メダカのメスは、ガラス越しに見ていたオスを9割以上の割合で選んだ。手がかりは顔だった

メダカのメスは、ガラス越しに見ていたオスの求愛をすぐ受け入れた。見分ける手がかりはオスの顔のあたりで、上下逆さまに見せると見分けにくかった。

No.032 7分で読めるえっ度 論文 2020年
水草のある水槽で、1匹のメダカのメスが透明なガラスのコップの方へ顔を向けている。コップの中には1匹のオスのメダカが入っていて、2匹は向かい合っている。

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  1. メスは、前もって見ていたオスの求愛をすぐに受け入れた
  2. オスの頭を隠すと、メスは相手を見分けられなかった
  3. オスの姿を上下逆さまに見せると、メスは見分けにくかった

人に話すなら

メダカのメスって、前の日にガラス越しに見てたオスを選ぶんだって。しかも顔のあたりで見分けてて、オスの姿を逆さまに見せるとうまく分からないらしいよ。

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読む前に予想しよう

メダカのメスは、においがなくても見た目だけで「見たことのあるオス」を見分けられる

メダカの研究者のあいだでは、昔から知られていたコツがあります。前の晩にオスとメスを「お見合い」させておくのです。すると次の朝に2匹を一緒にしたとき、受精卵を集めやすくなります。お見合いといっても、2匹を透明な仕切りで分けて、おたがいの姿が見えるようにしておくだけです。

この言い伝えを、東京大学の研究者たちが本気で確かめました。メダカのメスは、ガラス越しに見ていたオスをちゃんと覚えていました。そして、そのオスの求愛をすぐに受け入れたのです。2017年の研究では、メスがオスを見分ける手がかりがオスの顔のあたりにあることも突き止めました。ガラス越しに3時間見ていれば、メスはそのオスを「見たことのある相手」として扱いました。

小さな魚が、相手の顔を覚えている。人やヒツジでは知られていた「顔の見分け方」の特徴が、魚でも見つかったのです。ほ乳類以外の動物でこの特徴を調べたのは、この研究が初めてだと論文は書いています。

01お見合いしたオスなら、メスは10秒ほどで受け入れた

最初の研究は、東京大学の奥山輝大さんと竹内秀明さんたちが2014年に発表しました。メダカのオスはメスに出会うと、すぐに独特の求愛のダンスを始めます。メスはすぐには受け入れず、相手を拒むこともあります。研究チームは「メスが求愛を受け入れるまでの時間」を測り、メスの受け入れやすさを数字で表しました。

奥山さんたちの解説によると、お見合いしたオスなら、メスが受け入れるまでの時間は平均10秒ほどでした。お見合いしていないオスだと、メスは拒む行動を見せ、平均60秒ほどかかりました。お見合いの相手とは別のオスと一緒にすると、時間は短くなりませんでした。メスは「お見合いした相手」を覚えて、ほかのオスと区別していたのです。

次に、力の差がない2匹のオスを用意し、片方だけをメスとお見合いさせました。それから3匹を一緒にすると、メスは9割以上の割合で、お見合いしたオスを相手に選びました。

02においなしでも、姿を見るだけで相手を覚えていた

では、メスはオスの何を覚えているのでしょうか。2017年に、東京大学と岡山大学に所属するワン・ムーユン(Mu-Yun Wang)さんと竹内さんが、この疑問に取り組みました。調べたのは、生まれて6〜18か月のおとなのメダカ569匹です。

まず、においと見た目のどちらが大事かを確かめました。80匹のメスを4つのグループに分けました。オスは高さ9cmのガラスのコップに入れ、メスの水槽に5時間以上置きました。1つ目は、透明なコップでオスの姿だけが見えるグループです。2つ目は、中が見えないコップに小さな穴をあけ、水とにおいだけが通るグループです。3つ目は姿もにおいも伝わるグループ、4つ目はどちらも伝わらないグループでした。

結果は、姿が見えたグループ(姿だけ、姿とにおい)で、メスが受け入れるまでの時間が短くなりました。においだけのグループでは、はっきりした差は出ませんでした。さらに、お見合いのあとで別のオスに取りかえると、メスは受け入れるまでに時間がかかりました。メスは見た目だけで、特定の1匹を見分けていたのです。

覚えている時間には限りがありました。お見合いのあと、オスと3時間はなれていても、メスはまだ相手を覚えていました。けれど24時間はなれると、お見合いの効果は消えていました。

03オスの頭を隠すと、メスは相手を見分けられなかった

次にチームは、オスの「動き」と「姿」のどちらを覚えているのかを調べました。半透明の膜ごしにオスの影だけを見せ、動きは分かるが姿は分からないようにしました。すると、メスは相手を覚えませんでした。反対に、オスを小さな透明の入れ物に入れて動けないようにしました。姿だけを見せたのです。するとメスはちゃんと覚えました。

いよいよ、体のどこを見ているかです。チームはお見合いのあいだ、オスの体の一部を黒い板で隠しました。頭を隠したオスでは、尾を隠したオスより、メスが受け入れるまでに時間がかかりました。メスが見ていたのは、尾ではなく頭のあたりだったのです。

透明なガラスのコップに入ったオスのメダカの、頭の部分だけが黒い板で隠されている。外側のメスは少し離れた所から、とまどったようにオスを見ている。

チームは、オスの顔に黒いペンで点を描き足す実験もしました。お見合いのあとで顔に模様を足しても、メスはそのオスを「知っている相手」として受け入れました。小さな模様が増えたくらいでは、メスの見分けは崩れませんでした。

04オスの姿を上下逆さまに見せると、メスは見分けにくくなった

人には、上下逆さまの顔を見分けるのが急に苦手になるという特徴があります。顔以外の物なら逆さまでも見分けやすいのに、顔だけはとても分かりにくくなるのです。これは倒立顔効果と呼ばれます。人が顔を、目や口を1つずつではなく、全体の配置で見ているためと考えられています。チンパンジーやヒツジでも見つかっています。

チームはプリズムというガラスを使い、お見合いのあいだオスの姿を上下逆さま、または左右逆にしてメスに見せました。左右逆の姿を見たメスは、そのオスをちゃんと覚えていました。ところが上下逆さまの姿を見たメスは、オスを「見たことのある相手」として扱いませんでした。

もう一つの実験では、電気ショックを使いました。小さな水槽の両はしに、見知らぬオスを1匹ずつ置きます。メスが決まった片方に近づくと、4ボルト・0.5秒の電気ショックが流れます。20匹のメスで36回ずつ試すと、メスはショックのあるオスを避けるようになりました。最初の6回で約44%だった正解の割合は、最後の6回で約58%に上がりました。翌日になっても、メスは相手を覚えていました。

ここでオスの像を上下逆さまにすると、メスの正解は大きく減りました。一方、魚ではない2つの物を見分ける練習をしたメスは、物を逆さまにしても正解が減りませんでした。逆さまにすると分かりにくくなるのは、顔のときだけだったのです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

見分けにくいメダカの顔を、メダカは見分けている

人の目には、メダカはどれも同じように見えます。けれどチームが5匹の体の光の反射を測ると、色の成分はそれぞれかなり違っていました。メダカの目には、色を感じるためのたんぱく質(オプシン)が8種類あり、人の3種類より多いとされています。人に見えない違いが、メダカ同士には見えているのかもしれません。

なぜ「顔なじみ」を選ぶのか

論文は、メダカが毎日卵を産むことや、野生では1つの池に数百匹以上が集まっている様子がよく見られることに注目しています。決まった巣やなわばりがないので、相手を見た目で覚える力が役に立つと考えられます。メダカでは、オスがメスのそばに張りついてほかのオスを近づけない行動も知られています。強いオスほどメスのそばにいられるので、そばにいたオスを選ぶことは、その時いちばん強いオスを選ぶことにつながる可能性があります。ただしこれは論文の推測で、確かめられてはいません。

メスを「受け入れる」側に切りかえる脳の細胞

2014年の研究では、メスの脳の「終神経GnRH3ニューロン」という神経細胞が注目されました。脳の前の方にある細胞で、ホルモンを脳の広い範囲に出すと考えられています。お見合いしていないメスでは、この細胞は1秒に2回ほどのゆっくりした信号を出していました。お見合いのあとは1秒に4〜5回に速まりました。この細胞が作るホルモンを持たないメスは、お見合いしたオスへの受け入れが早くなりませんでした。研究者たちは、この細胞が「拒む」から「受け入れる」へ切りかえるスイッチの役目をしていると考えています。

その後、2020年には北海道大学などのチームが、オキシトシンというホルモンの働きを調べました。オキシトシンを作れないメスは、見知らぬオスもすぐ受け入れました。一方、オキシトシンを作れないオスは、親しいメスのそばからライバルのオスを追い払うようになりました。同じホルモンが、オスとメスで逆の向きに働いていたのです。

魚は本当に「人と同じように」顔を見ているのか

この研究には慎重な見方もあります。論文の審査では、物よりも顔の方が見分けやすかったのは、メダカが顔を見慣れていたからではないか、という指摘が出ました。そこでチームは、生まれた時から水槽に置いて見慣れさせた物でも試しました。見慣れた物は逆さまにしても見分けられたので、チームは顔が特別である可能性を示しました。

それでも論文自身が、倒立顔効果は「顔を全体で見ている」ことの間接的な証拠にすぎないと書いています。人で使われる別の検査で確かめる必要があります。また、電気ショックの実験の正解の割合は最後でも6割に届いていません。メダカが脳のどこで顔を覚えているのかも、まだ分かっていません。

05まとめ

メダカのメスは、ガラス越しに見ていたオスを覚え、そのオスの求愛をすぐに受け入れました。手がかりはオスの頭のあたりで、においや動きではありませんでした。上下逆さまの顔は見分けにくいという、人の顔の見方と似た特徴も見つかりました。ただし、人と同じしくみかどうかはまだ分かっていません。

メダカの研究者が昔から使っていた「お見合い」のコツには、メスの記憶という理由があったのです。水槽のメダカも、人の目には同じに見える顔で、おたがいを見分けているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

東京都文京区(東京大学)

研究チーム
東京大学・岡山大学のワン・ムーユン(Mu-Yun Wang)さんと竹内秀明さん。もとの研究は奥山輝大さんら
調べた場所
東京大学の実験室(水槽)
調べた動物
飼育されているメダカ(学名 Oryzias latipes)のおとな569匹
調べ方
オスをガラス越しに見せたあと、メスが求愛を受け入れるまでの時間を測った。頭を隠す、像を逆さにするなどの工夫をした
分かったこと
メスは見た目だけで相手を見分け、手がかりは顔のあたりだった。上下逆さまの姿は見分けにくかった
まだ分からないこと
人と同じしくみで顔を見ているのか。脳のどこで顔を覚えているのか
論文
eLife(2017年)、Science(2014年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Female Medaka Remember a Male's Face

Medaka are small fish that live in ponds. Scientists at the University of Tokyo studied how female medaka choose a partner.

First, a female could see a male through glass. Later, the two fish were put together. The female accepted this male much faster than a new male. When she could only smell him, it did not work as well.

Next, the scientists covered parts of the male's body. When his head was covered, the female did not know him. So she was looking at the area around his face.

People find it hard to know a face when it is upside down. The medaka had the same problem. They did not know a male when they saw him upside down. But they could still tell two objects apart upside down. We do not know yet if fish see faces in the same way as people.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How did the female first see the male?メスは最初にどうやってオスを見ましたか。

Q2. What happened when the male's head was covered?オスの頭を隠すと、どうなりましたか。

Q3. What was hard for the medaka?メダカにとって難しかったのは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Wang, M.-Y. & Takeuchi, H. (2017) Individual recognition and the ‘face inversion effect’ in medaka fish (Oryzias latipes). eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.24728
  2. 2Okuyama, T. et al. (2014) A Neural Mechanism Underlying Mating Preferences for Familiar Individuals in Medaka Fish. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1244724
  3. 3奥山輝大・竹内秀明(2015)「社会脳」の進化的起源の解明を目指して(生化学 87巻)seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2015.870605/data/
  4. 4北海道大学など(2020)プレスリリース「愛情ホルモンが左右するメダカの異性の好み」hokudai.ac.jp/news/200218_pr.pdf

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい