飼い主の頼みを断った人のおやつを、犬は避けた。同じ実験で猫は避けなかった

飼い主の頼みを断った人と、何もしなかった人。2人がおやつを差し出すと、犬は断った人を避けた。猫で同じ実験をすると、差は出なかった。

No.185 7分で読めるえっ度 論文 2023年
すわった飼い主の後ろ姿が、ふたのついた透明な容器をとなりの女性のほうへ差し出している。女性は横を向いて顔をそむけている(顔は見えない)。少し離れた所で、柴犬がその女性をじっと見ている。

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  1. 飼い主の頼みを断った人から、犬はおやつを取りにくくなった
  2. 飼い主を助けた人のおやつを、特に多く選ぶことはなかった
  3. 猫で同じ実験をすると、助けた人も断った人も同じように選んだ

人に話すなら

飼い主が困って助けを頼んだのに、そっぽを向いた人がいると、犬はその人のおやつを取りたがらないんだって。猫で同じ実験をしたら、どっちの人も同じように選んだらしいよ。

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読む前に予想しよう

飼い主の頼みを断った人からは、猫もおやつを取りたがらない

飼い主が容器のふたを開けられずに困っています。となりの人のほうを向き、容器を差し出して助けを求めました。ところが、その人は顔をそむけました。犬は、この一部始終を見ていました。

そのあと、顔をそむけた人と、ずっと静かにすわっていた人が、同時に犬におやつを差し出します。京都大学のチームが犬54匹で試すと、断る場面を見た犬は、断った人のおやつをあまり選びませんでした。ところが、同じ実験を36匹の猫で行うと、猫はどちらの人も同じように選びました。

断った人は、犬に何もしていません。おやつをくれないわけでもありません。それでも犬は、飼い主への態度を見て、相手を選んでいたようです。一方で、人と長くくらしてきた猫には、同じ反応が見られませんでした。犬と猫のどこが違うのかを、実験の手順から見ていきます。

01飼い主が容器を開けられず、となりの人に助けを頼む

実験したのは、京都大学の千々岩眸(ちぢいわ・ひとみ)さん、藤田和生さんたちのチームです。結果は2015年に、動物の行動を扱う専門誌に出ました。

使ったのは、ふたのついた透明な円柱の容器です。直径13cm、高さ12.5cmで、中にはビニールテープが1巻き入っています。犬にとっては、食べ物でもおもちゃでもない、どうでもいい物です。

飼い主がすわり、両どなりに知らない女性が1人ずつすわります。片方が「演技をする人」、もう片方が「何もしない人」です。犬は、飼い主から約1m離れた所で、実験者に軽くおさえられて見ています。

飼い主は合図で容器のふたを開けようとしますが、8〜10秒たっても開きません。そこで飼い主は、演技をする人のほうを向いて、容器を差し出して助けを頼みます。ここから先が、犬のグループによって変わります。

02「助ける」「断る」「頼まれずにそむく」の3つを見せた

犬54匹は、18匹ずつ3つのグループに分けられました。

  • 助ける場面:演技をする人が容器の底を持って支える。ふたが開き、飼い主は中のテープを犬に見せてから、また容器に戻してふたをする
  • 断る場面:演技をする人が、1〜2秒顔をそむける。飼い主はもう一度挑戦するが、開かない
  • くらべる場面:飼い主は助けを頼まず、1〜2秒手を止めて容器を見る。その間に、演技をする人が顔をそむける

3つ目の場面は、研究チームの工夫です。「顔をそむける動き」そのものを犬がいやがるだけなら、この場面でも犬は演技をする人を避けるはずです。頼まれたのに断ったことが大事なのかを、これで見分けられます。

場面が終わると、演技をする人と何もしない人が、同時に両腕をのばします。手のひらには、その犬の好きなおやつがのっています。犬が最初ににおいをかいだり、なめたり、おやつを取ったりしたほうを「選んだ人」としました。

3人が横に並んですわり、両はしの2人が手のひらにおやつをのせて腕を前にのばしている。真ん中の人はうつむいている。手前の犬が、片方の人ではなく、もう片方の人のほうへ歩いていく。人の顔は描かず、後ろ姿か手元だけ。

03犬は、断った人のおやつをあまり選ばなかった

選ぶ間、2人の女性は床を見て、犬と目を合わせません。飼い主は目を閉じています。飼い主は、実験の目的を知らされていません。人の目線のわずかな動きを手がかりにする犬がいるので、それを防ぐためです。1匹の犬は、この場面を4回くり返して見ました。

結果はこうでした。助ける場面と、くらべる場面では、犬は2人をほぼでたらめに選びました。断る場面だけ、演技をする人を選ぶ回数が、でたらめに選んだときより少なくなりました。

ただし、どの犬もきっちり避けたわけではありません。断る場面のグループには、4回とも断った人を選んだ犬が1匹いました。ほかの17匹は、断った人を選んだのが4回のうち2回以下でした。グループ全体では、断った人が避けられていました。

ただ、この1匹がいたため、断る場面とくらべる場面の結果を直接比べると、計算の方法によっては、はっきりした差になりませんでした。犬の年齢(7か月〜14歳)と選び方の間に、はっきりした関係は見つかりませんでした。

研究チームは、飼い主の表情だけで犬が選んだのではない、とも考えています。断る場面でも、くらべる場面でも、飼い主は容器を開けられず、同じように困っていたからです。また、容器の中のテープを取ろうとした犬は、1匹もいませんでした。

04助けた人を、犬が特に好むことはなかった

この実験には、もう1つの結果があります。犬は、断った人を避けました。でも、飼い主を助けた人を、何もしない人より好むことはありませんでした。

悪い行いには反応するのに、よい行いには反応が出にくい。この形は、ほかの研究でも見つかっています。藤田さんたちをふくむチームは2013年に、南アメリカのサル、フサオマキザルで似た実験をしていました。サルも、頼みを断り続けた人からは、食べ物を受け取ることが少なくなりました。研究チームは、人の赤ちゃんにも同じような傾向があると、先行研究を紹介しています。

05猫で同じ実験をすると、どちらの人も同じように選んだ

チームは次に、同じ実験を猫で行いました。結果は2021年に発表されています。参加したのは、関西と関東の猫36匹です。13匹は家の猫で、23匹は5つの猫カフェの猫でした。

猫に合わせて、手順を少し変えました。予備の実験で、猫に場面を最後まで見続けてもらうのが難しいと分かりました。そこで場面の長さを、犬のときの15〜20秒から10〜15秒に短くしました。猫がよそ見をしたら、飼い主が容器をカタカタ鳴らしたり、「開かない」と言ったりして気を引きました。手からおやつを取りたがらない猫には、皿にのせて差し出しました。

結果は、犬と違いました。助ける場面でも断る場面でも、猫は演技をする人と何もしない人を、同じくらいの割合で選びました。性別や年齢、家の猫かカフェの猫かでも、違いは出ませんでした。2人の左右の位置は、回ごとに入れ替えていました。それでも4回とも同じ側の人を選んだ猫が、合わせて13匹いました。この13匹を除いて計算し直しても、差は出ませんでした。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

犬と猫の違いは、どこから来たのか

研究チームは、理由の候補を論文で挙げています。猫の祖先は、1匹で狩りをして、なわばりを強く守る動物でした。論文の紹介では、犬は約1万5千年、猫はおそらく約1万年、人とくらしてきたとされています。ただ、犬は見張りや狩り、家畜の群れの誘導などの仕事に合わせて、人が選んで育ててきました。猫は、そこまで強い選び方をされていません。

他人を、ほかの人への態度で見分ける力は、協力して何かをする動物で役に立つと考えられています。一緒に組む相手を選ぶときに、ずるい相手を避けられるからです。研究チームは、猫は人と協力するように選ばれてこなかったので、この力がはっきり出なかったのではないか、と書いています。

猫は「場面が分からなかった」だけかもしれない

研究チーム自身が、別の可能性も挙げています。猫は、飼い主が容器を開けたがっていること自体を、理解していなかったかもしれません。猫が他者の目的を読み取れるかは、まだ調べられていないからです。食べ物の出てこない人どうしのやりとりを見続けること自体が、猫には向いていなかった可能性もあります。また、参加した猫の約3分の2が猫カフェの猫でした。そのため研究チームは、結果をすべての飼い猫にあてはめることには慎重です。

犬でも、結果が出なかった実験がある

犬の結果も、まだ決着していません。オーストリアのウィーン獣医大学のチームは2020年、42匹の犬で似た実験をしました。ただし、こちらで助けを頼んだのは飼い主ではない人で、箱の中には食べ物が入っていました。おやつを選ぶテストでは、犬は2人をでたらめに選びました。別のテストで、助けた人のほうを先に見たのは、2人が同じ位置にいたときだけでした。チームは、犬が人ではなく「場所」を覚えていた可能性を指摘しています。

アメリカのイェール大学などのチームは2020年、訓練の経験が違う犬を比べました。アジリティ(障害物競技)の訓練を受けた犬は、よい行いをした人に、悪い行いをした人より多く近づきました。訓練を受けていない飼い犬では、好みが出ませんでした。イェール大学のチームは2023年、飼い主が容器を開けるのを手伝う・断る場面を使いました。すると、飼い主へのなつき方が強い犬ほど、助けた人を好む傾向が出ました。犬が人を見分ける力は、犬ごとの経験や飼い主との関係で、出たり出なかったりするのかもしれません。

06まとめ

飼い主が助けを頼んだのに顔をそむけた人がいると、犬はその人からおやつを取りにくくなりました。頼まれずに顔をそむけた人は、避けられませんでした。研究チームは、犬が顔をそむける動きではなく、「頼みを断った」というやりとりに反応していたと考えています。一方、助けた人が特に好かれることはありませんでした。

同じ実験を猫で行うと、差は出ませんでした。ただ、猫は場面の意味が分からなかっただけかもしれず、犬でも結果がそろわない実験があります。犬が見ていたのは、本当に「飼い主への態度」なのか。研究は、まだ続いています。家族が犬の前で困っているとき、そばの人がどうふるまうかを、犬はじっと見ているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

京都府・京都市

研究チーム
京都大学の千々岩眸さん、藤田和生さんらのチーム
調べた場所
日本(京都大学のチーム)。猫は関西と関東の家と5つの猫カフェ
調べた動物
飼い犬54匹(学名 Canis familiaris)と、飼い猫・猫カフェの猫36匹(学名 Felis catus)
調べ方
飼い主が箱を開けられず助けを頼む場面を見せ、助けた人か断った人と、何もしない人のどちらからおやつを取るかを見た
分かったこと
犬は断った人を避けた。助けた人を好むことはなかった。猫はどちらの場面でも差がなかった
まだ分からないこと
別の研究室の実験では犬に好みが出なかった例もある。猫は場面の意味が分かっていたのかも不明
論文
Animal Behaviour(2015年)、Animal Behavior and Cognition(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Dogs Watch How People Treat Their Owners

Scientists at Kyoto University in Japan did a simple test with 54 dogs. An owner tried to open a clear box, but the lid did not come off. The owner asked a woman next to them for help.

Sometimes the woman helped. Sometimes she turned her face away. After that, she and another woman both held out a snack to the dog.

Dogs did not often take food from the woman who refused to help. But they did not choose the helper more often than the other woman. When the woman turned away without a request, the dogs did not avoid her.

Later, the team did the same test with 36 cats. The cats chose both women in the same way. Maybe cats do not judge people like this. Or maybe they did not understand the scene.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the owner try to open?飼い主は何を開けようとしましたか。

Q2. Which woman did the dogs avoid?犬はどの女性を避けましたか。

Q3. What did the cats do?猫はどうしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Chijiiwa, H. et al. (2015) Dogs avoid people who behave negatively to their owner: third-party affective evaluation. Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2015.05.018
  2. 2Chijiiwa, H. et al. (2021) Cats (Felis catus) Show No Avoidance of People Who Behave Negatively to Their Owner. Animal Behavior and Cognition 論文確認済みdoi:10.26451/abc.08.01.03.2021
  3. 3京都大学(2015)研究成果「イヌは飼い主に非協力的な人を避ける」kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-06-12
  4. 4Anderson, J. R. et al. (2013) Third-party social evaluation of humans by monkeys. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/ncomms2495
  5. 5Jim, H.-L. et al. (2020) Do dogs eavesdrop on human interactions in a helping situation? PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0237373
  6. 6Richards, E. M. et al. (2023) Impact of the Dog–Human Bond on Canine Social Evaluation: Attachment Predicts Preference toward Prosocial Actors. Animals 論文確認済みdoi:10.3390/ani13152480

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい