本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
日本語のマジか!?ホント

「話のさわり」は“出だし”じゃない。本来は“いちばん大事なところ”、選んだ人は36.1%

「話のさわり」は“出だし”じゃない。本来は“いちばん大事なところ”、選んだ人は36.1%

読む前に予想してみよう!

「話のさわり」は、本来「話の最初の部分」という意味だ

研究カード(どんな研究?)
対象
全国16歳以上(文化庁「国語に関する世論調査」)
規模
2,015人(2016年度)
研究の種類
全国世論調査(個別面接)+辞書・百科事典の記述
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「さわりだけ聞かせて」のさわりは、本来「最初の部分」ではなく要点や聞きどころ。文化庁の調査では53.3%が「最初の部分」を選び、本来の意味は36.1%だった。

ひとことで言うと「曲のさわり」は出だしじゃなくて、いちばんの聞きどころなんだって!

もくじ
  1. 半数以上が「最初の部分」と答えた
  2. もとは義太夫節の「ほかの節にさわる」部分
  3. 三味線の「さわり」は、わざと弦を“触らせる”音
  4. 英語なら gist と the best part
  5. どんでん返し:じわじわ“本来の意味”が増えている
  6. まとめ

「その曲、さわりだけ聞かせて」。

こう言われたら、イントロから数秒だけ流しますか? じつは辞書の意味では、「さわり」は出だしではありません。曲ならいちばんの聞きどころ、話ならいちばん大事なところのことです。

文化庁の「国語に関する世論調査」では、「話のさわりだけ聞かせる」の「さわり」を、本来の意味とされる「話などの要点のこと」と答えた人は36.1%。「話などの最初の部分のこと」と答えた人は53.3%で、半数をこえていました。

01半数以上が「最初の部分」と答えた

調査の例文は「話の」さわりですが、曲や映画の「さわり」も同じことばです。どこが「さわり」なのかを、語源からたどってみましょう。

02もとは義太夫節の「ほかの節にさわる」部分

「さわり」は、漢字で書くと「触り」。もともとは、義太夫節(ぎだゆうぶし)の用語でした。義太夫節は、人形浄瑠璃などで太夫が三味線に合わせて物語を語る音楽です。

『世界大百科事典』(平凡社)の解説(加納マリさん)によると、意味はこう移っていきました。

  1. もとは「他流の節(ふし)に触る」という意味で、義太夫節の中に、ほかの流派のメロディーを取り入れた部分を指した
  2. その部分は目立たせるために入れたものだったので、やがて旋律の美しい部分を指すようになった
  3. さらに、曲の中の聞きどころを意味するようになり、義太夫節以外のいろいろなジャンルでも使われるようになった

『デジタル大辞泉』も、「さわり」の意味として「義太夫節の一曲の中で、一番の聞きどころとされる箇所」を挙げています。そこから広く芸能の「中心となる見どころ・聞きどころ」、そして話や文章の「最も感動的、印象的な部分」へと広がった、と説明しています。

つまり「さわり」は、ほかの節に「触る」部分 → 聞きどころ → 話の大事なところ、と意味を広げてきたことばなのです。辞書や百科事典の説明には、「出だし」という意味は出てきません。

「さわり」は、もとは義太夫節の用語。やがて曲のいちばんの聞きどころを指すようになった(世界大百科事典・デジタル大辞泉)
「さわり」は、もとは義太夫節の用語。やがて曲のいちばんの聞きどころを指すようになった(世界大百科事典・デジタル大辞泉)

03三味線の「さわり」は、わざと弦を“触らせる”音

じつは「さわり」には、もう一つの顔があります。三味線や琵琶の、音の仕組みの名前です。

『日本大百科全書』や『世界大百科事典』によると、三味線のいちばん低い音の弦(一の糸)は、ほかの弦と違って、棹(さお)の上のほうの「上駒(かみごま)」という支えに乗せていません。そのため、弾くと弦が棹に直接触れて、うなりのような複雑な響きが出ます。この仕組みと、その音を「さわり」と呼びます。

澄んだ一つの音ではなく、たくさんの倍音(もとの音に重なる高い音)がまじった音を、わざと出す工夫です。『世界大百科事典』は、その音色が日本人の感覚に合うので好まれてきた、と説明しています。

弦が棹に「さわる」から「さわり」。語りの「さわり」と同じ、「触る」から生まれた名前です。

04英語なら gist と the best part

英語で「話のさわり」に近いのは gist(ジスト)です。オックスフォードの学習辞典は、gist を「文章・スピーチ・会話の主な意味、だいたいの意味」と説明しています。

  • Can you give me the gist?(要点だけ教えてくれる?)
  • I didn't catch every word, but I got the gist.(全部は聞きとれなかったけど、だいたい分かった)

曲の「さわり」なら、the best part がそのまま使えます。反対に「出だし」は the opening や the beginning です。

  • Play me the best part of the song.(その曲のさわりを聞かせて)
  • Play me the opening of the song.(その曲の出だしを聞かせて)

英語では、この二つをはっきり言い分けます。

05どんでん返し:じわじわ“本来の意味”が増えている

ここまで読むと、「さわり」は誤解が広がっていくばかりのことばに見えるかもしれません。でも、数字の流れは逆です。

  • 本来の意味(要点):31.1%(2003年度)→ 35.1%(2007年度)→ 36.1%(2016年度)
  • 最初の部分:59.3% → 55.0% → 53.3%

文化庁も、本来の意味とは違うとされる方を選んだ割合は「減少傾向にある」とまとめています。この3回はどれも面接で行われた調査なので、方法が変わったせいとは考えにくい点も大事です。ただし、文化庁は年代別に過去の調査とくらべた結果について「余り変化は見られない」とも書いていて、変化の幅は大きくありません。

もう一つ、「本来の意味」も一つではありません。文化庁の調査は本来の意味を「話などの要点」としていますが、デジタル大辞泉の説明は「最も感動的、印象的な部分」です。「要点」と「いちばん盛り上がるところ」は、少しずれています。どちらにしても、「出だし」ではないことは同じです。

06まとめ

「さわり」は、義太夫節で「ほかの節に触る」部分を指したことばから、「いちばんの聞きどころ」「話の大事なところ」へと意味を広げてきました。三味線のうなるような響きも、弦が棹に触るから「さわり」です。

「さわりだけ聞かせて」と言われたら、イントロではなく、いちばんの聞かせどころを流すのが本来の使い方。英語なら the best part です。

この研究を英語で読もう原田英語の English Corner"Sawari" is written with the Japanese character for "touch." It started as a term in gidayu, the music that… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

"Sawari" is written with the Japanese character for "touch." It started as a term in gidayu, the music that tells the story in Japanese puppet theater. At first it meant a section that borrowed, or "touched," tunes from other schools of music. These borrowed parts were meant to stand out, so the word came to mean the most beautiful part of a piece.

Later it spread to other arts and to everyday speech. Today many people think it means "the opening." In a survey carried out in early 2017, 53.3 percent chose that meaning, and 36.1 percent chose "the main point." Among people aged 70 or older, though, the main point came out on top, at 45.8 percent.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「さわり」は、日本語の「触る」という字で書かれる。この語は、日本の人形芝居で物語を語る音楽である義太夫節の用語として始まった。最初は、ほかの流派の節を借りてきた部分、つまりほかの節に「触る」部分を意味していた。こうした借りてきた部分は目立たせるためのものだったので、この語は曲の中でいちばん美しい部分を意味するようになった。

のちに、ほかの芸能や日常の話し言葉にも広がった。今日、多くの人はこの語が「出だし」を意味すると思っている。2017年の初めに行われた調査では、53.3%がその意味を選び、36.1%が「要点」を選んだ。ただし70歳以上では、要点が45.8%でいちばん多かった。

4択リーディングクイズ

Q1. Where did the word "sawari" first come from?

Q2. Why did the word come to mean the most beautiful part?

Q3. What can be inferred from the last two sentences?

重要単語

  • gistC1
    名詞要点、話のだいたいの中身I missed the start of the meeting. Can you give me the gist? ふつう the gist の形。get the gist「だいたい分かる」。「話のさわり(要点)」に近い。
  • the best partA2
    名詞句いちばんいいところ、聞きどころSkip to the best part of the song. 「曲のさわり」はこれがいちばん近い。the best part is ...「いちばんいいのは…」の形でもよく使う。
  • openingB1
    名詞出だし、冒頭The opening of the movie was a little slow. 多くの人が思っている「さわり」の意味はこちら。the opening scene「冒頭の場面」。
  • main pointA2
    名詞句要点What is the main point of your speech? 文化庁の調査が「本来の意味」とした「話などの要点」にあたる。
  • stringA2
    名詞(楽器の)弦One string on my guitar is broken. 三味線の弦は3本。「さわり」は一の糸が棹に触れて出る響きの名前でもある。
  • touchA2
    動詞触れる、さわるPlease don't touch the paintings. 「さわり」は漢字で「触り」。もとは「ほかの節に触る」部分という意味。
「さわりだけ聞かせて」のさわりは、本来「出だし」ではなく「いちばんの聞きどころ・要点」。もとは義太夫節の用語。文化庁の調査では53.3%が「最初の部分」を選び、本来の意味は36.1%だった。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. 文化庁 (2017) 平成28年度「国語に関する世論調査」の結果の概要(問27)bunka.go.jp
  2. デジタル大辞泉「触り」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  3. 加納マリ「さわり」改訂新版 世界大百科事典(平凡社)・日本大百科全書(小学館)ほか(コトバンク掲載)kotobank.jp

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →