キツツキの頭はクッションではなかった。109回のつつきを撮ると、衝撃はほとんど弱まらず
キツツキが木をつつく様子を高速撮影すると、頭の骨は衝撃をほとんど吸収していなかった。それでも脳が小さいので、脳にかかる力は人の脳しんとうの目安より下だった。
ウソ判定の対象キツツキの頭の骨はクッションになって、脳への衝撃をやわらげている
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- キツツキの頭の骨は、つつく衝撃をほとんどやわらげていなかった
- クッションがあると、木に穴をあける力が弱くなってしまう
- 脳が小さいので、脳にかかる力は人の脳しんとうの目安より小さい
人に話すなら
キツツキの頭って、衝撃を吸収するクッションになってると思われてたんだって。でも高速カメラで調べたら、頭は衝撃をほとんどやわらげずに、かたいまま木に打ちつけられてたらしいよ。
読む前に予想しよう
キツツキの頭の骨は、つつくときの衝撃を吸収するクッションになっている
高速撮影で調べると、目のあたりもくちばしとほぼ同じだけ急に止まり、衝撃はほとんど弱まっていなかった。
キツツキは、木の幹をくちばしで激しく打ちつけて、穴をあけます。1秒に2〜3回のペースでつつくこともあります。人が同じことをしたら、すぐに頭を痛めてしまうでしょう。
そこで長い間、こう考えられてきました。キツツキの頭の骨はクッションになっていて、つつくときの衝撃をやわらげ、脳を守っている。この考えは、ヘルメットや衝撃をやわらげる材料を作るヒントにもされてきました。
ところが2022年、ベルギーなどの研究チームが、生きたキツツキのつつき方を高速カメラで109回撮って調べました。すると、頭の骨は衝撃をほとんどやわらげていませんでした。頭はかたいまま、木に力を伝えていたのです。研究チームは、キツツキの頭を「かたいハンマー」と表しています。
01「頭の骨がクッション」という考えには、前から矛盾があった
キツツキの頭の骨には、すき間の多いスポンジ状の骨があります。特に、くちばしの付け根のすぐ後ろ、脳の入れ物の前に多く見られます。多くの研究者は、この骨が衝撃を吸収していると考えてきました。くちばしを動かす筋肉が、衝撃を受け止めているという考えもありました。
この考えをもとに、衝撃をやわらげる材料の研究が行われてきました。キツツキをヒントにしたヘルメットの特許も出ています。
けれども、この考えには前から矛盾が指摘されていました。1976年、イギリスの医学雑誌に載った論文で、メイ(May)さんたちはこう書いています。くちばしが自分の衝撃の多くを吸収してしまうなら、その鳥はもっと強くたたかなければならないだろう。
つまり、こういうことです。キツツキは、木に強い力を伝えて穴をあけたい鳥です。頭がクッションになって衝撃を吸ってしまえば、その分だけ木に伝わる力が減ります。木をつつくのが上手な鳥ほど生き残ってきたはずなのに、つつく力を弱めるしくみが進化するのは、おかしな話です。ところが、生きたキツツキが実際につつく場面で、本当に衝撃が吸収されているかを確かめた研究はありませんでした。
026羽のキツツキがつつく瞬間を、1秒に最大4,000コマで撮った
研究したのは、ベルギーのアントワープ大学のサム・ファン・ワッセンベルグ(Sam Van Wassenbergh)さんたちです。フランス国立自然史博物館や、カナダのブリティッシュコロンビア大学などの研究者も加わりました。
調べたのは、クマゲラ、エボシクマゲラ、アカゲラの3種のキツツキで、それぞれ2羽ずつです。クマゲラとアカゲラは、オーストリアやスイス、ドイツ、イタリアの動物園などで撮影しました。エボシクマゲラは、カナダで野外でつかまえ、大学の施設で撮影しました。
撮影には、1秒に1,600〜4,000コマ撮れる高速カメラを使いました。キツツキが木の幹や竹の棒、角材をつつく様子を、真横から撮ったのです。くちばしが木に当たってから止まるまでは、わずか4ミリ秒ほどです。1ミリ秒は1,000分の1秒です。高速カメラなら、そのあいだの動きを何コマにも分けて記録できます。
研究チームは、つつきの動画109回分を1コマずつ調べました。画面の上で、くちばしの真ん中と目の中心に印をつけ、その動きを追いました。目に注目したのには理由があります。キツツキの目は、頭の骨のくぼみにぴったり収まっていて、脳の入れ物のすぐ前にあります。だから、目の動きは、脳の入れ物の前側の動きとほぼ同じになるのです。エボシクマゲラでは、目の後ろの皮ふにも白い印をつけて追いました。目の印と皮ふの印の止まり方は、ほとんど同じでした。
03目のあたりは、くちばしとほぼ同じ勢いで止まっていた
頭の骨がクッションなら、どうなるでしょう。くちばしは木に当たって急に止まります。でも、その後ろの脳の入れ物は、クッションのおかげで少しゆっくり止まるはずです。つまり、目のあたりの「止まる勢い」は、くちばしより小さくなるはずです。
結果は違いました。6羽すべてで、くちばしと目のあいだの部分は、かたいまま動いていました。クマゲラと、アカゲラの1羽では、目とくちばしの止まる勢いに差がありませんでした。エボシクマゲラと、アカゲラのもう1羽では、むしろ目のほうが急に止まっていました。
一番よく衝撃がやわらいでいた1羽でも、目の止まる勢いは、くちばしより3.3%小さいだけでした。研究チームは、衝撃の吸収は「ほとんどない」か「まったくない」と結論づけました。キツツキの頭は、つつくとき、ひとかたまりのかたい物として動いていたのです。

04クッションがあると、穴をあけにくくなるだけだった
では、なぜキツツキの頭はクッションになっていないのでしょう。研究チームは、計算でこの問いを確かめました。キツツキの頭を、くちばし・脳の入れ物・首の3つに分けた模型をコンピューターの中に作ります。くちばしと脳の入れ物のあいだには、ばねを入れました。ばねのかたさを変えて、頭がどれだけクッションになるかを変えられるようにしたのです。
計算の結果、ばねがやわらかいほど、くちばしが木にささる深さは浅くなりました。頭が衝撃を吸ってしまうので、木に伝わる力が減るのです。同じ深さまで穴をあけるには、もっと速く頭をふる必要があります。そして、そうやって速くふると、脳の入れ物の止まる勢いは、結局小さくなりませんでした。
つまり、頭にクッションがあっても、穴をあける力が落ちるだけで、脳を守る得はなかったのです。キツツキにとっては、かたい頭のほうが得だということになります。研究チームは、スポンジ状の骨は、衝撃を「吸収する」のではなく、強い力に「耐えて壊れない」ための骨だろうと考えています。
05それでも脳が無事なのは、脳が小さいからだった
では、クッションなしで、キツツキの脳は大丈夫なのでしょうか。研究チームは、脳の入れ物を水で満たした入れ物と見なして計算しました。急に止まったとき、脳の入れ物の中にどれだけの圧力がかかるかを調べたのです。
人の頭が、脳しんとうを起こすぎりぎりの勢いで止まった場合と比べました。すると、観察した中で一番強いつつきでも、キツツキの脳にかかる圧力は、人の基準の4〜6割ほどでした。クマゲラで60%、エボシクマゲラで39%、アカゲラで50%です。
同じ勢いで止まっても、脳が小さいほど、中にかかる圧力は小さくなります。キツツキの脳は人よりずっと小さいので、クッションなしでも安全な範囲に収まっていたのです。研究チームの計算では、脳しんとうを起こすには、今の約2倍の速さでつつく必要があります。今の4倍かたい木を、全力でつつく場合も同じです。ただし、これは「キツツキの脳の強さが、人やサルの脳と同じくらい」と仮定した計算です。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「小さいから平気」という考えは、2006年にも出ていた
キツツキの脳が無事な理由として、脳の小ささに目をつけた研究者は前にもいました。アメリカのマサチューセッツ工科大学のギブソン(L. J. Gibson)さんは、2006年の論文で3つの理由を挙げました。1つめは、体が小さいので、同じ勢いで止まっても脳にかかる力が小さいこと。2つめは、衝突の時間がとても短いので、たえられる勢いが大きくなること。3つめは、脳が頭の骨の中で向いている方向のおかげで、脳と骨がふれる面積が広いことです。2022年の研究は、生きたキツツキの撮影と計算によって、このうち「脳が小さいから」という考えを裏づける形になりました。
それでも、脳に何も起きていないとは限らない
ここで、もう1つの研究を紹介します。2018年に発表された研究では、アルコールで保存されていたキツツキ10羽の脳を調べました。比べるために、木をつつかない鳥のハゴロモガラス5羽の脳も調べました。脳を特別な方法で染めると、キツツキ10羽のうち8羽で、血管のまわりや神経の束に染まったかたまりが見つかりました。また、調べた3羽のうち2羽で、「タウ」というたんぱく質がたまっていました。タウは、神経細胞の中の細い管を安定させるたんぱく質です。比べた鳥では、どちらも見つかりませんでした。
この研究者たちは、つつくことがタウをためているのかもしれないと考えました。ただし、キツツキの数は少なく、つつくことが原因だと決まったわけではありません。研究者自身も、さらに調べる必要があると書いています。一方、2022年の研究チームは、このたんぱく質を、脳の傷を直すしくみの一部かもしれないと見ています。このチームは、1回では脳しんとうにならない衝撃でも、何度もくり返せば脳を守ったり直したりするしくみが必要かもしれないと書いています。たとえば、脳のまわりの液体が少ないこと、首の血管を押さえて頭の中の血圧を高めているという仮説などです。
研究方法の工夫と限界
この研究のうまいところは、脳の入れ物の動きを、目の動きで代わりに測ったことです。生きた鳥の頭の中に機械を入れることはできません。目が骨のくぼみにぴったり収まっていることを利用したのです。一方で、調べたのは3種6羽だけで、どれも飼育されている鳥です。ほかの種や、野生でもっとかたい木をつつく場合にも同じかどうかは、これからの課題です。また、上下に動くことのできる下くちばしなどを、つつくときにどうやってかたく固定しているのかも、まだ分かっていません。
06まとめ
キツツキの頭の骨は、つつく衝撃をやわらげるクッションだと考えられてきました。ところが3種6羽のキツツキを高速撮影すると、目のあたりはくちばしとほぼ同じ勢いで止まっていました。頭は衝撃をほとんど吸収せず、かたいまま木に打ちつけられていたのです。クッションがあると、木に穴をあける力が弱まるだけでした。
脳が無事なのは、キツツキの脳が小さく、計算上は脳しんとうの基準の半分ほどにとどまるからです。ただ、くり返しの衝撃が脳に何も残さないかどうかは、まだ分かっていません。次にキツツキが木をつつく音を聞いたら、あの頭が1回ごとに、たった4ミリ秒ほどで丸ごと止まっていることを思い出してください。
研究カルテ
ベルギー・アントワープ
- 研究チーム
- ベルギーのアントワープ大学、フランス国立自然史博物館、カナダのブリティッシュコロンビア大学などのチーム(第一著者サム・ファン・ワッセンベルグ)
- 調べた場所
- ヨーロッパの動物園などとカナダの大学で撮影
- 調べた動物
- クマゲラ・エボシクマゲラ・アカゲラ(各2羽、合わせて6羽)
- 調べ方
- 木をつつく様子を高速カメラで撮り、くちばしと目の止まり方を比べた。さらに計算で脳にかかる力を求めた
- 分かったこと
- 頭は衝撃をほとんど吸収していなかった。それでも脳にかかる力は、人の脳しんとうの基準より下だった
- まだ分からないこと
- くり返しつつくことで、脳に小さな傷がたまっていないか
- 論文
- Current Biology(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Woodpeckers hit trees with their beaks again and again. For many years, people believed their skulls worked like a soft cushion. Some engineers even used this idea to make helmets.
A team of scientists filmed six woodpeckers with high-speed cameras. They looked at 109 videos, one picture at a time. They checked how fast the beak and the eye stopped.
The eye stopped about as quickly as the beak, or even more quickly. So the head did not really work as a cushion. It worked like a hard hammer. A soft head would make it harder to dig holes in trees.
Then why are their brains safe? Their brains are very small. A small brain feels less pressure when the head stops. But scientists still want to know if many hits leave small damage in the brain.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many woodpeckers did the scientists film?研究者は何羽のキツツキを撮影しましたか。
3種のキツツキを2羽ずつ、合わせて6羽撮影しました。109は動画の数です。
Q2. What did the woodpecker's head work like?キツツキの頭は何のように働いていましたか。
目もくちばしと同じくらい急に止まり、頭はかたいハンマーとして働いていました。
Q3. Why are woodpecker brains safe?キツツキの脳が無事なのはなぜですか。
脳が小さいので、頭が急に止まっても脳にかかる圧力が小さくてすみます。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Van Wassenbergh, S. et al. (2022) Woodpeckers minimize cranial absorption of shocks. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.05.052
- 2Gibson, L. J. (2006) Woodpecker pecking: how woodpeckers avoid brain injury. Journal of Zoology 論文確認済みdoi:10.1111/j.1469-7998.2006.00166.x
- 3Farah, G. et al. (2018) Tau accumulations in the brains of woodpeckers. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0191526
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





