鳥の脳は小さくてもぎっしり。カラスやオウムの脳には、同じ重さのサルの脳の約2倍の神経細胞

28種の鳥の脳を調べると、オウムやカラスの仲間は、同じ重さのサルの仲間の約2倍の神経細胞を持っていた。大脳の神経細胞はサルより多い種もいた。

No.102 9分で読めるえっ度 論文 2017年
冬の林の枝に、大きな黒いワタリガラスが1羽とまり、首をかしげて足元の木の実を見つめている。くちばしは太く、のどの羽は少しけば立っている。ウソ
ウソ

判定の対象鳥は脳が小さいので頭が悪い

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  1. オウムやカラスの仲間の脳は、神経細胞がぎっしりつまっていた
  2. 同じ重さの脳で比べると、サルの仲間の約2倍の神経細胞があった
  3. 大型のカラスやオウムの大脳は、オマキザルなどより神経細胞が多かった

人に話すなら

鳥の脳って小さいけど、神経細胞がぎっしりなんだって。ワタリガラスの大脳には、脳がずっと大きいオマキザルより多い神経細胞があるらしいよ。

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鳥の脳は小さいので、神経細胞の数もサルよりずっと少ない

すぐに物事を忘れる人を、「鳥頭」とからかうことがあります。「ニワトリは三歩歩けば忘れる」という言い方もあります。鳥の脳は小さいから、頭もよくないだろう。そう思っている人は多いはずです。

ところが、鳥の脳の中にある神経細胞を1つずつ数えた研究があります。28種の鳥を調べると、オウムやカラスの仲間の脳には、神経細胞がぎっしりつまっていました。同じ重さの脳で比べると、サルの仲間の約2倍です。大型のカラスやオウムでは、大脳の神経細胞が、脳のずっと大きいオマキザルやアカゲザルより多くなっていました。

脳の大きさだけを見ていると、この事実は見えてきません。脳の中に、何がどれだけつまっているか。それを数えたことで、「小さい脳=頭が悪い」という見方がくずれ始めたのです。

01鳥の脳は小さい。それでもカラスやオウムは、類人猿に近いことをやってのける

カラスやオウムのかしこさは、多くの研究で確かめられています。論文の中で研究チームは、例をいくつもあげています。道具を作って使う。ひらめいたように問題を解く。鏡にうつった自分に気づく。先のことに備えて計画を立てる。オウムの仲間は、人の言葉を覚えて、人とのやりとりに使うこともできます。

たとえば2017年、スウェーデンのルンド大学の研究者がワタリガラスを調べました。ワタリガラスは、道具を使う場面や、人と品物を交換する場面に備えて、前もって計画を立てられました。その場面が来るまで最大17時間あいても、計画どおりに行動できました。目の前の誘惑をがまんすることもできました。研究者は、この成績が類人猿に並ぶと書いています。

ところが、鳥の脳はとても小さいのです。カラスの仲間でいちばん脳が大きいワタリガラスでも、脳の重さは平均15.4gです。オウムの仲間でいちばん大きいスミレコンゴウインコでも、24.7gです。

脳の研究では、小さい脳は処理できる情報も少ないはずだと考えられてきました。では、鳥はどうやって、小さな脳でかしこくふるまえるのでしょうか。

0228種73羽の脳を部分ごとにとかして、神経細胞の数を数えた

この謎に取り組んだのが、チェコのカレル大学のパヴェル・ネメツ(Pavel Němec)さんたちのチームです。ブラジルの脳研究者スザーナ・エルクラーノ=ウーゼル(Suzana Herculano-Houzel)さんや、オーストリアのウィーン大学の研究者も加わりました。

チームが調べたのは、28種73羽の鳥です。オウムの仲間が11種、カラスをふくむ「鳴き鳥」が13種です。鳴き鳥は、さえずりを覚えて歌う鳥の仲間で、スズメやカラスもふくまれます。比べるために、エミュー、ニワトリの祖先のセキショクヤケイ、ハト、メンフクロウも調べました。

鳥は、飼育業者から買ったり、チェコの野外で許可を得てつかまえたりしました。鳥は麻酔で死なせたあと、脳を取り出しました。実験は、大学の動物実験の委員会の許可を受けています。

神経細胞を数えるのに使ったのは、「等方性分割法」という方法です。手順は次のとおりです。

  • 脳を、大脳・小脳などの部分に切り分ける
  • それぞれの部分をすりつぶして薬で細胞をこわし、細胞の「核」が水にただよう液にする
  • 液をよくかきまぜ、ほんの少しだけ取って、顕微鏡で核の数を数える
  • 神経細胞の核だけに光る印をつけ、全体の何割が神経細胞かを調べる

核の数を数えれば、細胞の数が分かります。この方法で、28種の脳を同じやり方で比べました。

03同じ重さで比べると、鳥の脳はサルの仲間の約2倍の神経細胞を持っていた

結果は、はっきりしていました。オウムの仲間と鳴き鳥の脳は、同じ重さのサルの仲間の脳の約2倍の神経細胞を持っていました。ネズミの仲間の脳と比べると、2〜4倍でした。鳥の脳では、1つ1つの神経細胞が小さく、すき間なくつまっていたのです。

体の大きさで比べると、差はさらに目立ちます。キクイタダキは、体重5gほどの小さな鳴き鳥です。体はマウスより約9倍も軽いのに、脳の神経細胞はマウスの約2.3倍ありました。

いちばん多かったのは、大型のカラスとオウムです。ワタリガラスの脳には約22億個、ルリコンゴウインコの脳には約31億個の神経細胞がありました。これは、小型のサルや、ずっと体の大きいひづめのある動物に並ぶ数です。

同じ大きさで描いたワタリガラスの頭と、オマキザルの頭を横に並べ、どちらも頭の中の脳がすけて見えている。カラスの脳は小さいのに、細かい点がぎっしりつまっている。

04大型のカラスとオウムの大脳には、サルより多い神経細胞があった

考える働きに深くかかわるのは、大脳です。チームは、大脳のうち「外套(がいとう)」とよばれる部分の神経細胞を、とくにくわしく数えました。外套は、オウムや鳴き鳥では大脳の体積の8〜9割ほどをしめる部分です。人やサルでは、ものを考えるときに働く「大脳皮質」などが外套にふくまれます。

鳥の大脳のこの部分には、サルの仲間の3〜4倍の密度で神経細胞がつまっていました。そのうえ、オウムや鳴き鳥では、脳が大きい種ほど、神経細胞の多くが大脳に集まっていました。

その結果、次のようなことが起きていました。ワタリガラスとミヤマオウムの大脳の外套には、約12億個の神経細胞がありました。オマキザルより多い数です。ルリコンゴウインコでは約19億個で、アカゲザルより多い数でした。カラスやオウムの脳は、オマキザルやアカゲザルの脳よりずっと小さいのにです。

人の脳と比べると、つくりの違いがよく分かります。人の大脳皮質は、脳の重さの82%をしめます。けれども、そこにある神経細胞は、脳全体の19%にすぎません。人の脳の神経細胞の多くは、小脳にあります。オウムでは、大脳の外套に脳全体の神経細胞の46〜61%が集まっていました。

05ただし「神経細胞が多い=かしこい」とまでは、まだ言えない

ここで、言いすぎに気をつけたいところです。この研究で分かったのは、神経細胞の「数」です。数が多いから鳥がかしこい、という因果関係までは確かめられていません。チーム自身も、神経細胞の数や密度と、かしこさとの関係は、行動の研究と合わせて調べる必要があると書いています。

数だけでは決まらないことは、データの中にも表れています。エミューの脳は約22gで、ヨウムの脳の2倍以上の重さがあります。それでも、神経細胞の数はヨウムより少なく、約13億個でした。神経細胞どうしがどうつながっているかも、この方法では分かりません。

1種あたりに調べた鳥は、多くて3羽でした。オスとメスの差を調べるには、数が足りなかったとチームは書いています。

また、「鳥」とひとまとめにはできません。エミュー、セキショクヤケイ、ハトは、同じ大きさの脳のオウムや鳴き鳥より、神経細胞がずっと少なかったのです。たとえば、セキショクヤケイの体重はシジュウカラの仲間の約50倍ですが、脳の神経細胞の数はほぼ同じでした。

それでも、セキショクヤケイの大脳の外套の神経細胞のつまり方は、サルの大脳皮質と同じくらいでした。チームは、大脳に神経細胞がぎっしりつまっていることは、鳥全体の特徴らしいと考えています。そして、ニワトリの行動の研究も進んでいます。ニワトリの行動の研究をまとめた2017年の論文によると、ニワトリは、動くところを見たボールがかくされても、その動きを最大180秒覚えていました。三歩どころではありません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:100年前、鳥の大脳は「本能の部分」だと考えられていた

鳥の脳が見下されてきたのには、歴史があります。100年ほど前、「比較神経解剖学の父」とよばれるエディンガーが、背骨のある動物の脳の進化の理論を立てました。その理論では、鳥の大脳は、ほとんどが「大脳基底核」でできているとされました。大脳基底核は、本能的な行動だけを受け持つ部分と考えられていました。一方、柔軟な行動には、哺乳類の大脳皮質が必要だとされたのです。この考えにもとづく脳の部分の名前は、その後も長く使われてきました。

20世紀の終わりになると、この見方がまちがっていたことを示す証拠が集まりました。鳥の大脳には、哺乳類の大脳皮質と同じような働きをする大きな部分がありました。そこで世界の脳研究者が集まり、6年ほどかけて話し合いました。そして、鳥の大脳の部分の名前を100年ぶりに新しくしました。2005年の論文で、その考え方が説明されています。名前は実験や考え方を左右する、というのがその理由でした。

進化の理由:なぜ鳥は脳に神経細胞をつめこんだのか

鳥は空を飛ぶので、体や頭を重くできません。ネメツさんたちは、かしこさを高めたいという進化の力と、脳を大きくできないという制限が同時に働いたと考えています。その結果、小さな神経細胞をぎっしりつめる方向に進化したのかもしれない、というのです。

ほかの理由もあげられています。オウムや鳴き鳥のひなは、生まれてから長いあいだ親に世話をされます。そのあいだに、脳がゆっくり育つ時間ができます。また、神経細胞がぎっしりつまっていると、細胞どうしの距離が短くなります。そのぶん情報を速く処理できるかもしれない、とチームは書いています。ただし、これらはまだ仮説です。

ほかの動物との比較:カラスの脳は「大きくなった鳴き鳥の脳」

カラスの仲間の脳は、ほかの鳴き鳥の脳と同じ決まりで作られていました。神経細胞の大きさやつまり方は変わらず、脳が大きくなったぶん、神経細胞の数が増えていたのです。チームはこれを、人の脳がほかの霊長類の脳を大きくした形であるのと同じだ、と説明しています。

キクイタダキの大脳の外套には、約6400万個の神経細胞がありました。マウスの外套の5倍近くです。キクイタダキの体重は、マウスの9分の1ほどしかありません。

研究方法の強みと限界

等方性分割法を使うと、脳の部分ごとの細胞の数を数えられます。哺乳類でも、同じ方法で数えたデータがすでにありました。そのため、28種もの鳥を、哺乳類と同じものさしで比べられました。

一方で、細胞をとかしてしまうので、神経細胞どうしのつながりや、1つ1つの細胞の形は分かりません。チームは今後、大脳のどの部分にどれだけ神経細胞があるかを細かく調べ、行動の研究と合わせる必要があると書いています。

06まとめ

28種の鳥の脳の神経細胞を数えると、オウムやカラスの仲間の脳は、同じ重さのサルの仲間の脳の約2倍の神経細胞を持っていました。大型のカラスやオウムの大脳には、脳のずっと大きいオマキザルやアカゲザルより多くの神経細胞がありました。

ただし、神経細胞の数がそのままかしこさを決めるかどうかは、まだ確かめられていません。脳の大きさだけで頭のよさは決まらない、というところまでが、今言えることです。

この研究で調べたワタリガラスの脳は、重さ約14gでした。その中に、約22億個の神経細胞がつまっていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

チェコ・プラハ(カレル大学)

研究チーム
チェコのカレル大学のパヴェル・ネメツさんたちと、ブラジルの研究者などの国際チーム
調べた場所
チェコ・プラハの大学の実験室
調べた動物
オウムの仲間11種、カラスをふくむ鳴き鳥13種、ほか4種の鳥、合わせて28種73羽
調べ方
脳を部分ごとに分けてとかし、細胞の核をそれぞれ数えた。神経細胞の核には印をつけて区別した
分かったこと
オウムと鳴き鳥の脳は、同じ重さのサルの仲間の約2倍の神経細胞を持っていた
まだ分からないこと
神経細胞の数が、どこまでかしこさを決めるのか。数とかしこさの因果関係
論文
米国科学アカデミー紀要 PNAS(2016年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Small Bird Brains Are Full of Brain Cells

Some people say birds are not smart because their brains are small. But crows and parrots can use tools and plan for the future.

Scientists in the Czech Republic counted the brain cells of 28 kinds of birds. They found that bird brain cells are small and packed together. Parrot and songbird brains have about twice as many brain cells as monkey brains of the same weight.

A raven's brain weighs about 14 grams. But its main thinking part has more brain cells than a capuchin monkey's. The monkey's brain is much bigger.

Does this mean more brain cells make an animal smarter? The scientists say we do not know that yet. They also need to study how the cells are connected. Still, a small brain does not always mean a weak mind. So the next time you see a crow, remember its busy little brain.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many kinds of birds did the scientists study?研究者たちは何種の鳥を調べましたか。

Q2. What are bird brain cells like?鳥の脳の細胞はどのようなものですか。

Q3. What do the scientists still not know?研究者たちがまだ分かっていないことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Olkowicz, S. et al. (2016) Birds have primate-like numbers of neurons in the forebrain. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1517131113
  2. 2PMC:上の論文の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4932926/
  3. 3Jarvis, E. D. et al. (2005) Avian brains and a new understanding of vertebrate brain evolution. Nature Reviews Neuroscience 論文確認済みdoi:10.1038/nrn1606
  4. 4Kabadayi, C. & Osvath, M. (2017) Ravens parallel great apes in flexible planning for tool-use and bartering. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aam8138
  5. 5Marino, L. (2017) Thinking chickens: a review of cognition, emotion, and behavior in the domestic chicken. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-016-1064-4

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい