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上司に「ご苦労様」は失礼? 江戸時代は目上にも使った言葉。マナー本の“失礼”説は1970年代から

上司に「ご苦労様」は失礼? 江戸時代は目上にも使った言葉。マナー本の“失礼”説は1970年代から

読む前に予想してみよう!

「ご苦労様」は、江戸時代から目下の人だけに使う言葉だった

研究カード(どんな研究?)
対象
全国の16歳以上、江戸〜昭和の文献
規模
文化庁調査2,107人、文献の用例
研究の種類
全国世論調査(個別面接)+文献調査
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

研究によると、江戸時代の「御苦労」は敬うべき相手への労いに多く使われていた。「ご苦労様は目上に失礼」とマナー本に書かれるのは1970年代から。

ひとことで言うと「ご苦労様」は、昔は目上の人にも使っていた言葉なんだって!

もくじ
  1. 上司への「ご苦労様」は失礼? 文化庁の調査では
  2. 辞書にも「目上には使わない」
  3. 江戸時代は「敬う相手への労い」が中心だった
  4. 大正・昭和に「目下へ」が増えた
  5. 「失礼」説はいつから?
  6. 英語では何と言う?
  7. どんでん返し:それでも今は「目上には避ける」が無難
  8. まとめ

仕事終わりに、上司へ「ご苦労様でした」。

これを言ってしまい、「目上の人に“ご苦労様”は失礼だよ」と注意された経験がある人もいるかもしれません。いまのビジネスマナーでは、上司には「お疲れ様でした」が常識とされています。

ところが、日本語の研究者が古い本を調べると、江戸時代の「御苦労」は、むしろ目上の人や敬うべき相手への労いの言葉として多く使われていました。「目上に失礼」とマナーの本に書かれるようになったのは、1970年代以来のことだというのです。

01上司への「ご苦労様」は失礼? 文化庁の調査では

まず、いまの使われ方を見てみましょう。

目上には「お疲れ様」、目下には「ご苦労様」が増える。たしかに今のマナーどおりの結果です。

年代別に見ると、上司に「ご苦労様」と言う人は、60歳以上だけでなく、16〜19歳でも2割いました。働きざかりの20〜40代がいちばん「ご苦労様」を避けていたのです。

02辞書にも「目上には使わない」

いまの辞書は、この使い分けをはっきり書いています。

小学館の『デジタル大辞泉』は、「御苦労」の意味の一つを「他人に仕事を依頼したときなどに、その苦労をねぎらっていう語。同輩以下の者に対して用いる」と説明しています。「お疲れ様」の項目にも、「ご苦労様」は目上の人から目下の人に使うのに対し、「お疲れ様」は同僚や目上の人に使う、とあります。

では、この決まりはいつからあるのでしょうか。

03江戸時代は「敬う相手への労い」が中心だった

明海大学の紀要に載った倉持益子さんの論文(2011年)は、江戸時代の歌舞伎の読み本、滑稽本、幕末の落語などから「御苦労」の使い方を集めました。

『日本国語大辞典』を見ても、古い「御苦労」は相手を立てる言葉です。「お骨折り」の意味の最初の用例には、1603〜1604年の『日葡辞書』に載った「ゴクラウ アッテ クダサレイ」(お骨折りください)が挙がっています。狂言には、その場の人々に「近頃御苦労に存まする」と礼を言う例もあります。

04大正・昭和に「目下へ」が増えた

では、なぜ目下に向ける言葉になったのでしょうか。

国立国語研究所名誉所員の甲斐睦朗さんは、明治から終戦までに出た「話し方の作法書」(あいさつの手本の本)を調べました(2016年の学会発表)。大正時代の本には、使用人に用事を頼むとき「御苦労でも何を買って来てくれ」と言えば、命令口調より感じがよい、という助言があります。昭和の初めの本でも、召し使いや出入りの職人に「御苦労様でした」と言う例が並びます。

昭和初めの作法書には、出入りの職人に「御苦労様でした」と声をかける例がある(甲斐, 2016)
昭和初めの作法書には、出入りの職人に「御苦労様でした」と声をかける例がある(甲斐, 2016)

倉持さんは、大正期以降の読み物に、軍人や警官が部下を「ご苦労」と労う場面が目立つことに注目しました。そして、軍隊で使われた部下への労い言葉が、徴兵された男性を通じて広まったのではないか、と考えています。ただし論文自身も、軍隊がこの変化に関わったかどうかは、これから実例を集めて確かめたい、と書いています。

05「失礼」説はいつから?

倉持さんによると、「目上に使うべきではない」という説明は、1970年代以来、言葉づかいやマナーの本に見られるようになりました。論文は、1976年の敬語の本にある「目下から目上に使うと失礼である」という記述を例に挙げています。

辞書については、倉持さんが主な国語辞典9種類の版を比べています。その中で上下関係に最初にふれたのは、1988年の『学研国語大辞典』第二版と『大辞林』初版でした。学研国語大辞典は、1980年の初版では上下関係にふれていません。それが第二版で「目上の人に言うのは失礼とされる」と書き加えられました。

倉持さんは、「目上に使わないほうがいい」というのは常識になってはいるが、はっきりした根拠がなく、近年の傾向にすぎない可能性がある、とまとめています。

06英語では何と言う?

英語には、「ご苦労様」「お疲れ様」にぴったり当たる決まり文句はありません。場面に合わせて言いかえます。

  • Thank you for your hard work.(努力に感謝します)
  • Good job!(よくやったね)……オックスフォードの学習辞典では「主に北米の、くだけた言い方」
  • See you tomorrow.(また明日)……帰りのあいさつならこれで十分

07どんでん返し:それでも今は「目上には避ける」が無難

ここまで読むと、「じゃあ上司に“ご苦労様”と言っても問題ない」と言いたくなるかもしれません。

でも、マナーは、いまの人たちがどう受け取るかにも左右されます。2006年の調査では、目上に「お疲れ様」を使う人が約7割で、『デジタル大辞泉』も「同輩以下の者に対して用いる」と書いています。歴史的には失礼でなかったとしても、いまの職場では目上に使うのを避ける人が多いのは事実です。

甲斐さんも、平成10年代に「お疲れさま」が広まったことと関係して、目上への「ご苦労さま」を失礼とする見方が広がってきている、と述べています。

逆に、倉持さんの論文には、落語の弟子が師匠に「ご苦労さまです」と言う漫画の場面や、引退する大選手への「長い間ご苦労さまでした」など、目上への使用例も今なお見られることが紹介されています。

08まとめ

上司に「ご苦労様」は失礼――これは今の職場では広く共有されたマナーです。でも研究によると、江戸時代の「御苦労」は目上への労いにも多く使われていました。「目上に失礼」とマナー本に書かれるのは1970年代から。倉持さんが調べた辞書では、1988年の版が最初でした。

マナーとして「お疲れ様」を選びつつ、「ご苦労様」と言った人を責めない。歴史を知っていれば、そんな余裕も持てそうです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn Japanese offices, saying "gokurosama" to your boss is widely seen as a mistake. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In Japanese offices, saying "gokurosama" to your boss is widely seen as a mistake. Several major dictionaries now say the phrase is for people at your level or below. In a 2006 government survey, 69.2 percent of people said they use "otsukaresama" with a superior, and only 15.1 percent chose "gokurosama."

But history tells a different story. In 2011, the researcher Masuko Kuramochi looked for "gokurosama" and similar phrases in popular books from the Edo period. Most of the examples she found were said to someone who deserved respect. She also found that the rule against using it with superiors shows up in manners books only from the 1970s. Among the dictionaries she checked, the first to mention it came out in 1988.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本の職場では、上司に「ご苦労さま」と言うのは間違いだと広く考えられている。今ではいくつもの主要な辞書が、この言い方は同じ立場か下の立場の人に使うものだとしている。2006年の国の調査では、69.2%の人が目上の人には「お疲れさま」を使うと答え、「ご苦労さま」を選んだのは15.1%だけだった。

しかし歴史は別の話を語る。2011年、研究者の倉持益子さんは、江戸時代の大衆向けの本で「ご苦労さま」やそれに似た言い方を探した。見つかった例の大部分は、敬意を払うべき相手に言われていた。倉持さんはまた、目上に使ってはいけないという決まりが、マナーの本に出てくるのは1970年代以降であることも見つけた。倉持さんが調べた辞書の中で、最初にそれにふれたのは1988年に出たものだった。

4択リーディングクイズ

Q1. What percent of people chose "gokurosama" for a superior in the 2006 survey?

Q2. What did Kuramochi find in Edo-period books?

Q3. What does the phrase "history tells a different story" suggest?

重要単語

  • superiorB2
    名詞上司、目上の人You should speak politely to your superiors. 形容詞では「よりすぐれた」(superior to 〜)。反対の「部下」は subordinate。
  • subordinateC1
    名詞部下、目下の人She always thanks her subordinates after a long meeting. sub-(下に)+ordinate(並べられた)。ビジネス英語でよく出る。
  • rudeA2
    形容詞失礼なIt's rude to interrupt people. It's rude to 〜「〜するのは失礼だ」の形でよく使う。反対は polite。
  • mannersB1
    名詞行儀、作法My parents taught me good manners. この意味では複数形 manners。単数の manner は「方法、態度」。
  • respectB1
    動詞敬う、尊敬するEveryone in the team respects the coach. 名詞も同じ形。show respect to 〜「〜に敬意を示す」。形容詞 respectful は「礼儀正しい」。
  • good jobA2
    表現よくやったねGood job! You finished the report early. Oxford の学習辞典では主に北米のくだけた言い方で、相手がうまくやったことを伝える。

動画でもっと知る

上司に「ご苦労様」は失礼…と言われるが、研究では江戸時代の「御苦労」は目上への労いに多く使われていた。「目上に失礼」とマナー本に載るのは1970年代以来。上司に「ご苦労様」と言う人は10代でも20.7%(文化庁調査)。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. 文化庁 (2006) 平成17年度「国語に関する世論調査」の結果について(問5 仕事後に掛ける言葉)bunka.go.jp
  2. 倉持益子 (2011)「御苦労」系労い言葉の変遷, 明海日本語 16:13-21(明海大学、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業で保存)dl.ndl.go.jp
  3. 甲斐睦朗 (2016) 明治以降の話し方作法書の研究―「ご苦労さま」を中心に―, 全国大学国語教育学会 国語科教育研究 大会研究発表要旨集 130:389-392doi.org
  4. 精選版 日本国語大辞典「御苦労」・デジタル大辞泉「御苦労」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  5. デジタル大辞泉「御疲れ様」・「御苦労様」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp

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