「サラリーマンは和製英語」は半分ウソ。salary man は1719年の英語にもあった

読む前に予想してみよう!
「サラリーマン」は日本で生まれた和製英語で、英語の辞書には載っていない
OEDには1719年の英語の salary man の例がある。今は「日本の会社員」の意味の salaryman として、学習者向けの英英辞典にも載っている。
- 対象
- OED(オックスフォード英語辞典)の項目と解説記事、英英辞典、日本の会社員史の博士論文
- 規模
- salary man・office lady・skinship・karoshi の4語
- 研究の種類
- 辞書の用例調査+歴史資料の確認
- 確かさ
- ★★★★☆
和製英語と習う「サラリーマン」。でもオックスフォード英語辞典(OED)には、1719年の英語の salary man の例がある。この語が日本語に入り、「日本の会社員」の意味で英語に戻った。
ひとことで言うとサラリーマンは、英語→日本語→英語と旅をした「ブーメラン語」だった!
もくじ
サラリーマン = ×salaryman → ○office worker
英語の授業で、こんな板書を見た人は多いはずです。「サラリーマンは日本で作った和製英語。英語では通じないから office worker と言いましょう」。
ところが、英語の歴史を記録した大辞典、オックスフォード英語辞典(OED)を開くと話が変わります。英語の salary man には、1719年の例があるのです。しかも今の英語には、日本から“里帰り”した salaryman まであります。
01「和製英語」と習ったサラリーマン
和製英語とは、英語の単語を材料に日本で作られた、英語圏ではふつう使わない言い方のことです。サラリーマンは、その代表としてよく教えられてきました。
salary(給料)+man(人)。たしかに英語圏の人が、自分の父親を He's a salaryman. と紹介することは、ふつうありません。こう言います。
- My dad works in an office.(父は会社勤めです)
- She's an office worker at a bank.(彼女は銀行で事務の仕事をしています)
ここまでは、学校で習ったとおりです。
02英語の大辞典 OED に「1719年の例」
OED の salary man の項目は、もとは salary(給料)の項目の一部として載ったものです。その要点ページ(Factsheet)には、OED が持っている最も古い例は1719年とあります。ただし、その1719年の文そのものと、そこでの意味は OED の有料部分にあり、今回は確かめられていません。
さらに、OED で世界各地の英語を担当する編集者ダニカ・サラザールは、OED の解説記事「日本語から来た言葉」で、こう説明しています。
つまりサラリーマンは、ゼロから日本で作った言葉ではありません。英語 → 日本語 → 英語 とひと回りした言葉だ、というのが OED の見方です。同じ解説記事は、animation から「アニメ」を経た anime や、costume play から「コスプレ」を経た cosplay も、この仲間として挙げています(OEDに載る日本語の記事)。
03日本語に入ったのは1920年ごろ
日本語の側の記録とも、時期は合っています。東京大学に出された鈴木貴宇さんの博士論文『〈サラリーマン〉の文化史』の要旨によると、
- 1880年代〜1910年代には、まだ「サラリーマン」という言葉は出てこない
- 背広を着て郊外から丸の内の会社に通う、今の会社員の原型が現れた 1920年(大正9年)前後 から、言葉がわずかに使われはじめる
- 昭和の初め、大学を出た会社員が増えるころには、呼び名が定着した
国立国会図書館の目録には、1928年(昭和3年)に出た前田一の『サラリマン物語』という本もあります。表記は「サラリマン」でした。

04英語に戻ると「日本の会社員」になった
里帰りした salaryman の意味を、いまの英英辞典で見てみます。
- オックスフォード現代英英辞典(学習者向け):(とくに日本で)事務の仕事をする人
- ケンブリッジ英語辞典:毎日とても長い時間働く日本のビジネスマン
- アメリカン・ヘリテージ英語辞典:日本の会社のビジネスマン。語源は日本語の「サラリーマン」を英語風にしたもので、もとは英語の salary と man
日本のことを書く英語の文章なら、こう使えます。
- He was a salaryman at a big Tokyo bank for thirty years.(彼は東京の大手銀行で30年間サラリーマンをしていた)
- The train was full of salarymen on their way home.(電車は帰宅途中のサラリーマンでいっぱいだった)
英語の salaryman は、「給料をもらう人ならだれでも」ではありません。日本の会社員、とくに長時間働く男性のイメージ をまとった言葉として戻ってきたのです。
05日本の会社や暮らしから英語に入った言葉
日本の会社や暮らしをめぐる言葉には、ほかにも英語の辞書に入ったものがあります。
- skinship(スキンシップ):OED は2021年に収録。サラザールの解説によると、英語の skin(はだ)と kinship(親族のつながり)を合わせた形で、先にあった日本語の「スキンシップ」と、韓国語の「スキンシプ」をお手本に できた。OED の最も古い例は1966年
- office lady(OL):OED の最も古い例は1973年の雑誌『Japan Interpreter』。ケンブリッジの辞書(ビジネス英語)は「日本で、会社で働く女性。略して OL」と説明している
- karoshi(過労死):こちらは英単語の組み合わせではなく、日本語そのもの。OED の最も古い例は1988年のアメリカの新聞『シカゴ・トリビューン』
「サラリーマン」も「スキンシップ」も、いまは英語の辞書に載っています。 ただし、どれも「日本(や韓国)の話」として載っている点に気をつけてください。
06なぜ学校では「和製英語」と教えるのか
学校の説明にも、ちゃんと理由があります。
- 日本語のサラリーマンは「会社に勤める人」全般を指す。英語の salaryman は日本の会社員を指す言葉で、英語圏の会社員にはふつう使わない
- 英語では、職業を言うとき I work for a car company.(自動車会社に勤めています)や I'm in sales.(営業をしています)のように、何をしているかを具体的に言うことが多い
- 1719年の salary man は古い例で、今の英語の salaryman は日本から借り返したもの。ふだんの英語にずっとあった語ではない
「英語圏の人に、日本語と同じ意味では通じない」という点では、学校の説明は正しいのです。
07テストや英作文ではどうする?
08どんでん返し:1719年と今の salaryman は同じ言葉?
ここで一つ、気をつけたいことがあります。OED の解説は、20世紀の終わりの salaryman を「よみがえり」と呼んでいます。1719年から今まで、英語でずっと使われ続けてきたわけではない、ということです。
いまの英語の salaryman は、日本語を借り返した言葉です。英英辞典がそろって「日本」に触れているのも、この流れと合っています。「英語にもあった」と「和製英語」は、どちらも半分ずつ正しい のです。
また、1719年の例がどんな文で、どんな人を指していたのかは、上で書いたとおり確かめられていません。今の salaryman と同じ「会社員」の意味だったかどうかも、分からないのです。
09まとめ
「サラリーマンは和製英語」は半分だけ正しい言い方でした。OED によると、英語の salary man には1719年の例があり、日本語は20世紀の前半にこの語を英語から取り入れました。そして20世紀の終わり、英語は「日本の会社員」という意味で salaryman を借り返しました。
だから英語で家族の仕事を言うなら office worker。日本の会社文化を語るなら salaryman。どちらを使うかは、「日本の話かどうか」で決める のが、いちばん自然です。
よくある質問
サラリーマンは和製英語ですか?
半分だけ正しい言い方です。オックスフォード英語辞典(OED)には、英語の salary man の1719年の例があります。OED の解説によると、日本語はこの語を20世紀前半に英語から取り入れ、20世紀の終わりに英語が「日本の会社員」の意味で借り返しました。
サラリーマンは英語で何と言いますか?
自分や家族の仕事なら office worker か、works for ~(~に勤めている)を使います。例:My father works for a bank.(父は銀行に勤めています)。英語では in sales(営業)のように仕事の中身を言うことも多いです。
英語で salaryman と言っても通じますか?
日本の会社員の話なら通じます。学習者向けの英英辞典にも載っていて、ケンブリッジ英語辞典の説明は「毎日とても長い時間働く日本のビジネスマン」。ただ、英語圏の会社員にはふつう使いません。
「ブーメラン語」とは何ですか?
英語が日本語に貸した言葉を、日本語で形や意味が変わったあとに借り返したものです。OED の編集者サラザールがこう呼び、salaryman のほか、animation から来た anime、costume play から来た cosplay を例に挙げています。
「サラリーマン」という言葉はいつから日本語にありますか?
1920年(大正9年)前後から、わずかに使われはじめました。鈴木貴宇さんの博士論文の要旨によると、昭和の初めには呼び名が定着しました。1928年には前田一の『サラリマン物語』という本も出ています。
今の英語の salaryman は1719年からずっと使われてきたのですか?
いいえ。OED の解説は、20世紀の終わりの salaryman を「よみがえり」と呼んでいます。今の salaryman は日本語を借り返した言葉で、英英辞典がそろって「日本」に触れているのもこの流れと合っています。1719年の例がどんな意味だったかは、OED の公開部分からは分かりません。
スキンシップや OL も英語の辞書に載っていますか?
載っています。skinship は OED が2021年に収録し、日本語の「スキンシップ」などをお手本にできたと説明されています。office lady(OL)は、OED の最も古い例が1973年。どちらも日本などの話として載っています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJapanese learners are often told that "salaryman" is wasei-eigo, an English-looking word made in Japan.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, many students learn that "salaryman" is a word made in Japan. But the Oxford English Dictionary has an English example of "salary man" from 1719. Japanese took the word from English about 100 years ago.
Then, near the end of the 1900s, English took it back. Today, English dictionaries say a salaryman is an office worker in Japan. So if your father works in an office in London, call him an office worker.
75 words ・ CEFR A2
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日本では、多くの生徒が「salaryman は日本で作られた言葉だ」と習います。でも、オックスフォード英語辞典には、1719年の英語の「salary man」の例があります。日本語は約100年前に、英語からこの言葉を取り入れました。
そして1900年代の終わりごろ、英語がそれを取り入れ直しました。今、英語の辞書は、salaryman を「日本の会社員」だと説明しています。だから、ロンドンの会社で働くお父さんなら、office worker と呼びましょう。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
salary man が英語から日本語へ入り、また英語に戻った話なので B。
Q2. When is the English example of "salary man" in the Oxford English Dictionary from?
has an English example of "salary man" from 1719 とあるので A。
Q3. In the passage, what does "English took it back" mean?
日本語に入った語を、英語がもう一度取り入れたという意味なので C。
Japanese learners are often told that "salaryman" is wasei-eigo, an English-looking word made in Japan. The Oxford English Dictionary tells a different story. Its oldest English example of "salary man" comes from 1719.
An OED editor explains that Japanese borrowed the word from English in the first half of the 20th century. In Japan, it began to appear around 1920. In the late 1900s, English borrowed it back.
A learner's dictionary now defines a salaryman as a white-collar worker, especially in Japan. Words that travel out and come back like this are sometimes called "boomerang words." Even so, English speakers rarely use "salaryman" for office workers in their own countries.
110 words ・ CEFR B1
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日本の学習者はよく、「salaryman」は和製英語、つまり日本で作られた英語風の言葉だと教わる。オックスフォード英語辞典の話は違う。この辞典にある最も古い英語の「salary man」の例は1719年のものだ。
OEDの編集者は、日本語が20世紀の前半に英語からこの語を借りたと説明している。日本では、1920年ごろに使われはじめた。1900年代の終わり、英語はそれを借り返した。
学習者向けの辞典は今、salaryman を「とくに日本の、事務職の人」と定義している。このように外へ出て戻ってくる言葉は「ブーメラン語」と呼ばれることがある。それでも、英語を話す人が自分の国の会社員に「salaryman」を使うことはめったにない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
英語→日本語→英語と戻った「ブーメラン語」の話なので B。A は OED の1719年の例と合わない。
Q2. According to the passage, when did the word begin to appear in Japan?
In Japan, it began to appear around 1920. とあるので B。
Q3. Which sentence would an English speaker most likely use about a father who works in an office in Canada?
最後の文に English speakers rarely use "salaryman" for office workers in their own countries とあるので C。
In Japanese classrooms, "salaryman" is a standard example of wasei-eigo, vocabulary built from English parts in Japan. The Oxford English Dictionary tells a more complicated story. It records "salary man" in English as early as 1719, and one of its editors explains that Japanese borrowed the word from English in the first half of the 20th century.
A doctoral thesis on the history of Japanese office workers dates the first scattered uses in Japan to around 1920. Late in the century, English borrowed the Japanese word back. The OED editor calls this a revival, so the word was not in steady English use for three hundred years. Today's English "salaryman" is tied to Japan. Cambridge defines it as a Japanese businessman who works very long hours every day.
So the classroom rule is half right. The parts are English, but the modern meaning came from Japan. Other words linked to Japanese office life have entered English as well. The OED's earliest example of "office lady" is from 1973, and "karoshi," death from overwork, first appears there in a 1988 Chicago newspaper.
181 words ・ CEFR B2
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日本の教室では、「salaryman」は和製英語、つまり英語の部品で日本で作られた語の定番の例だ。オックスフォード英語辞典の話はもっと込み入っている。この辞典は英語の「salary man」を早くも1719年に記録しており、編集者の一人は、日本語が20世紀前半に英語からこの語を借りたと説明している。
日本の会社員の歴史についての博士論文は、日本でぽつぽつと使われはじめた時期を1920年ごろとしている。20世紀の終わりに、英語はその日本語を借り返した。OEDの編集者はこれを「よみがえり」と呼んでいるので、この語が300年間ずっと英語で使われ続けていたわけではない。今の英語の「salaryman」は日本と結びついている。ケンブリッジの辞書は、これを「毎日とても長い時間働く日本のビジネスマン」と定義している。
だから教室のルールは半分正しい。部品は英語だが、今の意味は日本から来たのだ。日本の会社の暮らしに結びついたほかの語も英語に入っている。OEDの「office lady」の最も古い例は1973年のもので、「karoshi(過労死)」はOEDでは1988年のシカゴの新聞に初めて現れる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
salary man の英語と日本語の間の行き来が中心なので B。karoshi は最後に出る別の例。
Q2. What does the OED editor call the use of "salaryman" in English late in the 20th century?
The OED editor calls this a revival とあるので C。
Q3. Why does the writer say the classroom rule is "half right"?
The parts are English, but the modern meaning came from Japan. とあるので A。
重要単語
- salarymanB2名詞(とくに日本の)会社員He worked as a salaryman in Tokyo for thirty years.
複数形は salarymen。英英辞典は「日本の」と説明する。自分の国の会社員には使わない。 - office workerA2名詞事務職の人、会社員Most office workers in this building start at nine.
「サラリーマン」の言いかえの基本。英作文ではこれが無難。 - white-collarB2形容詞事務職の、頭脳労働のShe left a white-collar job to become a farmer.
白いシャツの襟から。工場などの仕事は blue-collar。 - borrowA2動詞(言葉を)取り入れる、借りるEnglish borrowed "tsunami" from Japanese.
言葉の借用にも使う。borrow A from B「BからAを借りる」。借用語は loanword。 - revivalB2名詞復活、よみがえりThe town saw a revival of old festivals.
revive(生き返らせる)の名詞形。vive は「生きる」で、vivid・survive と同じ仲間。 - overworkB1名詞働きすぎHe got sick from overwork.
over(こえて)+work。karoshi(過労死)は英語で death from overwork と説明できる。 - employeeB1名詞従業員、社員The company has about 300 employees.
employ(雇う)+-ee(される人)。雇う側は employer。
公式・一次情報をチェック
- salaryman(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
- office lady(Cambridge Dictionary, Business English)dictionary.cambridge.org
- salaryman(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- 前田一『サラリマン物語』1928年(国立国会図書館サーチ)ndlsearch.ndl.go.jp
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「サラリーマンは和製英語」と習ったはず。でもオックスフォード英語辞典によると、英語の salary man には1719年の例がある。日本語に入り、20世紀の終わりに「日本の会社員」の意味で英語へ里帰りした。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Salazar, D. From anime to zen: Japanese words in the OED(Oxford English Dictionary)oed.com
- Oxford English Dictionary「salary man, n.」(Factsheet)oed.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「salaryman」oxfordlearnersdictionaries.com
- 鈴木貴宇『〈サラリーマン〉の文化史:近現代日本社会における安定への欲望をめぐる考察』博士論文の要旨(東京大学)repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp
- Salazar, D. Daebak! The OED gets a K-update(Oxford English Dictionary, 2021)oed.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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