チンパンジーが決まった木に石を投げ、根元に石の山ができていた。34の調査地のうち4か所で

西アフリカの4地域で、チンパンジーが決まった木に石を投げつけ、根元に石の山ができていた。食べ物は取れない。何のためかは、まだ分かっていない。

No.152 7分で読めるえっ度 論文 2025年
草原まじりの林で、大人のオスのチンパンジーが毛を逆立て、両手で持った石を大きな木の根元に投げつけようとしている。木の根元には、大小の石がいくつも積み重なっている。

30秒で読む

  1. 西アフリカの4地域で、チンパンジーが決まった木に石を投げていた
  2. 木の根元やうろには、石がたまって山になっていた
  3. 何のための行動か、研究者の意見は分かれている

人に話すなら

西アフリカのチンパンジー、決まった木に石を投げつける習慣があるんだって。木の根元には石の山ができてて、食べ物を取るためでもないらしい。アフリカ中を調べても4地域でしか見つかってないんだよ。

ポストLINE

読む前に予想しよう

チンパンジーが木に石を投げるのは、木の実を落として食べるためだ

西アフリカの林の中に、幹が傷だらけの木があります。根元には石がいくつも積み重なり、幹のうろの中にも石が入っています。人が置いた目印のように見えますが、石を運んできたのは人ではありませんでした。

2016年、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所などの研究チームが報告しました。野生のチンパンジーが、決まった木に石を投げつけていたのです。アフリカの34の調査地を調べて、この行動が見つかったのは西アフリカの4つの地域だけでした。自動カメラには、合わせて64回の石投げが撮られていました。

チンパンジーが石を道具に使うことは、前から知られていました。木の実を石でたたいて割るのです。けれども、木に石を投げつけても、食べ物は手に入りません。何十年も続く有名な調査地でも、この行動を見た人はいませんでした。

01アフリカ中のチンパンジーを、同じやり方で調べた

チンパンジーの行動の研究は、長く続く少数の調査地から分かったことがほとんどです。調査地はアフリカの中でぽつぽつと離れています。研究チームは、まだ調べられていない場所のチンパンジーを数多く調べる計画を立てました。「パン・アフリカン・プログラム」と呼ばれる計画です。

この計画では、人に慣れていない群れを、体にふれない方法で調べます。多くの調査地では14〜17か月かけ、決まった手順で、自動カメラを置いたり、林を歩いて行動のあとを探したりしました。2011年から2015年までに、34の調査地で調査が行われました。

02傷だらけの木にカメラを向けると、石を投げるチンパンジーが写った

石をたたく音は、2010年に、ギニアビサウのボエという地域で、別の調査チームが耳にしていました。2011年3月、ギニアのサンガレディという調査地で、チームは幹にふしぎな傷のある、うろのある木を見つけました。まわりを調べると、根元に石がたまった傷だらけの木がいくつも見つかりました。

そこで、チームはこうした木に自動カメラを向けました。すると、2011年3月24日、石を投げるチンパンジーが初めて撮影されました。チームはこのあと、ほかのすべての調査地でも、同じやり方でこの行動を探すことにしました。

その結果、石投げが撮られたのは4つの地域でした。ギニアビサウのボエ、ギニアのサンガレディ、リベリアのニンバ山、コートジボワールのコモエです。どれも西アフリカで、西アフリカにすむチンパンジーの亜種の群れでした。

幹に傷あとがたくさんある木の根元で、板のように張り出した根のすき間に、大小の石がたまっている。少し離れた木の幹に、小さな箱形のカメラがベルトで取りつけてある。

03石の投げ方は3通り、投げる前には大きな声を上げていた

撮影された石投げは64回でした。投げ方には3つの型がありました。石を両手や片手で木に投げつける型、石を持ったまま何度も木にたたきつける型、木のうろや根のすき間に石を投げ入れる型です。

投げていたのは、ほとんどが大人のオスでした。大人のメスや子どもが投げる姿も写っていました。大人の石投げでは、石を拾って持ったあとか、持ちながら、パントフートを上げていました。音声が録れた50回の映像では、すべてでパントフートが聞こえました。

毛を逆立てたり、2本足で立って体を前後にゆらしたりすることもありました。これらは、大人のオスが自分を強く見せるときの、ふだんの動きです。64回のうち57回は、木の根元にある石を拾って投げていました。 同じ個体が、同じ木に何度も戻ってくる姿も撮られていました。

木のうろや根のすき間に石がたまっていた木では、その数は4〜37個でした。ボエの石は平均3.6kgで、一番重いものは17kgありました。

04石や木が多い場所なら、どこでも起きるわけではなかった

石投げが見られない地域は、そもそも石やうろのある木が少ないだけかもしれません。チームはそれを確かめるため、西アフリカの11の調査地で、地面に転がる石の数と、うろのある木の数を数えました。

その結果、石投げがある地域とない地域で、石の多さにも、うろのある木の多さにも、はっきりした差はありませんでした。石もうろのある木も多いのに、石投げが見られない地域もありました。

4つの地域は、西アフリカの中で飛び飛びに離れています。チームは、遺伝の違いで説明するのはむずかしいと考えました。そして、群れの中で見て覚えて伝わる、地域の文化かもしれないと書いています。

05何のために石を投げるのかは、まだ分かっていない

チームは、2つの考えをあげています。1つ目は、オスが自分を強く見せる動きが変化したものだ、という考えです。チンパンジーはどの地域でも、大声を上げながら木の根を手足でたたいて音を出します。石を使えば、もっと遠くまで響く音が出せるのかもしれません。

2つ目は、石を積むこと自体に、何か目印のような意味がある、という考えです。人間の社会では、石を積んで道や大事な場所を示すことがあります。西アフリカの人々のあいだにも、特別な木に石を積む聖地があるとチームは書いています。ただし、どちらの考えも、まだ確かめられていません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

石をぶつけた木は、よく響く木だった

2017年、チームの一人だったアミー・カラン(Ammie Kalan)さんたちは、ボエで確かめる実験をしました。50平方kmの範囲を87km歩いて、石投げに使われた木を39本見つけました。使われていた木は、どれも7種類の木のどれかでした。

カランさんは、27本の木に、決まった石を決まった力で自分で投げつけ、その音を録音しました。録れた172回の音のうち、雑音のない125回を、フランスの音の研究室が分析しました。研究室には、どの木の音かを知らせずに送りました。すると、石投げに使われる種類の木は、音が長く響き、低い音が多く出ていました。板のように張り出した根に当てた音も、低い音でした。

低い音は、遠くまで届きやすい音です。少なくとも、音を出すことが石投げの目的の1つだ、とカランさんたちは考えています。ただし、1回投げた音は、手足で何度もたたく音ほどは目立ちません。一緒に上げるパントフートのほうが、ずっと大きな音です。そのため、音だけでは説明しきれないとも書いています。

「石を積む」ことは、目的ではないのかもしれない

2025年、オランダのワーゲニンゲン大学のチームが、ボエの5本の木を調べた結果を発表しました。1本の木に3台ずつカメラを置き、2016〜2020年の映像も合わせて分析しました。石を使う場合も、手足で木をたたく場合も、チンパンジーは興奮して大声を上げていました。

ただし、石を投げる前はパントフートが多く、投げたあとは少なくなっていました。手足でたたく場合とは、ようすが少し違っていたのです。また、石を投げた場面の78%では、よそから運んだ石ではなく、その木のそばにあった石が使われていました。チームは、石がある程度たまったあとは、石を積むことはもう目的ではなくなると考えました。そして、「石を使ったドラミング」と呼ぶほうがよいと提案しています。

「儀式」ではない、という反論

この行動は、人間の儀式に似ているとして話題になりました。けれども、ドイツのテュービンゲン大学のクラウディオ・テニー(Claudio Tennie)さんたちは、2020年の論文で反論しています。似た形の行動が、遠く離れて行き来のない複数の群れで見つかっている。だから、ほかの群れのまねをしなくても生まれる行動らしい、というのです。

さらに、よく響く木を選んでいるという、儀式でなくても説明できる理由も見つかっていました。テニーさんたちは、石投げはおそらく役に立つから続いているふつうの行動で、儀式ではないと結論しています。文化かどうかについても、研究者の意見は分かれているのです。

ほかの動物との比較

チンパンジーが石を使う例の多くは、木の実を割るなど、食べ物を取るためのものです。食べ物と関係なく石を使う例としては、ニホンザルの「石遊び」が知られています。石を手に取っていじる行動で、いくつもの群れで伝統になっています。遊び場には、石がたまることもあります。

06まとめ

アフリカの34の調査地を調べると、西アフリカの4つの地域で、チンパンジーが決まった木に石を投げつけていました。木の根元やうろには石がたまり、投げる前にはたいてい大きな声を上げていました。

石や木の多さでは、この行動がある地域とない地域の違いを説明できませんでした。その後の研究で、よく響く木が選ばれていることも分かりました。けれども、何のための行動なのか、文化と言えるのかは、まだ意見が分かれています。

ボエで量った石は、1個平均3.6kg、重いものは17kgありました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ギニアビサウ・ボエ

研究チーム
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所などの大きなチーム(第一著者ヤルマー・キュール)
調べた場所
アフリカの野生のチンパンジーの34の調査地(石投げはギニアビサウ・ギニア・リベリア・コートジボワール)
調べた動物
野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)、石投げは西アフリカの亜種だけ
調べ方
人に慣れていない群れを、自動カメラなど体にふれない方法で、多くは14〜17か月ずつ調べた
分かったこと
4地域で、決まった木に石を投げる行動を64回撮影。石の多さや木のうろの多さでは、ある地域とない地域の違いを説明できなかった
まだ分からないこと
何のための行動か。音を出すためか、目印のような意味があるのか
論文
Scientific Reports(2016年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Chimpanzees Throw Stones at Special Trees

In some forests in West Africa, there are trees with many scars. Piles of stones lie at the bottom of these trees.

Scientists put cameras near the trees. The cameras showed chimpanzees throwing stones at the trees. Most of them were adult males. They often gave loud calls before they threw a stone.

The team studied chimpanzees in 34 places in Africa. They found this habit in only four areas. The chimpanzees do not get any food from it.

Why do they do it? Later, a scientist threw stones at trees and recorded the sounds. The trees that chimpanzees use made deep sounds that lasted longer. Some people called it a ritual. But some scientists think it is just a normal show of strength.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. In how many areas did scientists find this habit?研究者がこの習慣を見つけたのは、いくつの地域でしたか。

Q2. What did the chimpanzees often do before throwing a stone?チンパンジーは、石を投げる前によく何をしましたか。

Q3. What kind of sound did the chimpanzees' trees make?チンパンジーが使う木は、どんな音を出しましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Kühl, H. S. et al. (2016) Chimpanzee accumulative stone throwing. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep22219
  2. 2Kalan, A. K. et al. (2019) Chimpanzees use tree species with a resonant timbre for accumulative stone throwing. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2019.0747
  3. 3van Loon, S. et al. (2025) Stone-assisted drumming in Western chimpanzees and its implications for communication and cultural transmission. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2025.0053
  4. 4Tennie, C. & van Schaik, C. P. (2020) Spontaneous (minimal) ritual in non-human great apes? Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2019.0423

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい