本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
日本語のマジか!?

「反省させていただきます」、気になる49%・ならない48%。「させていただく」はなぜ増えた?

「反省させていただきます」、気になる49%・ならない48%。「させていただく」はなぜ増えた?

読む前に予想してみよう!

文化審議会の『敬語の指針』(2007年)は、「させていただく」を使うこと自体を誤りとしている

研究カード(どんな研究?)
対象
全国16歳以上(文化庁)と質問紙調査の回答者
規模
1,994人(文化庁・2020年実施)・686人(椎名2021の意識調査)
研究の種類
世論調査・質問紙調査・コーパス比較
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「深く反省させていただきます」に「気になる」49.0%、「気にならない」48.0%。研究では、許可や恩恵がなくても使える丁寧な言い方に変わってきたとされる。

ひとことで言うと「させていただく」は、ていねいさを手軽に出せる便利な言葉になってきたらしい!

もくじ
  1. 意外にも、いちばん寛容なのは70歳以上
  2. 本来は「許可」と「恩恵」がセット
  3. 研究が見つけた「シン・させていただく」
  4. どんでん返し:モヤモヤするのは「話し手」のほう?
  5. 英語で言うなら?
  6. まとめ

「誠に申し訳なく、深く反省させていただきます」。

謝罪の場面で聞きそうなこの一文。あなたはこの言い方が気になりますか? それとも気になりませんか?

文化庁が2020年2〜3月に行った「国語に関する世論調査」(令和元年度、1,994人が回答)では、「気になる」49.0%、「気にならない」48.0%。ほぼ真っ二つに割れました。

「させていただく」は、なぜこんなに広がったのか。そして、なぜモヤっとする人がいるのか。言語学の研究から見えてきたのは、この言葉の「中身」そのものが変わってきているという話です。

01意外にも、いちばん寛容なのは70歳以上

「若い人の変な敬語」と思う人もいそうですが、データではモヤモヤしているのは働き盛りの世代。言語学者の森雄一さん(成蹊大学)は、ある研究書の書評の中で、「気になる」49%対「気にならない」48%という競り合いを、「させていただく」がまさに変化の最中にあるしるしとして挙げています。

02本来は「許可」と「恩恵」がセット

では、「正しい」使い方はあるのでしょうか。文化審議会が2007年にまとめた『敬語の指針』は、「させていただく」の基本を2つの条件で説明しています。

  1. 自分の行為を、相手(または第三者)の許可を受けて行う
  2. そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちがある

たとえば、人の本をコピーしたいときの「コピーを取らせていただけますか」は、両方を満たす典型例。一方「○○高校を卒業させていただきました」は、条件を満たしていないと感じる人には不適切に聞こえます。

そして指針は、条件を実際には満たしていなくても、満たしているかのように「見立てて」使う用法があり、それが使われる範囲を広げている、と書いています。ここに「なぜ増えたか」の1つめの答えがあります。

03研究が見つけた「シン・させていただく」

言語学者の椎名美智さんは、2021年の本『「させていただく」の語用論』(森さんが書評したのがこの本です)で、この言葉を2つの方法で調べました。森さんの書評によると、主な結果は次のとおりです。

2024年の論文で椎名さんは、芸能人が記者会見で使う「〜さんとお付き合いさせていただいております」や、政治家が釈明で使う「お答えは差し控えさせていただきます」をあげ、こうした例では許可や恩恵の意味が薄れていると指摘。変化した「させていただく」に「シン・させていただく」という愛称をつけました。へりくだって相手への敬意を示すというより、丁寧な物言いで自分の丁寧さを示す言葉になってきている、という見方です。

背景には、敬語が使われるうちに敬意がすり減っていく「敬意漸減」という長い流れがある、と椎名さんは考えています。書評によれば、本書は「いたす」が尊大に聞こえて避けられるようになったことや、和語の動詞からは「〜いたす」の形が作れず、その隙間を埋める形が必要だったことも、先行研究をもとに論じています。

本来は「許可」と「恩恵」がセット。いまは、それがなくても使われる。
本来は「許可」と「恩恵」がセット。いまは、それがなくても使われる。

04どんでん返し:モヤモヤするのは「話し手」のほう?

書評によると、椎名さんの意識調査では意外な結果も出ました。言われる側(聞き手)より、言う側(話し手)の立場で答えたときのほうが違和感が高かったのです。「使う人は平気で、聞く人がイライラしている」という一般的なイメージとは逆です。

ただし書評は、この差が一部の例文の組み合わせでしか出ていないこと、さらに「相手の関与が必要か」という本書のカギになる考え方にも、説明しきれない例が残ることを指摘しています。たとえば先生に貴重な本を借りて「読ませていただいた」は典型的な使い方なのに、「読む」こと自体には先生が関わりません。「させていただく」の謎は、まだ解ききれていないのです。

05英語で言うなら?

書評で紹介されている本書の図では、この言葉の仕組みを英語に置きかえた「Benefactive English」で説明しています。「契約内容について説明させていただきます」なら、恩恵は I shall receive、使役(許可)は your letting me、相手の関与は (I) explain the contract (to you)。英語としてはありえない長さですね。

実際の英語では、丁寧さは別の道具で出します。

  • 許可を求める:Could I take a copy of this page?(このページをコピーさせていただけますか)
  • 話を切り出す:Let me explain the plan.(let me は文字どおり「私に〜させて」)
  • やわらかく頼む:I was wondering if you could check my essay.(過去進行形にすると、より遠回しで丁寧)

ケンブリッジ辞典の文法解説も、過去形の助動詞(could, would など)や過去進行形を、遠回しにして丁寧さを出す方法として挙げています。なお Allow me.(私にやらせてください)は手助けを申し出る丁寧な表現ですが、同辞典では「古風(old-fashioned)」とされています。

06まとめ

「させていただく」は、もともと「許可をもらって、ありがたくやる」ための言葉でした。それが、許可も恩恵もない場面でも手軽に丁寧さを出せる道具として広がり、その変化の途中で、気になる人と気にならない人が半々に分かれている——研究からはそんな姿が見えてきます。英語なら Could I ...? や Let me ...。言語が違えば、丁寧さの出し方もまったく違うのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA government survey carried out in 2020 asked Japanese people whether the sentence "fukaku hansei sasete… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A government survey carried out in 2020 asked Japanese people whether the sentence "fukaku hansei sasete itadakimasu" bothered them. The results were almost even. Forty-nine percent said yes, and 48 percent said no. People aged 70 and over were the least bothered, while people in their 30s and 40s were the most bothered.

According to official guidelines from 2007, the expression is basically used when you act with someone's permission and receive a benefit from it. Asking to copy a book that belongs to someone else fits both conditions. The linguist Michi Shiina compared texts from different periods and found that the expression has become more common. She believes it now shows the speaker's own politeness more than respect for the listener.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2020年に実施された政府の調査は、「深く反省させていただきます」という文が気になるかどうかを日本の人々に尋ねた。結果はほぼ互角だった。49%が気になると答え、48%が気にならないと答えた。70歳以上の人々がいちばん気にしておらず、30代と40代の人々がいちばん気にしていた。

2007年の公的な指針によれば、この表現は基本的に、だれかの許可を得て行動し、そこから恩恵を受けるときに使われる。他人の本をコピーさせてほしいと頼むことは、両方の条件に当てはまる。言語学者の椎名美智さんは、異なる時代の文章を比べ、この表現がより一般的になったことを見いだした。彼女は、この表現が今では聞き手への敬意よりも、話し手自身の丁寧さを示していると考えている。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Which group was the least bothered by the sentence?

Q3. According to the guidelines, which situation fits the basic use of the expression?

重要単語

  • permissionB1
    名詞許可Could I have your permission to record this meeting? 動詞 permit(許可する)の名詞形。with permission「許可を得て」、ask for permission「許可を求める」。
  • politeA2
    形容詞丁寧な、礼儀正しい"Could you help me?" sounds more polite than "Help me." 反対は impolite / rude。名詞 politeness は語用論の重要用語「ポライトネス」。
  • botherB1
    動詞(人を)悩ませる、気にさせるDoes the noise bother you? It bothers me.「それが気になる」。Don't bother.「わざわざいいよ」の意味もある。
  • humbleB2
    形容詞謙虚な、へりくだったShe gave a humble speech after winning the prize. 謙譲語は英語で humble language と説明されることが多い。
  • involvementB2
    名詞関わり、関与The plan needs the involvement of every student. be involved in ~「~に関わる」の名詞形。
  • wonderB1
    動詞~かなと思うI was wondering if you could check my essay. I was wondering if you could ~ は、過去進行形で遠回しにした丁寧な頼み方。
  • allow meB2
    熟語(古風)私にやらせてください(手助けの申し出)"Allow me," he said, and opened the door for her. 直訳は「私に許可を」。辞書では old-fashioned(古風)とされる。

動画でもっと知る

「誠に申し訳なく、深く反省させていただきます」。文化庁の調査では「気になる」49.0%、「気にならない」48.0%の真っ二つ。研究者によると、相手への敬意より「自分の丁寧さ」を示す言葉に変わってきたらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. 文化審議会答申 (2007) 敬語の指針(文化庁)bunka.go.jp
  2. 文化庁国語課 令和元年度「国語に関する世論調査」報告書〔令和2年3月調査〕bunka.go.jp
  3. 椎名美智 (2021)『「させていただく」の語用論 人はなぜ使いたくなるのか』ひつじ書房hituzi.co.jp
  4. 森雄一 (2021) 書評 椎名美智著『「させていただく」の語用論』, 語用論研究 23, pp.51-59(日本語用論学会)pragmatics.gr.jp
  5. 椎名美智 (2024) 「シン・させていただく」の誕生秘話, 待遇コミュニケーション研究 21, pp.50-65(副題:文法化と敬意漸減の影響)doi.org

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →