魚に丸のみされたウナギの子が、胃から引き返してエラから逃げていた。32匹中9匹が成功

魚に丸のみされたウナギの子は、胃から食道へ引き返し、敵のエラのすき間から尾を出して逃げていた。X線動画で初めてとらえた。

No.018 7分で読めるえっ度 論文 2026年
川の底で、茶色いずんぐりした魚のエラぶたのすき間から、細長いウナギの子がしっぽを先にして体を半分ほど抜け出させている。

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  1. ウナギの子は、魚に丸のみされても、エラのすき間から逃げ出せる
  2. 胃に入ったあと、しっぽを先にして食道へ引き返していた
  3. かみついて食べるフグからは、1匹も逃げられなかった

人に話すなら

ウナギの子って、魚に丸のみされても、胃からしっぽを先にして引き返して、相手のエラのすき間から出てくるんだって。X線の動画で撮ったらしいよ。

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ウナギの子は、魚に飲みこまれた後でも逃げ出すことがある

魚に丸のみされたら、ふつうはそこで終わりです。飲みこまれた獲物は、胃の強い酸と酸素のない環境の中で、やがて動けなくなります。ところが、ニホンウナギの子は、そこから出てくることがありました。

長崎大学の研究チームは、ウナギの子を食べた魚の体の中を、X線の動画で撮影しました。すると、胃まで飲みこまれたウナギが、しっぽを先にして食道へ引き返していました。そして、相手のエラのすき間から外へ抜け出したのです。脱出に成功したのは、食べられた32匹のうち9匹でした。

食べられた後に自分から逃げ出す動物は、ほとんど知られていません。しかも、獲物が敵の体の中でどう動いているのかは、外からは見えません。チームは、ウナギに薬を注射してX線で写すという、それまでになかった方法でこの問題を解きました。

01食べられたはずのウナギが、水そうの中を泳いでいた

発見のきっかけは、2020年度に始めた実験でした。長崎大学の河端雄毅(かわばた・ゆうき)准教授の研究室では、ニホンウナギの子と、川にすむ肉食の魚ドンコを同じ水そうに入れ、その攻防を観察していました。

当時、実験を担当していたのは、水産学部4年生だった長谷川悠波(はせがわ・ゆうは)さんです。初めは高速カメラで、ウナギが攻撃をかわす瞬間や食べられる瞬間を撮っていました。ところが長谷川さんは、食べられたはずのウナギが水そうの中を泳いでいることに気づきました。

そこで、長い時間を撮れるふつうのカメラに切り替えました。すると、ドンコにとらえられたウナギ54匹のうち28匹が、ドンコのエラのすき間から抜け出していました。抜け出した28匹は、すべてしっぽから先に出てきました。この結果は2022年に論文になりました。

02ウナギにバリウムを注射して、魚の体の中をX線で撮った

ただ、ふつうのカメラでは、ドンコの体の中は見えません。ウナギがどの道を通ってエラにたどり着くのかは、分からないままでした。チームは最初、ウナギは口の中からまっすぐエラへ向かっているのだろうと考えていました。

そこで2022年から、新しい方法を試しました。X線に写る薬(硫酸バリウム)を、ウナギのおなかとしっぽに注射します。そのウナギを、X線の動画を撮る装置の中でドンコに食べさせるのです。注射針の太さ、薬の濃さや量、ウナギの大きさを決めるまでに、半年以上かかりました。

実験に使ったウナギの子は、平均で長さ約7センチです。相手のドンコは11匹で、平均で長さ約15センチでした。

半分透けて見える魚の体の中で、細長いウナギの子が胃の壁にそって輪をえがくように体を回している。

03胃まで飲みこまれたあと、ウナギは食道へ引き返していた

X線の映像には、予想していなかった姿が写っていました。とらえられたウナギは32匹で、すべてが体の少なくとも一部をドンコの胃まで飲みこまれていました。それでも多くのウナギが、消化管を食道、エラへとさかのぼって逃げようとしました。

最もよく見られた流れは、次の順番です。まず、しっぽの先を食道の方へ差しこむ。次に、しっぽをエラのすき間から外へ出す。最後に、エラから頭を引き抜く。頭を抜く最後の場面では、6匹が体をくねらせて巻くように動き、そのうち5匹が抜け出しました。

体全体が胃の中に入ってしまったウナギは11匹いました。このウナギたちは、胃の壁にそってぐるぐる回りました。胃から出る道を探しているらしい動きです。11匹のうち5匹は、そこからしっぽを食道へ差しこむ段階に進みました。一方、しっぽを肛門の方へ向けてしまった2匹は、逃げられませんでした。

しっぽがエラから出た13匹のうち、9匹が最後まで脱出しました。チームは、しっぽがエラから出るまでが勝負だと考えています。脱出できなかったウナギは、ドンコの消化管の中でだんだん弱り、平均約212秒で動かなくなりました。ウナギの体重によって、逃げられる割合が変わることも分かりました。チームは、消化される前にすばやく逃げる筋力や、胃の中にたえる力が大切だろうと考えています。

04どの敵からでも逃げられるわけではない

この逃げ技には、使えない場面もあります。2025年の論文で、チームはウナギの成長の段階ごとに実験しました。シラスウナギと呼ばれる時期のうち、最も早い2つの段階の子どもは、1匹も逃げられませんでした。それより後の段階では、28.1%が逃げました。逃げられるようになる時期は、ウナギが川や河口の底でくらし始める時期と重なっていました。

2026年の論文では、6種類の敵で試しました。そのうち5種類は、ドンコの仲間、メバル科の魚、スズキの仲間、コイ科の魚、そして大きなニホンウナギです。どれも、水といっしょに獲物を吸いこんで丸のみします。この5種類からは、どれからもウナギはエラを通って逃げました。逃げた割合は、5種類を合わせて32%でした。

ところが、クサフグからは1匹も逃げられませんでした。クサフグは、6種類の中でただ1種類、獲物にかみついて食べる魚です。ウナギは細かくかみちぎられて食べられました。かみついてから食べる敵には、この逃げ技は通じないようです。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

食べられてから逃げる動物は、ほかにもいる

獲物が敵に食べられた後も生き残る例は、いくつか知られています。その多くは、かたい殻のおかげで消化されず、ふんと一緒に出てくるといった受け身のものです。自分から動いて逃げる例は、とても珍しいのです。

日本では、神戸大学の杉浦真治(すぎうら・しんじ)さんたちが、2つの例を報告しています。1つは2018年のミイデラゴミムシです。この甲虫はヒキガエルに飲みこまれると、おしりから熱い化学物質をふき出します。すると43%のカエルが虫をはき出し、はき出された虫はすべて生きていました。

もう1つは、2020年のマメガムシという水生の甲虫です。カエルに飲みこまれたマメガムシの90%が、6時間以内にカエルの肛門から生きて出てきました。ところが、脚をろうで固めたマメガムシは、すべてカエルの体の中で死にました。マメガムシは脚で消化管の中を進み、出口へ急いでいたと考えられます。ウナギは逆に、出口ではなく入口の方へ引き返しました。

細長い体は、逃げるために役立ったのか

ウナギのような細長い体は、ウナギやアナゴの仲間だけでなく、ハゼやナマズの仲間などで別々に進化してきました。けれど、細長い体が何の役に立つのかは、はっきりしていません。これまでの仮説は、せまいすき間を使える、穴をほりやすい、といったものでした。

チームは、細長い体が「敵の体から抜け出す」のにも役立つかもしれないと考えています。体の太い獲物は、エラのすき間を通れないからです。また、多くの魚は獲物を頭から飲みこみます。細長いウナギは、頭から飲まれても、しっぽが食道に残りやすいのかもしれません。ウナギが後ろ向きに泳ぐのが得意なことも、しっぽから逃げることと関係している可能性があります。

ウナギを守る研究としての意味

ニホンウナギは、絶滅危惧種に指定されています。数を回復させるため、育てたウナギを川に放す取り組みが全国で行われています。近年は、小さな個体を放すことがすすめられ始めました。

ただ、小さな個体は敵に食べられやすいと考えられます。チームは、どの段階のウナギなら食べられても逃げられるかを知ることが、放すウナギの選び方に役立つと考えています。2025年の研究では、食べられる前に攻撃をかわす力は、エラから逃げられるようになった後の段階で急に上がることも分かりました。エラからの脱出は、まだ攻撃をよけるのが苦手な時期の、特に大事な逃げ道なのかもしれません。

05まとめ

ニホンウナギの子は、魚に丸のみされて胃まで入っても、しっぽを先にして食道へ引き返し、エラのすき間から逃げ出すことがありました。長崎大学のチームは、ウナギにバリウムを注射するという新しい方法で、その道すじを初めて動画でとらえました。

ただし、かみついて食べるクサフグからは、1匹も逃げられませんでした。逃げ技が通じる相手は限られているようです。この研究の始まりは、食べられたはずのウナギが水そうを泳いでいるのに、学生だった長谷川さんが気づいたことでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

長崎県長崎市

研究チーム
長崎大学の長谷川悠波(はせがわ・ゆうは)さんと河端雄毅(かわばた・ゆうき)さんら
調べた場所
実験室の水そう(長崎大学のチーム)
調べた動物
実験室で育てたニホンウナギの稚魚(学名 Anguilla japonica)と、天敵の魚ドンコ
調べ方
ウナギにX線に写る薬を注射し、ドンコに食べられた後の動きをX線動画で撮った
分かったこと
胃まで飲みこまれたウナギが食道へ引き返し、32匹中9匹がエラから脱出した
まだ分からないこと
野外の川で、この逃げ方がどれくらいウナギの命を救っているか
論文
Current Biology(2024年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Young Eels Escape from a Fish's Stomach

When a fish swallows its prey, the prey usually dies. But young Japanese eels can sometimes escape. Scientists at Nagasaki University studied how they do it.

The scientists put a special liquid into the eels. This liquid shows up clearly on X-ray videos. Then they let a fish eat the eels and filmed the inside of the fish. It took them more than half a year to find the right method.

The eels went into the fish's stomach. Then many of them moved back up toward the throat. They pushed their tails out through the fish's gills first. Nine of the 32 eels got out.

The trick did not work against every fish. Some eels escaped from each of the five kinds of fish that swallow prey whole. In the study, a puffer fish bit the eels into small pieces. No eels escaped from the puffer.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the eels go first after the fish ate them?魚に食べられたあと、ウナギはまずどこへ入りましたか。

Q2. Which part of the eel came out of the gills first?ウナギの体のどこが最初にエラから出ましたか。

Q3. Why could no eels escape from the puffer?なぜフグからは1匹も逃げられなかったのですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Hasegawa, Y. et al. (2024) How Japanese eels escape from the stomach of a predatory fish. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.07.023
  2. 2Hasegawa, Y. et al. (2022) Escaping via the predator's gill: A defensive tactic of juvenile eels after capture by predatory fish. Ecology 論文確認済みdoi:10.1002/ecy.3612
  3. 3Hasegawa, Y. et al. (2025) Changes in post- and pre-capture escape ability over development in juvenile Japanese eels. Marine Ecology Progress Series 論文確認済みdoi:10.3354/meps14761
  4. 4Hasegawa, Y. et al. (2026) Effectiveness of post-capture escape tactics in juvenile Japanese eels against various predatory fishes. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-026-73353-6
  5. 5長崎大学(2024)プレスリリース「ウナギ稚魚の特殊な逃げ技」nagasaki-u.ac.jp/ja/guidance/kouhou/press/pdf/596file1_20240
  6. 6Sugiura, S. (2020) Active escape of prey from predator vent via the digestive tract. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2020.06.026

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい