「休まさせていただく」のさ入れ言葉、国会での用例の97%は「させていただく」の形だった

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「絵を見させてください」は、よけいな「さ」が入った「さ入れ言葉」だ
「見る」は五段活用ではないので「させる」がつく。文化庁は「見せてください」「見させてください」はどちらも文法的に問題ないとしている。さ入れ言葉は「休まさせる」のように五段動詞に「させる」をつけた形。
- 対象
- 全国16歳以上(文化庁の世論調査)と国会・学会講演の発話記録
- 規模
- 1,959人(2016年)・3,794人(2021年)、国会の用例5,025例
- 研究の種類
- 世論調査+発話コーパスの数量分析
- 確かさ
- ★★★★☆
「休まさせて」のさ入れ言葉。国会の発言の研究では317例中307例が「〜させていただく」の形。文化庁調査で「読まさせて」をふだん使うと答えた人は23.2%。
ひとことで言うとよけいな「さ」は、ていねいに言おうとする場面で入りやすいらしい!
もくじ
「明日は休まさせていただきます」
この一文、どこか引っかかりますか? 本来の形は「休ませていただきます」。よけいな「さ」が1つ入っています。これが「さ入れ言葉」です。
文化庁の2016年の調査では、こうした言い方をふだん使う人が2割前後いました。そして国会の発言を調べた研究では、さ入れ言葉の約97%(317例のうち307例)が「〜させていただく」の形でした。よけいな「さ」は、くだけた場面より、ていねいに話そうとする場面で出やすいようなのです。
01さ入れ言葉とは?「休ませる」に「さ」を足した形
デジタル大辞泉は、さ入れ言葉を「不要な『さ』を入れた表現」と説明し、「休まさせていただく」「使いに行かさせる」を例にあげています。文法的には破格(決まりから外れた形)だとしています。
決まりはこうです。「〜せる・させる」(相手に何かをさせる言い方)は、動詞の種類によって使い分けます。
- 「休む」「読む」「帰る」のような五段動詞には「せる」:休ま+せる=休ませる
- 「見る」「食べる」のような動詞には「させる」:見+させる=見させる
さ入れ言葉は、五段動詞なのに「させる」をつけてしまった形です。「休ま+させる」で「休まさせる」になります。
ここで1つ注意。「絵を見させてください」は、さ入れ言葉ではありません。「見る」は五段動詞ではないので、「させる」で正しいのです。文化庁も「見せてください」「見させてください」はどちらも文法的に問題のない表現だとしています。
02文化庁の調査では、使う人は2割前後
「若者の言葉の乱れ」と思われがちですが、2021年の調査で「伺わさせます」がいちばん多かったのは70歳以上(22.9%)でした。若い人だけの言い方とは言い切れません。
03国会の記録が示した「させていただく」との強い結びつき
では、さ入れ言葉は実際の会話のどんな場面に出てくるのでしょう。
言語学者の佐野真一郎さんは、国会の会議録と、学会発表などを録音した『日本語話し言葉コーパス』(話し言葉を大量に集めたデータ)を使って調べました。2008年に学術誌『言語研究』に載った論文に、国会を調べた結果がまとめられています。
学会発表などの話し言葉データでも、同じ傾向が出ました。さ入れの割合は、相手から恩恵を受ける言い方(〜ていただく・〜てもらう)で6.38%、そのほかの形では0.52%。さらに、一般の人が身近な話題で話す「模擬講演」(1.93%)より、改まった学会発表(2.50%)で少し高くなっていました。ただし、この2つを単純に比べた差は、統計的にはっきりしたものではありません。
佐野さんは、さ入れ言葉が「〜させていただく」というひとまとまりの言い方になりつつあると見ています。「〜させていただく」をセットで覚えて使ううちに、「さ」まで一緒についてくると考えると分かりやすいかもしれません。論文の結論では、改まった場でよりていねいに言おうとして、かえって正しくない形を使ってしまう「過剰訂正」が原因ではないか、とも推測しています。

04「日本語を大切にしている」人ほど使っていた?
2016年の調査には、もう1つ目を引く結果があります。
文化庁は「毎日使っている日本語を大切にしていますか」とも聞いていました。その答えと組み合わせると、「休まさせて」を使う人の割合は、日本語を「大切にしている」と答えた人では17.1%、「大切にしていない」と答えた人では11.8%。大切にしている人のほうが多かったのです。「帰らさせて」「伺わさせます」「読まさせて」も同じ向きでした。
これは「ら抜き言葉」と逆です。同じ調査で「出れる?」を使う人は、「大切にしていない」人で59.8%、「大切にしている」人で43.3%。ら抜きは気にしない人に多く、さ入れは気にする人に少し多い。ていねいに言おうとする気持ちが、よけいな「さ」につながっている――そう考えると説明しやすい結果です。
05どんでん返し:2021年の調査では逆の結果も
ところが、話はそう単純ではありません。
2021年の調査の集計表で同じ組み合わせを見ると、「休まさせて」は、「大切にしている」人で12.9%、「大切にしていない」人で16.2%。「帰らさせて」も11.2%と13.7%。4つのうち2つで、向きが逆になっていました。「読まさせて」(19.4%と16.8%)と「伺わさせます」(16.9%と14.7%)は2016年と同じ向きですが、差は小さくなっています。
さらに「大切にしていない」と答えた人は、どちらの年も全体の1割未満。人数が少ないので、数ポイントの差は偶然でも出ます。2016年は面接、2021年は郵送と、調べ方も違います。
さらに2016年の調査では、正しい言い方の「絵を見させてください」も、「大切にしている」人(33.9%)のほうが「大切にしていない」人(19.6%)より多く選んでいました。この差は、さ入れ言葉での差より大きいくらいで、よけいな「さ」だけの話ではなさそうです。「日本語を大切にする人ほど、さ入れ言葉を使う」とまでは言えないのです。
はっきりしているのは、国会や学会発表の記録で、さ入れ言葉が「〜させていただく」と強く結びついていたこと。こちらは、実際の発言を数えた結果です。
06英語にもある「正しくしようとして」の言い間違い
英語にも、よく似た話があります。
between you and me(ここだけの話)を、between you and I と言う人がいるのです。前置詞 between の後ろなので、本来は me。アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)の語法の解説によると、これを、佐野さんの推測と同じ「過剰訂正(hypercorrection)」と見る人がいます。
- 学校で It is me. ではなく It is I. が正しいと教わる
- その結果、「I のほうがきちんとして聞こえる」と思い、me でいい所まで I にしてしまう
ただし AHD は、それだけでは説明しきれないとも書いています。between you and I はシェイクスピアの作品にも出てきて、それを「誤り」とする規則ができるよりおよそ300年も前からあったからです。それでも今は、改まった場では避けたほうがよい言い方とされています。
07まとめ
よけいな「さ」が入った「休まさせていただく」。文化庁の調査では、使うと答えた人は1〜2割ほどです。国会の記録では、その約97%が「〜させていただく」の形で、ていねいに話そうとする場面に集まっていました。
「日本語を大切にする人ほど使う」という結果は、2021年には確かめられませんでした。それでも、言葉の「間違い」が、雑に話したときではなく、きちんと話そうとしたときに生まれることがある。英語の between you and I も同じです。そう思うと、少し見方が変わるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTo say "let someone rest" in Japanese, you add "-seru" to the verb "yasumu" and get "yasumaseru." Some…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japanese, "yasumasete itadakimasu" is a polite way to say "I will take the day off." Some people add an extra sound and say "yasumasasete" instead. In a 2016 government survey, 16.8 percent of people said they use this form.
A study of speeches in Japan's parliament found 317 examples of the extra "sa." In 307 of them, the next word was "itadaku," a very polite word. So the extra sound often comes when people try to be polite.
79 words ・ CEFR A2
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日本語の「休ませていただきます」は、「休みをとります」をていねいに言う言い方です。代わりに、よけいな音を足して「休まさせて」と言う人もいます。2016年の政府の調査では、16.8%の人がこの形を使うと答えました。
日本の国会での発言を調べた研究では、よけいな「さ」の例が317見つかりました。そのうち307では、次の言葉が、とてもていねいな語の「いただく」でした。つまり、よけいな音は、ていねいに話そうとするときによく出てくるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「休まさせて」のように、ていねいに話すときに足されるよけいな「さ」の話なので A。
Q2. How many examples of the extra "sa" came before "itadaku"?
In 307 of them, the next word was "itadaku" とあるので C。317は見つかった例の全体の数。
Q3. In the passage, what does "polite" mean?
polite は「ていねいな、礼儀正しい」。相手への敬意を示す様子なので B。
To say "let someone rest" in Japanese, you add "-seru" to the verb "yasumu" and get "yasumaseru." Some people add an extra "sa" and say "yasumasaseru." This form is usually considered a mistake, but it is fairly common. In a survey carried out in early 2016, 23.2 percent of respondents said they would say "yomasasete itadakimasu" rather than "yomasete itadakimasu."
In 2008, the linguist Shinichiro Sano reported on a study of speeches made in Japan's parliament between 1947 and 2005. It found 317 cases of the extra "sa," and 307 of them came right before "itadaku," a humble verb used in polite requests. There were only a handful of these cases before the 1990s. Between 2000 and 2005 there were 203.
121 words ・ CEFR B1
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日本語で「人を休ませる」と言うには、動詞「休む」に「せる」を足して「休ませる」とする。よけいな「さ」を足して「休まさせる」と言う人もいる。これはふつう誤りとされているが、かなりよく見られる。2016年の初めに行われた調査では、回答者の23.2%が「読ませていただきます」ではなく「読まさせていただきます」と言うと答えた。
2008年、言語学者の佐野真一郎さんは、1947年から2005年までに日本の国会で行われた発言を調べた研究を報告した。そこではよけいな「さ」の例が317見つかり、そのうち307は、ていねいに頼むときに使う謙譲の動詞「いただく」の直前に出ていた。こうした例は1990年代より前にはほんの数例しかなかった。2000年から2005年の間には203例あった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main topic of the passage?
よけいな「さ」が、ていねいな言い方の「いただく」の前によく出ることを述べているので B。
Q2. What did the 2016 survey find?
23.2 percent of respondents said they would say "yomasasete itadakimasu" とあるので C。
Q3. What can we infer from the numbers in the last two sentences?
1990年代より前はほんの数例、2000〜2005年は203例とあるので、時代とともに大きく増えたと推測できる。A。
In Japanese, the polite way to say "I'll take the day off" is "yasumasete itadakimasu." Some speakers add an extra "sa" and say "yasumasasete itadakimasu." Dictionaries call this "sa-ire kotoba" and treat it as nonstandard. In a 2016 survey by the Agency for Cultural Affairs, between 16.8 and 23.2 percent of people chose the "sa" version of four test sentences.
People who said they valued the Japanese language were a little more likely to choose it than those who said they did not. That seems to fit the idea that careful speakers try too hard to be polite. The survey evidence for this idea is weak, though. A 2021 survey, done by mail instead of face to face, showed the opposite pattern for two of the four sentences, and fewer than one in ten respondents said they did not value Japanese.
Records of real speech are more convincing. In Japan's parliament, 307 of 317 examples of the extra "sa" came right before "itadaku." English has a similar case. Some speakers say "between you and I" instead of "between you and me," perhaps because they were taught that "It is I" is more correct.
193 words ・ CEFR B2
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日本語で「明日は休みます」をていねいに言うと「休ませていただきます」になる。よけいな「さ」を足して「休まさせていただきます」と言う人もいる。辞書はこれを「さ入れ言葉」と呼び、標準的でない形として扱う。文化庁の2016年の調査では、4つの例文について、「さ」の入った形を選んだ人は16.8%から23.2%だった。日本語を大切にしていると答えた人は、そうでないと答えた人より、この形を選ぶ割合が少し高かった。
言葉に気をつかう人ほど、ていねいにしようとして頑張りすぎる、という考えに合いそうに見える。しかし、この考えを支える調査の証拠は弱い。面接ではなく郵送で行われた2021年の調査では、4つの例文のうち2つで逆の傾向が出た。しかも、日本語を大切にしていないと答えた人は回答者の1割未満だった。
実際の発言の記録のほうが説得力がある。日本の国会では、よけいな「さ」の例317のうち307が「いただく」の直前に出ていた。英語にも似た例がある。「between you and me」の代わりに「between you and I」と言う人がいる。「It is I」のほうが正しいと教わったからかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
さ入れ言葉と、それがどんな場面に出るかについての調査や記録の結果を述べているので B。
Q2. Why does the writer doubt the idea that people who value Japanese use the extra "sa" more?
A 2021 survey ... showed the opposite pattern for two of the four sentences, and fewer than one in ten respondents said they did not value Japanese とあるので C。
Q3. What does the "between you and I" example suggest?
perhaps because they were taught that "It is I" is more correct とあり、正しく言おうとして標準的でない形になる例として挙げているので B。
重要単語
- politeA2形容詞ていねいな、礼儀正しいIt is polite to say thank you.
反対は rude(失礼な)。politely は副詞で「ていねいに」。 - extraA2形容詞よけいな、追加のThere is an extra "sa" in "yasumasasete."
extra time「延長時間」、extra charge「追加料金」。よい意味にも悪い意味にも使う。 - permissionB1名詞許可You need permission to leave early.
動詞は permit。ask for permission「許可を求める」、get permission「許可をもらう」。 - humbleB2形容詞へりくだった、謙虚な"Itadaku" is a humble way to say "receive."
謙譲語は humble form と訳すことが多い。humble beginnings「つつましい始まり」。 - parliamentB1名詞議会、国会The study looked at speeches in Japan's parliament.
日本の国会は the Diet とも言う。発音は「パーラメント」で、つづりの i はふつう発音しない。 - nonstandardC1形容詞標準的でない、規範から外れたSome dictionaries mark this form as nonstandard.
辞書の語法ラベルでよく見る語。「間違い」より少しやわらかく、「改まった場では避ける」という意味あい。 - formalB1形容詞改まった、かしこまったPeople often use this form in formal speeches.
反対は informal / casual。formal letter「改まった手紙」。
公式・一次情報をチェック
- 平成27年度「国語に関する世論調査」の結果の概要(文化庁)bunka.go.jp
- 「国語に関する世論調査」の結果(文化庁)bunka.go.jp
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「明日は休まさせていただきます」のよけいな「さ」。国会の発言を調べた研究では、さ入れ言葉317例のうち307例が「〜させていただく」の形だった。かしこまった場面で出やすい言葉らしい。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- 文化庁 (2016) 平成27年度「国語に関する世論調査」報告書〔平成28年2〜3月調査〕問21bunka.go.jp
- 文化庁 (2022) 令和2年度「国語に関する世論調査」報告書〔令和3年3月調査〕問7・表14bunka.go.jp
- 佐野真一郎 (2008)『日本語話し言葉コーパス』に現れる「さ入れ言葉」に関する数量的分析, 言語研究 133doi.org
- デジタル大辞泉「さ入れ言葉」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「I」(Usage Note)ahdictionary.com
- 平成27年度「国語に関する世論調査」の結果の概要(文化庁、問21の結果表と解説)bunka.go.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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