訓練した犬4匹は、人がストレスを受けた後の息と汗のにおいを当てた。正解率は約94%
ストレスを受けた人の息と汗を、訓練した犬4匹は約94%の確率でかぎ分けた。ストレスで人の体のにおいが変わることを示す実験だった。

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- 暗算テストの前と後で、人の息と汗のにおいを集めた
- 訓練した犬4匹は、テスト後のにおいを約94%の確率で選んだ
- 犬が何のにおいをかいでいるのかは、まだ分かっていない
人に話すなら
人がストレスを感じると、息と汗のにおいが変わるらしいよ。訓練した犬に、暗算テストの前と後のにおいをかがせたら、テスト後のほうを約94%当てたんだって。
読む前に予想しよう
訓練した犬は、ストレスを受けた人の息と汗のにおいをかぎ分けられた
4匹の犬は、テスト前とテスト後のにおいを約94%の確率でかぎ分けた。
大事な試験の前や、人前で話す前。そんなとき、飼い犬がいつもと違う様子で寄ってきた、という話を聞くことがあります。犬は、人の気持ちが分かるのでしょうか。
2022年、イギリスのクイーンズ大学ベルファストのチームが、この疑問を「におい」から確かめました。暗算のテストでストレスを受けた人の息と汗を集め、テストの前のにおいと並べて犬に選ばせたのです。訓練した4匹の犬は、テスト後のにおいを約94%の確率でかぎ分けました。
犬がかぎ分けられたということは、ストレスを受けた人の体から出るにおいが、ふだんと違っていたということです。人の目には見えない体の変化が、においとして外に出ていた可能性があります。
01犬が人のストレスに気づくのは、表情か声か、においか
犬と人のストレスについては、これまでにも研究がありました。飼い主と飼い犬で、長い期間のストレスホルモンの量が似てくる、という研究もあります。ただし、犬が何を手がかりに飼い主のストレスを感じとっているのかは、分かっていませんでした。
人の顔や声、しぐさにも、ストレスは表れます。それらをすべて取りのぞいて、においだけでかぎ分けられるのか。第一著者のクララ・ウィルソン(Clara Wilson)さんたちは、これを確かめることにしました。
においに注目したのには理由があります。人の体は、息や皮膚から、たくさんの種類の物質をにおいとして出しています。そしてストレスを受けると、息や汗に含まれる物質が変わるという研究が、すでにいくつかありました。
029000から17ずつ引き算。3分間の暗算でストレスを作った
実験に協力したのは、大学の学生などのボランティアです。においを集める手順は、次のとおりです。
- たばこを吸わない人に協力してもらい、始まる1時間前から、食べたり味のある飲み物を飲んだりしないでもらう。
- まず、ガーゼで首のうしろをふき、ガラスびんに入れる。そのびんに、3回深く息をふきこんで、ふたをする。これが「テスト前」のにおい。
- 次に、9000から17ずつ引いていく暗算を、声に出して3分間続けてもらう。研究者は厳しい口調で急かし、まちがえると「ちがいます」と言って止める。
- 終わったらすぐ、同じ方法で「テスト後」のにおいを集める。
テスト前とテスト後のにおいは、約4分の差で、同じ部屋で集めました。食事や部屋の空気の違いで、においが変わらないようにするためです。
大事なのは、本当にストレスを受けた人のにおいだけを使ったことです。協力者は、テストの前と後に、自分のストレスを0〜10の目盛りで答えました。ストレスの点数が2点以上上がった人のにおいだけを、犬に見せました。さらに、実験室に来た人は心拍数と血圧も測り、どちらも上がっていることを条件にしました。新型コロナの対策で家から参加した13人は、点数だけで判断しました。
集まった53人のうち、11人はこの基準を満たさず、においは使われませんでした。ガムをかんでいた人など、ほかの理由で使わなかった人もいます。最終的に、36人分のにおいがテストに使われました。この36人では、ストレスの点数の平均が、テスト前の約2点からテスト後の7点に上がりました。
03犬は、3つの容器からテスト後のにおいを選ぶよう訓練された
犬は、ベルファストの地域から集めた飼い犬です。20匹が訓練を始めましたが、最後のテストまで進んだのは4匹でした。途中でやめた犬には、飼い主と離れると不安そうになる犬や、課題にあきてしまう犬がいました。テストまで進んだのは、トレオ、スート、フィンガル、ウィニーの4匹です。
装置には、3本の金属の腕があり、その先ににおいの容器が入ります。犬は3つをかぎ、正しい容器の前で鼻を近づけてじっとすることで答えます。正解なら、「カチッ」と鳴る道具(クリッカー)の音のあとに、エサがもらえます。
1人分のにおいのテストは、2つの段階に分かれていました。
- 最初の10回は、「テスト後」のにおいと、何もついていないガーゼ2つを並べる。犬は、今回さがすにおいを覚える。
- 次の20回は、「テスト後」「テスト前」「何もないガーゼ」の3つを並べる。犬は「テスト後」を選ぶ。
犬の横にいる研究者は、どの容器が正解か知らされていませんでした。正解を知る研究者は、ついたての向こうにいました。研究者がうっかり目線などで答えを教えてしまうのを防ぐためです。

044匹の犬は、720回中675回、テスト後のにおいを選んだ
結果は、はっきりしていました。36人分のテストで、テスト前とテスト後を並べた試行は合計720回です。犬がテスト後のにおいを選んだのは、そのうち675回、93.75%でした。3つから1つを選ぶので、でたらめなら約33%です。
1匹ずつ見ても、正解率は90%から96.88%でした。また、新しい人のにおいを初めて並べた1回めだけを見ても、36回中34回、テスト後のにおいを選んでいました。くり返すうちに何かのくせを覚えた、という説明では足りない結果です。
チームは、ほかの手がかりを使っていないかも確かめました。途中で装置の腕と容器を新しいものに取りかえたり、正解を置く腕を入れかえたりしても、成績は下がりませんでした。容器は1回ごとにアルコールでふきました。においのサンプルは使い回さず、1匹の犬にしか見せませんでした。
05犬が何のにおいをかいだのかは、まだ分からない
ただし、この結果から「犬はいつも飼い主のストレスに気づいている」とまでは言えません。
まず、犬の数は4匹だけです。論文は、においをかぎ分ける研究には1〜4匹ほどで行うものも多く、これは原理を確かめる実験だと説明しています。目的は「すべての犬ができる」ことではなく、「においに違いがある」ことを示すことでした。
次に、この犬たちは、テスト後のにおいを選ぶと、エサがもらえるように訓練されていました。訓練していない犬が、ストレスのにおいに気づいて、どう感じ、どう動くのかは、この実験では分かりません。
そして、犬が何のにおいをかぎ分けたのかも分かっていません。ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの量は、ストレスを受けてから10〜30分後にいちばん多くなるとされます。においはテスト直後に集めたので、犬はもっと早く起きる体の変化をかいだのだろう、と論文は考えています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
病気のにおいをかぐ犬の研究
人の体のにおいを犬にかぎ分けさせる研究は、病気の分野で多く行われてきました。ウィルソンさんたちの論文によると、てんかんの発作、低血糖、いくつかのがん、感染症などで、訓練した犬がにおいをかぎ分けたという報告があります。
2019年のフランスのレンヌ大学などのチームの研究では、アメリカの訓練施設の5匹の犬が、てんかんの発作が起きているときの人の息と汗をかぎ分けました。犬たちは、7つの容器から発作のにおいを1つ選ぶ課題をこなしました。5匹のうち3匹は、発作のにおいを全部見つけ、ほかのにおいをまちがえて選ぶこともありませんでした。患者の発作の種類はさまざまでしたが、発作には共通するにおいがある、と研究チームは考えています。
「恐怖の汗」をかいだ犬の研究
ウィルソンさんたちより前にも、感情とにおいの研究はありました。論文によると、ある研究では、怖い動画や楽しい動画を見た人の汗を集め、犬にかがせました。恐怖のときの汗をかいだ犬は、ストレスを示す行動が増え、知らない人に近づきにくくなりました。
ただ、その研究では汗を出した人の心拍数などを測っておらず、本当に恐怖を感じていたかは確かめられていませんでした。条件ごとの汗も1週間はなれて集められていました。ウィルソンさんたちは、この2つの弱点を、体の測定と「4分差」の採取でおぎなったのです。
においは、犬の判断も変えるかもしれない
2024年、イギリスのブリストル大学のチームが、続きの疑問を調べました。ストレスのにおいをかいだ犬は、気分まで変わるのか、という疑問です。
使ったのは、気分の明るさ・暗さを調べる方法です。犬に、ある場所の皿にはエサがあり、別の場所の皿にはないことを覚えさせます。そのうえで、2つの間のどっちつかずの場所に皿を置き、犬がどれだけ早く近づくかを見ます。気分が暗いと、あいまいな場所には近づきにくくなると考えられています。
18匹の犬に、知らない人のストレスのにおい、リラックスしたときのにおい、においなしの3つの条件でテストしました。すると、ストレスのにおいをかいだときの一部のテストで、エサなし側に近い皿に近づきにくくなりました。チームは、人のストレスのにおいが、犬の判断や学習に影響するかもしれないと考えています。ただし、この差はすべての条件で出たわけではありません。
方法の工夫と限界
ウィルソンさんたちの実験の強みは、1人の人の「前」と「後」を比べたことです。年齢や食べ物、体質による違いは、同じ人どうしなら打ち消されます。
一方で、暗算のテストで、全員が同じようにストレスを受けたわけではありません。53人中5人は、ストレスの点数がほとんど上がりませんでした。別の5人は、テストの間に血圧が下がりました。論文は、これは課題を「挑戦」と受けとった前向きなストレスの反応かもしれない、と書いています。
06まとめ
暗算のテストでストレスを受けた人の息と汗を集め、テスト前のにおいと並べると、訓練した4匹の犬は約94%の確率でテスト後のにおいを選びました。ストレスを受けた人の体からは、ふだんと違うにおいが出ていたことになります。
ただし、犬が何のにおいをかいだのか、訓練していない犬がそのにおいをどう受けとるのかは、まだ分かっていません。
実験でにおいを集めたのは、ストレスを受けてからわずか数分後のことでした。そのにおいの違いを、犬は3つの容器の中から当てていました。
研究カルテ
イギリス・ベルファスト
- 研究チーム
- イギリスのクイーンズ大学ベルファストのチーム(第一著者クララ・ウィルソン)
- 調べた場所
- イギリス・北アイルランドのベルファストの大学の実験室
- 調べた動物
- 地域の飼い犬(訓練を始めたのは20匹、テストまで進んだのは4匹)
- 調べ方
- 36人の暗算テストの前と後の息と汗をガーゼに集め、3つの容器から後のにおいを選ぶよう犬を訓練した
- 分かったこと
- 4匹の犬は、テスト後のにおいを720回中675回(93.75%)選んだ
- まだ分からないこと
- 犬がかぎ分けたにおいの成分。訓練していない犬がそのにおいをどう受け取るか
- 論文
- PLOS ONE(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in the United Kingdom asked a simple question. Can dogs smell stress in people?
First, each person wiped the back of the neck with a piece of cloth. They put the cloth in a small glass bottle and breathed into it. Then they did a hard math test out loud for three minutes. After the test, they made a second bottle in the same way.
Four pet dogs were trained to find the smell from after the test. Each time, a dog smelled three bottles. The dogs chose the right bottle about 94 percent of the time. This shows that our breath and sweat smell different after stress.
But the scientists do not know what the dogs smelled. They also do not know how untrained dogs feel about this smell.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did each person do to feel stress?協力者は、ストレスを感じるために何をしましたか。
9000から17ずつ引いていく暗算を、声に出して3分間行いました。
Q2. How many bottles did a dog smell each time?犬は毎回、いくつのびんのにおいをかぎましたか。
3つのびんの中から、テスト後のにおいを選びました。
Q3. What do the scientists still not know?科学者にまだ分かっていないことは何ですか。
犬がにおいの違いをかぎ分けたことは分かりましたが、どの成分をかいだのかは分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Wilson, C. et al. (2022) Dogs can discriminate between human baseline and psychological stress condition odours. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0274143
- 2Parr-Cortes, Z. et al. (2024) The odour of an unfamiliar stressed or relaxed person affects dogs' responses to a cognitive bias test. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-024-66147-1
- 3Catala, A. et al. (2019) Dogs demonstrate the existence of an epileptic seizure odour in humans. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-40721-4
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