チスイコウモリが見知らぬ相手と血を分け合う仲になる前には、毛づくろいが増えていた

見知らぬチスイコウモリどうしが血を分け合う仲になる前には、毛づくろいが増えていた。15か月の観察で分かった順番。

No.033 7分で読めるえっ度 論文 2024年
夜のうす暗い飼育小屋の天井に、2匹のナミチスイコウモリ(灰色がかった茶色の小さなコウモリで、鼻先が平たく、耳は短くとがっている)が逆さまにぶら下がっている。片方がもう片方の首のあたりの毛をなめて毛づくろいをしている。

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  1. チスイコウモリは、食事に失敗した仲間に血を吐き戻して分ける
  2. 血を分け合う仲になる前には、相手への毛づくろいが増えていた
  3. 飼育中に親しくなった仲の多くは、野生に戻しても続いていた

人に話すなら

チスイコウモリって、おなかをすかせた仲間に血を吐き戻して分けるんだって。初めて会った相手とは、まず毛づくろいを重ねてから分け合う仲になるらしいよ。

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見知らぬチスイコウモリどうしは、最初の出会いの様子を見れば将来の仲の良さが分かる

メキシコから南アメリカにすむナミチスイコウモリは、牛などの動物の血だけを飲んで生きています。けれど、毎晩うまく血にありつけるとは限りません。そんなとき、ねぐらの仲間が、飲んできた血を口から吐き戻して分けてくれることがあります。分ける相手は家族だけではなく、血のつながらない仲間も含まれます。

では、初めて会った見知らぬ者どうしは、どうやって血を分け合う仲になるのでしょうか。アメリカとパナマの研究チームが、遠く離れた2か所のメスを同じ施設で15か月にわたって観察しました。すると、ある順番が見えてきました。まず毛づくろいが増え、そのあとで血を分け合う関係が生まれていたのです。

血を分けるのは、分ける側にとって大きな負担です。いきなり見知らぬ相手に分けて、お返しがなければ損をします。だから「小さな助けから始めて、相手を確かめながら大きな助けへ進む」という考えが、20年以上前から唱えられてきました。ただ、野生の動物がそうしている証拠は、ほとんどありませんでした。

01215km離れた2つの場所のメスを、同じ施設で出会わせた

研究チームの中心は、アメリカのオハイオ州立大学のジェラルド・カーター(Gerald Carter)さんです。パナマにあるスミソニアン熱帯研究所の研究者たちも加わりました。チームはパナマの2か所で、おとなのメスをつかまえました。1つはトレという場所の木のねぐらから出てきた19匹です。もう1つは、トレから約215km離れたラス・パバスという牧場で血を吸いに来ていた8匹です。

2つのグループは、別々の場所でくらしてきたので、おたがいを知りません。チームはパナマのガンボアにある研究所の飼育施設で、2つのグループを別々に飼い始めました。トレのメスは6か月、ラス・パバスのメスは2週間、それぞれの仲間だけで過ごしました。そのうえで、見知らぬ相手と出会わせたのです。

出会わせ方は3通りでした。1つ目は、トレとラス・パバスのメスを1匹ずつ、2匹だけで小さなケースに入れる方法です。2つ目は、ラス・パバスの1匹とトレの3匹を、4匹で一緒にする方法です。最後に全員を、たて・横・高さが約2mの大きな飼育小屋に入れました。飼育中に生まれた若いコウモリも、この中に加わりました。

02一晩と一日えさを抜き、1時間だけ仲間のもとへ戻した

血を分ける場面を観察するには、おなかをすかせたコウモリが必要です。そこでチームは「断食実験」をくり返しました。まず1匹だけを群れから離し、一晩と一日えさを与えずに過ごさせます。次の夜、えさを飲んだ仲間たちのもとへ、1時間だけ戻します。

その1時間を、チームは赤外線カメラで撮影しました。毛づくろいは、相手の毛や翼をなめたり、かんだりする行動です。血の分け合いは、おなかをすかせたコウモリが仲間の口をなめる時間で測りました。実験の前と後には体重も量りました。口をなめた時間が長いほど、体重が増えていました。口をなめた時間で、もらった血の量を測れていたことになります。

チームは慎重でした。小さなケースの中では、相手がそっぽを向いているのに口をなめようとする「おねだり」がよく見られたからです。そこで小さなケースの実験では、体重が予想以上に増えたときだけを「血をもらった」と数えました。

逆さまにぶら下がった2匹のナミチスイコウモリが顔を寄せ、1匹がもう1匹の口元をなめている。少し離れた所に、もう1匹が逆さまにぶら下がっている。

見知らぬ相手と出会わせたあとの断食実験は、合わせて638回になりました。観察の期間は424日、新しい相手から血をもらえる機会は1万2012回ありました。断食実験の61%で、コウモリは少なくとも1匹の仲間から血をもらいました。

03新しく血を分ける仲になったのは、メスの組み合わせの約15%だった

血を分ける関係は、そう簡単には生まれませんでした。メスどうしの組み合わせは608通りありましたが、新しく血を分ける関係ができたのは14.5%でした。一方、毛づくろいの関係は、メスの組み合わせ618通りのうち58.9%で生まれました。毛づくろいよりも、血を分ける関係の方がずっと少なかったのです。

チームは、関係ができるまでの順番に注目しました。AがBに毛づくろいをする時間が長いほど、のちにBがAに血を分ける関係が生まれやすくなっていました。毛づくろいをした側が、あとで血をもらう側になったのです。

血を分ける関係ができたペアでは、毛づくろいの量が少しずつ増えていました。そして初めて血をもらった日を境に、毛づくろいはそれ以上増えなくなりました。血を分ける関係ができなかったペアでは、毛づくろいは少ないままでした。また、血の分け合いは一方通行ではなく、おたがいに分ける形で生まれやすい傾向がありました。

042匹きりのペアの方が、新しい仲を作りやすかった

出会わせ方によっても違いがありました。2匹だけで過ごしたペアの方が、1匹を3匹の中に入れた場合よりも、新しい血の分け合いも毛づくろいも多く生まれました。4匹の方が新しい相手の数は多いのに、結果は逆でした。全員を大きな小屋に入れたときも、コウモリはもとからの顔なじみに血を分けたり、毛づくろいをしたりすることが多くなりました。

チームは、これを「ほかに頼れる相手が少ないほど、見知らぬ相手との関係を育てる」という予想に合う結果だと考えています。相手の見た目や体質だけで仲間を決めているなら、相手の数が多い4匹の方が仲間はできやすいはずです。そうはならなかったのです。

チームは別の論文で、施設で親しくなった関係のその後も調べています。2年近く飼育されたメスたちは、もとのねぐらであるトレの木へ戻されました。背中に小さな装置をつけて、どのコウモリとどのコウモリが近くにいたかを自動で記録しました。すると、飼育中に毛づくろいや血の分け合いが多かったペアほど、野生でも一緒にいることが多かったのです。さらに2021年の論文では、親しいメスどうしがねぐらを別々に出たあと、ねぐらから離れた場所でよく出会っていたことも報告されました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「小さな助けから大きな助けへ」という考え

相手にだまされないためには、最初は小さな助けを少しずつ出し、相手がお返しをしてくれたら、だんだん大きな助けへ進めばよい。この考えは英語で「レイジング・ザ・ステークス(raising the stakes)」と呼ばれ、20年以上前に唱えられました。チームによると、人どうしの協力のゲームではこの進め方が見られます。けれど、野生の動物が新しい仲を作るときにこれを確かめた研究は、ほとんどありませんでした。

これまでの研究は、サルなどで「すでにできあがった仲」を調べたものが中心でした。見知らぬ相手が仲間になるまでの変化は、野生ではとても観察しにくいからです。チスイコウモリの研究は、相手を選んで出会わせ、毛づくろいと血の分け合いという負担の違う2つの行動を長く追った点で新しいものでした。

チスイコウモリの社会は、なぜこの方法に向いているのか

メスのチスイコウモリは、家族を中心に、集まったり離れたりしながら群れで暮らしています。チームの論文によると、野生の群れに血のつながらないメスが加わるのは、だいたい2年に1回ほどです。野生で最長16年生きるとも書かれています。

最初の出会いでは、仲の良さは分からなかった

2024年、カーターさんたちは同じ研究の動画を見直しました。見知らぬメスを小さなケースに入れた直後の6時間に、どんなやりとりがあったかを調べたのです。35組のうち30組で、においをかぎ合ったりなめ合ったりする行動が見られました。たたく、かみつくといった攻撃的な行動は3組だけでした。

けれど、最初の6時間の行動から、その後の毛づくろいや血の分け合いをはっきり予測することはできませんでした。ただし、この分析は26組だけで、仲良くした時間が長いほど毛づくろいが多くなる傾向は少し見えていました。別の実験で、背中の装置を使って最初の4〜24時間の接触を測っても、その後の毛づくろいははっきり予測できませんでした。チームは「第一印象は、そのあとのやりとりに上書きされる」とまとめています。

この研究で言えること、言えないこと

2020年の研究が示したのは「毛づくろいが増えたあとで、血の分け合いが始まる」という順番です。毛づくろいが血の分け合いを引き起こしたと、実験で確かめたわけではありません。チーム自身も、お返しが本当に相手の行動しだいで決まるかを示すには、お返しをできなくして、相手の助けが減るかを見る実験が必要だと書いています。また、調べたのはおもにメスで、オスがどう仲間を作るのかは分かっていません。

05まとめ

見知らぬチスイコウモリどうしは、いきなり血を分け合うのではありませんでした。まず毛づくろいが少しずつ増え、そのあとで血を分ける関係が生まれていました。ほかに頼れる相手が少ないときほど、新しい関係はできやすくなりました。施設でできた仲の多くは、野生に戻っても続いていました。

ただし、最初の出会いの様子からは、その後の仲の良さをはっきりとは予測できませんでした。15か月で608通りのメスの組み合わせのうち、血を分ける仲になったのは約15%です。チスイコウモリにとって「血を分ける友だち」は、時間をかけてやっと作れる、少ない相手なのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

パナマ・ガンボア

研究チーム
アメリカのオハイオ州立大学のジェラルド・カーターさんと、スミソニアン熱帯研究所などのチーム
調べた場所
パナマのガンボアにあるスミソニアン熱帯研究所の飼育施設
調べた動物
パナマの2か所でつかまえたメスのナミチスイコウモリ27匹と、飼育中に生まれた子ども
調べ方
1匹を一晩と一日えさなしにして仲間のもとへ戻し、1時間の毛づくろいと血の分け合いをビデオで記録した
分かったこと
相手への毛づくろいが増えたあとで、相手から血をもらう関係が生まれた
まだ分からないこと
毛づくろいが血の分け合いを本当に引き起こしているのか。メス以外でも同じか
論文
Current Biology(2020年)
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英語で読んでみよう

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How Vampire Bats Make New Friends

Vampire bats drink only blood. Some nights, a bat cannot find any food. Then a friend may bring up blood from its stomach and share it.

Scientists wanted to know how strangers become friends. They brought female bats from two places in Panama and put them together. They watched the bats for 15 months. In the tests, a hungry bat went back to its group for one hour, and the scientists filmed it.

First, the new bats cleaned each other's fur. Over time, they cleaned each other more and more. A bat that cleaned a partner more often was more likely to get blood from that partner later. Later, some of them started to share blood. But only about 15 percent of the pairs did this.

Many of these friendships continued after the bats went back to the wild. However, the first six hours together did not show who would become friends. Friendship took time.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long did the scientists watch the bats?研究者はどれくらいの期間、コウモリを観察しましたか。

Q2. What did the new bats do first?新しいコウモリどうしは、最初に何をしましたか。

Q3. About how many pairs started to share blood?血を分け合うようになったのは、ペアのおよそどれくらいですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Carter, G. G. et al. (2020) Development of New Food-Sharing Relationships in Vampire Bats. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2020.01.055
  2. 2Carter, G. G. et al. (2019) Development of new food-sharing relationships among nonkin vampire bats(bioRxiv の著者版) 論文確認済みdoi:10.1101/534321
  3. 3Ripperger, S. P. et al. (2019) Vampire Bats that Cooperate in the Lab Maintain Their Social Networks in the Wild. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2019.10.024
  4. 4Ripperger, S. P. et al. (2021) Social foraging in vampire bats is predicted by long-term cooperative relationships. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.3001366
  5. 5University of Michigan Animal Diversity Web「Desmodus rotundus」animaldiversity.org/accounts/Desmodus_rotundus/
  6. 6Carter, G. G. et al. (2024) Long-term cooperative relationships among vampire bats are not strongly predicted by their initial interactions. Annals of the New York Academy of Sciences 論文確認済みdoi:10.1111/nyas.15241

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい