sad の元の意味は「満腹」。1000年以上前の英語では“もうおなかいっぱい”だった

読む前に予想してみよう!
sad は、古英語の時代から「悲しい」という意味で使われていた
古英語の sæd は「満腹の、十分に満たされた」の意味。ボズワース&トラー古英語辞典は「いまの sad の意味では使われない」と注記している。
- 対象
- 古英語・中英語の文献と英独の辞書
- 規模
- 900年代以降の用例
- 研究の種類
- 辞書の語源・意味の記述(文献にもとづく調査)
- 確かさ
- ★★★★☆
古英語(1000年以上前の英語)の sæd は「満腹の、もう十分な」。「うんざり、疲れた」の意味も持ち、中英語(中世の英語)で「悲しい」の意味が現れた。ドイツ語の satt(満腹)や satisfy と親戚。
ひとことで言うとsad は昔「おなかいっぱい」という意味だった!
もくじ
I'm sad.(悲しい)
英語を習って最初のころに覚える、いちばん基本の気持ちの言葉です。
ところが、この sad。1000年以上前の英語では、「おなかいっぱい」「もう十分」という意味でした。古英語に訳された旧約聖書の詩編には、人々が「たっぷり食べて sade(sad のご先祖)になった」という一節まであります。もちろん「悲しくなった」ではありません。「満腹になった」です。
01sad の語源は? 古英語の sæd は「満腹の」
1000年以上前の英語を古英語(Old English)といいます。sad のご先祖は、古英語の sæd です。
チェコのカレル大学が公開している『ボズワース&トラー古英語辞典』は、sæd の意味を「満腹した、疲れた(うんざりした)、満たされた、もう十分に味わった(having had one's fill)」としています。そして、わざわざこう注記しています。「いまの sad の意味では使われない」。
「戦いに sæd」は、「戦いはもうたくさんだ」という感じです。おなかいっぱいの「満ち足りた」から、もうこれ以上はいらない「うんざり」までが、この一語に入っていたのです。
02「満腹」から「悲しい」への道のり
では、どうやって「悲しい」になったのでしょうか。辞書に載っている意味を時代順に並べると、こうなります。
- 古英語:満腹の、十分に満たされた(Dictionary.com は「もともとは sated, full」とする)
- 古英語:うんざりした、疲れた、重い、重々しい(AHD・Dictionary.com)
- 中英語:疲れた、悲しい(AHD)
「満腹」が先で「悲しい」があと、という順番は辞書の記録で確かめられます。ただ、意味どうしがどうつながったのかは、辞書にも書かれていません(くわしくは後半の「どんでん返し」で)。
アメリカの辞書メリアム・ウェブスターによると、「悲しみや不幸を感じている」という今の意味の最初の記録は1200年代です。
途中には、もう使われなくなった意味もあります。Dictionary.com には、廃れた意味として「しっかりした、ゆるがない(firm or steadfast)」が載っています。いつごろの意味かは書かれていませんが、これも今は消えた意味のひとつです。

03ドイツ語では今も「満腹」の satt
sad の親戚は、ほかの言葉にもいます。メリアム・ウェブスターは古高ドイツ語の sat(満腹の)とラテン語の satis(十分な)を、Dictionary.com はドイツ語の satt やゴート語の saths(満腹の、満足した)を挙げています。
ドイツの辞書ドゥーデンで satt を引くと、最初の意味は「もうおなかがすいていない」。ドイツ語では、いまも sad の親戚が「満腹」の意味で現役なのです。
ドゥーデンには etwas satt sein(何かに満腹である)という言い方も載っていて、その意味は「それにうんざりしている」です。例文は sie war den Ärger satt(彼女はもめごとにうんざりしていた)。英語の sad に記録されている「満腹」と「うんざり」の両方の意味を、ドイツ語の satt は今も持っているのです。
日本語にも似た言葉があります。食傷(しょくしょう)です。デジタル大辞泉によると、1番目の意味は「同じ食べ物が続いて食べ飽きること」、2番目は「同じことに何度も接して、飽き飽きして嫌になること」。食べ物の「もう十分」が、気持ちの「もうたくさん」に広がるのは、言葉をこえてよくあることなのかもしれません。
04satisfy も saturate も sad の親戚
AHD の巻末にある「印欧祖語の語根」の一覧では、sad は sā-(満たす) という語根の仲間に入っています。同じ語根の子孫には、こんな英単語が並びます。
- satisfy(満足させる):ラテン語の satis(十分)+ facere(する)
- satiate(満腹にさせる):ラテン語の satis(十分)から
- saturate(しみこませる、飽和させる):ラテン語の satur(満腹の)から
- asset(財産、強み):中世イングランドのフランス語(アングロ・ノルマン語)の asez(十分に)から。もとは、亡くなった人の借金や遺贈を払うのに足りるだけの財産のこと
「悲しい」と「満足」が同じ家族とは、ちょっと意外ですね。
05どんでん返し:「満腹だから悲しい」わけではない
ここで気をつけたいのは、「おなかいっぱいになると悲しくなるから sad になった」わけではないということです。
辞書が示しているのは、「満腹」「うんざり」「疲れた」「重い」「悲しい」といった意味が、時代ごとに記録されているという事実です。それぞれの意味がどの順番で、どんな気持ちの動きでつながったのかを、一つひとつ証明した記録があるわけではありません。「満腹→もうたくさん→うんざり→沈んだ気分」という流れは、記録された意味から考えられる、もっともらしい道すじです。
また、sad の「悲しい」以外の意味も、完全には消えていません。メリアム・ウェブスターには「くすんだ、地味な色の」という意味が今も載っています。a sad excuse(お粗末な言いわけ)のように、「情けない、なっていない」の意味でも使われます(AHD の例。Dictionary.com も「deplorably bad; sorry」の意味を載せています)。
06まとめ
sad は、1000年以上前には「満腹の、もう十分な」という意味でした。古英語のころから「うんざり」「疲れた」の意味もあり、1200年代には「悲しい」の記録が現れます。ドイツ語の satt は今も「満腹」、英語の satisfy も同じ家族です。
次に I'm full. と言うとき、思い出してみてください。1000年以上前の英語なら、そこで使えたのは sad のご先祖 sæd だったのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you say "I'm sad" after a big dinner, people will think something is wrong.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Today, "sad" means "unhappy." But more than 1,000 years ago, the word meant something very different. In Old English, "sæd" meant "full," like after a big meal.
One old text says people ate a lot and became very "sæd." They were not unhappy. They were full! The word could also mean "tired of something," and by the 1200s it could mean "unhappy." In German, the related word "satt" still means "full."
71 words ・ CEFR A2
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今日、「sad」は「悲しい」という意味です。でも1000年以上前、この語はまったく違うことを意味していました。古英語では、「sæd」は、ごちそうを食べたあとのように「おなかいっぱいの」という意味でした。
ある古い文章には、人々がたくさん食べて、とても「sæd」になったと書かれています。悲しかったのではありません。おなかがいっぱいだったのです!この語には「何かにうんざりした」という意味もあり、1200年代には「悲しい」の意味でも使われるようになりました。ドイツ語では、親戚の語「satt」が今も「おなかいっぱいの」という意味です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
sad の意味が「満腹」から「悲しい」へ変わった話なので B。
Q2. What does the German word "satt" mean?
the related word "satt" still means "full" とあるので C。
Q3. In the passage, what does "full" mean?
like after a big meal とあるので、「もう十分食べた」の意味。A。
If you say "I'm sad" after a big dinner, people will think something is wrong. But more than a thousand years ago, it would have made sense. In Old English, "sæd," the ancestor of "sad," meant "full" or "having had enough."
An Old English version of the Psalms describes people who ate a great deal and became "sade." Here the word simply means "full." Even in Old English, it could also mean "weary" or "tired of something."
By the 1200s, it was being used for sorrow. The German word "satt," a relative of "sad," still means "full." And the English verb "satisfy" belongs to the same family.
107 words ・ CEFR B1
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大きな夕食のあとに「I'm sad」と言えば、人は何かあったのかと思うだろう。しかし1000年以上前なら、それで意味が通っていた。古英語では、「sad」の祖先である「sæd」は「満腹の」「もう十分な」という意味だった。
古英語に訳された詩編には、人々がたくさん食べて「sade」になったという場面がある。ここでは、この語は単に「満腹の」という意味だ。古英語の時代にも、この語は「疲れた」「何かにうんざりした」という意味を持っていた。
1200年代までには、悲しみを表すのに使われるようになっていた。「sad」の親戚であるドイツ語の「satt」は、今も「満腹の」という意味だ。そして英語の動詞「satisfy」も同じ一族に属している。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
sæd は「満腹の」の意味で、のちに悲しみを表すようになった、という話なので A。
Q2. By when was "sad" being used for sorrow?
By the 1200s, it was being used for sorrow. とあるので B。
Q3. Why would "I'm sad" after dinner have made sense long ago?
sæd ... meant "full" or "having had enough" とあるので、昔なら「おなかいっぱい」の意味になった。B。
After a long feast, an Old English speaker could call himself "sæd" and simply mean that he had eaten enough. The Bosworth-Toller Anglo-Saxon Dictionary defines the word as "sated" or "having had one's fill," and adds that it was not used in the modern sense of "sad."
A poem in the entry for the year 937 in the Anglo-Saxon Chronicle describes fallen soldiers as "weary" and "sated with war." Here, being "full" of war is close to being fed up with it. Dictionaries also list senses such as "heavy," "serious" and "weary," and by the 1200s "sad" was being used for sorrow. Nobody wrote down each step, though.
The path from a full stomach to a heavy heart is a reasonable guess based on these dates, and no single text tells the whole story. Relatives in other languages help. German "satt" still means "no longer hungry," and the phrase "etwas satt sein," which uses the same word, means "to be sick of something." Latin "satis," meaning "enough," gave English "satisfy" and "satiate," so "sad" and "satisfied" share a root.
179 words ・ CEFR B2
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長い宴会のあと、古英語の話し手は自分のことを「sæd」と言い、単に十分食べたという意味で使うことができた。ボズワース&トラー古英語辞典はこの語を「満腹した」「もう十分に味わった」と定義し、いまの「sad」の意味では使われなかったと書き添えている。
『アングロ・サクソン年代記』の937年の項にある詩は、たおれた兵士たちを「疲れはてた」「戦いに満腹した」と表現している。ここでは、戦いに「満腹」していることは、戦いにうんざりしていることに近い。辞書には「重い」「重々しい」「疲れた」といった意味も載っており、1200年代までには「sad」は悲しみを表すのに使われていた。ただし、一つひとつの段階を書き残した人はいない。
満腹のおなかから沈んだ心への道すじは、これらの年代にもとづくもっともらしい推測であり、その全体を語る一つの文献があるわけではない。ほかの言語の親戚も参考になる。ドイツ語の「satt」は今も「もうおなかがすいていない」という意味で、同じ語を使った「etwas satt sein」という言い方は「何かにうんざりしている」という意味になる。「十分な」を意味するラテン語の「satis」からは英語の「satisfy」や「satiate」が生まれたので、「sad」と「satisfied」は同じ語根を持っている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
sæd の「満腹」から「悲しい」への変化と、ドイツ語 satt・ラテン語 satis などの親戚を説明しているので B。
Q2. What does the passage say about the poem from 937?
describes fallen soldiers as "weary" and "sated with war" とあるので B。
Q3. What does the writer suggest about the change from "full" to "unhappy"?
Nobody wrote down each step ... a reasonable guess based on these dates とあるので C。
重要単語
- fullA2形容詞満腹の;いっぱいのNo more cake for me, thanks. I'm full.
「おなかいっぱい」は I'm full. が基本。古英語ならここで sæd(sad の祖先)を使えた。 - satisfyB1動詞満足させる、満たすThe small lunch didn't satisfy my hunger.
ラテン語 satis(十分)+ facere(する)。形容詞 satisfied は「満足した」。sad と同じ語根。 - wearyB2形容詞疲れきった;うんざりしたAfter the long trip, we were all weary.
be weary of 〜「〜にうんざりしている」。古英語の wērig から。937年の詩では wérig, wíges sæd(疲れはて、戦いに満腹した)と sad の祖先と並んで出てくる。 - fed upB2形容詞うんざりして、飽き飽きしてI'm fed up with this rainy weather.
be fed up with 〜 の形で使う。会話でよく使うくだけた言い方。 - feastB2名詞ごちそう、宴会The whole village came to the feast.
動詞では feast on 〜「〜をたらふく食べる」。 - sorrowB2名詞(深い)悲しみShe could not hide her sorrow at the news.
sad より改まった語。形容詞は sorrowful(悲しげな)。 - excuseB1名詞言いわけThat's a sad excuse for being late.
名詞は「イクスキュース」、動詞は「イクスキューズ」と s の音が変わる。a sad excuse は「お粗末な言いわけ」。
公式・一次情報をチェック
- 食傷(デジタル大辞泉/コトバンク)kotobank.jp
- satt(Duden)duden.de
- 印欧祖語の語根 sā-(The American Heritage Dictionary, Appendix I)ahdictionary.com
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英語の sad、1000年以上前は「満腹の」という意味だった。古英語の詩編には、ご先祖の sæd を使って「たっぷり食べて満腹になった」と書いた一節がある。「うんざり・疲れた」の意味もあり、「悲しい」は1200年代から。ドイツ語の satt(満腹)や satisfy も親戚。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Bosworth & Toller, An Anglo-Saxon Dictionary Online(カレル大学)「sæd」bosworthtoller.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「sad」ahdictionary.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged)「sad」dictionary.com
- Merriam-Webster「sad」(Etymology / First Known Use)merriam-webster.com
- Duden「satt」(Bedeutungen / Herkunft)duden.de
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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