電灯に集まる虫は、光を目指していなかった。背中を光に向けたまま回り続けていた

電灯のそばの虫は、光の方を「空」と取りちがえて背中を向けていたらしい。そのせいで光のまわりを回ったり、ひっくり返って落ちたりしていた。

No.031 10分で読めるえっ度 論文 2024年
夜の森で、紫色に光る電灯のまわりを1匹のガが飛んでいる。ガは体を大きく横に傾け、背中を電灯の方へ向けたまま、電灯のまわりを円を描くように回っている。グレー
グレー

判定の対象夜の虫は、光に引き寄せられて電灯に集まる

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  1. 電灯のそばの虫は、光へまっすぐではなく、横向きに飛んでいた
  2. 虫は明るい方を「上」と受け取り、背中を光の方へ傾けていた
  3. 遠くの虫まで光が呼び寄せているのかは、まだ分かっていない

人に話すなら

虫って電灯に向かって飛んでるわけじゃないんだって。光の方を空だと取りちがえて背中を向けるから、まわりをぐるぐる回ったり、ひっくり返って落ちたりするらしいよ。

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夜の虫は電灯をめざして、まっすぐ飛んでいく

夏の夜、コンビニの明かりや街灯のまわりに、ガや小さな虫がたくさん集まっています。英語には「炎に引き寄せられるガのように」という言い回しがあるほどです。虫は光が好きで、光に向かって飛んでいく。多くの人がそう思ってきました。

ところが2024年、イギリスとアメリカの研究チームが、電灯のまわりを飛ぶ虫を高速カメラで立体的に記録しました。すると虫たちは、光へまっすぐ向かってはいませんでした。背中を光の方へ傾けたまま、光に対して横向きに飛んでいたのです。チームは野外で撮った477本の動画と、実験室での記録からこれを確かめました。

虫が光に集まる理由には、昔からいくつもの説がありました。月を目印にしている、熱を求めている、まぶしくて目がくらむ、などです。それでも、どの説が正しいのか決着がつきませんでした。暗い中を飛ぶ小さな虫の動きを、立体的に追いかける道具がなかったからです。

01コスタリカの森で、電灯のまわりの虫を立体的に撮った

研究チームの中心は、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンのサミュエル・ファビアン(Samuel Fabian)さんたちです。アメリカのフロリダ国際大学などの研究者も加わりました。チームは2022年の1〜2月と2023年5月に、中米コスタリカのモンテベルデにある研究施設で撮影をしました。

使ったのは、同期させた2台の高速カメラです。多くの動画は1秒に500コマで撮りました。2台のカメラで同じ虫を別の角度から撮ると、虫が空中のどこにいるかを立体的に計算できます。暗い森で虫を写すため、チームは赤外線のライトを当てました。赤外線は虫の目には見えないと考えられています。実際、赤外線のライトにぶつかる虫は見られませんでした。

チームは電灯の置き方をいくつも変えて、477本の動画を集めました。写っていた虫は、ガ・甲虫・ハエ・ハチ・カゲロウなど、10の大きなグループに分かれていました。そして動画の中に、ふつうの飛び方では見られない3つの動きを見つけました。

1つ目はぐるぐる回る動きです。虫は体を光の方へ傾けたまま、光のまわりで円を描きました。2つ目は急に上がって止まる動きです。光から離れるように上へ向かい、速さを失って進めなくなりました。3つ目はひっくり返る動きです。光の真上を通ると虫の体が裏返り、地面へ向かって急降下しました。光の下で体を立て直しても、また光の上へ上がって、もう一度ひっくり返る虫もいました。

電灯を下向きにつるしたときの動画は125本でした。そのうち96本で、ぐるぐる回る動きが写っていました。一方、明かりのない森で撮った41本では、こうした動きが写っていたのは3本だけでした。

02実験室で測ると、虫の背中はいつも光の方を向いていた

野外の動画だけでは、虫の体がどちらへ傾いているかを正確には測れません。そこでチームは、実験室に直径2mの白い円柱形のテントを作りました。テントの中央に、紫外線を出す電灯や白いLED電球を置きました。

調べた虫は4種類です。昼に飛ぶトンボとして、アカトンボのなかまとヤンマのなかま。夜に飛ぶガとして、ヤガのなかまと、ヨナグニサンと同じなかまの大きなガです。チームは虫を氷で冷やしておとなしくさせ、胸の背中側に小さな目印を接着しました。3つの小さな玉をL字形に並べた目印で、重さは虫の体重の5%以下です。

テントのまわりには、赤外線で目印を追う専用のカメラが8台あります。3つの玉の位置が分かれば、虫の背中がどちらを向いているかを計算できます。チームは4種類の虫で、合わせて538本の飛行の記録をとりました。

結果ははっきりしていました。4種類とも、虫の進む向きは光に対して横向きが多く、光へまっすぐ向かう飛び方は少なかったのです。そして虫の背中は、光の方向にぴったりそろって傾いていました。

チームは「背中が光の方を向いている度合い」を、−1から1までの数で表しました。1なら背中が光の真正面を向き、−1なら反対を向いています。電灯があるとき、4種類の値は0.79〜0.84でした。電灯を消した暗やみでは、トンボの値は0.17まで下がりました。

体の左右の傾きも大きく変わりました。天井全体から光が当たるふつうの条件では、アカトンボのなかまの傾きは真ん中の値で約12度でした。電灯のそばでは、それが約44度になりました。ガのなかまも約14度から約48度に増えていました。

03明るい方を「上」と思うくせが、電灯のそばでは裏目に出る

虫はなぜ、背中を光に向けるのでしょうか。チームが注目したのは、多くの飛ぶ虫が持つ「背光反応」という反応です。背光反応とは、背中をいちばん明るい方へ向けようとする反応のことです。

虫が飛ぶようになってからの長い歴史の中で、いちばん明るいのはいつも空でした。夜でも、空は地面より明るい場所です。だから「明るい方に背中を向ける」と、自然に体の上側が空を向き、まっすぐ飛べます。小さな虫は滑空ができず、体が自然に安定するしくみにも頼れません。そのため、光で「どちらが上か」を知ることが大事だと考えられています。

ところが、すぐそばに電灯があると、虫はその光を空だと受け取ってしまいます。背中を電灯に向けると、体は横に傾きます。虫の羽が生み出す力は、体の背中側に向かっています。体が横に傾くと、その力が電灯の方へ向いて、進む向きが曲がり続けます。その結果、虫は電灯のまわりを回り続けるというのがチームの考えです。電灯の真上では背中を下に向けることになるので、体が裏返って落ちてしまいます。

白い布を地面に敷いて上から紫の光を当てた場面と、布を頭の上に張って光を下へ反射させた場面を左右に並べる。左ではガがひっくり返って地面へ落ち、右ではガがふつうの姿勢で布の下をまっすぐ飛んでいる。

チームはこの考えを確かめるため、白い布を使った実験もしました。虫を集めるときによく使う、白い布に紫外線を当てる方法です。地面に白い布を敷き、上から紫外線を当てると、布の上を飛ぶ虫はひっくり返って地面に落ちました。46本の動画のうち42本で、ひっくり返る動きが写っていました。

次に、白い布を頭の上に張り、下から紫外線を当てました。光は布にはね返って、空のように上から広く降ってきます。すると虫は電灯のまわりに集まらず、布の下をふつうに通りぬけていきました。55本の動画のうち47本では、おかしな飛び方がまったく見られませんでした。同じ電灯でも、光がどちらから来るかで飛び方が大きく変わったのです。

小さな虫でも同じでした。チームは一辺20cmの透明な箱に、ハエやミツバチ、トビケラなどを入れました。紫外線を上から当てると、虫は天井へ向かって安定して飛びました。下から当てると、ショウジョウバエ以外の虫は、飛び立ってすぐに傾いて裏返り、床に落ちました。

04「月を目印にしている」という説とは合わなかった

よく知られた説に「虫は月を目印にまっすぐ飛ぶ。電灯を月とまちがえるので、ぐるぐる回る」というものがあります。月はとても遠いので、月を体の同じ側に置いて飛べば、虫はまっすぐ進めます。ところが近くの電灯を同じように扱うと、虫はうずを巻きながら電灯に近づくはずだ、という説明です。

チームはこの説と自分たちの考えを見分けるため、イギリスのケンブリッジの屋外で実験をしました。2つの紫外線ライトを地上2mにつるし、片方だけをつけます。虫が光の下で回り始めたら、スイッチでもう片方のライトに切りかえるのです。

月を目印にしているなら、虫は光を同じ側に置き続けるはずです。右回りの虫は右回りのままになります。ところが、新しいライトのまわりを回った37回のうち、25回で虫は回る向きを逆にしました。光を右に置いていた虫が、すぐに左に置きかえたのです。背中を光に向けるだけなら、体を少し傾け直すだけで向きは変わります。この結果は、背光反応の考えとよく合いました。

チームはコンピューターの中でも、虫の飛び方を再現しました。「背中を光に向ける」というルールを入れた仮想の虫を飛ばしたのです。飛び始める位置を変えるだけで、ぐるぐる回る・急に止まる・ひっくり返るの3つの動きがすべて再現されました。条件をばらばらに変えた300回でも、多くの虫は光から離れられませんでした。「月を目印にする」ルールに変えると、虫の多くは光から逃げていきました。

05すべての虫が迷うわけではなく、遠くの虫のことはまだ分からない

この研究には、うまく説明できない例外もありました。キョウチクトウスズメという大きなガは、実験室で3匹を71回飛ばしても、光のまわりを回りませんでした。上向きの電球の真上を、体をほぼ水平にしたまま飛んでいきました。背中が光を向く度合いは0.24で、暗やみのトンボとほとんど変わりませんでした。ショウジョウバエも、光が上でも下でも飛び方に違いがありませんでした。

ただし、野外ではキョウチクトウスズメも電灯に集まることが知られています。同じ種でも、その時の状態や光の色によって反応が変わるのかもしれません。理由はまだ分かっていません。

もう一つの限界は、距離です。チームが調べたのは、電灯のすぐ近く、数m以内を飛ぶ虫です。インペリアル・カレッジ・ロンドンの発表で、ファビアンさんは「光から1mで何が起きるかは分かったが、100mではまだ分からない」という趣旨のことを話しています。遠くを飛ぶ虫が電灯に気づいて近寄ってくるのか、たまたま近くを通った虫がつかまるだけなのかは、これからの研究を待つ必要があります。

野外の撮影にも弱点があります。赤外線をよく反射する大きめの虫ほど写りやすく、記録した虫の平均の大きさは約3cmでした。実際に電灯に来ていた虫の多くは、1cmより小さな虫でした。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

2000年前からあった「光で虫をとる」技術

光で虫を集める方法はとても古く、論文によると最も古い記録はローマ帝国の時代、紀元1年ごろにさかのぼります。その後、明かりで虫をとるわなの研究から、光の色や月の明るさ、天気によってとれる虫の数が変わることが分かってきました。けれど、虫が電灯のまわりでどう飛んでいるかを細かく測った記録は、とても少ないままでした。ガを発泡スチロールの小舟に乗せて調べるなど、工夫した実験もありましたが、空中の動きを立体的に測るのは難しかったのです。

これまでに、いくつもの説が出されてきました。1つ目は、虫は葉のすき間から明るい方へ逃げるくせがあり、電灯をそのすき間とまちがえるという説です。2つ目は、本文で紹介した月を目印にする説です。3つ目は、電灯の熱を求めているという説で、4つ目は、まぶしさで目がくらむという説です。

4つの説はどう否定されたか

チームは論文の中で、4つの説を1つずつ検討しています。逃げる説は、虫が光へまっすぐ向かわず横向きに飛ぶことと合いません。月を目印にする説は、回る向きの切りかえやひっくり返る動きを説明できません。熱の説は、熱をほとんど出さないLEDにも虫が集まることから、以前から疑問視されていました。目がくらむ説は、虫が毎回同じような決まった動きをすることと合いません。

ただし、チームは月を使う力そのものを否定してはいません。夜に月や星の光で方角を知る虫がいることは、別の研究で知られています。遠くでは、こうした方角の感覚が電灯に乱されている可能性も残っています。

遠くの虫は本当に寄ってくるのか

チームは論文の中で、別のチームが2022年に公開した研究を紹介しています。遠くまでガの飛ぶ道すじを追った研究です。電灯から85m離れた場所で放したガ50匹のうち、電灯にたどり着いたのは2匹だけでした。この結果と今回の研究から、チームは「電灯は遠くの虫を呼び寄せるというより、近くを通った虫をつかまえている可能性がある」と書いています。とはいえ、遠くからの動きを追った実験はほとんどなく、ここはまだ決着していません。

夜明けや月には背中を向けないのはなぜか

自然の中でも、いちばん明るいのが真上とは限りません。夜明けの空や森のふち、低い位置の月がそうです。それでも虫が、月のような自然の光に背中を傾けないのはなぜか。チームも「今は分からない」と書いています。種によっては、大きな目(複眼)と頭の上の小さな目の両方が、この反応に関わっています。2種類の目からの情報の使い分けを調べることが、次の課題とされています。

06まとめ

電灯に集まる虫は、光を目指して飛んでいたのではありませんでした。明るい方を「上」と感じて背中を向けるくせが、電灯のそばでは虫を迷わせていたのです。昼に飛ぶトンボも、電灯のそばでは背中を光に向けて傾きました。ミツバチは、下から紫外線を当てると飛び続けられずに落ちました。

チームは、むだに上向きの明かりや、地面に反射する明かりを減らせば、夜の虫への影響を小さくできると提案しています。今夜、街灯の下を見上げてみてください。回っている虫の体が、少し傾いているかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

コスタリカ・モンテベルデ

研究チーム
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンとアメリカのフロリダ国際大学などのチーム(第一著者サミュエル・ファビアン)
調べた場所
コスタリカのモンテベルデの森と、イギリスの実験室
調べた動物
野外ではガ・甲虫・ハエ・ハチなど10の大きなグループの虫。実験室ではトンボとガなど
調べ方
高速カメラ2台で電灯のまわりの虫を立体的に撮影。実験室では虫の背中に小さな目印をつけ、体の傾きを測った
分かったこと
虫は光へまっすぐ飛ばず、背中を光に向けて傾いていた。そのせいで光のまわりを回ったり、落ちたりした
まだ分からないこと
何十mも離れた虫まで光に寄ってくるのか。月や夜明けの空に背中を向けないのはなぜか
論文
Nature Communications(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Why Do Insects Fly Around Lights?

On summer nights, many insects fly around street lights. Most people think the insects like the light and fly to it.

Scientists in Britain and the United States filmed insects near lights with fast cameras. They used two cameras, so they could see the flights in 3D. The insects did not fly straight to the light. They turned their backs toward it and flew around it.

Most flying insects keep their backs to the brightest part of the world. In nature, that is the sky, so this helps them stay upright. But a lamp is not the sky. When an insect flies over a lamp, it often turns upside down and falls.

The scientists also put a white sheet above the insects and shined light up onto it. The light came down like light from the sky, and the insects flew normally. We still do not know if lights pull in insects from far away.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the insects turn toward the light?虫は光の方へ何を向けていましたか。

Q2. In nature, what is usually the brightest part of the world for insects?自然の中で、虫にとってふつういちばん明るいのはどこですか。

Q3. What happened when the light came down from a white sheet above?頭上の白い布から光が降ってきたとき、どうなりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Fabian, S. T. et al. (2024) Why flying insects gather at artificial light. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-024-44785-3
  2. 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10827719/
  3. 3Imperial College London(2024)Flying insects become disorientated and trapped by artificial lightimperial.ac.uk/news/251217/flying-insects-become-disorientat

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい