チンパンジーは、働かずに果物を取る仲間に抗議した。群れでは協力がズルやケンカの5倍になった

2〜3頭で引くと果物が出る装置を、チンパンジーの群れに置いた。ただ取りや横取りも起きたが、抗議や相手選びで抑え、最後は協力がズルやケンカの5倍以上になった。

No.171 10分で読めるえっ度 論文 2016年
金網の前に並んだ2頭のチンパンジーが、横に並んだ2本の棒を同時に引いている。その後ろから、別のチンパンジーが手をのばし、落ちてきた果物をこっそり取ろうとしている。

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  1. 2〜3頭で同時に引くと、果物が出る装置を群れに置いた
  2. 働かずに果物を取る仲間には、抗議や相手選びで対応した
  3. 最後は、協力がズルやケンカの5倍以上になった

人に話すなら

チンパンジーの群れに、2頭か3頭で同時に引くと果物が出る装置を置いたんだって。働かずに果物だけ取るやつもいたけど、抗議したり、そいつと組まなくなったりして、最後は協力がほとんどになったらしいよ。

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この実験で、チンパンジーの協力は回を重ねるごとに減っていった

チンパンジーは、仲間どうしの争いが多い動物だと言われてきました。実験室でも、2頭で力を合わせる課題を出すと、エサの取り合いになってうまくいかないことがよくありました。協力して大きな仕事をするのは人間だけの得意技だ、という見方もありました。

アメリカのエモリー大学のチームは、実験のやり方を変えました。2〜3頭で同時に引くと果物が出る装置を、チンパンジーの群れ全員の前に置いたのです。誰と組んでもよく、働かずに果物だけ取ることもできます。それでも群れは、94時間で3,565回協力しました。最後には、協力がズルやケンカの5倍以上になりました。

これまでの実験では、研究者が組む相手を決め、2〜3頭だけで課題に挑ませるのがふつうでした。それではズルが起きにくい代わりに、ズルにどう立ち向かうかも見られません。この研究は、ズルもケンカも起きる「本物に近い群れ」で、チンパンジーがどうやって協力を守るのかを調べました。

01群れ全員の前に、2〜3頭で引く装置を置いた

研究したのは、アメリカのエモリー大学ヤーキス国立霊長類研究センターのマリニ・スチャク(Malini Suchak)たちです。チームには、チンパンジーの社会の研究で知られるフランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal)も加わっていました。舞台は、ジョージア州にあるこのセンターの野外施設です。

調べたのは、20年以上一緒に暮らしてきた群れで、おとなは11頭でした。装置は屋外の運動場のへりに置き、運動場の中へ2本の棒を20センチほど突き出させました。1頭が片方の棒を引くと、果物の台をふさぐ仕切りが下がります。そのとき別の1頭がもう1本の棒を引くと、台が手前に寄ってきます。すると、装置の前にいるチンパンジーの近くに、果物のかけらが落ちてきます。

2頭での協力ができるようになると、仕切りをもう1枚増やし、3頭がそろわないと果物が出ない回も作りました。チンパンジーたちは、前もって使い方を教えられていません。自分たちで試しながら、仲間と同時に引けば果物が出ることを覚えていきました。果物は毎日の食事とは別のおやつで、食事を減らしたりはしていません。

実験は1回1時間で、週に2〜3回行いました。果物が出ると、すぐに次の果物をセットします。1時間の間なら、何回でも挑戦できます。こうして94回、合わせて94時間の様子を、横と前の2方向からビデオに撮りました。

02群れの中では、ただ取りも横取りも起きた

群れ全員がいるので、ズルの機会はいくらでもあります。チームは、2種類のズルを数えました。1つは「ただ取り」です。自分は棒を引かずに、引いた仲間の前に落ちた果物を取ろうとすることです。もう1つは「場所の横取り」です。装置の前にいる仲間をどかして、その場所を奪うことです。

ただ取りの試みは175回あり、そのうち91回は果物を取るのに成功しました。11頭全員が、少なくとも2回はただ取りを試みていました。場所の横取りは335回試みられ、87.2%が成功しました。

ただ取りばかりしていたのが、マイという48歳のメスでした。マイは目がほとんど見えず、一度も協力して装置を動かしませんでした。その代わり、ただ取りをくり返していました。

初めのころは、装置に集まる仲間が増えるにつれて、ズルも増えていきました。論文は、チンパンジーにズルを抑える力がないなら、群れは言い争いばかりになるはずだ、と書いています。けれども、この群れはここから変わっていきました。

金網の向こうにある果物の入った台を、チンパンジーたちが棒を引いて手前に寄せる装置の場面。1頭が棒を引いて仕切りを下げ、もう1頭が別の棒で台を引き寄せている。

03ただ取りされた仲間は、抗議し、離れ、組む相手を選んだ

チームは、ただ取りが起きるたびに、まわりの反応を記録しました。ただ取りの28.0%では、どちらのチンパンジーも何の反応もしませんでした。残りでは、いくつかの対応が見られました。果物を実際に取られたときのほうが、取られかけただけのときより、よく反応しました。

1つめは抗議です。ただ取りの12.6%では、働いた側が泣くような声を出したり、口をとがらせたり、叫んだり、声を出さずに歯をむき出したりしました。攻撃に発展したのはただ取りの9.7%で、多くはおどす程度の軽いものでした。攻撃しやすかったのは、ただ取りをした側でした。

2つめは、離れることです。ただ取りの24.6%では、働いた側が装置から離れました。20.0%では、ただ取りした仲間がいなくなるまで、棒を引くのをやめて待ちました。ただ取りした側が離れていったことも、13.7%ありました。

3つめは、相手選びです。チンパンジーたちは、血のつながった仲間や、群れの中で順位が近い仲間のいるときに、よく装置に近づきました。ただ取りは、順位が離れた弱い相手をねらって起きやすいことも分かりました。順位の近い相手と組むことが、ただ取りを防いでいたのかもしれません。マイは、装置の前に1頭だけで残される時間が37.73%で、群れで一番長くなりました。ほかの10頭は12.57〜29.55%でした。

04まわりの仲間が割りこんで、ただ取りした側を追い払った

ただ取りのあとのもめごとに、関係のない仲間が割りこむこともありました。その回数は14回で、ただ取り全体の8.0%です。どちらの味方もしない割りこみが4回ありました。どちらかの味方をした10回のうち9回は、ただ取りされた側の味方でした。ただ取りした側を、おどしたり、追い払ったり、軽くたたいたりしたのです。

論文には、こんな場面が書かれています。ただ取りしたチンパンジーが、相手をつかんでたたき、地面に押さえつけようとしました。そこへ4頭が割りこみました。1頭のメスは、どちらの味方もせず2頭の間に入りました。残りの3頭は、群れで一番強いオスもふくめ、ただ取りした側を攻撃しました。最後は、その一番強いオスが突進して、ただ取りした側の頭をたたき、けんかは終わりました。

場所の横取りへの反応は、ただ取りへの反応とは違いました。どかされた側が、どかした側にやり返すことが多かったのです。53回のうち39回がそうでした。まわりの仲間が割りこんだときも、どちらの味方が多いということはありませんでした。チームは、場所の横取りは順位を示すふつうの行動として受け入れられ、ただ取りは受け入れられていないのかもしれない、と考えています。

05最後は、協力がズルやケンカの5倍以上になった

チームは、1回の実験ごとに「協力の度合い」を数字にしました。協力しかなければプラス1、ズルやケンカしかなければマイナス1です。94回の実験を通して見ると、この数字ははっきり上がっていきました。最初の25回ほどで一度下がったあと、後半は上がり続け、最後はプラス1に近くなりました。数字がマイナスになった回は、全体の16.0%だけでした。

協力は94時間で3,565回、1.54分に1回のペースです。ズルやケンカは、合わせて600回あまりでした。群れの11頭のうち、協力よりズルが多かったのはマイだけでした。

チームは、新しく作った15頭の群れでも、最初の28回の実験をくり返しました。この群れは、実験の3か月前に小さなグループを合わせて作ったばかりでした。実験の外でも順位争いが続いていて、攻撃は元の群れの約3倍ありました。順位の入れかわりも10回起きました。それでも新しい群れは、同じ28回で1,017回協力しました。元の群れは765回でした。ただ取りへの反応のしかたも、2つの群れでほとんど同じでした。

06ただし、チンパンジーは自分に関係ないズルを罰さないという実験もある

人間は、自分が損をしていなくても、ズルをした人を罰することがあります。これを「第三者による罰」といいます。ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のカトリン・リードル(Katrin Riedl)らは、2012年にこれをチンパンジーで確かめようとしました。

実験では、13頭のチンパンジーが、別のチンパンジーの果物が盗まれる場面を見ました。見ている側は、ひもを引いたりボタンを押したりして台を落とし、盗んだ側の果物をだめにできます。結果は、順位の高いチンパンジーは、自分の果物を盗まれたときにはやり返しました。けれども、ほかの仲間の果物が盗まれたときは、盗まれたのが血のつながった仲間でも、罰しませんでした。チームは、第三者による罰は、人間の系統で新しく生まれた性質かもしれないと結論しました。

スチャクたちの実験で見られた割りこみは、14回と多くありません。論文の中でも、けんかに割りこむことは、人がお金を払ってまでズルを罰する実験とは中身が違う、と認めています。それでも、味方をした割りこみの10回のうち9回が取られた側の味方だったことは、ただ取りを許さない「群れの決まり」のようなものがあるのかもしれない、と著者たちは考えています。どちらの見方が正しいのかは、まだ決着していません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「シカ狩りゲーム」で見る、協力のむずかしさ

この実験は、「シカ狩りゲーム」という考え方をもとにしています。1人でウサギをねらえば、小さいけれど確実に獲物が取れます。みんなで力を合わせれば、大きなシカが取れます。けれども、仲間が裏切って自分だけウサギを追えば、シカ狩りは失敗します。みんなが協力する状態も、みんなが自分勝手に動く状態も、どちらも落ち着いてしまうのが、このゲームのむずかしいところです。これまでの実験では、チンパンジーは自分勝手のほうに落ち着くと考えられていました。スチャクたちは、それがチンパンジーの性質なのか、実験のやり方のせいなのかを確かめたかったのです。

研究の歴史:チンパンジーはなぜ「協力が苦手」と思われてきたか

論文によると、チンパンジーは野生では、群れで狩りをしたり、なわばりを守ったり、オスどうしで手を組んだりします。けれども実験室では、2頭のペアで課題を出されることが多く、協力はあまりうまくいきませんでした。ある研究では、研究者がエサを取り合いにくいペアを選んで組ませないと、協力が生まれませんでした。スチャクたちは、チンパンジーが協力できなかったのではなく、ズルに立ち向かう手段を取り上げられていたのだと考えました。実験の回数がふつうよりずっと多かったことも、結果の違いの理由かもしれないと書いています。協力が落ち着くまでには時間がかかるからです。

ほかの生き物のズル対策

ズルを罰したり、ズルをする相手から離れたりするしくみは、人やサルだけのものではありません。論文は、こんな例を紹介しています。マメ科の植物は、根に住む細菌のうち、空気中の窒素を取りこむ仕事をしない細菌には、酸素を少なく送ります。大きな魚は、体の掃除をしてくれる小さな魚が、掃除の代わりに皮をかじると、追いかけ回します。罰より、相手を選んだり離れたりするほうを好む動物がいることも知られています。

人間のカップルと同じ「5対1」

著者たちは、人間の夫婦の研究にもふれています。長く続く関係では、よいやりとりが悪いやりとりの5倍くらいある、という考え方です。ある研究では、この比が5に届かない夫婦は、離婚しやすかったそうです。もめごとをゼロにするのではなく、つり合いが大事だ、という考え方です。2つのチンパンジーの群れは、どちらも協力がズルやケンカの5〜6倍に落ち着きました。

07まとめ

チンパンジーの群れ全員の前に、2〜3頭で同時に引くと果物が出る装置を置きました。ただ取りや場所の横取りも起きましたが、チンパンジーたちは抗議し、離れ、組む相手を選びました。まわりの仲間が割りこむときは、ほとんどがただ取りされた側の味方でした。94時間で協力は3,565回になり、最後はズルやケンカの5倍以上になりました。

ただし、自分に関係のないズルまで罰するかどうかは、別の実験で否定されています。目のほとんど見えない48歳のマイは、最後まで一度も協力して装置を動かさず、装置の前に1頭で残されることが一番多いチンパンジーでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・ジョージア州

研究チーム
アメリカのエモリー大学ヤーキス国立霊長類研究センターのマリニ・スチャク(Malini Suchak)、フランス・ドゥ・ヴァールら
調べた場所
アメリカ・ジョージア州のヤーキス国立霊長類研究センターの野外施設
調べた動物
飼育されているチンパンジー(学名 Pan troglodytes)の群れ。おとな11頭と、新しく作った群れ15頭
調べ方
2〜3頭で同時に引くと果物が出る装置を群れ全員の前に置き、94時間分のビデオで協力とズルを数えた
分かったこと
協力は3,565回。ただ取りには抗議、強い仲間の割りこみ、相手選びで対応し、最後は協力がほとんどになった
まだ分からないこと
ズルを止める行動が、人のような「決まりを守らせる」気持ちから来ているのか
論文
米国科学アカデミー紀要 PNAS(2016年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

How Chimpanzees Deal with Cheaters

Scientists in the United States gave a group of chimpanzees a special machine. When two or three chimps pulled at the same time, fruit came out. The whole group was there, so anyone could join.

Some chimps did not pull but took the fruit. One old female never worked with others and often took food from them. The workers sometimes screamed or walked away. They also chose to work with family or with chimps of similar rank.

Sometimes other chimps joined the fight. Most of them helped the chimp who lost the fruit. In 94 hours, the chimps worked together 3,565 times. In the end, working together was five times more common than cheating and fighting.

But another study found something different. Chimps did not punish a thief when the stolen food belonged to someone else.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many chimps had to pull at the same time to get fruit?果物を出すには、何頭が同時に引く必要がありましたか。

Q2. Who did most of the other chimps help in a fight?けんかに割りこんだチンパンジーのほとんどは、誰の味方をしましたか。

Q3. What did another study find?別の研究では何が分かりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Suchak, M. et al. (2016) How chimpanzees cooperate in a competitive world. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1611826113
  2. 2Suchak, M. et al. (2014) Ape duos and trios: spontaneous cooperation with free partner choice in chimpanzees. PeerJ 論文確認済みdoi:10.7717/peerj.417
  3. 3Riedl, K. et al. (2012) No third-party punishment in chimpanzees. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1203179109
  4. 4PMC(米国国立医学図書館)Suchak et al. 2016 全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5018789/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい