言い伝えの中身
狼男(おおかみおとこ)は、人間がオオカミ、またはオオカミのような姿に変身するという言い伝えです。英語では werewolf(ウェアウルフ)といいます。
よく知られているのは「満月の夜に変身する」「銀の弾丸に弱い」といった決まりです。でもこれらは、昔から決まっていたわけではありません。時代とともに少しずつ形を変えてきたのです。
どうして生まれた?
人がオオカミに変わる話は、とても古くからあります。ギリシャ神話には、神ゼウスを怒らせた王リュカオンがオオカミに変えられる話があり、古代ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』にも描かれています。
約2000年前のローマの小説『サテュリコン』には、明るい月夜に、ある男がオオカミに変わってしまう話が出てきます。月と変身が結びついた、古い例のひとつです。
中世から近世のヨーロッパでは、オオカミは家畜や人をおそうおそろしい動物でした。森の近くで暮らす人びとの不安が、人狼の言い伝えを生み、広めたと考えられています。人狼だとうたがわれた人が裁判にかけられる、悲しいできごともありました。
「満月の夜に必ず変身する」という決まりが広く知られるようになったのは、1930〜40年代のアメリカ映画(『倫敦の人狼』1935年、『狼男』1941年、『フランケンシュタインと狼男』1943年など)の影響が大きいといわれます。映画が、昔からの言い伝えをわかりやすい「ルール」にまとめたのです。
世界ではどう?
日本では、オオカミはおそろしい動物というより、田畑をあらすシカやイノシシを追いはらってくれる「守り神」として大切にされてきました。埼玉県の三峯神社や東京都の武蔵御嶽神社などでは、オオカミが神さまのお使い(大口真神・おいぬさま)としてまつられています。
同じオオカミでも、ヨーロッパでは「こわい存在」、日本では「ありがたい存在」。暮らし方によって、動物の見え方が変わるのはおもしろいですね。
アメリカの農事暦などでは、1月の満月を「ウルフムーン(Wolf Moon)」とよぶことがあります。冬の夜にオオカミの声がよく聞こえたから、と説明されることが多い名前です。
科学で分かっていること

人の体が、月の光をあびて別の動物に変わることはありません。狼男は、人びとの不安や想像力が生んだ物語の世界のキャラクターです。
では、オオカミは本当に満月に向かって吠えるのでしょうか。オオカミの遠吠えは、遠くにいる仲間と連絡をとったり、なわばりを知らせたりするためのものと考えられています。顔を上に向けるのは、声を遠くまで届けるため。オーストリアのウィーン獣医大学のオオカミ研究施設も、「満月に吠える」というのは人気のある言い伝えで、オオカミは昼間も含めていろいろな時間に遠吠えすると紹介しています。
オオカミは夕方や明け方によく活動するので、夜に遠吠えが聞こえ、そのとき月が出ていれば「月に吠えている」ように見えます。月明かりが夜の狩りを助けるので、明るい夜に活発になる可能性はあるものの、満月との関係ははっきりしていません。
英語では?
狼男。were は古い英語で「人(man)」という意味。「人オオカミ」ということ
The werewolf howled under the full moon.狼男は満月の下で遠吠えした。
月に向かって吠える。「むだなことをする」というたとえでも使われる
Complaining about the weather is like howling at the moon.天気に文句を言うのは、月に吠えるようなものだ。
銀の弾丸。転じて「一発で問題を解決する方法」
There is no silver bullet for this problem.この問題を一発で解決する方法はない。
満月
It's a full moon tonight.今夜は満月です。
よくある質問
狼男の言い伝えは、いつごろからあるの?
人がオオカミに変わる話は、ギリシャ神話や約2000年前のローマの小説にも出てくるほど古いものです。中世ヨーロッパで広く語られ、「満月の夜に変身する」という決まりは、1930〜40年代のアメリカ映画で広まったといわれます。
満月の夜に人がオオカミに変わることはある?
ありません。狼男は物語の世界のキャラクターです。昔の人びとのオオカミへのこわさや想像力が生んだ物語として楽しんでください。
オオカミは満月に向かって吠えるの?
オオカミの遠吠えは、仲間との連絡やなわばりを知らせるためのもので、昼間も含めていろいろな時間に吠えます。満月の夜に特に多く吠えるという、はっきりした証拠は見つかっていません。
日本にも狼男の話はある?
日本ではオオカミは、田畑を守る「おいぬさま」として神社にまつられるなど、ありがたい存在として大切にされてきました。ヨーロッパの狼男とは、オオカミの見え方がかなりちがいます。
参考にした資料
研究の数字は、それぞれの論文の要旨・公式資料にもとづいています。新しい研究で分かることが変わる場合もあります。
