「〜じゃん」は横浜生まれじゃなかった。いちばん古い記録は1905年の山梨

読む前に予想してみよう!
「〜じゃん」は横浜で生まれた言葉だと、方言研究で確かめられている
方言学者の井上史雄さんは、文献などから山梨県が発祥と見ている。最古の記録は1905年の「甲斐方言考」で、横浜へは“飛び火”の形で伝わったとしている。
- 対象
- 東海道沿いの各地・各年代の話し手、全国16歳以上
- 規模
- 文化庁調査2,192人ほか
- 研究の種類
- 方言調査(グロットグラム)・文献・全国世論調査
- 確かさ
- ★★★☆☆
「〜じゃん」は横浜言葉と思われがちだが、方言学者の井上史雄さんは山梨が発祥と見ている。最古の記録は1905年の「甲斐方言考」。静岡を通り、横浜へ“飛び火”したという。
ひとことで言うと「いいじゃん」のふるさとは、横浜じゃなくて山梨だったかも!
もくじ
「それ、いいじゃん!」
いまでは全国のテレビやSNSで当たり前に使われる「〜じゃん」。もとはどこの方言かと聞かれたら、横浜っ子の「浜ことば」と答える人も多いのではないでしょうか。
ところが、方言学者の井上史雄さんの2022年の論文によると、「じゃん」の発祥地は山梨県と見られます。文献に残るいちばん古い記録は、1905年(明治38年)の雑誌に載った「甲斐方言考」。「甲斐」は山梨の昔の国名です。横浜は、生まれ故郷ではなく、あとから「じゃん」を受け取った町だったのです。
01「じゃん」のいちばん古い記録は山梨
井上さんの論文が「一番古い文献記載」として挙げるのは、明治の雑誌『風俗画報』に載った「甲斐方言考」(三田村玄龍、1905年)です。
そこには、山梨の言葉として「ジヤン」が取り上げられ、「ソオ……」「イ……」の形の例とともに、「ジヤナイカと云ふに同じ」と説明されています。井上さんは、この例を「ソージャン、イージャン」と読み取っています。今の「そうじゃん」「いいじゃん」そのものです。
02山梨の「じゃん」は使い道が広い
井上さんは、山梨では「じゃん」の使い方が広いことも、発祥地と考える理由に挙げています。
たとえば、
- 「おれが行くじゃん」=「おれが行くよ」(自分の意志を言う)
- 「見るじゃん」=「見よう」(さそう)
山梨県には「見るじゃんの丘」という場所があり、地元では「見よう(の丘)」という意味に受け取られているそうです。
使い方の幅が広いのは、それだけ長く使われてきたからだ、というのが井上さんの考え方です。ほかの研究者(江端義夫、1999年)の地図でも、山梨がいちばん早く使い始めた地域と見られる、と論文は紹介しています。
03横浜へは「飛び火」、そして東京へ
では、横浜にはどうやって届いたのでしょう。
井上さんは、自分が編集した『東京・神奈川言語地図』(1988年)を見ると、「じゃん」は間の地域を飛びこえて、“飛び火”の形で横浜に伝わったとしています。そして、300万人の大都市になった横浜の「浜ことば」として評価が上がり、そのあと東京に入っていった、と説明しています。
東北大学の福原裕一さんの論文(2010年)も、井上さんの1998年の本を引いて、「じゃん」は横浜に伝わって「浜ことば」として定着し、東京に入ったのは戦後で、1970年代前半から若者が使い始めたと言われている、と紹介しています。

04「いいじゃん」は世代で使う人がくっきり分かれた
こうして広まった「じゃん」は、全国でどのくらい使われていたのでしょうか。
文化庁の「国語に関する世論調査」(2001年1月、全国の16歳以上が対象で、回答を得たのは2,192人)は、「それ、いいじゃない!」を「それ、いいじゃん!」と言うことがあるかをたずねています。
文化庁は、「やっぱそうか!」「きもい」とならんで、年齢層による差が特に大きかった言い方の一つとして、この「いいじゃん」を挙げています。10代では8割近くが使うのに、60歳以上では20人に1人ほどでした。
05英語なら「〜, right?」
「じゃん」を英語で言うなら、文の最後に軽くつける right? や、付加疑問(tag question)が近い働きをします。
- That's cool, right?(それ、いいじゃん)
- You said that yesterday, didn't you?(きのうそう言ったじゃん)
どちらも、相手も知っていることを確かめたり、同意を求めたりする言い方です。
06どんでん返し:「三河が元祖」説もある
じつは、「じゃん」がどこからどの順番で広がったかには、諸説があります。
愛知県東部の三河地方には、「三河のジャンダラリン」という言い回しがあるほど、「じゃん」は地元の特色だと受けとめられています。
ただ井上さんは、この三河説に反する証拠として、幕末の「ええじゃないか」(三河の豊橋が発祥とされる民衆運動)を挙げます。「ええじゃないか」は「いいじゃん」の前の形にあたり、幕末にはまだ「いいじゃん」が生まれていなかった証拠になる、というのです。三河の「ジャン・ダラ・リン」は、どれも近代以降に出た新しい言い方だと見ています。
では、「じゃん」はどうやってできた形なのでしょう。『日本国語大辞典』と『デジタル大辞泉』は、「じゃない」が変化したものと説明しています。井上さんは、もう少しくわしく、打ち消しに「ない」と「ん」の両方を使う地域では2つが入れかわりやすく、「ではないか」が「じゃないか」「じゃんか」に変化しうる、と書いています。
一方、『日本国語大辞典』が「じゃん」の最初の用例として挙げているのは、1981年の中島梓の本です。方言としての記録(1905年)と、辞書が拾った例との間には、70年以上の差があるのです。
07まとめ
「〜じゃん」は横浜の言葉と思われがちですが、方言学者の井上史雄さんの研究では、山梨で生まれ、静岡を通り、横浜へ“飛び火”して東京に入ったと考えられています。いちばん古い記録は、1905年の「甲斐方言考」です。
2001年の文化庁の調査では、「いいじゃん」と言うことがある人は16〜19歳で79.6%、60歳以上で5.5%でした。何気なく使う「じゃん」は、記録に残るだけでも120年以上、山梨から長い旅をしてきた言葉なのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English Corner"Jan" is a casual word that Japanese speakers put at the end of a sentence, a bit like "right?" in English.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
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Young Japanese people often end a sentence with "jan," as in "Ii jan!" It means something like "That's good, right?" Many people think the word comes from Yokohama.
But a language researcher, Fumio Inoue, says it probably started in Yamanashi. The oldest record of it is from 1905. From there, "jan" moved to Shizuoka and then jumped to Yokohama. Later it reached Tokyo, and now people use it all over Japan.
71 words ・ CEFR A2
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日本の若い人は、「いいじゃん!」のように、よく文を「じゃん」で終えます。意味は「それ、いいよね?」
のような感じです。多くの人はこの言葉が横浜から来たと思っています。でも、言葉の研究者の井上史雄さんは、おそらく山梨で始まったと言います。いちばん古い記録は1905年のものです。そこから「じゃん」は静岡へ移り、それから横浜へ飛び移りました。のちに東京に届き、今では日本中で使われています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「じゃん」がどこで生まれ、どう広がったかの話なので A。
Q2. When is the oldest record of "jan" from?
The oldest record of it is from 1905. とあるので B。
Q3. In the passage, what does "reached" mean?
Later it reached Tokyo は「のちに東京に届いた」。reach は「〜に着く、届く」なので C。
"Jan" is a casual word that Japanese speakers put at the end of a sentence, a bit like "right?" in English. Many people think of it as Yokohama slang.
However, the dialect researcher Fumio Inoue believes it began in Yamanashi. In a 2022 paper, he points to an article from 1905 that listed "jan" as a word used in Yamanashi and explained that it meant the same as "ja nai ka," or "isn't it?" He also notes that people in Yamanashi use "jan" in more ways than people elsewhere.
For example, "Ore ga iku jan" means "I'll go." According to Inoue, the word spread south along the Fuji River into Shizuoka. It then jumped to Yokohama and later entered Tokyo.
120 words ・ CEFR B1
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「じゃん」は、日本語を話す人が文の終わりにつける、くだけた言葉で、英語の「right?」に少し似ている。横浜のスラングだと思っている人が多い。
しかし方言研究者の井上史雄さんは、山梨で始まったと考えている。2022年の論文で井上さんは、1905年の記事を挙げている。その記事は「じゃん」を山梨で使われる言葉として載せ、「じゃないか」(isn't it?)
と同じ意味だと説明していた。井上さんは、山梨の人がほかの地域の人より多くの使い方で「じゃん」を使うことにも注目している。たとえば「おれが行くじゃん」は「おれが行くよ」という意味だ。井上さんによれば、この言葉は富士川に沿って南の静岡へ広がり、その後、横浜へ飛び移って、のちに東京に入った。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1905 article say about "jan"?
explained that it meant the same as "ja nai ka" とあるので B。
Q2. What does "Ore ga iku jan" mean in Yamanashi?
"Ore ga iku jan" means "I'll go." とあるので C。
Q3. Why does Inoue mention the many ways people in Yamanashi use "jan"?
使い方が広いことを山梨発祥の根拠の一つとして挙げている。長く使われてきた可能性を示すためなので A。
Many people link the casual sentence ending "jan" with Yokohama. The dialect researcher Fumio Inoue sees it differently. In a 2022 paper, he used survey data from speakers of different ages in towns along the Tokaido railway line. His data show "jan" across all of Shizuoka, and around the city of Fuji even older speakers use it. He traces it back to Yamanashi.
His evidence includes the oldest written record he knows of, a 1905 magazine article on the Yamanashi dialect that said "jan" meant "ja nai ka," and the wide range of uses it has there, from "I'll go" to "Let's look." In his view, the word followed the Fuji River into Shizuoka and then skipped over the areas in between to land in Yokohama, which passed it on to Tokyo.
Not everyone tells the story this way. In the Mikawa area of Aichi, people see "jan" as part of their own local speech. Inoue answers with "ee ja nai ka," a famous chant from the 1860s said to have started in Toyohashi, in Mikawa. He sees it as an older form of "ii jan" and as a sign that "ii jan" did not exist yet.
197 words ・ CEFR B2
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くだけた文末の「じゃん」を、横浜と結びつける人は多い。方言研究者の井上史雄さんの見方は違う。2022年の論文で、井上さんは東海道線沿いの町の、さまざまな年代の話し手の調査データを使った。そのデータでは、「じゃん」は静岡県全体に見られ、富士市のあたりでは高齢の人も使っている。井上さんは、この言葉をさらにさかのぼって山梨にたどる。
根拠には、井上さんが知るかぎり最も古い文字の記録である、山梨方言についての1905年の雑誌記事(「じゃん」は「じゃないか」の意味だとしていた)と、山梨での「行くよ」から「見よう」までの使い方の広さがある。井上さんの見方では、この言葉は富士川に沿って静岡に入り、その後あいだの地域を飛びこえて横浜に着き、横浜がそれを東京に渡した。
だれもがこう説明するわけではない。愛知県の三河地方では、人々は「じゃん」を自分たちの地元の言葉の一部と見ている。井上さんは、三河の豊橋で始まったとされる1860年代の有名なかけ声「ええじゃないか」で答える。井上さんはこれを「いいじゃん」の前の形と見て、当時はまだ「いいじゃん」がなかったしるしだと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
井上さんが「じゃん」の発祥と広がり方をどう考えているかの話なので B。
Q2. Where in Shizuoka do even older speakers use "jan"?
around the city of Fuji even older speakers use it とあるので A。
Q3. How does Inoue use the slogan "ee ja nai ka" in his argument?
He sees it as an older form of "ii jan" and as a sign that "ii jan" did not exist yet から、1860年代にはまだ「いいじゃん」がなかったしるしとして使っているので C。
重要単語
- dialectB2名詞方言My grandmother speaks a strong local dialect.
accent は「なまり(発音)」、dialect は語や文法も含む「方言」。 - casualB1形容詞くだけた、ふだんの"Jan" is fine in casual talk with friends.
反対は formal(改まった)。casual clothes「ふだん着」。 - spreadB1動詞広がる、広めるThe new word spread from town to town.
過去形・過去分詞も spread のまま。名詞では「広がり」。 - originB1名詞起源、生まれNobody knows the exact origin of the word.
形容詞は original(もとの)、動詞は originate(始まる)。 - recordA2名詞記録The oldest record of the word is from 1905.
名詞はアクセントが前(REcord)、動詞「記録する」は後ろ(reCORD)。 - tag questionB1名詞付加疑問(文末の「〜ですよね?」)"It's cold, isn't it?" is a tag question.
肯定文には否定の形(isn't it?)、否定文には肯定の形(is it?)をつけるのが基本。
公式・一次情報をチェック
- 平成12年度「国語に関する世論調査」の結果について(文化庁)bunka.go.jp
- 静岡の新方言と標準語の普及過程(静岡大学学術リポジトリ、全文PDF)shizuoka.repo.nii.ac.jp
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「〜じゃん」は横浜言葉…と思いきや、方言学者の井上史雄さんは山梨が発祥と見ている。いちばん古い記録は1905年の雑誌の「甲斐方言考」。そこから静岡を通り、横浜へ“飛び火”して、のちに東京へ入ったという。
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※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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