シェイクスピアの14行詩の6割に、今の発音では合わない韻。400年前は love と prove も韻

読む前に予想してみよう!
シェイクスピアの詩や劇は、今のイギリス英語の発音で読めば、書かれた当時と同じように韻が合う
言語学者クリスタルによると、ソネット154編のうち96編には、今の発音では合わない韻がある。当時の発音を復元すると、love と prove のような組が韻を踏む。
- 対象
- シェイクスピアのソネット154編と劇の韻・しゃれ、同時代の文法書・つづり
- 規模
- ソネット154編・劇の韻文684場面
- 研究の種類
- 韻・しゃれ・つづり・当時の記述からの発音の復元+上演
- 確かさ
- ★★★☆☆
シェイクスピアの14行詩(ソネット)154編のうち96編には、今の発音だと合わない韻がある。当時の発音を復元すると love と prove は韻を踏み、意味の通らなかったしゃれも生き返る。
ひとことで言うとシェイクスピアの詩を400年前の発音で読むと、love と prove のように今は合わない韻がピタッと合う!
If this be error and upon me prov'd,I never writ, nor no man ever lov'd.(もしこれがまちがいだと証明されたなら、私は何も書かなかったし、だれも人を愛したことがないことになる)
シェイクスピアの有名な14行詩(ソネット)116番の、最後の2行です。英語の詩は行の終わりの音をそろえる「韻(ライム)」を踏む、と授業で習った人もいるでしょう。prov'd は proved、lov'd は loved のことです。でも声に出すと、proved(プルーヴド)と loved(ラヴド)は、そろっていません。
言語学者デイヴィッド・クリスタルによると、ソネット154編のうち 96編 には、今の英語の発音だと合わない韻の組があります。シェイクスピアが韻を外したのでしょうか。
答えは「発音のほうが変わった」です。シェイクスピアの時代、love と prove は韻を踏んでいました。
01「目で見る韻」ではなかった
つづりが似ているだけの「目で見る韻」だったのでは、と思うかもしれません。クリスタルは、それはないと考えています。理由は2つです。当時は目で見る韻がはやっていなかったこと。そして、目で見る韻はつづりが決まっていてこそ使えるのに、当時は つづりがまだ統一されていなかった ことです。
では、なぜ「韻を踏んでいた」と言えるのか。クリスタルの答えは「当時の書き手がそう書いているから」。クリスタルが例に挙げるのが、シェイクスピアと同時代の劇作家ベン・ジョンソンです。ジョンソンは自分の英文法の本で、短い o の音の例として brother, love, prove を並べています。
02当時の音で、しゃれと韻が生き返る
発音が分かると、今の英語では気づけない仕掛けが見えてきます。まず、しゃれです(クリスタルの講演から)。
- 『ロミオとジュリエット』の前口上(幕が開くときの語り)From forth the fatal loins of these two foes(宿敵どうしの両家の腰から)。当時は loins(腰)と lines(家系)が同じ音。「血筋」の意味が重なる
- 『トロイラスとクレシダ』で、毒舌家テルシテスがギリシャの勇者エイジャックス(Ajax)をこきおろす場面。当時の発音では Ajax が a jakes(トイレ) と同じ音になり、ひどい悪口になる
韻も合うようになります。喜劇『夏の夜の夢』3幕2場で、いたずら好きの妖精パックが言うセリフです。
*Then will two at once woo one.**That must needs be sport alone.*(2人の男が一度に1人の娘に言い寄るぞ。こいつはまたとない見ものだ)
今の発音では、one(ワン)と alone(アローン)は韻になりません。クリスタルの復元では、どちらも「オーン」に近い同じ音で終わり、ぴたりと韻を踏みます。妖精たちは韻を踏んだセリフで話す役なのに、今の英語ではそれが聞こえないのです。
同じ場面で妖精の王オーベロンが、ほれ薬を若者の目にぬりながら唱える呪文も同じです。
Flower of this purple dye,Hit with Cupid's archery,Sink in apple of his eye.(紫に染まった花よ、キューピッドの矢に射られた花よ、この男のひとみにしみこめ)
今の英語では、archery(アーチェリー)だけが「イー」で終わり、dye や eye と合いません。クリスタルの復元では、archery の終わりも dye・eye と同じ「アイ」に近い音になり、呪文の行の終わりがそろいます。
032004年、グローブ座の実験
この発音を、実際に舞台でやってみたのがロンドンのシェイクスピア・グローブ座です。
2004年、グローブ座は『ロミオとジュリエット』を、ふつうの発音の公演と並べて、週末だけ当時の発音で 上演しました。指導したのがクリスタルです。役者たちが当時の発音を練習できたのは1か月ほど。台本は発音記号だらけでした。

クリスタルのラジオ原稿によると、結果はこうでした。
- 終演後の話し合いで、観客は 1幕の途中で この発音に慣れたと話した
- 発音の公演のほうが、ふつうの発音の公演より 10分短く なった。当時の発音は、音を省いたり、つなげたりして速く話すから
- 見に来た15歳の少年は「あの人たち、オレたちみたいにしゃべってる」と言った。ほかの生徒も「ふつうの劇の役者はいつも上品ぶった話し方」と話した
翌2005年には『トロイラスとクレシダ』を、すべての公演で当時の発音で上演しました。クリスタルが2016年にオックスフォード大学出版局のブログに書いたところでは、その後の上演はアメリカでも広がり、2016年の時点で当時の発音で試された劇は12作ほどです。
04なぜ学校では今の発音で読むのか
授業でシェイクスピアを今の発音で読むのは、おかしなことではありません。目的は、まず意味を理解することだからです。
それに、当時の発音は録音が残っているわけではなく、手がかりから組み立てた「復元」 です。クリスタル自身も、どの母音や子音を使ったかはかなり分かるが、声の上げ下げ(イントネーション)や話しぶりはほとんど分からない と書いています。
05どんでん返し:「うちの地元にそっくり」は全員はずれ
グローブ座の休憩時間、クリスタルが話を聞いた観客のほとんどは「うちの地元の話し方にそっくり」と言いました。
クリスタルの説明では、聞く人によって気づく音が違います。母音のあとの r を発音する地域(イングランド西部や、アメリカの多くの地域)の人は、その r に耳がいきます。スコットランドの人は prove を love と韻を踏む発音に、オーストラリアの人は yet を「イット」のように言う母音に、自分たちとの共通点を見つけます。
どの地域の人にも聞き覚えがあるのは、今の英語のなまりがどれも「おおむね」この発音までさかのぼれるから、とクリスタルは説明しています。でも、その音の組み合わせは、今のどのなまりにもありません。「そっくり」と言った人は、じつはだれも当たっていなかったのです。
06まとめ
シェイクスピアのソネットの多くには、今の発音だと合わない韻があります。でも、つづり・韻・しゃれ・当時の人の解説から組み立てた当時の発音で読むと、love と prove は韻を踏み、loins と lines のしゃれも聞こえてきます。
韻が合わないのは、シェイクスピアのせいではなく、400年で英語の発音が変わったから。 教科書の英語も、いつかは「昔の発音」になるのです。
よくある質問
シェイクスピアの時代の英語はどんな発音だったのですか?
今の英語とは違い、たとえば love と prove が韻を踏む発音でした。言語学者クリスタルは、つづり・韻・しゃれ・当時の人の発音の解説の4つの手がかりから、当時の発音(Original Pronunciation、OP)を組み立てています。
なぜシェイクスピアの詩は今の発音だと韻が合わないのですか?
400年で英語の発音が変わったからです。クリスタルによると、ソネット154編のうち96編に、今の発音では合わない韻の組があります。当時の発音を復元すると、love と prove のような組がそろいます。
love と prove は「目で見る韻」だったのではありませんか?
クリスタルは、それはないと考えています。当時は目で見る韻がはやっておらず、つづりもまだ統一されていなかったからです。同時代の劇作家ベン・ジョンソンも、短い o の音の例として brother, love, prove を並べています。
当時の発音で読むと何が分かるのですか?
今は気づけないしゃれや韻が分かります。『ロミオとジュリエット』の前口上では、当時は loins(腰)と lines(家系)が同じ音で、「血筋」の意味が重なります。『夏の夜の夢』の one と alone も韻を踏みます。
当時の発音での上演はありますか?
あります。2004年、ロンドンのシェイクスピア・グローブ座が『ロミオとジュリエット』を週末だけ当時の発音で上演し、クリスタルが指導しました。観客は1幕の途中で慣れたと話し、ふつうの公演より10分短くなりました。
当時の発音はどれくらい正確に分かっているのですか?
クリスタル自身は、確かさを「だいたい80%」と言っています。録音はなく、手がかりから組み立てた復元です。どの母音や子音を使ったかはかなり分かるものの、イントネーションや話しぶりはほとんど分からないと書いています。
学校の音読ではシェイクスピアをどの発音で読めばいいですか?
今の発音(辞書の発音)でかまいません。授業の目的は、まず意味を理解することだからです。love は「ラヴ」、prove は「プルーヴ」で読みます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHow do we know what English sounded like 400 years ago?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Shakespeare wrote 154 short poems called sonnets. Each sonnet has fourteen lines, and the ends of the lines are meant to rhyme in pairs. But in 96 of the sonnets, some of these pairs do not rhyme in today's English.
For example, "proved" and "loved" sound different now. The language expert David Crystal says the sounds of English have changed in 400 years. In Shakespeare's time, "love" and "prove" really did rhyme.
72 words ・ CEFR A2
和訳を見る
シェイクスピアは、ソネットと呼ばれる短い詩を154編書きました。ソネットは14行の詩で、行の終わりが2つずつ組になって韻を踏むことになっています。でもそのうち96編では、今の英語だと韻を踏まない組があります。
たとえば、proved と loved は今では違う音です。言葉の専門家デイヴィッド・クリスタルは、英語の音が400年で変わったのだと言います。シェイクスピアの時代には、love と prove は本当に韻を踏んでいました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
今の英語では韻が合わない理由(発音が変わった)を説明しているので B。
Q2. How many of Shakespeare's sonnets have rhymes that don't work in today's English?
in 96 of the sonnets, some of these pairs do not rhyme in today's English とあるので D。154はソネット全体の数。
Q3. In the passage, what does "rhyme" mean?
proved と loved が「違う音」だから韻を踏まない、という流れから、rhyme は「終わりの音がそろう」の意味。A。
How do we know what English sounded like 400 years ago? There are no recordings, but there are clues. The linguist David Crystal uses four kinds of them. They are old spellings, rhymes, puns, and comments by people of the time.
The playwright Ben Jonson, for example, listed "brother," "love," and "prove" together in his grammar of English as examples of the same vowel. Rhymes help too. In A Midsummer Night's Dream, the fairy Puck ends one line with "woo one" and the next with "sport alone."
The two lines are meant to rhyme, so "one" must once have sounded much like "alone." Crystal says he is about 80 percent sure of how the words sounded.
116 words ・ CEFR B1
和訳を見る
400年前の英語がどんな音だったか、どうして分かるのだろうか。録音はないが、手がかりはある。言語学者デイヴィッド・クリスタルは4種類の手がかりを使う。昔のつづり、韻、しゃれ、そして当時の人の解説だ。
たとえば劇作家ベン・ジョンソンは、自分の英文法の本で、brother、love、prove を同じ母音の例としていっしょに並べた。韻も役に立つ。『夏の夜の夢』で、妖精パックは1行を woo one で終え、次の行を sport alone で終える。
この2行は韻を踏むはずなので、one はかつて alone とよく似た音だったにちがいない。クリスタルは、当時の言葉の音はだいたい80%の確かさで分かると言っている。
4択リーディングクイズ
Q1. Which is NOT one of the four kinds of clues mentioned in the passage?
There are no recordings とあり、4つの手がかりは spellings, rhymes, puns, comments なので C。
Q2. What did Ben Jonson do, according to the passage?
listed "brother," "love," and "prove" together ... as examples of the same vowel とあるので B。
Q3. What does the example from A Midsummer Night's Dream show?
The two lines are meant to rhyme, so "one" must once have sounded much like "alone." とあるので B。
In 2004, Shakespeare's Globe in London tried an experiment. According to David Crystal, the accents of Shakespeare's day had not been heard on a London stage for about 400 years. For one weekend, its actors performed Romeo and Juliet in "original pronunciation," a version of English as it was probably spoken around 1600. Crystal coached them, and they had about a month to learn it.
At a discussion after the show, audience members said they had got used to the accent by the middle of the first act. The production also ran ten minutes shorter than the modern version, because sounds were dropped and words were run together. A 15-year-old in the audience said the actors were talking like him and his friends.
Almost everyone Crystal spoke to in the breaks said the accent was just like the one back home. He says none of them were right. Each region has kept a few of these old sounds, but no modern accent has the full set. Crystal also admits the limits of his method. Spellings, rhymes, and old descriptions tell us a lot about vowels and consonants, but very little about the rise and fall of the voice.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
2004年、ロンドンのシェイクスピア・グローブ座は、ある実験をした。デイヴィッド・クリスタルによれば、シェイクスピアの時代のなまりは、ロンドンの舞台で400年ほど聞かれていなかった。ある週末だけ、役者たちは『ロミオとジュリエット』を「当時の発音」で上演したのだ。1600年ごろにおそらく話されていた形の英語である。
クリスタルが彼らを指導し、役者たちがそれを覚える期間は1か月ほどだった。上演後の話し合いで、観客は1幕の途中までにこのなまりに慣れたと話した。また、音が省かれ、語がつなげて話されたため、この上演はふつうの発音の版より10分短くなった。観客の15歳の少年は、役者たちが自分や友だちのようにしゃべっていると言った。
休憩中にクリスタルが話した人のほとんどは、このなまりは地元の話し方にそっくりだと言った。クリスタルは、そのだれも正しくないと言う。どの地域もこの古い音をいくつか残してきたが、全部をそろえている今のなまりはない。クリスタルは、自分の方法の限界も認めている。つづり、韻、昔の解説は、母音や子音については多くを教えてくれるが、声の上がり下がりについてはほとんど教えてくれない。
4択リーディングクイズ
Q1. Why was the original-pronunciation show shorter than the modern one?
because sounds were dropped and words were run together とあるので B。
Q2. What does Crystal say about people who thought the accent sounded like their own?
Each region has kept a few of these old sounds, but no modern accent has the full set. とあるので C。
Q3. What can be inferred about the intonation used in the 2004 production?
old descriptions tell us ... very little about the rise and fall of the voice とあるので、声の上がり下がりは当時の確かな証拠で確かめられなかったと推測できる。D。
重要単語
- rhymeB1動詞・名詞韻を踏む;韻"Cat" rhymes with "hat."
rhyme with ~「~と韻を踏む」。発音は「ライム」で、つづりの h と y に注意。 - punB2名詞しゃれ、語呂合わせ"Lettuce in" for "let us in" is a pun.
make a pun「しゃれを言う」。同じ音で別の意味を重ねる言葉遊び。 - sonnetC1名詞ソネット、14行詩Shakespeare wrote 154 sonnets.
14行でできた詩。シェイクスピアのソネットは、最後の2行が韻を踏む形。 - pronounceA2動詞発音するHow do you pronounce this word?
名詞は pronunciation。つづりが pronoun- ではなく pronun- になるので注意。 - evidenceB1名詞証拠、根拠Old spellings give us evidence about sounds.
数えられない名詞。a piece of evidence「1つの証拠」。 - reconstructC1動詞再現する、組み立て直すLinguists try to reconstruct how people spoke long ago.
re-(もう一度)+construct(組み立てる)。名詞は reconstruction(復元)。 - playwrightB2名詞劇作家Ben Jonson was a playwright who lived at the same time as Shakespeare.
-wright は「作る人」(wheelwright「車大工」など)。write ではないので、つづりに注意。
公式・一次情報をチェック
このネタ、誰かに教えたくなった?
シェイクスピアの14行詩(ソネット)154編のうち96編には、今の発音だと韻を踏まない組がある。でも400年前の発音では love と prove はちゃんと韻。同時代のベン・ジョンソンが文法書で love と prove を同じ音の例に並べていた。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Crystal, D. (2011) Shakespeare in Period Speech: Seven Types of Pronounceability, William Empson Memorial Lecture, University of Sheffield(著者サイトの講演原稿)davidcrystal.com
- Crystal, D. (2005) Performing the tongue that Shakespeare spoke, Lingua Franca(ABC Australia)のラジオ原稿(著者サイト)davidcrystal.com
- Crystal, D. (2016) Original pronunciation: the state of the art in 2016, OUPblog(Oxford University Press)blog.oup.com
- Shakespeare, W. A Midsummer Night's Dream, Act 3, Scene 2, ll.104–111, 120–121(Folger Shakespeare Library 版の本文)folger.edu
- Shakespeare, W. (1609) Shakespeare's Sonnets(Project Gutenberg)gutenberg.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





