台風と本州にはさまれた海鳥オオミズナギドリは、台風の目へ飛んだ。目を約8時間追った鳥も

台風と本州にはさまれたオオミズナギドリは、陸から離れて台風の目の方へ飛んだ。強い風で陸に流されるのを避けるためらしい。

No.089 7分で読めるえっ度 論文 2022年
灰色の雲がうずまく荒れた海の上を、細長い翼を広げたオオミズナギドリが、波すれすれに低く飛んでいる。鳥は背中が茶色、おなかが白く、白っぽい顔に細い茶色のすじがあり、くちばしは淡い色で細長く、先が少し下に曲がっている。

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  1. 粟島のオオミズナギドリを11年間、GPSで追った
  2. 強い風の中、陸から離れて台風の目の方へ飛ぶ鳥がいた
  3. 陸に吹き寄せられるのを避けるためだと考えられている

人に話すなら

オオミズナギドリって、台風が来て陸との間にはさまれると、逆に台風の目の方へ飛んでいくんだって。8時間ほども目を追いかけた鳥がいたらしいよ。

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オオミズナギドリは、台風が来るといつも陸に逃げこむ

台風が近づくと、人は家にこもり、船は港に戻ります。では、海の上で暮らす海鳥はどうしているのでしょうか。台風のあとには、多くの海鳥が弱ったり死んだりして海岸に打ち上げられることがあります。何万羽にのぼることもあります。

イギリスのスウォンジー大学と名古屋大学などのチームは、新潟県の粟島で子育てをするオオミズナギドリを、11年間GPSで追いました。台風が来た時の飛び方を調べると、強い風の中で本州との間にはさまれた鳥は、陸から離れて台風の目の方へ飛んでいました。目を8時間ほども追いかけた鳥もいました。

これまでGPSで追われた海鳥の多くは、台風の一番強い風をさけて、まわりこむように飛んでいました。オオミズナギドリは、わざわざ風の強い中心の方へ向かったことになります。研究チームは、その理由を「陸に吹き寄せられないため」と考えています。

01台風のとき、海鳥がどう動くかはほとんど分かっていなかった

台風は、海の上で生まれて育ちます。そのため、海で暮らす鳥は台風にあいやすい生き物です。これまでの研究では、台風の中で海鳥を追えた例はわずかでした。アカアシカツオドリやオオグンカンドリは、台風が通る間、ふだんエサをとる海から400〜600kmも離れたことが報告されています。台風から250km離れた所で、時速100kmをこえる風にあったオオグンカンドリは、死んだとみられています。

台風はめったに来ず、強さも進み方も毎回違います。鳥がどんな決まりで動いているのかを知るには、何度もの台風で、たくさんの鳥を追う必要があります。日本のまわりの北西太平洋は、世界で一番台風が多い海です。さらに日本海は、日本・ロシア・朝鮮半島に囲まれています。台風が入ってくると、鳥がまわりこんで逃げる道が限られます。

02粟島のオオミズナギドリ401羽に、11年間GPSをつけた

オオミズナギドリは、体重約580gの海鳥です。細長い翼で、海面すれすれと少し上とで風の強さが違うことを利用して飛びます。この飛び方のおかげで、少ないエネルギーで速く飛べます。まわりの空気に対する飛ぶ速さは、ふだん最大で秒速約14mです。

研究の中心は、スウォンジー大学のエマヌイル・レンピダキス(Emmanouil Lempidakis)さんとエミリー・シェパード(Emily Shepard)さんです。日本からは、名古屋大学の依田憲さんたちが加わりました。論文は2022年に、アメリカの科学誌「PNAS」に出ました。

チームは2008年から2018年まで、粟島で子育てをする大人の鳥401羽の背中に、小さなGPSの記録計をテープで付けました。記録計の重さは、鳥の体重の5%未満です。この中から、台風や嵐が日本海を通った時に海にいた鳥を選びました。5年分の75羽、合わせて2,319時間分の記録になりました。

鳥のいた場所ごとに、その時の風の強さと向きを求めました。使ったのは、観測と計算を組み合わせて過去の風を再現したデータです。そして、鳥が台風の目に対してどちらへ飛んだかを分析しました。

03強い風の中で、鳥は台風の目の方へ向かった

まず分かったのは、鳥が風の強さに関係なく飛んでいたことです。台風並みの風になっても、飛ぶのをやめる様子はありませんでした。

風が秒速10mより弱い時、鳥は台風の目から離れる向きに飛びました。ところが風が強くなるほど、目の方へ向かうようになりました。強い5個の台風や嵐の中を飛んだ55羽のうち、13羽が目から60km以内に近づきました。4羽は30km以内まで行きました。台風の目の直径は20〜50kmです。風は、目をとり囲む「目の壁」に近づくほど強くなり、目の中に入ると弱まります。4羽は、この目の壁の中か、そのすぐ近くを飛んでいたことになります。

上空から見た日本海で、うずまく台風の雲の中心近くを、1羽のオオミズナギドリが飛んでいる。遠くに陸地が見え、鳥は陸と反対の方へ向かっている。

目を追いかけ続けた鳥もいました。タリム(Talim)という嵐の目を4時間あまり追った鳥が1羽いました。台風シマロン(Cimaron)の目を約8時間追った鳥も2羽いました。鳥が受けた風は、最大で秒速21mでした。鳥がふだん飛ぶ速さ(秒速約14m)より強い風です。

ただし、全部の鳥が目に向かったわけではありません。シマロンが日本海に入った時、鳥がふだんよく使う海域には32羽がいました。目が一番近づいた時、目に向かって追いかけていた鳥は3羽、向かい始めた鳥は2羽でした。多くの鳥は、岸の近くの風の弱い所にとどまっていました。

04目に向かったのは、台風と本州にはさまれた鳥だった

どんな鳥が目に向かったのでしょうか。カギは、鳥と陸の位置でした。鳥が台風の目の方へ飛んだのは、それが陸から離れる向きになり、しかも強い風を受けている時だけでした。

粟島の鳥は、ふだん本州の近くの海でエサをとります。台風は南から日本海に入ってくるので、鳥は台風の通り道と本州の間にはさまれやすくなります。台風が通りすぎたあとには、陸に向かって強い風が吹きます。この風に流されると、陸に打ちつけられるおそれがあります。

研究チームによると、強い風の中で陸に近づくのは、海鳥にとって危険です。陸にぶつかったり、うまく下りられなかったりします。地面に下りると飛び立ちにくく、カラスや猛禽類にねらわれます。一方、台風の目の方へ向かえば、陸から離れ、そのあとの陸向きの強い風もさけられます。

台風の北西側にいた鳥は、台風の外側をまわりこむように飛びました。けれども本州の近くにいる鳥がまわりこもうとすると、強い向かい風を受けて、本州の方へ流されるおそれがあります。逆の向きにまわりこむには、台風より速く、何百kmも飛び続けなければなりません。この研究の台風や嵐には、秒速20mをこえる速さで進むものもありました。研究チームは、本州の近くにいる鳥には、まわりこむのは難しいと考えています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

陸の位置を知らないと、9割が陸に打ち上げられた

研究チームは、コンピューターの中に「鳥」を放す実験もしました。この「鳥」には、本物の鳥のデータから求めた、風に対する飛び方だけを教えます。陸がどこにあるかは教えません。この「鳥」も、多くの嵐で、目まで行ける位置にいたものの28〜66%が目から60km以内に近づきました。本物の鳥の結果とよく似ています。ところが、コンパス(Kompasu)という嵐では、91%の「鳥」が陸に打ち上げられました。研究チームは、本物の鳥がそうならないのは陸の位置を知っているからではないか、と考えています。台風への対応には、飛ぶ力に加えて、自分がどこにいるかを知る力も必要らしいのです。

若い鳥は、陸がどこにあるかを知らずに飛んでいるらしい

同じ名古屋大学の依田さんたちは、2017年に別の研究を出しています。巣立ったばかりの若いオオミズナギドリと、大人の渡りのルートを比べたものです。大人は陸をよけて回り道をしました。ところが若い鳥は、南へまっすぐ飛び、本州の山をこえて渡りました。若い鳥は、生まれつきの「南へ」という向きの感覚だけで飛んでいるらしいのです。そうだとすると、台風のときに陸の位置が分からず、流されやすいかもしれません。実際、台風のあとには若いオオミズナギドリが打ち上げられやすいらしいことが報告されています。ただし、今回の研究では若い鳥は追っていません。打ち上げられる理由もはっきりしていません。

海の上で、鳥は風の流れを見越している

東京大学と名古屋大学のチームは、2017年に、GPSの記録から鳥が向いている方向と風を同時に見積もる方法を発表しました。その結果、巣に帰る海鳥は、目印のない海の上でも、風に流される分を見越して向きを変えていました。海鳥が目印のない海でも、行き先の方向を知っているらしいことを示す研究の1つです。

この研究の限界

風の強さは、鳥のいた場所で実際に測ったものではなく、過去の風を再現したデータから求めた値です。このデータは、台風の時の海面から10mの高さの風を、秒速5〜20mほど弱く見積もるくせがあります。一方、オオミズナギドリは海面近くを飛ぶことが多く、そこでは風が少し弱まります。GPSの記録計は年によって型が違い、古い型ほど位置のまちがいが多く出ました。そのため一部の嵐では、記録の5.2%未満を取り除いて分析しています。また、鳥が台風の接近を気圧の変化や低い音で感じ取っている可能性はありますが、まだ確かめられていません。研究チームは、地球温暖化で台風が強くなると、この作戦で足りるのかは分からないとも書いています。

05まとめ

粟島のオオミズナギドリを11年間GPSで追うと、台風と本州にはさまれた鳥は、強い風の中で陸から離れ、台風の目の方へ飛びました。55羽のうち4羽は目から30km以内まで近づき、約8時間も目を追った鳥もいました。陸に吹き寄せられる危険をさけるためだと考えられています。

一方で、岸近くの風の弱い所にとどまる鳥や、台風の外側をまわりこむ鳥もいました。オオミズナギドリは、自分の位置と風の向きによって、台風への対応を変えているようです。粟島のオオミズナギドリは、ふだんは本州の海岸ぞいを北へ飛んでエサをとりに行き、津軽海峡を通ることもあります。ふだんは海岸ぞいを飛ぶ鳥が、台風の時だけは海岸から離れる道を選んでいたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

新潟県・粟島

研究チーム
イギリスのスウォンジー大学と名古屋大学などのチーム(第一著者エマヌイル・レンピダキス)
調べた場所
新潟県の粟島と、そのまわりの日本海
調べた動物
粟島で子育てをするオオミズナギドリ(学名 Calonectris leucomelas)の大人
調べ方
2008〜2018年に401羽にGPSをつけ、台風や嵐が来た時の飛び方を風のデータと比べた
分かったこと
強い風の中、本州との間にはさまれた鳥は、陸から離れて台風の目の方へ飛んだ
まだ分からないこと
鳥が台風をどうやって感じ取るのか。若い鳥はどう台風に対応するのか
論文
PNAS(米国科学アカデミー紀要、2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Seabirds Fly Toward the Eye of a Typhoon

Streaked shearwaters are seabirds that weigh about 580 grams. Some of them raise their chicks on Awashima, an island in the Sea of Japan.

Scientists from the UK and Japan put GPS trackers on 401 adult birds. They followed the birds for 11 years. They studied how the birds flew when typhoons came.

In strong winds, some birds flew toward the eye of the storm. Four birds came within 30 kilometers of the eye. Two birds followed the eye of one typhoon for about eight hours.

Why did they do this? These birds were between the typhoon and the main island of Japan. Strong winds could push them onto the land. Flying toward the eye took them away from the land. Not all birds did this, and many stayed near the shore.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long did the scientists follow the birds?研究者たちは何年間、鳥を追いましたか。

Q2. Where were the birds that flew toward the eye?台風の目の方へ飛んだ鳥は、どこにいましたか。

Q3. What could strong winds do to the birds?強い風は、鳥にどんなことを起こすおそれがありましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Lempidakis, E. et al. (2022) Pelagic seabirds reduce risk by flying into the eye of the storm. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2212925119
  2. 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9565516/
  3. 3Yoda, K. et al. (2017) Compass orientation drives naïve pelagic seabirds to cross mountain ranges. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2017.09.009
  4. 4Goto, Y. et al. (2017) Asymmetry hidden in birds' tracks reveals wind, heading, and orientation ability over the ocean. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1700097

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい