「深海魚が現れると大地震」は迷信だった。出現336回のうち、近くで大地震が来たのは1回

1928〜2011年に深海魚が現れた336回を調べると、30日以内・100km以内でマグニチュード6以上の地震が来たのは1回だけ。言い伝えは迷信だった。

No.019 7分で読めるえっ度 論文 2024年
冬の日本海の浜辺で、銀色の細長いリュウグウノツカイが波打ちぎわに横たわっている。頭の上から赤いひれが長くのび、背中にそって赤いひれが続いている。ウソ
ウソ

判定の対象リュウグウノツカイなどの深海魚が現れると大地震が起きる

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  1. 深海魚が現れた記録336回を、その後の地震と照らし合わせた
  2. 30日以内・100km以内で大地震が来たのは、そのうち1回だけ
  3. リュウグウノツカイは、地震と関係なく冬の日本海でよく見つかる

人に話すなら

リュウグウノツカイが上がると大地震って言うでしょ。でも80年以上の記録を調べたら、出現336回のあと近くで大地震が起きたのは1回だけだったんだって。

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リュウグウノツカイが浜に上がると、大地震が起きやすい

体がとても細長い深海魚、リュウグウノツカイ。この魚が浜に打ち上げられると、よくニュースになります。そして決まって「大地震の前ぶれでは」という声が上がります。深い海にすむ魚が浅い所に来るのは、海の底で何か異変が起きたからだ、という考えです。

この言い伝えを、日本の研究チームが記録で確かめました。1928年から2011年までに、日本で深海魚が現れた記録を336回分集めました。そして、そのあとの地震と照らし合わせたのです。出現から30日以内に、100km以内でマグニチュード6以上の地震が起きたのは、たった1回でした。

言い伝えを信じる人は多くても、数を数えて確かめた研究はありませんでした。深海魚が現れた記録が、どこにもまとまっていなかったからです。チームは、まずその記録を集めるところから始めました。

01深海魚と地震の言い伝えは、昔からある

深海魚と地震の話は、最近生まれたものではありません。愛知県の山あいに、旧足助町(あすけちょう)という町があります。ここには、海底の魚が浮き上がるのは地震の前兆だ、という言い伝えが残っていました。海から離れた町ですが、江戸時代には塩を運ぶ中継地として栄えていました。海沿いの人々から話が伝わったのではないか、と研究者は考えています。

1968年の文献には、こんな話も紹介されています。1957年の伊豆新島近海の地震(マグニチュード6.3)の数日前に、リュウグウノツカイが新島の浅瀬で捕まったというのです。

日本には、ほかにも魚と地震を結びつける言い伝えがあります。「ナマズが騒ぐと地震がある」はとくに有名です。「地震の前には魚がたくさん浮き上がる」という言い伝えも、各地にあります。

02新聞や論文から、深海魚の記録を集めた

この問題に取り組んだのは、織原義明(おりはら・よしあき)さんたちのチームです。東海大学や静岡県立大学などの研究者が加わっています。結果は2019年に、アメリカ地震学会の論文誌で発表されました。

チームは、地方の新聞記事に目をつけました。珍しい魚が見つかると、地方紙はよく記事にします。そこで、新聞、学術論文、海の博物館の記録から、深海魚が現れた例を集めました。対象は、リュウグウノツカイやサケガシラなど、地震と結びつけて語られることの多い魚です。

集まった記録は、1928年から2011年までの336回でした。同じ期間に、比べる相手となる大きな地震は221回ありました。チームは、それぞれの出現のあとに大きな地震が来たかを、1つずつ確かめていきました。

0330日以内・100km以内で地震が来たかを調べた

「地震の前ぶれ」と言うには、時期と場所の決まりが必要です。チームが調べたのは、次の条件に合う地震です。深海魚が現れた日から30日以内。現れた場所から半径100km以内。そして、マグニチュード6.0以上です。

結果は、条件に合った例が336回のうち1回だけでした。チームは、深海魚の出現と地震のあいだに、時期や場所のつながりはほとんど見られないと結論しました。言い伝えは迷信だ、というのです。2つの出来事がたまたま重なったのを、関係があると思いこんだのだろうと考えています。

04リュウグウノツカイは、冬の日本海でよく見つかる

では、深海魚はなぜ浅い海に来るのでしょうか。手がかりは、水族館の記録にあります。富山県の魚津水族館は、富山湾で見つかったリュウグウノツカイを記録してきました。2021年3月までに、その数は39匹になりました。

2009年度からは、富山湾だけで毎年平均3匹ほどが見つかっています。見つかるのは1月が最も多く、11月から2月に集中していました。石川県の、のとじま水族館も記録を残しています。2015年からの20例のうち16例は12月から3月で、多くは定置網に入ったものでした。織原さんも、深海魚の出現は冬の日本海でときどき見られる現象だと書いています。ほぼ毎年のように起きているのです。

日本列島の海岸線にそって、銀色の細長い魚の小さな絵がたくさん並んでいる。その中のたった1か所だけで、地面にひびが入っている。

日本海では2000年以降、リュウグウノツカイの見つかる数が増えています。なぜ増えているのかは、まだはっきりしません。魚津水族館は、太平洋側で子どものリュウグウノツカイが増えていることに注目しています。それが日本海での増加につながっているかもしれない、という推測です。のとじま水族館は、別の見方をしています。千里浜のような遠浅の砂浜では、弱った個体が迷いこんで打ち上がるのではないか、というのです。どちらも、地震とは別の理由です。

05なぜ「当たった」と感じてしまうのか

ほぼ毎年起きることでも、くわしく知らない人にとっては珍しい出来事に見えます。そして、たまたまその後に地震が起きると、その1回が強く記憶に残ると考えられます。逆に、深海魚が現れても何も起きなかった多くの例は、話題になりにくいはずです。

ドイツ地球科学研究センターに、ハイコ・ボイト(Heiko Woith)という研究者がいます。ボイトたちは2018年に、動物の地震予知の研究を見直しました。地震の前の動物の異変の報告は、160の地震について729件ありました。ところが、何日も続けて記録したデータは、たった14件しかありませんでした。ほとんどが、地震が起きてから思い出された1回きりの報告だったのです。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

動物の地震予知の研究は、90年以上前からある

動物で地震を予知しようという研究は、昔からありました。1932年、日本の研究者がナマズを水そうで飼い、1日3回、台をたたいて反応を調べました。ナマズが強く反応したのは、6〜8時間以内に地震が来るときだけだったといいます。7か月で178回の地震のうち149回、約8割を「予知」できたと報告されました。

ところが、ボイトたちはこの数字に問題があると指摘しています。観察した210日のあいだに、地震は178回も起きていました。地震がほぼ毎日のように起きている場所では、いつ「地震が来る」と言っても当たりやすいのです。偶然でも当たる割合と比べないと、本当に予知できたかは分かりません。

動物が何かを感じている可能性はあるのか

動物が地震の前に何も感じない、と言い切れるわけではありません。ボイトたちは、報告された動物の異変の時期が、本震の前に起きる小さな地震(前震)の時期とよく似ていると指摘しています。動物は、前震の揺れに反応しているのかもしれません。ただしその場合、動物の異変は前震の「おまけ」で、それ自体に予知の力はないことになります。

日本の報告では、動物の中でも魚の行動や漁の量に関するものが多いことも分かっています。ボイトたちは、これを、地下のナマズが地震を起こすという日本の昔の考えと結びつけています。ボイトたちは、こうした言い伝えは、地震の準備よりも人間の心理について多くを教えてくれると書いています。

深海魚以外の「前ぶれ」も調べられた

織原さんは、その後も同じ方法で調べ続けています。2022年3月、東京と大阪でボラが大量に死に、数日後に福島県沖で大きな地震が起きました。インターネットでは「前ぶれだったのでは」と話題になりました。そこで1996年から2022年までのボラの大量死37回を集めましたが、大きな地震の前に起きていたのは、その1回だけでした。

2024年には、イワシの大量死や打ち上げも調べました。2012年から2024年までの31回を、32回の大きな地震と比べましたが、はっきりした関係は見つかりませんでした。

この研究の限界

論文自身も、限界を認めています。日本のすべての海岸を見張っているわけではないので、集めた記録はすべての出現をふくんでいない可能性があります。ただ、記録に残った出現のあとに地震がどれくらい起きたかは調べられます。それが「1回だけ」だったことが、防災には役立たない情報だという結論につながっています。

06まとめ

「深海魚が上がると大地震」という言い伝えを、日本の研究チームが記録で確かめました。1928年から2011年までの深海魚の出現336回のうち、30日以内・100km以内でマグニチュード6以上の地震が続いたのは1回だけでした。研究チームは、この言い伝えを迷信と結論しています。

リュウグウノツカイは、冬の日本海ではほぼ毎年のように見つかる魚です。富山湾だけでも、2009年度からは毎年平均3匹ほどが記録されています。浜でリュウグウノツカイを見かけたら、それは地震の知らせではなく、冬の日本海でときどき起きる出来事です。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・静岡県静岡市

研究チーム
織原義明(おりはら・よしあき)さんら、東海大学・静岡県立大学などのチーム
調べた場所
日本の沿岸(新聞・論文・博物館の記録)
調べた動物
リュウグウノツカイ(学名 Regalecus russelii)やサケガシラなどの深海魚
調べ方
1928〜2011年の深海魚の出現記録を集め、その後30日・100km以内のM6以上の地震と照合した
分かったこと
出現336回のうち、条件に合う地震が続いたのは1回だけ。言い伝えは迷信と結論
まだ分からないこと
記録に残らなかった出現がどれくらいあるか。深海魚が浅い海に来る本当の理由
論文
Bulletin of the Seismological Society of America(2019年)
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英語で読んでみよう

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Do Deep-Sea Fish Warn Us About Earthquakes?

The oarfish is a very long fish that lives deep in the sea. In Japan, some people say a big earthquake will come when one appears near the shore. A team of Japanese scientists decided to check this old story.

They collected reports from newspapers, science papers, and a museum. From 1928 to 2011, deep-sea fish appeared 336 times. Then the team looked for big earthquakes within 30 days and 100 kilometers.

They found only one case. So the scientists said the story is not true. People may remember the one time it matched and forget the many times it did not.

In fact, oarfish are often found in the Sea of Japan in winter. Since 2009, about three a year have been found in Toyama Bay on average. If you see one on a beach, it is not a sign of an earthquake.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many times did deep-sea fish appear from 1928 to 2011?1928年から2011年までに、深海魚は何回現れましたか。

Q2. How many cases matched a big earthquake?大きな地震と重なった例はいくつありましたか。

Q3. When are oarfish often found in the Sea of Japan?リュウグウノツカイは、日本海でいつよく見つかりますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Orihara, Y. et al. (2019) Is Japanese Folklore Concerning Deep-Sea Fish Appearance a Real Precursor of Earthquakes? Bulletin of the Seismological Society of America 論文確認済みdoi:10.1785/0120190014
  2. 2Woith, H. et al. (2018) Review: Can Animals Predict Earthquakes? Bulletin of the Seismological Society of America 論文確認済みdoi:10.1785/0120170313
  3. 3織原義明(2024)イワシの大量死および大量漂着と大地震との関連性の調査.東海大学海洋研究所研究報告 46u-tokai.ac.jp/uploads/2025/11/46_1-Orihara.pdf
  4. 4織原義明(2022)ボラの大量死と地震との関連性の検討.東海大学海洋研究所研究報告 44u-tokai.ac.jp/uploads/2025/11/44_2-Orihara-1.pdf
  5. 5魚津水族館(2021)2020年度 富山湾におけるリュウグウノツカイの記録uozu-aquarium.jp/research/wp-content/uploads/sites/2/2021-20
  6. 6日本地球惑星科学連合 2017年大会 予稿「日本周辺における深海魚の目撃と地震との関係」www2.jpgu.org/meeting/2017/PDF2017/M-IS12_all.pdf

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい