島の緑の6割が消えたハリケーンのあと、アカゲザルは新しい仲間を増やした

ハリケーンで木が失われた島のアカゲザルは、毛づくろいの相手を増やした。特に、前は孤立ぎみだったサルほど、ほかのサルに近づいた。

No.057 7分で読めるえっ度 論文 2024年
木がなぎ倒されて葉の少なくなった小さな島で、アカゲザルが数匹、身を寄せ合って毛づくろいをしている。背景に海が見える。

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  1. ハリケーンのあと、サルはほかのサルの近くにいることが多くなった
  2. もともと仲間が少なかったサルほど、つき合いを大きく増やした
  3. サルたちは古い仲を深めるより、新しい毛づくろい相手を増やした

人に話すなら

プエルトリコの島のサル、ハリケーンで木の多くがなくなったあと、毛づくろいする相手を増やしたんだって。しかも、ほかのサルの近くにいたサルほど、その後生き残りやすかったらしいよ。

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読む前に予想しよう

ハリケーンのあと、島のサルたちは仲の良い相手をしぼりこんだ

2017年9月、強いハリケーン・マリアが、カリブ海のプエルトリコを襲いました。プエルトリコの小さな島、カヨ・サンティアゴ島も大きな被害を受けました。衛星写真で見た島の緑は63%減り、研究のための設備もほとんど壊れました。

この島で暮らすアカゲザルを、アメリカの研究チームが嵐の前と後で比べました。すると嵐の後、サルがほかのサルのすぐ近くにいる確率は、4倍以上になっていました。毛づくろいの相手の数も増えていました。

災害のあと、人どうしが助け合う話はよく聞きます。けれども、動物で同じことを確かめる機会はめったにありません。災害の前から、同じ動物を1匹ずつ見分けて記録している場所が少ないからです。この島には、その記録がありました。

0180年以上、1匹ずつ見分けられてきた島のサル

カヨ・サンティアゴ島のサルの群れは、1938年に始まりました。インドでつかまえた409匹のアカゲザルを、この島に放したのです。それから今まで、サルたちはずっと記録され続けています。

島では、カリブ霊長類研究センターが毎日えさを配り、水も自由に飲めます。島に天敵はいません。サルたちは自分たちで群れを作り、島の中を自由に動き回って暮らしています。大人のサルには入れ墨や耳の切れこみの印があり、顔つきでも1匹ずつ見分けられます。

2017年9月20日、ハリケーン・マリアは、「カテゴリー4」という強い勢力でプエルトリコに上陸しました。人間の死者は数千人にのぼり、そのあと心の病に苦しむ人も増えました。

島のサルの死者は、ほかの動物が災害にあった例と比べると少なく済みました。嵐の直後に死んだのは島のサルの2%、その後の6か月で7%でした。ほかの動物の災害の研究では、30〜65%が死んだ例もあります。サルの数があまり減らなかったので、付き合い方の変化だけを調べることができました。

02嵐のあと、サルはほかのサルのそばにいることが増えた

アメリカのペンシルベニア大学のカミーユ・テスタール(Camille Testard)さんたちは、2つの群れの大人のサル159匹を調べました。使ったのは、嵐の前の2015〜2017年の記録と、嵐の後の1年分の記録です。

調べたことは2つです。1つは、ほかの大人のサルが2メートル以内にいるかどうか。もう1つは、毛づくろいをしているかどうかです。毛づくろいは、相手の毛をかき分けて手入れをする行動で、サルどうしの仲の良さの目印になります。

嵐の後は電気がなかなか使えず、記録のしかたが変わりました。そこでチームは、サルごとに、記録した時期や時間帯をそろえて、前と後を比べました。その結果、嵐の後のサルは、ほかのサルの近くにいる確率が4倍以上になっていました。毛づくろいをしている確率も、5割以上高くなっていました。2つの群れのどちらでも、同じ向きの変化でした。

03前は孤立ぎみだったサルほど、仲間に近づいた

みんなが同じだけ変わったわけではありません。嵐の前に毛づくろいの時間が短かったサルや、ほかのサルの近くにいることが少なかったサルほど、嵐の後に大きく変わりました。その差は、偶然のばらつきだけでは説明できない大きさでした。

一方で、嵐の後に毛づくろいの仲間を亡くしたかどうかは、変わり方とは関係がありませんでした。仲間を失った穴を埋めるため、という説明は、この結果には合いません。

04サルは古い仲を深めるより、新しい相手を増やした

毛づくろいの相手が増えたのでしょうか。それとも、同じ相手とより多く毛づくろいするようになったのでしょうか。チームは、2匹ずつの関係を1組ずつ調べました。

すると、毛づくろいの相手の数は増えていました。しかし、1組ごとの関係は強くなっていませんでした。前から知っていた相手との関係も深まらず、V群という群れでは、むしろ弱くなっていました。

嵐の後に増えたのは、親せきや、順位の高いサルとの毛づくろいではありませんでした。V群では、親せきを毛づくろいする割合が、むしろ減りました。どちらの群れでも、メスがオスを毛づくろいすることが増えました。

新しい関係は、2つのパターンで生まれやすくなっていました。1つは「友だちの友だち」と仲良くなることです。もう1つは、嵐の前に自分を毛づくろいしてくれた相手に、お返しをすることでした。

わずかに残った木の日かげに、アカゲザルが何匹も寄り集まって座っている。日なたの地面は白っぽく照りつけている。

05ほかのサルを近くに受け入れたサルほど、生き残りやすかった

2024年、同じ研究グループは続きの研究を発表しました。嵐の前後10年分の記録を使った研究です。

木が減ったことで、島には日かげがほとんどなくなりました。2018〜2021年に日なたに置いた温度計では、昼間の記録の48%が40℃を超えていました。日かげは、日なたより平均で7℃すずしい場所でした。

サルたちは、嵐から何年たっても、ほかのサルを近くに受け入れたままでした。ケンカも減っていました。そして、近くにいる相手が多いサルほど、嵐の後に死ぬ危険が下がっていました。近くにいる相手が12.7匹多いと、死ぬ危険は約43%低くなりました。

ところが、嵐の前の記録では、近くにいる相手の多さと生き残りに関係は見られませんでした。チームは、少ない日かげを分け合うために、ほかのサルを近くに受け入れることが命を守ったと考えています。実際、日かげと日なたの温度の差が大きい午後のほうが、近くにいる相手の多さが生き残りをよく言い当てました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜ「強い絆」より「たくさんの知り合い」なのか

論文は、この結果を「社会的緩衝仮説」に合うと書いています。仲間がいることで、つらい出来事の悪い影響がやわらぐ、という考えです。ただし、サルたちが選んだのは、少数の親友との絆を強めることではありませんでした。知り合いの数を広げることでした。

著者たちは、その理由を次のように考えています。日かげは、島のあちこちに少しずつ散らばっています。1匹の親友より、たくさんの知り合いがいるほうが、どこの日かげにも入れてもらいやすいはずです。同じ島のサルでは、弱いつながりが多いほど生き残りやすいという研究も出ています。

「変われたサル」が生き残っていた

2024年の研究は、7つの群れの790匹の記録を使いました。そのうち、嵐の前と後の両方の記録がある258匹について、変わり方と生き残りの関係も調べています。

嵐の前に、ほかのサルをあまり近くに寄せなかったサルがいます。このグループでは、嵐の後に大きく変わったサルほど、長く生きていました。嵐の前から寛容だった(ほかのサルが近くにいても平気だった)サルでは、変わり方と生き残りに、はっきりした関係は見られませんでした。

2021年の論文で「孤立ぎみだったサルほど大きく変わった」ことと、つながる結果です。著者たちは、嵐の後に寛容であることが大事で、それが元からでも、変わった結果でもよい、とまとめています。

人間やほかの動物との比較

論文によると、人間でも、町全体が被害を受けた災害のあとには、知らない人や親せき以外の人とつながろうとする動きが見られます。動物では、大量に食べられる出来事のあとの野生のネズミや、仲間を失ったメスのチャクマヒヒで、付き合い方が変わった例が報告されています。アカゲザルの結果は、災害で「仲間を求める」反応が、人間以外の霊長類にもあることを示しました。

研究方法の工夫と限界

この島は、災害の研究にとってめずらしい条件がそろっていました。嵐の前の記録があり、サルが1匹ずつ見分けられ、島なので外へ逃げられません。サルの死者も少なかったので、群れが小さくなった影響と、付き合い方の変化を分けて見られました。

一方で、限界もあります。嵐の後は記録のしかたが変わったので、ケンカの変化は2021年の論文では比べられませんでした。調べた群れは2つだけで、群れごとに結果が少し違う点もありました。島のサルは毎日えさをもらっていたので、食べ物には困っていません。食べ物まで失われる野生の災害では、違う反応になるかもしれません。

06まとめ

ハリケーンで島の緑の6割が消えたあと、アカゲザルは、ほかのサルの近くにいることが4倍以上に増えました。毛づくろいの相手も増え、特に前は孤立ぎみだったサルほど大きく変わりました。増えたのは、深い絆ではなく、新しい知り合いでした。

続きの研究では、近くにいる相手が多いサルほど、嵐の後に生き残りやすかったことも分かりました。日なたが40℃を超える島で、サルたちは日かげを分け合える仲間を増やしていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

プエルトリコ(カヨ・サンティアゴ島)

研究チーム
アメリカのペンシルベニア大学のカミーユ・テスタール(Camille Testard)らのチーム
調べた場所
プエルトリコのカヨ・サンティアゴ島
調べた動物
島で暮らすアカゲザル(学名 Macaca mulatta)の大人159匹(2つの群れ)
調べ方
ハリケーン前の数年分と後の1年分の観察記録で、2m以内にいる相手と毛づくろいの相手を比べた
分かったこと
後のほうが仲間の近くにいる・毛づくろいする確率が高く、相手の数も増えた。孤立ぎみのサルほど大きく増えた
まだ分からないこと
ケンカの変化は記録のしかたが違って比べられなかった。食べ物まで失う野生でも同じか
論文
Current Biology(2021年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Monkeys Made New Friends After a Storm

In 2017, a strong hurricane hit Puerto Rico. On a small island there, many trees fell down. The green on the island went down by 63 percent. Rhesus monkeys live on this island, and scientists know each monkey.

Scientists compared the monkeys before and after the storm. After the storm, the monkeys stayed close to other monkeys more often. They also cleaned the fur of more partners. Monkeys with few friends before the storm changed the most.

The monkeys did not make old friendships stronger. Instead, they made new friends, like friends of their friends.

Later, the team studied how this change helped. Without trees, there was little shade, and the sun was very hot. In the sun, it was often over 40 degrees. Monkeys with more neighbors were more likely to survive. The team thinks these monkeys shared the shade.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What happened to the green on the island?島の緑はどうなりましたか。

Q2. Which monkeys changed the most?どのサルが一番大きく変わりましたか。

Q3. Why did having many neighbors help the monkeys?近くに仲間が多いことは、なぜサルの助けになったのですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Testard, C. et al. (2021) Rhesus macaques build new social connections after a natural disaster. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.03.029
  2. 2Testard, C. et al. (2024) Ecological disturbance alters the adaptive benefits of social ties. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adk0606
  3. 3Watowich, M. M. et al. (2022) Natural disaster and immunological aging in a nonhuman primate. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2121663119
  4. 4PMC(米国国立医学図書館)Testard et al. 2021 の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8187277/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい