飼い主が見えない所で「ニセの犬」をなでると、犬はやきもちのようにリードを強く引いた
飼い主がついたての向こうで犬の模型をなでると、犬はリードを強く引っぱった。見えない場面を頭の中で思い描いていたらしい。

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- 飼い主が犬の模型をなでると、犬はリードを強く引っぱった
- ついたてで見えなくても、引っぱる力は見えるときより弱くならなかった
- ただし、別の研究では「やきもち」と言えない結果も出ている
人に話すなら
犬の目の前で、飼い主がついたての向こうに置いた犬の模型をなでるふりをするんだって。見えてないのに、犬はリードを思いきり引っぱって飼い主のところに行こうとするらしいよ。
読む前に予想しよう
犬は、飼い主が犬の模型をなでる場面が見えないと、反応しない
ニュージーランドの実験では、ついたてで見えなくても、犬はリードを強く引っぱった。
飼い犬が、リードにつながれて部屋にいます。少し離れた場所で、飼い主のそばに、本物そっくりの犬の模型が置かれました。犬はそれを見ています。そのあと、犬と模型のあいだに、ついたてが立てられました。もう模型は見えません。
ついたての向こうで、飼い主が模型をなでるようなしぐさを始めました。すると犬は、飼い主のほうへ行こうと、リードを強く引っぱりました。飼い主がなでる様子がまる見えのときと比べても、弱くはありませんでした。
この実験をしたのは、ニュージーランドのオークランド大学のチームです。第一著者はアマリア・バストス(Amalia P. M. Bastos)さんで、2021年に結果を発表しました。調べた飼い犬は18匹です。研究チームは、犬は見えない場面を頭の中で思い描き、それにやきもちを焼くような反応をしたと考えています。やきもちは、自分を意識する力や、相手の心を推し量る力と結びつけられてきました。そのため、人だけのものだと言われることもありました。
01本物そっくりの犬の模型と、フリースの筒を比べた
実験に参加したのは、飼い主と暮らす18匹の犬です。メスが11匹で、年齢は平均4.6歳でした。実験は、オークランド大学の「動物の心」を調べる研究室で行われました。
研究チームは、2つの場面を用意しました。1つは、飼い主が本物そっくりの犬の模型をなでる場面です。模型は、犬にとって飼い主をうばう「ライバル」に見えるかもしれません。もう1つは、同じように、フリースという布で作った筒をなでる場面です。こちらは比べるための場面で、筒はライバルにはならないはずです。
どちらの場面でも、まず模型や筒が飼い主のそばに置かれ、犬がそれを見ます。そのあと、ついたてが置かれて見えなくなります。飼い主は、ついたての向こうで、模型や筒をなでるようなしぐさをします。
研究チームは、犬がリードを引っぱる力のいちばん強いところを測りました。どちらの場面を先にするかは、犬によって入れかえました。最後に、ついたてなしで、飼い主が模型をなでる様子がまる見えの場面も試しました。
02見えないのに、模型のときは筒のときより強く引っぱった
飼い主が犬の模型をなでたときのほうが、筒をなでたときより、犬はリードを強く引っぱりました。研究チームが公開したデータを見てみましょう。引っぱる力のいちばん強いところの平均は、模型のときが筒のときの約2倍でした。
ついたてで見えないときの引っぱる力は、まる見えのときと比べて弱くありませんでした。研究チームの計算でも、まる見えのときのほうが強く引っぱる、という結果は出ませんでした。研究チームは、犬はついたての向こうをのぞこうとしたのではなく、「飼い主が模型となかよくしている」こと自体に反応した、と考えました。
研究チームは、この結果から、人のやきもちに見られる3つの特徴が犬にもそろっていた、とまとめています。1つ目は、飼い主の相手がライバルに見えるときにだけ反応が出たことです。2つ目は、ライバルがそこにいるだけでなく、飼い主とのやりとりがきっかけで反応が出たことです。3つ目は、そのやりとりが見えなくても反応が出たことです。

03「頭の中で思い描いていた」と考えた理由
ついたての向こうは、犬には見えていません。それでも犬が強く反応したのは、さっき見た模型が、まだ飼い主のそばにいると覚えていたからだと考えられます。そして、飼い主が模型をなでる場面を、頭の中で思い描いたらしいのです。
論文は、これを「やきもちを引き起こす場面を、犬が頭の中で思い描いている」ことを示す初めての証拠だと書いています。
ただし、バストスさんは大学の発表で、慎重な言い方もしています。「犬が人と同じように嫉妬を感じているかどうかを言うのは、まだ早い」という言葉です。分かったのは、犬がやきもちを引き起こすような場面に、見えなくても反応するということです。
04全部の犬が同じように反応したわけではなかった
研究チームは、測ったデータをインターネット上で公開しています。そのデータを見ると、模型のときのほうが強く引っぱった犬は、18匹のうち12匹でした。残りの6匹は、筒のときのほうが強かったのです。また、平均が約2倍になったのは、模型のときにとても強く引いた数匹がいたためでもあります。18匹を力の順に並べたときの真ん中の値で比べると、模型のときは筒のときの約1.3倍でした。
研究チームは、統計の計算で2つの考えを比べました。「模型のときのほうが強く引っぱる」と「差はない」です。前の考えのほうが、約4.4倍よくデータを説明するという結果でした。差があることを支える結果ですが、とても強い証拠とまでは言えません。調べた犬が18匹と少ないことも、気をつけて読む必要があります。
05やきもちに見える行動には、別の説明もある
犬のやきもちの実験は、これが最初ではありません。2014年、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームが、36匹の犬を家で調べました。中心になったのは、クリスティン・ハリス(Christine R. Harris)さんです。人の赤ちゃんで使われた方法を、犬に合わせたものです。
飼い主は犬を無視して、3つの相手とかかわりました。ぬいぐるみの犬とカボチャの形の入れ物には、本物の犬と遊ぶように話しかけ、なでました。しかけ絵本は、声に出して読みました。ぬいぐるみの犬のときは、4分の1の犬がそれにかみつこうとしました。ほかの2つのときにそうした犬は、1匹だけでした。飼い主を押したりさわったりする行動も、ぬいぐるみの犬のときに多く見られました。
2018年には、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のチームが調べました。相手には、知っている犬と知らない犬、知っている物と知らない物を使いました。犬は、相手が犬のときのほうが、飼い主に向かう行動や、飼い主と相手を引き離そうとする行動を多く見せました。
けれど、オーストリアのウィーン獣医科大学のチームが2022年に発表した研究は、違う見方を示しました。この研究では、102匹の犬に、ある様子を見せました。飼い主か知らない人が、遠くから動かせる本物そっくりの犬の模型とかかわる様子です。犬は、模型が入ってきたときは警戒したり、無関心だったりしました。ところが、飼い主が模型に近づき、なかよくし始めると、犬の反応はむしろ友好的になりました。
リードを外すと、飼い主が模型となかよくしていたときのほうが、模型に友好的に近づく犬が多くいました。一方で、飼い主と模型のやりとりをじゃまする行動も、知らない人のときより多く見られました。研究チームは、はっきりしたやきもちの証拠は見つからなかった、と結論しています。かわりに、犬が飼い主の行動に合わせている様子が見られました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
やきもちは、なぜ生まれたのか
バストスさんたちの論文は、やきもちは、大切な関係を横から入ってくる相手から守るために進化したのかもしれない、と説明しています。犬と飼い主のきずなは、人の母親と子どものきずなによく似ている、という研究もあります。ウィーンのチームは、そのため犬はやきもちを調べるのに向いた動物だと考えています。
一方で、やきもちは、自分を意識する力や、他人の心を推し量る力と結びついているという考えもあります。その考えからは、やきもちは人だけのものだ、という主張が出てきました。犬の実験は、この主張に対する1つの答えになっています。
人の赤ちゃんの研究から始まった
ハリスさんたちの2014年の実験は、人の赤ちゃんの研究のやり方をまねたものです。生後6か月ほどの赤ちゃんは、母親が本物そっくりの赤ちゃんの人形をかまうと、やきもちに見える反応をします。けれど、母親が本を読んでいるだけでは、同じ反応を見せません。犬でも同じ差が出るかを確かめたのが、ハリスさんたちの実験でした。
バストスさんたちは、そこに「見えない場面」を加えました。
飼い主は、犬のやきもちを多めに見ているかもしれない
ウィーンの研究で、アンケートに答えた飼い主102人のうち70%は、自分の犬がほかの犬にやきもちのような反応をすると答えました。それなのに、実験室では、はっきりしたやきもちは見られませんでした。
研究チームは、この食い違いについて、いくつかの理由を挙げています。人は動物の行動に人の気持ちを当てはめがちなこと。悪い気持ちから出た行動を、よい気持ちから出た行動より重く見がちなこと。そして、犬どうしのけんかを止めるために、飼い主がそうした行動に特に注意していることです。
脳の中をのぞく研究と、ロボットを使う研究
2021年、ウィーンのチームは、12匹の犬を脳の働きを調べる装置に入れ、動画を見せました。飼い主がほかの犬となかよくする動画のときに、犬の脳の視床下部(ホルモンや気持ちの動きに関わる部分)がいちばん強く働きました。犬が、飼い主との関係がおびやかされる場面として受け取った可能性がある、と研究チームは書いています。
2025年には、ハンガリーなどのチームが、ロボットを使って調べました。飼い主が本物の犬とかかわると、犬は飼い主に向かう行動や、やりとりをじゃまする行動を、飼い主が雑誌を読むときより多く見せました。ロボットに対しての反応は中くらいでしたが、かみつこうとする行動は雑誌のときより多く見られました。
この実験の工夫と限界
バストスさんたちの実験の工夫は、「やきもち」という気持ちを、リードを引く力という数字に置きかえたことです。人が行動を見て判断する方法と違い、機械で測れる数字になります。
ただし、リードを引く力が強いことが、そのまま「やきもち」を意味するとは限りません。飼い主のそばに行きたい理由には、好奇心や不安など、ほかの気持ちもありえます。犬が何を感じているのかを確かめる方法は、まだ見つかっていません。
06まとめ
ニュージーランドのオークランド大学のチームは、18匹の飼い犬で実験しました。飼い主がついたての向こうで犬の模型をなでると、犬はフリースの筒のときより強くリードを引っぱりました。見えるときと見えないときで、引っぱる強さは同じくらいでした。研究チームは、犬が見えない場面を頭の中で思い描き、やきもちのような反応をしたと考えています。
ただし、全部の犬が同じように反応したわけではありません。ウィーンの102匹の研究では、犬は飼い主に合わせて模型に友好的になる面もありました。犬が人と同じ「嫉妬」を感じているのかは、まだ分かっていません。
ウィーンの研究では、アンケートに答えた飼い主の70%が、自分の犬はほかの犬にやきもちのような反応をすると答えていました。
研究カルテ
ニュージーランド・オークランド
- 研究チーム
- ニュージーランドのオークランド大学のチーム(第一著者アマリア・バストス)
- 調べた場所
- ニュージーランド・オークランドのオークランド大学
- 調べた動物
- 飼い犬18匹(メス11匹、平均4.6歳。学名 Canis familiaris)
- 調べ方
- 飼い主がついたての向こうで犬の模型かフリースの筒をなでるとき、犬がリードを引く強さを測った
- 分かったこと
- 犬の模型のときは、見えなくても、筒のときより強く引っぱった
- まだ分からないこと
- 犬が人と同じような「嫉妬」を感じているのか。犬ごとの違いはなぜ生まれるのか
- 論文
- Psychological Science(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in New Zealand tested 18 pet dogs. Each dog was on a leash. A fake dog that looked very real sat next to the dog's owner.
Then the scientists put a wall between the dog and the fake dog. The owner acted like they were petting the fake dog behind the wall. The dogs pulled hard on the leash to get to their owners.
When the owner petted a soft cloth tube, the dogs pulled less. The dogs seemed to imagine the scene behind the wall. But the lead scientist said it is too early to say dogs feel jealousy like us.
Another team in Austria tested 102 dogs. Many dogs became friendly to the fake dog when their owners were friendly to it. So scientists are still asking what dogs really feel.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many dogs were in the New Zealand study?ニュージーランドの研究には、何匹の犬が参加しましたか。
オークランド大学の実験に参加したのは、18匹の飼い犬でした。
Q2. What did the scientists put between the dog and the fake dog?研究者たちは、犬と模型のあいだに何を置きましたか。
ついたてを置いて、犬から模型が見えないようにしました。
Q3. What did many dogs do in the study in Austria?オーストリアの研究で、多くの犬は何をしましたか。
飼い主が模型となかよくすると、犬の反応はむしろ友好的になりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Bastos, A. P. M. et al. (2021) Dogs Mentally Represent Jealousy-Inducing Social Interactions. Psychological Science 論文確認済みdoi:10.1177/0956797620979149
- 2University of Auckland(2021)Yes, dogs do get jealous – new study(プレスリリース)auckland.ac.nz/en/news/2021/04/13/yes-dogs-do-get-jealous-ne
- 3Harris, C. R. & Prouvost, C. (2014) Jealousy in Dogs. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0094597
- 4Karl, S. et al. (2022) Pet dogs' Behavioural Reaction to Their Caregiver's Interactions with a Third Party: Join in or Interrupt? Animals 論文確認済みdoi:10.3390/ani12121574
- 5Abdai, J. et al. (2018) Investigating jealous behaviour in dogs. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-018-27251-1
- 6Abdai, J. et al. (2025) Companion dogs show signs of jealous behaviour toward non-living agents. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-025-86821-2
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





