チンパンジーが虫をつかまえて傷に塗っていた。15か月で22回、仲間の傷にも

ガボンの野生のチンパンジーが、飛ぶ虫をつかまえて口でつぶし、自分や仲間の傷に塗っていた。2025年にはウガンダの群れでも報告された。

No.064 7分で読めるえっ度 論文 2025年
森の中で、大人のチンパンジーが座り、すねの小さな傷に、指でつまんだ小さな羽虫を当てている。そばで別のチンパンジーがのぞきこんでいる。

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  1. チンパンジーは飛ぶ虫をつかまえ、口でつぶして傷に塗っていた
  2. 自分の傷だけでなく、仲間の傷に塗ることもあった
  3. 虫の種類も、傷に効くのかどうかも、まだ分かっていない

人に話すなら

チンパンジーって、飛んでる虫をつかまえて、口でつぶして傷に塗りこむんだって。しかも自分の傷だけじゃなくて、仲間の傷にもやってあげることがあるらしいよ。

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チンパンジーは、仲間の傷に虫を塗ることもある

けがをしたとき、人は薬を塗ったり、絆創膏をはったりします。では、野生の動物はどうしているのでしょう。なめる、そのままにする、というのが多くの人の想像かもしれません。

2022年、アフリカのガボンで、野生のチンパンジーが傷に「虫」を塗っていたという研究が発表されました。飛んでいる虫をつかまえ、口でつぶして、傷に当てるのです。15か月の観察で、自分の傷に塗る行動が19回、仲間の傷に塗る行動が3回記録されました。

動物が自分のために薬になるものを使う例は、これまでにも知られていました。けれど、虫を傷に塗る行動、しかも仲間の傷にまで塗る行動は、それまで報告がありませんでした。2025年には、遠く離れたウガンダの群れでも、同じ行動が報告されました。

01母親が、息子の足の傷に何かを塗っていた

舞台は、ガボンのロアンゴ国立公園です。ここでは、ドイツのオスナブリュック大学などのチームが、約45頭のチンパンジーの群れを観察しています。

最初の発見は2019年でした。当時ボランティアとして参加していたアレッサンドラ・マスカーロ(Alessandra Mascaro)さんが、スージーというメスを追いかけていました。スージーは、思春期の息子シアの足のけがの世話をしていました。

マスカーロさんは、スージーが唇のあいだに何かをはさみ、それをシアの足の傷に当てるのを見ました。その夜、撮ったビデオを見直すと、スージーは何かをつかまえ、それを直接傷に当てていました。

それから約1週間後、別の研究者が、大人のオス、フレディが同じようなことをしているのを見つけました。チームは、どこでどうやってつかまえていたかから、つかまえていたのは飛ぶ虫だろうと判断しました。

0215か月で22回。手当ての手順は毎回よく似ていた

チームは、それから傷のあるチンパンジーを注意して追いかけ、ビデオに収めました。15か月のあいだに記録したのは、22回です。自分の傷に塗ったのが19回、仲間の傷に塗ったのが3回でした。

2025年に同じ研究グループが出した論文によると、19回の自分への手当ては7頭によるものでした。大人のオス5頭、大人のメス1頭、子どものメス1頭です。

手当ての手順は、毎回よく似ていました。

  1. 飛んでいる虫をつかまえる。
  2. 唇のあいだにはさんだり、押しつぶしたりして、虫を動けなくする。
  3. 虫を指で傷に当て、指や唇で傷の上を動かす。
  4. 最後に、口か指で虫を傷から取りのぞき、捨てる。

03血のつながらない仲間の傷にも、虫が塗られた

チームが特に注目したのは、仲間への手当てでした。

最初の仲間への手当ては、スージーが息子シアにしたものでした。そのほぼ1年後、別の研究者が2回めを見ています。大人のオス、リトルグレイのすねには、深い傷がありました。リトルグレイの毛づくろいをしていた大人のメス、キャロルが、虫をつかまえました。

キャロルはその虫をリトルグレイに渡し、リトルグレイは自分の傷に当てました。そのあと、キャロルともう2頭の大人が、リトルグレイの傷にさわり、虫を傷の上で動かしました。この3頭は、リトルグレイと血のつながりがありませんでした。

研究チームの中心の1人、シモーネ・ピカ(Simone Pika)さんは、このようにはっきり相手のためになる行動は、人以外の動物ではめったに見られないと話しています。

チンパンジーの手元を大きく描いた場面。片手の指先に小さな羽虫をつまみ、もう片方の手で足の傷のまわりを押さえている。

042025年、ウガンダのチンパンジーでも同じ行動が見つかった

ガボンの発見のあと、疑問が出ました。これはロアンゴの群れだけの「くせ」なのか、それともチンパンジーに広く見られるのか、という疑問です。

2025年、オスナブリュック大学のケイラ・コルフ(Kayla Kolff)さんたちが、その答えの一部を出しました。舞台は、東アフリカ・ウガンダのキバレ国立公園にあるンゴゴのチンパンジーです。ガボンのチンパンジーとは、亜種(同じ種の中の、地域ごとのグループ)が違います。

2021年11月から2022年7月までのあいだに、6頭(オス3頭、メス3頭)が、飛ぶ虫を傷に当てるのが見られました。自分の傷への手当てが5回、仲間への手当てが1回です。

仲間への手当ては、きょうだいのあいだで起きました。思春期のオス、デイミアンが、自分のふくらはぎの傷に虫を当てていました。そのようすを、妹のエタ・ジェイムズがのぞきこんでいました。約90秒後、エタ・ジェイムズは近くの葉の上で虫をつかまえ、兄の傷に押し当てました。

手順は、ガボンのチンパンジーとよく似ていました。どの例でも使われたのは、地面をはう虫ではなく、飛ぶ虫でした。

05虫は本当に傷に効くのか。答えはまだ出ていない

この手当てに効き目があるのかは、まだ分かっていません。

まず、使われた虫の種類が分かっていません。チンパンジーは虫をつかまえて、すぐ傷に当て、最後に捨ててしまいます。チームは、残った虫の一部を集めて種類を調べる計画です。

ガボンのチームは、虫に炎症をおさえたり、ばい菌をおさえたりする成分があるのかもしれない、と考えています。しかし、それを確かめる試験は、発表の時点ではまだこれからでした。効き目がまったくなく、その群れにだけ伝わる「文化」として続いている、という可能性も残っています。

2025年の論文も、この行動はまだ「動物が自分で行う治療」の条件を満たしたとは言えないと書いています。条件は4つです。傷に気づいていること、ふだんは食べないものを使うこと、使ったあとに具合が良くなること、使ったものに薬の働きがあることです。チンパンジーの虫の手当ては、あとの2つがまだ確かめられていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

動物の「自分で治す行動」の研究

動物が病気やけがに対して、薬になるものを使う行動は、いろいろな動物で報告されてきました。2024年のオランウータンの論文によると、類人猿やサルでは、葉をかまずに丸のみする、苦い植物の芯をかむ、体の毛に植物などをこすりつける、といった例があります。2022年のチンパンジーの論文は、サルや類人猿の研究の多くが、おなかの寄生虫をおさえるために植物などを食べる例だと書いています。

ただし、動物の体の一部を使う例は少なく、他の個体の傷を手当てする例はさらにまれでした。チンパンジーの虫の手当ては、その両方にあてはまります。

オランウータンは薬草を傷に塗った

2024年には、別の大型類人猿でも傷の手当てが報告されました。インドネシア・スマトラ島の野生のスマトラオランウータンのオスが、顔に傷を負いました。けがの3日後、このオスはつる植物の葉をちぎってかみ、出た汁を何度も顔の傷に塗りました。最後には、かんだ葉で傷をすっかりおおいました。

この植物は東南アジアで伝統薬として使われ、細菌や炎症をおさえる成分が含まれていることが分かっています。研究チームは、効き目のある成分をもつ植物で野生の動物が傷を手当てした、初めての体系的な記録だとしています。チンパンジーの虫と違い、こちらは植物の成分がすでに調べられている点が強みです。

なぜ仲間の傷まで手当てするのか

2025年の論文は、次の研究のための仮説を3つ出しています。1つめは、チンパンジーが薬になる虫を選んでいるのではないか。2つめは、手当てのしかたを、のぞきこんで見ることで仲間から学んでいるのではないか。3つめは、仲間への手当ては、相手を思いやって助ける行動なのではないか、です。

チンパンジーに人のような思いやりがあるかは、研究者のあいだでも意見が分かれています。ないと考える研究者もいれば、それに近い傾向があるとする研究もあります。虫に本当に効き目があるなら、仲間への手当ては相手を助ける行動だと言いやすくなります。だからこそ、虫の種類と効き目を調べることが、次の大きな課題になっています。

人の医療とのつながり

2025年の論文によると、人も昔から虫を薬として使ってきました。中国の伝統的な医学では、約300種の虫が薬として記録されています。ハエやミツバチ、カイコなどが、傷の治りを助ける目的で使われてきた例もあります。チンパンジーの行動を調べることは、人の手当ての始まりを考える手がかりにもなる、と研究チームは考えています。

06まとめ

ガボンの野生のチンパンジーは、飛んでいる虫をつかまえて口でつぶし、傷に塗っていました。15か月で22回の記録のうち3回は、仲間の傷への手当てでした。2025年には、ウガンダの別の亜種のチンパンジーでも同じ行動が報告されました。

ただし、どの虫を使っているのか、本当に傷に効くのかは、まだ分かっていません。研究はこれから、虫の正体と効き目を確かめる段階に進みます。

ガボンのチンパンジーの観察では、血のつながらない3頭が、1頭のオスのすねの傷に虫を当てて動かしていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ガボン・ロアンゴ国立公園

研究チーム
ドイツのオスナブリュック大学などのチーム(第一著者アレッサンドラ・マスカーロ)
調べた場所
アフリカ・ガボンのロアンゴ国立公園
調べた動物
野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes troglodytes)の約45頭の群れ
調べ方
けがをしたチンパンジーを追いかけて行動を観察し、ビデオで撮影した
分かったこと
15か月で、自分の傷に虫を塗る行動が19回、仲間の傷に塗る行動が3回見られた
まだ分からないこと
使っている虫の種類。虫に傷を治す効き目があるのか。なぜ仲間にも塗るのか
論文
Current Biology(2022年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Chimpanzees Put Insects on Their Wounds

In Gabon, a country in Africa, scientists watch a group of about 45 wild chimpanzees. In 2019, they saw a mother chimpanzee do something strange. She put something on her son's hurt foot.

It was a small flying insect. The chimpanzees catch an insect and press it with their lips. Then they put it on the wound and move it with their fingers. In 15 months, the team saw this 22 times.

Three times, a chimpanzee helped another chimpanzee. In one case, three adults touched a male's wound and moved an insect on it. They were not his family. In 2025, scientists reported the same thing in Uganda. These chimpanzees live far away from the ones in Gabon.

But nobody knows what kind of insects they use. We also do not know if the insects help wounds heal.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the chimpanzees put on their wounds?チンパンジーは傷に何を当てましたか。

Q2. How many times did the team see this in 15 months?チームは15か月のあいだに、この行動を何回見ましたか。

Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Mascaro, A. et al. (2022) Application of insects to wounds of self and others by chimpanzees in the wild. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.12.045
  2. 2Osnabrück University(2022)プレスリリース(idw)idw-online.de/de/news787979
  3. 3Kolff, K. et al. (2025) Insect applications to open wounds by chimpanzees in the wild: first insights from East African chimpanzees. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-025-16582-5
  4. 4Universität Osnabrück(2025)プレスリリース(idw)idw-online.de/de/news857778
  5. 5Laumer, I. B. et al. (2024) Active self-treatment of a facial wound with a biologically active plant by a male Sumatran orangutan. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-024-58988-7

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい