てんかんの発作中には、特有のにおいが出ているらしい。訓練した犬5匹がかぎ分けた

患者5人の汗と息のにおいを、訓練した犬5匹に7つの缶から選ばせると、犬は発作中のにおいを高い確率で見つけた。発作には共通のにおいがあるらしい。

No.193 7分で読めるえっ度 論文 2024年
明るい部屋の床に、銀色の缶が半円形に並んでいる。そのうちの1つの缶の上で、茶色い中型の犬が首を下げ、じっと立ち止まっている。

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  1. 発作中・運動のあと・ふだんのにおいを集め、犬に選ばせた
  2. 5匹のうち3匹は9回すべて、2匹は9回中6回、発作のにおいを選んだ
  3. 発作の「前」ににおいがするかは、この実験では調べていない

人に話すなら

てんかんの発作が起きてる人の汗と息には、特有のにおいがあるらしいよ。訓練した犬に7つの缶から選ばせたら、5匹のうち3匹は9回とも発作のにおいを当てたんだって。

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訓練した犬は、初めてかぐ患者のにおいでも、てんかんの発作中のにおいを選べた

てんかんのある人の飼い犬が、発作の前に飼い主に知らせるように見えた。そんな話が、ときどき報告されます。けれど、犬が何を手がかりにしているのかは、分かっていませんでした。

2019年、フランスのレンヌ大学などのチームが、手がかりの1つは「におい」かもしれないと考えて実験をしました。てんかんの患者5人から、発作中、運動のあと、ふだんの3種類のにおいを集めました。それを訓練した犬5匹に、7つの缶から選ばせたのです。3匹は9回すべてで、発作のにおいの缶を選びました。

てんかんの発作は、人によって形も原因もさまざまです。そのため、どの人にも共通する「発作のにおい」があるのかは、これまで調べられていませんでした。この実験は、型の違う発作でも、共通のにおいがあるらしいことを示しました。

01てんかんの発作は、人によって形がまったく違う

てんかんは、脳の病気の1つで、発作をくり返すのが特徴です。発作にはたくさんの型があり、症状も人によって違います。原因も、遺伝子、脳のつくりの変化、脳の感染症、頭のけが、脳卒中、腫瘍などさまざまです。

一方で、病気によって体のにおいが変わることは、前から知られていました。肺がんや糖尿病などでは、はく息に含まれる物質が変わります。訓練した犬に、乳がんや肺がん、糖尿病などのにおいをかぎ分けさせる研究もありました。

ただ、てんかんの発作は、人ごとの違いがとても大きい病気です。論文によると、発作に共通のにおいを調べた研究は、これまでありませんでした。人ごとの違いが大きいことが、その理由かもしれないといいます。第一著者のアメリ・カタラ(Amélie Catala)さんたちは、この問いに正面から取り組みました。

025人の患者から、発作中・運動のあと・ふだんのにおいを集めた

においは、フランス北東部の医療施設で集めました。協力をお願いしたのは10人です。1人はことわり、4人はにおいを集めた2017年12月の1週間に発作が起きませんでした。そのため、においを集められたのは、11〜17歳の女性5人でした。5人の発作は、脳の前のほうから始まる型や横のほうから始まる型などで、原因も1つではありませんでした。

においの集め方は、次のとおりです。

  • 清潔な綿のパッドで、手、ひたい、首のうしろをふく
  • パッドをチャックつきのビニール袋に入れる
  • 袋の中に息をはいてから、袋を閉じる

このにおいを、3つの場面で集めました。1つめは、発作中か、発作が終わって5分以内です。2つめは、運動のあと5分以内です。1分ほど走ったり手足を動かしたりする運動で、発作中に体が動くことによるにおいと区別するためです。3つめは、絵をかくなど落ち着いて過ごしているときです。発作と関係のないにおいは、発作の前後6時間をさけて集めました。

1人につき、発作中のにおいを1つ、運動のあとを2つ、ふだんを4つ用意しました。においは冷凍され、アメリカに送られました。

037つの缶から、発作のにおいを1つ選ぶ

犬は、アメリカのインディアナポリスにある介助犬の訓練施設の5匹です。保護施設から選ばれ、介助犬として訓練を受けてきた2〜5歳の雑種の犬です。訓練では、糖尿病や不安、てんかんのある人の体のにおいをかぎ分けることを習っていました。ただし、訓練に使ったのは別の人のにおいです。今回の5人のにおいは、犬にとって初めてでした。

テストの部屋の床には、7つの金属の缶が半円形に並びます。においのサンプルは、缶の中の小さな容器に入れました。犬が直接ふれないようにするためです。1回のテストでは、7つの缶すべてに同じ患者のにおいを入れます。発作中が1つ、運動のあとが2つ、ふだんが4つです。

トレーナーは犬に「チェック」と声をかけると、ドアを閉めて部屋を出ます。部屋には人がいません。犬は缶をかいで回り、選んだ缶の上で立ち止まって答えます。正解なら、離れた場所から操作するエサの機械から、ごほうびが出ます。

1匹の犬は、1日に9回テストを受けました。まず1人めの患者のにおいで5回、2時間休んでから、残りの4人のにおいで1回ずつです。

机の上で、手袋をした人の手が、白い綿のパッドをチャックつきのビニール袋に入れている。そばに、ラベルをはった袋がいくつか並んでいる。

043匹は9回すべて、2匹は9回中6回、発作のにおいを選んだ

5匹のうち3匹は、9回のテストすべてで、発作のにおいの缶を選びました。ほかの缶を選んだことは、1回もありませんでした。残りの2匹は、9回中6回、発作のにおいを選びました。7つから1つを選ぶので、でたらめに選んだときの正解率は約14%です。

犬が缶をかいだ時間にも、はっきり差がありました。発作のにおいの缶は平均約5秒かいだのに対し、ほかの缶は平均約0.7秒でした。

チームは、犬がテストのくり返しで答えを覚えたわけではないことも確かめました。5匹とも、最初の1回めから発作のにおいを選んでいました。同じ患者のにおいを5回くり返しても、発作のにおいをかぐ時間は、増えも減りもしませんでした。

5人の患者の発作は、型も原因も1つではありませんでした。それでも、全問正解の3匹は、5人全員のにおいで発作のにおいを選んでいました。チームはここから、型や原因の違いをこえて、発作に共通するにおいがあると考えています。

05発作の「前」ににおいがするかは、まだ分からない

この結果から、「犬は発作を予知できる」とまでは言えません。

まず、この実験で集めたのは、発作中か発作直後のにおいです。発作の前のにおいは調べていません。論文も、犬が発作を前もって知らせる力については何も仮定していない、とはっきり書いています。

次に、犬も患者も5人・5匹と少数です。チームは、においをかぎ分ける犬の研究ではこのくらいの数が多いと説明しています。それでも、もっと多くの犬と患者で確かめる必要がある、とも書いています。

そして、実験室でうまくいっても、ふだんの暮らしでうまくいくとは限りません。論文は、糖尿病の人の血糖値の変化を知らせる犬が、実際の暮らしでは正しく知らせる割合が26.2〜59.2%にとどまった、という研究を紹介しています。

犬が何のにおいをかいでいるのかも分かっていません。チームは、においの成分を機械で調べる研究が必要だとしています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

続きの研究:機械でも「発作のにおい」が見分けられた

カタラさんたちは2020年、同じ方法で集めたにおいを、においの成分を調べる機械で分析しました。今度は、10〜43歳の14人の患者のにおいです。

機械のデータをもとにした計算モデルは、発作に関係したにおいと、ふだんや運動のあとのにおいを見分けることができました。さらに、発作の前に集めたにおいから、発作を予測できる可能性も示しました。一番早いもので、発作の4時間37分前です。ただし、モデルを作るのに使ったデータで92%、使っていないデータで確かめると75%の正解率でした。まだ人数の少ない、最初の一歩の研究です。

続きの研究:アメリカの病院で60人を調べた

アメリカのデンバーの病院のチームは、2年間で60人の患者の汗を集めました。汗は、別の州にある介助犬の団体に送られ、発作のにおいを覚えた犬たちがかぎ分けました。犬が発作中の汗とそうでない汗を正しく見分ける確率は、93.7%でした。

この研究では、てんかんではない別の原因の発作のときの汗も調べました。19回のうち18回は、犬は「発作のにおい」を示しませんでした。さらに、1時間ごとに汗を集めると、記録できた発作の78.7%で、発作の前ににおいが出ていました。においは平均68.2分前から出ていたといいます。ただし、このにおいで発作を予測する精度には、大きな幅がありました。

訓練していない飼い犬はどうか

イギリスのクイーンズ大学ベルファストのチームは、訓練していない飼い犬19匹で調べました。3人のてんかんの人の汗のにおいを、いすに座った飼い主の太ももの下から出しました。すると、発作に関係するにおいのとき、19匹すべてが飼い主をじっと見つめる反応を見せたと報告しています。ただ、この研究も少ない人数のにおいで行われたものです。

慎重な見方

2024年、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどの研究者は、犬と発作についての研究をまとめ直しました。そして、犬が発作に気づく力には期待が持てるとしながらも、注意点を挙げています。きちんと条件をそろえ、前もって計画した研究が足りないこと。犬が知らせるタイミングの報告が、研究によってばらばらなことです。

カタラさんたちも、訓練なしで発作を知らせる飼い犬が、何を手がかりにしているかは分からないと書いています。においだけでなく、発作の前の飼い主の小さなしぐさや姿勢の変化を、犬が見ている可能性もあるからです。

06まとめ

てんかんの患者5人のにおいを7つの缶に入れて並べると、訓練した犬5匹は、発作中のにおいを高い確率で選びました。3匹は9回すべてで正解し、ほかの缶を選ぶこともありませんでした。患者の発作の型や原因は違っていたので、発作には共通のにおいがあるらしいと考えられています。

ただし、発作の前ににおいがするのか、そのにおいが何の物質なのかは、まだ確かめられていません。

犬が発作のにおいの缶をかいだ時間は平均約5秒、ほかの缶は約0.7秒でした。缶を回るとき、犬は発作のにおいの缶の前でだけ、長く立ち止まっていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・インディアナポリス

研究チーム
フランスのレンヌ大学などのチーム(第一著者アメリ・カタラ)
調べた場所
アメリカ・インディアナポリスの介助犬の訓練施設(においはフランスの医療施設で集めた)
調べた動物
介助犬として訓練を受けた犬5匹(2〜5歳、雑種)
調べ方
患者5人の発作中・運動後・ふだんのにおいを7つの缶に入れ、発作のにおいを選ばせた
分かったこと
3匹は9回すべて、2匹は9回中6回正解。発作の型や原因が違う患者のにおいでも選べた
まだ分からないこと
犬がかいだにおいの成分。発作の前にもにおいが出ているか
論文
Scientific Reports(2019年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Dogs Can Smell Epileptic Seizures

Epilepsy is a brain illness that causes seizures again and again. Seizures are very different from person to person. Do they still have a common smell?

Scientists collected smells from five young patients in France. Each patient wiped her hands and neck with a cotton pad. Then she breathed into a bag with the pad. They took smells during a seizure, after exercise, and at calm times.

Five trained dogs in the United States smelled seven cans. Only one can had the seizure smell. Three dogs found it in all nine tests. The other two dogs found it six times out of nine.

So seizures seem to have a common smell. But this study did not test smells from before a seizure. We still do not know if dogs can warn people early.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many cans did each dog smell in one test?1回のテストで、犬はいくつの缶をかぎましたか。

Q2. How many dogs found the seizure smell in all nine tests?9回のテストすべてで発作のにおいを見つけた犬は何匹ですか。

Q3. What did this study NOT test?この研究で調べなかったことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Catala, A. et al. (2019) Dogs demonstrate the existence of an epileptic seizure odour in humans. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-40721-4
  2. 2Catala, A. et al. (2020) Prediction and detection of human epileptic seizures based on SIFT-MS chemometric data. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-020-75478-8
  3. 3Maa, E. et al. (2021) Canine detection of volatile organic compounds unique to human epileptic seizure. Epilepsy & Behavior 論文確認済みdoi:10.1016/j.yebeh.2020.107690
  4. 4Powell, N. A., Ruffell, A. & Arnott, G. (2021) The Untrained Response of Pet Dogs to Human Epileptic Seizures. Animals 論文確認済みdoi:10.3390/ani11082267
  5. 5Luff, G. C. et al. (2024) The role of trained and untrained dogs in the detection and warning of seizures. Epilepsy & Behavior 論文確認済みdoi:10.1016/j.yebeh.2023.109563

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい