「カラスは自分を捕まえた人の顔を覚える」はホント。仲間や子どもまでその顔に鳴いて騒いだ
お面をかぶってカラスを捕まえると、カラスは同じお面の人に何年も鳴いて騒いだ。捕まっていない仲間や、あとで生まれた子どもまで、そのお面に騒ぐようになった。
ホント判定の対象カラスはひどいことをした人の顔を覚えている
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- 捕まえた人と同じお面の人に、カラスは何年も鳴いて騒いだ
- 捕まっていない仲間や子どもまで、そのお面に騒ぐようになった
- 「仕返し」といっても、離れて鳴きたてるだけで攻撃はまれ
人に話すなら
カラスって、自分を捕まえた人の顔を覚えてるんだって。しかも捕まってないカラスや子どもまで、その顔を見ると騒ぐようになるらしいよ。ただ、攻撃はまれで、離れて鳴くだけなんだって。
読む前に予想しよう
カラスは自分を捕まえた人の顔を覚えている
お面の実験で、捕まえたときのお面にだけ何年も鳴いて騒いだ。
アメリカのシアトルにあるワシントン大学の研究では、かぶって歩くとカラスに鳴きたてられるお面がありました。背の高い人がかぶっても、低い人がかぶっても、男性でも女性でも同じでした。カラスが反応していたのは、かぶった人ではありません。お面の「顔」です。
このお面は、研究者がカラスを捕まえたときにかぶっていたものです。ワシントン大学のジョン・マーズラフ(John Marzluff)さんたちは、捕まえたときのお面を見たカラスが、何年も鳴いて騒ぐことを確かめました。大学の構内では、このお面をしかるカラスの割合が、捕獲から2週間後の26%から、2.7年後には66%に増えました。
「カラスは人の顔を覚えて仕返しする」という話は、日本でもよく聞きます。でも、カラスが見ているのが顔なのか、服や歩き方なのかは、ふだんの観察では分けられません。研究チームは、お面を使うことでこの問題を解きました。そして、顔を覚えるだけでなく、その顔の情報が群れの中に広がっていく様子までとらえました。
01研究者は同じお面をかぶって、カラスを捕まえて放した
研究の舞台は、シアトルの近くの5か所です。研究チームは各地で、顔全体をおおうお面をかぶり、野生のアメリカガラスを7〜15羽ずつ捕まえました。網を発射する道具で捕まえ、脚に目印の輪をつけてから放しています。捕まえる係の2人は、同じお面をかぶっていました。
カラスを手に持っていた10〜30分のあいだ、捕まっていないカラスたちが上空を回りながら、警戒の声を出していました。作業が終わると、研究者は近くの建物の中に入ってからお面を外しました。
ここからが実験の本番です。お面をかぶった人が、2〜3.8キロの決まった道を、1〜2時間かけてゆっくり歩きます。出会ったカラスが何をしたかを、1羽ずつ記録しました。歩く人には、実験のねらいを知らない人も加わりました。調べる側の思いこみが、記録にまじらないようにするためです。
比べるための別のお面も用意しました。ここでは、捕まえたときのお面を「危険なお面」、それ以外を「ふつうのお面」と呼びます。大学以外の4か所では、ある場所の危険なお面が、別の場所ではふつうのお面になるように組み合わせました。お面の見た目のせいではなく、「捕まえたときの顔かどうか」で反応が変わるのかを確かめるためです。
02危険なお面の人が歩くと、カラスは鳴きたててついてきた
カラスの反応は、はっきりしていました。危険なお面の人を見たカラスは、しわがれた「カー」という警戒の声をくり返し、翼や尾を小刻みに動かします。研究チームは、この行動を「しかる」と呼びました。2羽以上がいっしょにしかる場合は「モビング」です。モビングとは、敵を何羽もで取り囲んで騒ぐ行動のことです。
危険なお面をかぶっていれば、体の大きさや年齢、性別、歩き方が違う人でも、カラスはしかりました。人ごみの中にいても、しかりました。一方で、お面なしの研究者や、ふつうのお面の人をしかるカラスはわずかでした。危険なお面の人とふつうのお面の人が同時に歩くと、カラスはたいてい、ふつうのお面の人を無視しました。そして、危険なお面の人のあとを追ってしかりました。
大学の構内で捕獲の前に調べたときは、このお面をしかったカラスは167羽のうち3.0%だけでした。捕獲から2週間後には、出会ったカラスの26%がしかりました。1.25年後は30.4%、2.7年後は66%です。2010年の論文は、カラスが危険な顔を「少なくとも2.7年」覚えていると報告しました。2012年の論文では、構内でしかるカラスの数は5年にわたって増え続けたと報告されています。
03捕まっていないカラスまで、危険なお面をしかるようになった
構内でしかるカラスが増えたのは、捕まったカラスが増えたからではありません。捕獲は実験の最初にしか行っていないからです。お面をしかったカラス160羽を調べると、86.9%は危険なお面の人に捕まったことのないカラスでした。目印のないカラスか、2年以上前にお面なしの人に捕まったカラスです。
カラスのしかる声は、仲間を呼び寄せます。しかる場面126回のうち82%で、まわりのカラスが集まって群れになりました。群れは平均6.4羽、多いときは21羽です。群れには、捕まったことのあるカラスと、ないカラスがまじっていました。
ただ、群れの中のカラスが本当に顔を覚えたのか、まわりにつられて騒いだだけなのかは、区別がつきません。そこで研究チームは、1羽だけでいて、脚に目印のないカラスに注目しました。1羽だけなら、つられて騒ぐ相手がいないからです。
大学以外の4か所で、群れが危険なお面をしかった場所から100メートル以内では、あとで出会った1羽だけでいるカラスの27.8%(54羽中)がお面をしかりました。群れが一度も現れなかった場所では、3.3%(181羽中)だけでした。実験の前半と後半を比べても、1羽だけでいるカラスが危険なお面をしかる割合は4.5%から9.9%に上がりました。同じ時期に、ふつうのお面をしかる割合は5.6%から3.4%に下がっています。1羽だけでいるカラスの見分け方が、より正確になっていたのです。

04親がしかる姿を見た子どもは、親がいなくてもお面をしかった
次に研究チームは、親から子への伝わり方を調べました。2007年、大学の構内で、危険なお面をいつもしかる親を10組選びました。巣立ったばかりの子どもが見ている前で、研究者が危険なお面をかぶって縄張りを訪れます。親にしかってもらい、それを子どもに見せるためです。2008年には、ほかの場所の家族も加えました。縄張りは全部で14か所あり、それぞれを10〜24回、1回5〜20分ずつ訪れました。
子どもは、お面の人に捕まった経験がありません。2008年には一部の子どもを手で捕まえて目印と小さな発信機をつけ、巣立ったあとも追いかけました。このとき研究者は巣の下でお面を外し、子どもにお面が見えないようにしています。
結果です。親がいないときに危険なお面の人が近づくと、11家族のうち7家族の子どもがしかりました。お面をかぶらない同じ人には、9家族のうち1家族しかしかりませんでした。子どもたちは、親のしかる姿を見ることで、危険な顔を覚えたと考えられます。
ただし、子どもだけでしかっても、まわりのカラスは集まってきませんでした。研究チームは、子どもが育って声がしっかりしてくれば、仲間を呼べるようになるだろうと予想しています。
05判定:顔を覚えるのはホント。でも「仕返し」は離れて鳴きたてるまで
捕まったカラス自身の見分け方は、とても正確でした。捕まったことのあるカラス10羽の記録を見ると、危険なお面の人には23回中21回(91.3%)しかりました。ふつうのお面の人には、18回中2回(11.1%)だけです。捕まっていないカラスは、危険なお面に421回中137回しかり、ふつうのお面には904回中107回しかりました。自分で体験したカラスのほうが、見分けがはっきりしていました。
では、「仕返し」はどうでしょうか。しかるとき、カラスがお面の人に一番近づいた距離は、平均17.4メートルでした。まわりにとまったり、人に合わせて移動したりしますが、急降下することはまれでした。群れは10〜100メートルついてきてから、元の場所に戻っていきました。
場所による違いもありました。2010年の論文によると、人がカラスをひどく扱う場所ほど、カラスの攻撃的なしかり方は弱くなりました。2012年の論文によると、住民にカラスが殺されることのある場所では、捕獲のときにカラスの群れが集まったのは4回中1回だけでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
怖い相手の情報を仲間から学ぶと、痛い思いをせずにすむ
自分で危険を体験して学ぶ方法は、正確です。でも、そのたびにけがをしたり、命を落としたりするかもしれません。仲間のふるまいから学べば、そのコストを払わずにすみます。ワシントン大学のチームは、カラスがこの2つの学び方の両方を使っていると考えました。今回の実験でも、捕まった本人の見分け方が最も正確で、仲間から学んだカラスは少しあいまいでした。
カラスに対する人間の態度は、人によって大きく違います。研究中にも、自宅でカラスにえさをやっていると話す住民がいました。一方で、ある調査地では3羽のカラスが撃たれています。研究チームは、こうした人間の一人ひとりを見分けられることが、町でくらすカラスの役に立っていると考えています。若いカラスは巣立ったあと遠くへ移り住むので、危険な人の情報は1世代で数キロ広がりうる、とも書いています。
「敵は仲間から教わる」という考えは、40年以上前から試されていた
1978年に発表された研究では、飼育しているクロウタドリで実験をしました。クロウタドリは、ヨーロッパにすむ黒いツグミの仲間です。仲間が騒ぐ姿と、害のない見知らぬ鳥を同時に見せると、クロウタドリはその鳥にも騒ぐようになりました。この「敵の情報」は、少なくとも6羽の鳥のあいだを次々と伝わりました。
マーズラフさんは、20年ものあいだ、カラスが自分を捕まえた研究者を見分けているのではないかと考えていたそうです。一度捕まえた鳥が、特定の研究者を警戒しているように見えたからです。お面の実験は、この疑問に答えるものになりました。
人の顔を見分ける鳥は、ほかにもいる
2009年、アメリカのフロリダ大学のチームは、大学構内に巣を作るマネシツグミを調べました。同じ人が4日続けて巣に近づくと、親鳥は日に日に遠くから巣を飛び立つようになりました。5日目に別の人が同じように近づくと、反応は1日目と同じに戻りました。マネシツグミは、30秒ずつ2回会っただけで、その人を覚えていました。
カラスの脳を調べた研究もあります。2012年、マーズラフさんたちは、生きたカラスの脳の働きを画像で調べました。捕まえた人の顔を見たカラスでは、人間などで恐れの学習に関わる部分が活発になりました。このときカラスは体を固くして、まばたきを減らし、じっと見つめていました。
この研究の限界
目印のないカラスは、1羽ずつ見分けられません。そこで研究チームは、同じ場所で何度も出会ったカラスを「同じ個体」とみなして分析しました。この仮定がずれていれば、仲間から学んだ割合を多く見積もっている可能性があります。逆に、別の場所で群れを見たカラスを数えもらしているかもしれません。研究チームは、多く見積もるずれより、少なく見積もるずれのほうが大きいだろうと考えています。
また、この実験の「危険」は、捕まえて放すことでした。研究チームは、仲間が殺される場面を見た場合には、その場で見て覚える役割がもっと大きいかもしれない、と書いています。調べたのはアメリカガラスで、日本のハシブトガラスやハシボソガラスは、この研究では調べていません。
06まとめ
カラスは、自分を捕まえた人の顔を少なくとも2.7年覚えていました。その情報は群れの仲間や、あとで生まれた子どもにも伝わり、5年のあいだに少なくとも1.2キロ先まで広がりました。
一方で、「仕返し」の中身は、距離をとって鳴きたて、少しついてくることでした。研究者がカラスを捕まえたのは、実験の最初の一度だけでした。それでも大学の構内では、2.7年後、出会ったカラスの3分の2がそのお面に鳴いて騒ぐようになっていました。
研究カルテ
アメリカ・シアトル
- 研究チーム
- アメリカのワシントン大学のチーム(ジョン・マーズラフ、ヘザー・コーネルら)
- 調べた場所
- アメリカ・シアトルの近くの5か所(ワシントン大学の構内など)
- 調べた動物
- 野生のアメリカガラス(学名 Corvus brachyrhynchos)
- 調べ方
- お面をかぶってカラスを捕まえて放し、あとで同じお面や別のお面で歩いて反応を記録した
- 分かったこと
- カラスは捕まえたときのお面を少なくとも2.7年見分けた。捕まっていない仲間や子どもにも広まった
- まだ分からないこと
- 目印のないカラスは1羽ずつ見分けられず、誰が誰から学んだかは推定にとどまる
- 論文
- Animal Behaviour(2010年)、Proceedings of the Royal Society B(2012年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in Seattle wore a mask when they caught wild crows. They put a ring on each bird's leg and let it go. Later, people walked around in the same mask.
Many crows called loudly at the person in the dangerous mask. They rarely did this to people in other masks. The crows still knew the mask after 2.7 years.
Crows that were never caught also learned to call at the mask. Young crows learned it from their parents. On the university campus, the number of calling crows kept growing for five years.
So, do crows take revenge on people? On average, the crows came no closer than about 17 meters. They called and followed the person for a short time, but they rarely attacked.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the scientists wear when they caught the crows?研究者はカラスを捕まえるとき、何を身につけましたか。
研究者は捕まえるときにお面をかぶり、あとで同じお面で歩いて反応を調べました。
Q2. How long did the crows still know the mask?カラスはどのくらいの期間、お面を見分けていましたか。
2010年の論文は、少なくとも2.7年見分けていたと報告しています。
Q3. What did the crows usually do to the person in the dangerous mask?カラスは危険なお面の人に、ふつう何をしましたか。
カラスは距離をとって鳴きたて、少しついてきましたが、攻撃はまれでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Marzluff, J. M. et al. (2010) Lasting recognition of threatening people by wild American crows. Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2009.12.022
- 2Cornell, H. N. et al. (2012) Social learning spreads knowledge about dangerous humans among American crows. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2011.0957
- 3Marzluff, J. M. et al. (2012) Brain imaging reveals neuronal circuitry underlying the crow's perception of human faces. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1206109109
- 4Levey, D. J. et al. (2009) Urban mockingbirds quickly learn to identify individual humans. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.0811422106
- 5Curio, E. et al. (1978) Cultural transmission of enemy recognition: one function of mobbing. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.202.4370.899
- 6University of Washington, School of Forest Resources E-news(2011)washington.edu/alumni/partnerships/cfr/201104/crows.html
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





