると考えられる。A。
Three words that people in Japan use all the time are not ordinary nouns. "Takkyubin" is a registered trademark of Yamato Holdings, "Sea Chicken" belongs to Hagoromo Foods, and "Cellotape" belongs to Nichiban. The general terms are "takuhaibin," "tuna" and "cellophane tape." Each name comes with a story, and the stories do not always match.
Yamato's service began in January 1976 and carried 11 parcels on its first day, but encyclopedias say a mid-sized trucking firm in northeastern Japan had already started home delivery in 1974. Hagoromo says it picked "Sea Chicken" in 1958 because steamed albacore tasted like chicken. A major Japanese dictionary gives a different reason: the fish, like chicken, is low in fat and high in protein.
Nichiban dates its first sales to June 1948, while one dictionary says 1947. The companies may also have a practical reason to keep printing "registered trademark" next to these names. Under Japan's Trademark Act, a name that only states the common name of a product cannot be registered, and trademark rights do not reach such common names. English speakers do the same thing with tape. The British call it Sellotape, and Americans call it Scotch tape.
196 words ・ CEFR B2
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日本でいつも使われている3つの言葉は、ふつうの名詞ではない。「宅急便」はヤマトホールディングスの登録商標で、「シーチキン」ははごろもフーズ、「セロテープ」はニチバンのものだ。一般の言葉は「宅配便」「ツナ」「セロハンテープ」である。どの名前にも物語があるが、その物語はいつも一致するわけではない。
ヤマトのサービスは1976年1月に始まり、初日に11個の荷物を運んだが、百科事典によれば、東北地方の中堅のトラック会社が1974年にすでに宅配を始めていた。はごろもフーズは、蒸したビンナガマグロがとり肉のような味だったので1958年に「シーチキン」を選んだと言う。日本の大きな辞書は別の理由を挙げている。この魚はとり肉と同じように、脂肪が少なくたんぱく質が多い、というのだ。
ニチバンは最初の販売を1948年6月としているが、ある辞書は1947年としている。会社がこれらの名前の横に「登録商標」と書き続けるのには、実際的な理由もあるのかもしれない。日本の商標法では、商品のふつうの名前を示すだけの名前は登録できず、そうしたふつうの名前には商標権が及ばない。英語の話し手もテープで同じことをしている。イギリス人はそれを Sellotape と呼び、アメリカ人は Scotch tape と呼ぶ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
3つの日常語が登録商標であることと、その由来の食い違いや法律の話なので C。
Q2. According to the passage, which point do the sources disagree on?
Nichiban dates its first sales to June 1948, while one dictionary says 1947. とあるので B。
Q3. What does the passage suggest about why companies keep printing "registered trademark"?
ふつうの名前には商標権が及ばないと説明しているので、自社の名前だと示し続ける理由があると読める。C。
重要単語
- trademarkB2名詞商標"Sea Chicken" is a trademark, so other companies can't use it.
registered trademark で「登録商標」。マーク ® は registered の頭文字。 - brand nameB1名詞商品名、銘柄Many people use the brand name instead of the general word.
辞書では a brand name for ...(〜の商品名)という説明の形でよく出る。 - genericC1形容詞一般的な、商標でない"Tuna" is a generic word, but "Sea Chicken" is not.
generic drug は「後発医薬品(ジェネリック)」。もとは「種類(genus)全体の」という意味。 - parcelB1名詞小包、荷物I sent a parcel to my grandmother in Osaka.
イギリス英語でよく使う。アメリカ英語では package が多い。 - registerB1動詞登録するThe company registered the name as a trademark.
名詞は registration(登録)。cash register は「レジ」。 - deliveryB1名詞配達Home delivery has become part of daily life.
deliver(配達する)の名詞形。「デリバリー」は日本語にもなっている。
公式・一次情報をチェック
- デジタル大辞泉「宅急便」(コトバンク)kotobank.jp
- Scotch tape(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
- sellotape(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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「宅急便」はヤマト、「シーチキン」ははごろもフーズ、「セロテープ」はニチバンの登録商標。一般の名前は宅配便・ツナ・セロハンテープ。宅急便の初日(1976年1月20日)に運んだ荷物は、たった11個だった。
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出典・参考文献(9件)タップで表示
- ヤマトホールディングス「用語集」(株主・投資家情報)「宅急便」yamato-hd.co.jp
- ヤマト運輸「沿革」kuronekoyamato.co.jp
- はごろもフーズ「シーチキン情報」hagoromofoods.co.jp
- ニチバン (2018) ニュースリリース「おかげさまでセロテープ® 発売70周年 パッケージデザインをリニューアル」nichiban.co.jp
- 日本大百科全書(ニッポニカ)・改訂新版 世界大百科事典・デジタル大辞泉「宅配便」(コトバンク)kotobank.jp
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉・デジタル大辞泉プラス「セロテープ」(コトバンク)kotobank.jp
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「シーチキン」(コトバンク)kotobank.jp
- 商標法(昭和34年法律第127号)第3条・第26条(e-Gov 法令検索)laws.e-gov.go.jp
- Cambridge Dictionary「Sellotape」「Scotch tape」dictionary.cambridge.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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